ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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58話:short-D 特殊房A室の会話ログ(所長以外閲覧厳禁)

 A級の大罪人、そして更生困難と認定されたポケモンのみを収監する、セキエイ高原最果ての地に建てられた要塞、"セキエイ監獄"。

 最深部に設置された特別房は、副所長未満の権限では近寄ることすら許されない。

 四天王筆頭の特権を以って、デュフォー達が面会すべく今そこに悠々と踏み入れる。

 

「……書斎に冷蔵庫、テレビに柑橘系のアロマまであるのか。まるでビジネスホテルだな」

 

 到底牢獄とは言えない快適な室内を目の当たりにし、精一杯の皮肉を漏らすゼオンに対し、収監されている仮面の男は気さくに手招く。

 

「これはこれは、稀代の犯罪組織に登り詰めたレインボーロケット団を壊滅させた英雄殿達じゃないか。紅茶くらいしか出せないけどいいかな?」

 

 デュフォー達は無造作に椅子へと腰掛け、男が淹れた紅茶を警戒することなくすする。

 事情を知らぬ者からすれば、客人とホストの光景にしか見えないだろう。

 一分ほどの無言の間を経て、デュフォーを皮切りに沈黙が破られる。

 

「ロケット団Aランクナンバーズ、NO1エデン。

 お前だろう、ロケット団を操っていた影の支配者は」

 

「やっと口を開いたね、おしゃべりは嫌いじゃない。で、その心は?

 ボクと君がまともに会話するのは今日が初めてなのに、どうしてそう思ったんだい。

 それにボク達が君にあっさりと敗れた、そのカラクリも知りたいね」

 

 一ヶ月前デュフォーとゼオンは、タクトやネモなど、信頼できるライバル達で構成した精鋭中の精鋭部隊を投入し、ロケット団の本拠を強襲した。

 一度も侵略など受けた事がないロケット団にとって、チャンピオン~四天王クラスのトレーナー達による包囲攻撃は、まさに青天の霹靂。

 半日と経たずに彼らは全員制圧され、幹部級のほとんどはこの監獄に放り込まれた。

 

「各地の犯罪組織を制圧し、伝説のポケモンを手にするレインボーロケット団計画。

 それこそが推定材料だった。伝説ポケモンを狙うまではわかる。

 だが、犯罪組織を自発的に潰して回るといった面倒かつ、リスキーな方法はそれまでのロケット団の、サカキのカラーとは大きく異なる」

 

「ふむ、しかしその推測にはサカキ様の内面を熟知する必要があるが……」

 

「オレ達の側についたムサシ、コジロウ、ニャースの助言だ」

 

 その名を聞いたエデンは一瞬だけ意外そうに目を見開き、大げさに相槌を打つ。

 

「ああー、彼らか。まさかサカキ様が身体を張った彼らに止められるとは思わなかったなあ。あのソーナンスも反則性能だったし。

 サカキ様もいい部下を持ったものだよねえ。ああゴメン、話の腰を折っちゃった」

 

「エリシアとは直接会ったことがあるが、あいつも伝説ポケモンに執着はあれど、能動的に戦争を仕掛けるタイプではないことはわかる。

 よって、消去法でNo1という奴が裏で絵図面を引いている、という仮説に至った。

 最悪サカキだけを急襲する強硬手段もやむ無しと考えていたが、お前という存在を認識した時から、その作戦は破綻してしまった」

 

 サカキを直接闇討ちすれば、タガが外れた黒幕がロケット団を乗っ取るだろう。

 逆に黒幕を討つのは困難極まり、仮に討てたところでサカキが健在なら何の意味もない。

 デュフォーに残された道は、ロケット団中枢そのものに対する奇襲攻撃であった。

 かといって、準備や策も無しに突撃すれば失敗は目に見えている。

 その上、黒幕を取り逃がした場合、他の組織を依り代に再び計画を企てる恐れも考慮しなければならない。幾つものハードルを加味した上でのデュフォーの『答え』は――

 

「オレ達はロケット団よりも、むしろマグマ団やアクア団、ギンガ団といったその他全ての大規模反社組織の動向を注視した」

 

「……君の狙いは、他の組織を全てボク達が潰した瞬間の本陣急襲だったんだね」

 

 漁夫の利と総本陣一点狙い。

 先の選抜大会決勝が特殊な状況だったため発生することはなかったが、バトルロイヤルや戦争における鉄板の基本戦術だ。

 他組織を糾合統一したレインボーロケット団が完成した瞬間、損害の補填,戦力管理,全面侵攻準備といった要因から一瞬の隙が必ず生まれる。

 ロケット団はどうしても後手に回らざるを得えず、デュフォー達が他組織を潰す手間も省け、仮に黒幕を逃がしてもロケット団さえ抑えれば簡単には再起できない。

 本部だけを制圧し、中枢系統を麻痺させればロケット団全軍を相手にする必要も無い。

 

「一石二鳥どころか三,四鳥の、完璧な鬼の計画だよ。

 その間にボク達反社同士の抗争で起きる、決して少なくない被害と犠牲を、自分達は手を汚さず見て見ぬふりをしてたんだろう?」

 

 悪人同士が勝手に潰し合いめでたしめでたし、で話が終わるはずがなく。

 デュフォーから偵察を請負った外注のトレーナーや、近隣にいた民間人への被害――つまり死傷者の発生は不可避であった。

 

「精神攻撃を仕掛けたつもりだろうが、浅はか過ぎだ。

 "被害に大小などない"――などといった陳腐な正義感を掲げる程オレ達は青臭くない。

 それに犠牲ゼロでこの計画を成し遂げられる程、お前達を見くびってもいない」

 

 横から口を挟むゼオンへ、エデンはわざとらしく肩を竦める。

 

「確かにさっきの言葉は薄っぺらかった。取り下げるよ。

 君達がその判断をしたおかげで、僕達の大規模侵攻による大量殺傷という最悪の事態を避けられたわけだしね。話を続けてくれるかな」

 

「お前の推察通り、その瞬間に中枢へ奇襲をかけるという作戦一択でオレ達は動いていた。

 ロケット団の軍事規模と重要拠点の場所は、捕らえた最高幹部のビシャスから尋問で聞き出していたため、戦力調整と索敵の問題は事前にクリアしていた」

 

「完全に不意を突いた見事な襲撃だったよね。

 君達の仲間も精鋭ぞろいで、こちらの幹部達を倒していったのも頷ける。

 それでも、エリシアさんが負けたのは意外だった。

 そっちの戦いは見れてなかったけど、一体どうやって彼女を倒したんだい?」

 

「エリシアは個人の強さだけでオレとほぼ同格、その上伝説級の手持ちも10体を優に超えていた。まともにやっては分が悪かった」

 

 デュフォーが懐から取り出した、紫色に輝くモンスターボールを見たエデンの瞳が、仮面の奥でスッと細まる。

 どんなポケモンでも、神話級の伝説ポケモンだろうと確実に捕まえる、モンスターボールの極地、"マスターボール"。ロケット団が追い求めていた逸品の一つだ。

 

「これでエリシアさんのポケモンを捕まえた……ということかい?

 しかし……"マスターボール"だろうと他人のポケモンを捕まえることはできないはずだが」

 

 そういったボールを造ることは技術的には可能(現にミュウツーが開発していた)だ。

 しかし法律上は固く禁止されていて、実質製造不可能となっている。

 法律を改正しようにも、検討から施行までの時間を考えれば、現実的ではない。

 

「エリシアが所有しているポケモンではなくしてしまえばいい、といことだ」

 

「!!」

 

 デュフォーが云わんとすべきことを察し、絶句するエデン。

 無意識であったが、その双眸にはデュフォーに対する畏怖と敬意が宿りつつ合った。

 

「エリシアは2種類の伝説のポケモンを所持していた。

 サブアカウントのIDに紐づけしたポケモンと、ID登録をしていない戸籍上野生となっているポケモンだ」

 

 市販のボールは、購入する際に必ずトレーナーIDに対して1対1の紐付けを行っている。

 紐付けが行われたボールで捕獲や交換が行われた場合、IOT(Internet of Things)により更に紐付け情報がトレーナー⇔ボール⇔ポケモンに更新される。

 どのポケモンがどのトレーナーに所属するのかを判別するためだ。

 ロケット団の様な裏社会の人間は基本的にトレーナーIDを所持しておらず、警察に足が付かぬよう盗品などの非正規の手段で入手したボールを使う。

 しかしそれは野生と同じ判定となるため、同業者や警察にボールで上書き捕獲されるリスクが付きまとう。

 そこで幹部や重職クラスの闇人は、更に保険を用意する。

 ドヤ街やタコ部屋で飼い殺している貧困層や浮浪者にIDを作らせ、流用するのだ。

 エリシアは狡猾で、そこから更に一枚上手の思考を持っていた。

 

 警察や政府が本格的に身辺調査に乗り出したら?

 

 自分が使っているポケモンの組み合わせを知られたら、トレーナーIDとポケモンを管理している国家のデータベースに照会をかけられ、サブアカウントを突き止められる恐れがある。

 そこで半数のポケモンを野生にすることで、IDを抽出する力技から回避しようと考えていた。

 その二段構えの防衛ラインを崩すべくデュフォーが用意したのが、マスターボールによる直接捕獲とデータベース検索作業の同時進行であった。

 

「オレとの戦闘中にエリシアが繰り出したポケモンへ、シルフカンパニーの協力で量産したマスターボールで片っ端から捕獲を試みる。

 捕獲失敗したポケモンのリストを、順次裏方の仲間(アマネ)へと伝え、その組み合わせからリアルタイムでの照会作業を続けエリシアのサブアカウントを特定。

 オレの特権でIDをBANしたことで、野生扱いになった奴の伝説ポケモン達をマスターボールで捕獲できるようにした、というわけだ」

 

「つまりエリシアさんをバトルの実力ではなく、ボールによる手持ちの強奪で突破したのか……やっぱり君達は鬼だよ」

 

「あっさりハメ殺せたように言ってくれるが、その間伝説ポケモン複数体の足止めをさせられたオレはたまったものじゃなかったぞ」

 

 面白く無さそうに口を尖らせるゼオンへエデンは笑いかける。

 お互いの立場など気にせず、まるで近所の子供に接しているかのように。

 

「ハハハ、それはわかってるって。さて……質問責めにしすぎたね。

 そろそろボクも君達の問いに答えようかな。何が知りたいんだい」

 

 エデンも彼らが雑談をするためだけに、わざわざセキエイくんだりまでやって来るわけが無いことはわかりきっている。

 長い前置きが終わったところで、デュフォーはようやく本題を切り出した。

 自分達が別の次元からこの世界に来たこと、元の世界戻る方法を探していること(あまりにも非人道的な方法以外で)。

 信じがたい情報を嘘偽り無く開示されたエデンは、驚くほどあっさりとそれに即答する。

 

「ただの時空間移動では無理だね。

 時を司る神、ディアルガと空間を司る神、パルキアの力を利用することになる。

 エリシアさん達と共にギンガ団を統廃合した時に、その2体を制御すべく生成された"あかいくさり"も入手していたはずだから、それを使いなよ。

 No5のアポロ君が総務長で資材管理の責任者だから、彼に保管区域の番号を聞いてくれ。

 あとは彼らを呼び出し、力を運用するために一般のポケモンと一線を画した、特殊な強さの個体の力を借りる必要がある」

 

「"特殊個体"……というやつか、オレの力では不足か?」

 

「残念だが、ゼオンやサトシ君のピカチュウくらいの稀少性では不十分だね。

 特殊個体を超える特殊個体……"埒外個体(らちがいこたい)"とでもいうべき存在を探し出し、最低でも2体の力は借りるべきだ。

 ディアルガとパルキアの想像図は後で絵師さんに描いてもらって君達に送っておくよ。ボク、絵を描くの苦手だし」

 

 ごく一部の役割とはいえ戦力外通告を受けたゼオンは若干不愉快そうに腕組みしながらも、エデンの態度に違和感と疑惑を拭えずにいた。

 

「さっきからやけにオレ達に協力的過ぎないか? 何か裏があると勘ぐりたくなるぞ。

 それにお前、報告ではオレ達の襲撃時にほとんど抵抗せずに捕縛されたそうだな。

 お前、地位からしてもエリシアやJより強いんじゃないのか?」

 

「ボクは正々堂々この世界の覇権を争っただけだ。純粋に勝者に従っているだけだよ。

 最初から、負けた時は素直にボクの"復讐劇"は諦めようと心に決めていたしね」

 

 そう言いながらおもむろに仮面を外したエデンの全貌を目の当たりにし、警戒し続けていたゼオンは思わず小さく息を呑み、デュフォーも僅かに顔色を変える。

 何故、エデンはロケット団NO1というA級の罪人でありながら、正体を隠すことが許され、あまつさえこれほどのあり得ない高待遇を受けているのか。

 その素顔に全ての秘密が――そして、人の業と罪が凝縮されていた。




いつもご視聴ありがとうございます。
対ロケット団全面戦争のプロットをいくつか打ち立てたのですが
どのプロットも犠牲が多すぎること、新キャララッシュで収集がつかなくなることに収束してしまい取り下げとなりました。
テンポを考慮しダイジェストとしました。WCSはしっかりと描写する予定です。
サトシについては、次回でがっつりと触れます。
1/31に投稿予定です。
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