ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

6 / 79
6話:カスミと特性

 

 

 

「姉さん、ステージ借りるわよ」

 

 ゼオンの承諾に呼応して、カスミが腕をまくりながらモンスターボールをカバンから取り出す。

 それを見たサクラは何も言わずにカスミのために場所を譲った。

 

「好きにやらせていいの? 相手の子は才能ありそうだけど、今日トレーナーになったばかりなんでしょ」

 

 末席とはいえジムリーダーの資格を持っているカスミが、非公認試合といえどジム内でバトルをして何かトラブルがあった場合、責任はサクラ達に及んでしまう。

 それを危惧して背後からアヤメが耳打ちするが、サクラはゆっくりと首を横にふる。

 

「カスミは未熟で自分勝手な部分があるけど、ジム内で愚行はしないわ。このバトルも意図があって仕掛けてるはず。やらせてみましょう」

 

 彼女達の視界の先で既にカスミはデュフォーと対峙し、手持ちポケモンを繰り出していた。

 額にドリルの様なツノが備わった、巨大な金魚を模したポケモン――

 

「任せたわ、アズマオウ!」

 

「ほう……」

 

 その姿を見てゼオン、デュフォー共にカスミが「勝ち」に来ている事を察する。

 アズマオウと呼ばれたポケモンから感じ取れる力は、タケシとサクラがエースとして繰り出したイワークとスターミーより二回り強い。

 

 ――ある程度鍛えてはいるようだが、それでもオレには及ばないな。

 まさかイワークのようにじめんタイプとの複合しているのか? いや、それは無いか。

 

 ただの金魚であるアズマオウがじめんタイプを持っているようには見えない。

 何よりカスミは『タイプ相性だけでバトルが決まらない』という事をゼオンに教えようとしている。

 ならばでんきタイプのゼオン相手にじめんタイプを使っては本末転倒だ。

 

「アズマオウ、オフェンスマニュアル『A-2』よ」

 

 先手必勝とばかりにカスミがすぐさま指示を送りアズマオウが水中に飛び込むと、ジムの天井に備わっていた照明が赤色に切り替わる。

 水面が朱色に輝き、赤色のアズマオウの姿が水上から視認できなくなる。が、ゼオンは戸惑う事無く水中にでんきショックを打ち込む。

 

「電撃がこのフィールドの水中全域に伝播することは先程のバトルで確認済だ。姿が見えなくなろうが、関係ない」

 

 攻撃は通っているはずだがゼオンも万が一を考え、水面に安易に近づくこと無く少し離れて様子をうかがう。

 十秒ほどの静寂を破りゼオン側の地上手前の水面にわずかな気泡が浮かぶ、と同時にアズマオウが水中から勢いよく飛び跳ねた。

 

 ――身体を見る限り、無傷あるいは軽症か。水中でなんらかの技を使って電撃を軽減させたか? いずれにしろ地上ならばオレの攻撃が必ず先に当たる。

 

「アズマオウ、『つのドリル』!」

 

 瞬時に状況を判断し掌をかざすゼオンへと、アズマオウが額のツノを高速で旋回させながら一直線に突撃する。

 カスミの指示とアズマオウの動きから、ツノを用いる攻撃であることは明白だ。

 ツノが纏う力の大きさは、ほとんどの魔物の子の最大術である『ディオガ級』をも凌駕しているが、同時に他の部位は隙だらけ。

 どう考えてもでんきショックの餌食でしかないが、ゼオンは気を抜かず最大出力で迎撃する。

 

「でんきショック!」

 

 エネルギーと精神の集中を以て生まれる紫電の電撃がカウンターで直撃する。が、アズマオウは意に介さず突進を続けていた。

 

「"紫電"が通用しないだと!?」

 

 想定外の出来事に驚きはしたものの、すぐにゼオンは気を取り直す。

 アズマオウのスピードはゼオンより大分遅い。肉弾戦で遅れを取ることはない以上、まずは落ち着いて回避すべきだと判断するが――

 

「ゼオン、避けずにマントで防げ」

 

「!?」

 

 こちらの世界に来てから初めて、デュフォーが自らゼオンに指示を送る。

 デュフォーが指示する意味の重要さを理解しているゼオンは、とっさにギリギリのところで回避を踏みとどまりマントに力を集中させる。

 眼前まで迫っているアズマオウと、はためく純白のマントが耳障りな鋭い金属音を立てながら交錯し――

 

「ッッ……!」

 

 皮一枚のところでアズマオウの突進は阻まれる。ゼオンの身体には傷一つ付いていない。

 だというのにマント越しに嫌でも伝わってきた衝撃の強大さは、直撃していたなら確実に無事では済まなかったという事実をゼオンに知らしめていた。

 

「そこまでだ、戻れゼオン。カスミもこれで十分だろう」

 

「そうね……よくやったわ、アズマオウ」

 

 デュフォーが制止し、カスミがそれに応じ両トレーナーが合意したことで戦いは中断される。

 未だ生きた心地がしていないゼオンの様相を見れば、これ以上この戦いを続ける意味は無いと言えるだろう。

 

「どういうことだ、デュフォー」

 

「マントで防御を指示した理由は後で話す。それ以外はオレではなくカスミに聞いた方が正確な情報が知れるはずだ」

 

 デュフォーの下へ戻ったゼオンがこっそりと真意を問いただすが、正論でそっけなくあしらわれる。

 その後気まずさと己のプライドへの抵抗から、しばしデュフォーの周りをうろうろ歩き回っていたが観念したかのようにカスミの前に立つ。

 

「何故オレの電撃はアズマオウに通用しなかったんだ?」

 

「人にものを教えてもらうならもっと礼儀ってものがあるんじゃない?」

 

 恥を忍んでたずねるゼオンに、カスミが腕を組みながら得意気に聞き返す。

 が、それを聞いたゼオンは呆れた様に鼻を鳴らしながら踵を返した。

 

「じゃあそっちの美人三姉妹とやらに聞くからお前はもういい」

 

 あっさりと切り捨てられたカスミはあらっ、と大げさにズッコケるがすぐさま態勢を整え、『美人』の形容詞に色めき立つ三姉妹とゼオンの間にダッシュで割って入った。

 それを見たデュフォーは内心で、(良いフットワークだ)と賛辞を送る。

 

「わかったわかった! 教えてあげるからスネないの。ポケモンにはそれぞれ『とくせい』があるのは知ってる?」

 

「特性? ……いや、知ってたかデュフォー?」

 

「全てのポケモンに元々備わっている固有の特殊能力、という知識だけは持っている」

 

 ゴクリ、とカスミは自然と生唾を飲み込む。

 タケシから「とてつもなく将来有望な新人トレーナーと新種のポケモンが挑みに来る」と聞かされていたが、その通り本当に知識と経験はほぼ皆無だった。

 それなのに、実力的にはジム制覇どころかカントー地方のポケモンリーグで決勝トーナメントに上がってもおかしくない力を今々の時点で有している。

 ここから成長して手持ちを増やしたら、どれだけ伸びるか想像も付かない。

 

「アズマオウのとくせいは『ひらいしん』といってでんきタイプの技を無効化することができる。

 キミのわざの威力やタイプ相性に関係なくでんき技そのものが通用しないの」

 

「耐性のある攻撃ではなく、弱点をそのまま完全無力化するのか? そんなふざけた力があるというのか」

 

 ゼオンが見る見る怪訝な表情を浮かべる。

 魔界の常識,ルールと比較してそれはにわかに信じがたいものだった。

 厳しい鍛錬を経て埋もれていた才能を開花させたのならまだわかる。

 だが生まれつき発現した力で、己の弱点を無かったことにできるなど理不尽な性能としか思えなかった。

 

「それがポケモンバトルなの。キミは強いし、その強さを手に入れるためにすごい努力してきたことくらいは、わたしにもわかる。

 でもそれだけ必死に積み上げた強さや相性が一瞬でひっくり返ることが、これからもたくさんあるわ」

 

 幼子に対する上から目線の説教に決してならないように、カスミは淡々と伝えたいこと、感じたことをゼオンに伝える。

 それが通じたからこそ、ゼオンもカスミという少女に対する印象と評価を改め正直な気持ちで返答する。

 

「さっきバトルの前にオレが言った事は間違いだった。そしてお前のおかげでオレ達の課題も見つかった。言うことはそれだけだ」

 

 先に行っているぞ、とだけ言い捨てゼオンは見送り不要とばかりにそのまま振り返らずジムのフィールドを後にする。

 その後姿は『礼など不要、それがオレ達には相応しい関係だろう』、と語っているかのようだった。

 残されたデュフォーはサクラと何やらやりとりをかわし、最低限の挨拶を済ませてゼオンを追うようにジムを去っていった。

 

「カスミ、あんたがここまでおせっかいするなんて珍しいじゃない」

 

「……あの子がどれだけ強くても単体なら"ハメ"ることは不可能じゃないからね。

 悪どくて強い奴に経験不足を突かれて潰されたら、ちょっと勿体ないなって思っただけよ」

 

 本当にそれだけ、と付け加え、成り行きを見守っていたアヤメからのそれ以上の言及をシャットアウトする。

 ついこの間まで一緒に旅した"あの仲間"に性格がどこか似ていて放っておけなかったからなのか、その真意はこの先彼女から明かされることは無いだろう。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「なんだお前達は? 今オレは虫の居所が悪いんだが」

 

 一人で先に外へ出たゼオンは、ジム前で待ち構えていた見知らぬ者達と対峙していた。

 ゼオンは先程のバトルから引きずっている屈辱と苛立ちを隠すこと無く、相手へと向ける。

 日もすっかり暮れ、闇夜にハナダシティを照らす月光の下で、"その2人と1匹"は数え切れないほど繰り返したその口上を披露する。

 

「『なんだお前達は?』と聞かれたら――」

 

「答えてあげるが世の情け――」

 

 警戒を解かずに身構えるゼオンの前で、その怪しい集団は芝居がかった様なセリフを上機嫌で垂れ流すが、それも長くは続かなかった。

 

「時間の無駄だからやめておけ、ムサシ、コジロウ、ニャース」

 

 背後から突如現れたデュフォーに名を呼ばれた2人と一匹は口上を遮られ、「どわー!」と大げさに前のめる。

 胸に「R」の文字が刻まれた制服姿の赤髪の女が詰めよりデュフォーに食って掛かる。

 

「なんであんたが勝手に時間のムダとか決めつけてんのよ! ていうかまだ名乗ってないでしょ!」

 

「ムサシ、お前頭が悪いな。お前達の名前はサトシから聞いている。時間の無駄だというのが理解できたか?」

 

 ムサシと呼ばれた女の後ろから、同じ制服姿の青髪の男が遅れてやってくる。

 

「えーと、つまりあんたが俺達のことをもう知ってるから自己紹介する意味がないって言いたいのか?」

 

「そうだ。コジロウ、お前はムサシよりも頭が良いな」

 

 デュフォーに褒められて「いやー……アハハ」と照れるコジロウの横で、ムサシが納得いかないという表情で唸り声を上げ続ける。

 

「これはあたし達がやりたいからやってる自己満足なの! 知ってるから無駄とか言ってる時点でズレてんのよ!

 あんた友達いないでしょ!? SNSの自己紹介文に「フォローしてくれた人だけフォロバします。フォロバ率100%」とか書いてんじゃないの!?」

 

「友がいないのではなくオレがあえて作らなかっただけだ。SNSはまだこちらの世界ではアカウント登録していない」

 

 ――デュフォーにバカにされて負けずに言い返すやつがいるとはな……というかこっちの世界のSNSってなんだ?

 そもそもオレはこいつらを知らない(サトシから聞いた気がするがどうでもいいから忘れた)んだが、それを言ったら余計ゴチャつきそうだな。

 

 デュフォーとムサシの生産性の無いやりとりを他人事の様に呑気に内心でツッコミみながら眺めていたゼオンであったが、

 アポロの時の様にムサシがデュフォーの地雷を踏み抜いても面倒なので適当なところで口を挟む。

 

「用件はなんだ。馴れ合う関係でも無いだろう」

 

 壁を作るゼオンの言葉に、弛緩しかけた空気が元に戻ったところで、最後に2人の後ろから額に小判を付けたネコ型の――おそらくポケモンと思わしき生物が二足歩行で近づいてくる。

 

「率直に言うとお前達をニャー達、『ロケット団』の仲間として勧誘しに来たニャ」

 

 ゼオンはしばしの間デュフォーと視線を交わした後、掌に力を集中させながらロケット団へと照準を合わせる。

 

「仲間? くだらない冗談を言いに来たならさっさと失せろ」

 

 ロケット団。他人のポケモンを奪い取る犯罪者集団だということは、ゼオンもうろ覚え程度だがサトシから聞いて頭に残っている。

 他者の悪事を頭ごなしに批難するほど清廉潔白に生きてはいないが、それでも今のゼオンにとって糾合するには論ずるに値しない相手だ。

 明らかな拒絶と敵意を向けられながらも、ムサシとコジロウは蛙の面に水といった様子で言葉を続ける。

 

「いやいやあたしらも暇じゃないから、見込み無い奴に声掛けないって。

 あんたらさあ、ジャリボーイの知り合いだかなんだか知らないけどあたし達が気付いてないとでも思ってんの?」

 

「職業柄、"同業"は何となくわかっちまうんだよなあ」

 

 話が見えない――意味深なムサシ達の言葉を、怪訝さと不愉快さを押し出しながらゼオンは耳を傾ける。

 そして次のニャースが放った言葉で、ゼオンは今一度己の過去と向き合うことになる。

 

「目を見ればわかるニャ。お前達の手は悪に染まったことがあるニャ」

 

「……!」

 

 ゼオンの顔色が悪い意味で見る見る変わっていくことは、誰の目にも明らかだった。

 一方のデュフォーは己の履歴を見事に言い当てられたというのに、表情を全く変えずゼオンの様子を伺っている。

 

「あー別にあんた達のこと怒らせたいわけじゃないから。あたしらも似たようなもんだしね」

 

「あんたらの強さが申し分ない事は、さっきのジムバトルを偵察してて確認済だ。活躍次第じゃすぐ幹部になれるかもしれないぜ」

 

 ゼオンの様子を悟ったムサシ達は声色を変え、態度を親しげに軟化させる。

 デュフォーとゼオンに悪のポテンシャルを見出し、勧誘した2人の観察眼は鋭い――が、同時に読み違えもあった。

 

「失せろと言ったはずだ!」

 

 たとえ魔の道に堕ちようとも、誰かの言いなりになって手を汚すなどゼオンにとっては最大級の屈辱であること――

 そしてそれ以前にデュフォーとゼオンの格は、ロケット団という枠に収まる次元では無かったこと――

 何より、今のゼオンはこちらの世界に来てから最大級に不機嫌な状態であったこと――

 

 最低限の加減はしたとはいえ、怒りに身を任せた完全な不意打ちのでんきショックがゼオンの掌から放たれ、ムサシ達を飲み込む。

 

 ――まあ、そうなるよな。

 

 と、当然の帰結に納得するデュフォーであったが、その後の顛末まではさすがに予想できなかった。

 

「やな感じ―!」 という気の抜けた叫び声をあげて、ロケット団はデュフォー達が視認できない遥か遠くの夜空へと吹き飛んでいった。

その光景に一番狼狽しているのは術を打ち込んだゼオン本人だ。

 

「ゼオン、あそこまでやらなくても良かったんじゃないのか」

 

「ち、違うぞデュフォー! 何もしてないのにあいつらが何故か勢いよく吹っ飛んでいったんだ!」

 

 機械オンチがパソコンを壊した時に吐く言い訳の様なゼオンの言葉を生暖かい表情でデュフォーは見守る。

 あまりにも滑稽なロケット団の退場姿を前にゼオンは良い意味で白け、皮肉にも気分が少し晴れることとなった。

 いつまでも先のバトルを引きずってもらっては困るデュフォーにとってそれは結果的に好都合となる。

 

「まあいい、奴らのことは一旦忘れよう。

 詳細は道中で説明するが――今すぐにお前の相棒となるポケモンを捕まえに行くぞ」

 

 

 

 

 

 




レベル上はゼオンくんの方がアズマオウより上の設定ですが
カスミのアズマオウもつのドリル特化で鍛えているようです。

次回は1週間後投稿予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。