60話:
各々が新年度、新学年、新体制を迎える4月1日の朝。
ある一定の
"史上最強のチャンピオンが誕生しようとしている"
デュフォーとゼオンがこの世界にやってきてから3年目の春。
世界王者となる"ポケモンマスター"を決める、
デュフォー達が元の世界に戻れるか否かの最初のターニングポイント。
――激動と灼熱の暦が幕を開ける。
◆◆◆◆◆
『一昨昨日より開催されたWCS本戦もいよいよ大詰め!
本日に至るまで曇り一つ無い快晴のポケモンバトル日和!
まるで天が"至強のポケモンマスターを此度決めよう"と囁いているようです!
ここで改めて、今大会のルールを振り返りましょう!』
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WCS 地方予選,ガラル本戦,グランドカーニバル ルール概要
1:エントリー
参加資格:クリスタルランク以上のトレーナーおよび一定の実績を残している招待選手
大会開幕3日前までに、6体~10体までポケモンをエントリーしてください。途中変更は不可能です。
※同一種族,同一リージョンフォームポケモンを複数体使うことはできません。
※協会から生態系が確認されておらず、公式戦の出場記録が無い種族(神話級伝説ポケモン)は1体までエントリー可能です。
2:全般
バトル中に以下の力から1つを下記回数分使用可能です。
予選:0回 本戦:1回 グランドカーニバル:制限なし
メガシンカ、Z技、テラスタル、ダイマックス
また公式から存在を確認されていない、未知のフォルムチェンジも可となります。
(アンチチート、グリッチシステムで検知OKとなったものに限る)
試合形式
予選:ダブルバトル2VS2
本戦:シングルバトル3VS3
グランドカーニバル:開催当日発表
試合30分前のメディカルチェックでドクターストップとなったポケモンは、次のバトルまで使用できません。
全ての試合は、対戦翌日よりバトルビデオで閲覧できます。
本戦を4回勝ち抜いたトレーナー8名が、マスターズエイトの待つグランドカーニバルへの出場権を得ます。
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そこはカントーから遠く離れたガラルの地。
シュートシティの中央に存在する、ポケモンリーグ本部に設営されたドーム型のシュートスタジアム。
実況の女性アナがメインモニタに映し出されたルールを要約する中、観客席の人々は眼前で今まさに行われている本戦最終戦を、手に汗握りながら見守っている。
『各地方で行われた予選から、のべ1200人に及ぶ選手がエントリーしました!
しかしこのガラルの地を踏めたのは僅か50人!
そしてシード枠で予選を免除された86名から、マスターズエイトを除く78名が本戦から参戦したことで、計128人で本戦が競われております!
今日は本戦最終日。1200人から生き残った僅か16名が、グランドカーニバルの出場を賭けた最後の戦いを繰り広げております!』
実況席の隣では、解説役として四天王級トレーナーが入れ替わり立ち代わっていた。
今はカントー四天王であるシバが、その役割を務めている。
「予選から各地方で名試合が繰り広げられました。
私が監督をしたカントー地方では、予選最終試合でヒロシ選手VSシゲル選手、カスミ選手VSサクラ選手、そしてカオルコ選手VSエリカ選手が好カードでしたね」
『経歴によりますと、確かそのカードはそれぞれ親友、姉妹、幼馴染の関係でしたね。
本戦に進むためとはいえ、お互いを蹴落とす苛烈ながらも素晴らしい名試合でした!
気になる方は、poketube公式チャンネルのカントー予選プレイリストから、アーカイブをご覧ください!』
今まさに実況とシバが話題に出した当人達の一部。
デュフォーとサトシのカントーでの関係者達が、観客席の一角で一同に会していた。
「シゲルにはカントーリーグで2年連続負けてたからな……。
この前の予選でようやく雪辱が果たせたよ」
「フッ……」
感慨深く呟くヒロシの隣で、シゲルはあるバトルを見守りながらも小さく笑う。
「どうしたんだいシゲル?」
「いやね、予選で僕を打ち破ったヒロシが、この本戦1回戦でホウエン四天王のカゲツさんにあっさり負けたよな。
で、2回戦でカゲツさんはカロス四天王のズミさんに3タテ。
昨日そのズミさんは、カントー四天王補佐のイツキさんに敗れた。
いくらまだまだ僕達が子供で発展途上とはいえ、本戦がレベチ過ぎて嫌になるよ」
シゲル達の隣で横並びになっていた、タケシとカスミ、オーキド博士がその話題に割って入る。
「カントー予選を勝ち抜いた8人の半分が、1回戦敗退だものね。わたしもせっかく予選でサクラ姉さんに勝てたのに、手も足も出なかったわ。
だからタケシが1回戦で、アローラ四天王のカヒリさんに勝つなんて思いもしなかった」
「ははは、勝ったらデートしてくれるってカリヒさんが言ってくれたから、100%を超える力があの時は出せたよ。その反動で2回戦はボロ負けだったけどね……」
「うむ、しかし普段一般トレーナーと四天王級との戦いは、その性質上どうしても興行的になりがちじゃ。最上位のトレーナーが死に物狂いで倒しに来る、という貴重な経験は皆も得られたはずじゃのう」
1回戦ではヒロシ、カスミ、マチス、カオルコが。
2回戦では力に波のあったタケシとセセリが敗れ、カントー予選の生き残りは2人だけに。
「で、僕に勝ったヒロシに勝ったカゲツさんに勝ったズミさんに勝った、当のイツキさんは今まさに……」
シゲルの指差す先、目周りだけを仮面で覆う青年、そしてそれと対峙する少年――サトシが、グランドカーニバルに出場すべく最後の激闘に身を投じている。
『第2会場、大地のバトルフィールドでは、サトシ選手とイツキ選手の戦いが続いております! お互い既にテラスタルとZ技を一度使い切った状況!
これまで2体目を見せることなく、3タテを積み重ねてきたサトシ選手がここに来てラスト1VS1まで追い込まれるよもやの大苦戦!』
かつて開催された選抜大会決勝に匹敵する、チリチリとした緊迫感が大地のフィールドを包む。
対峙する猛者2人から、何としてもこの戦いに勝利してみせるという意志が渦巻いているからだ。
しばしの攻防が続いているが、残された互いのエースは未だ無傷のまま。
「ピカチュウ、"10まんボルト"!」
「リキキリン、2秒後に角度ニュートラル、0.5秒間"ミラーコート"を展開!」
「"雷障壁"!」
かつてよりも遥か強大になった電撃を、瞬間型の強化ミラーコートにより反射。
対するピカチュウは跳ね返された電撃を、身にまとう障壁で流し切る。
「今の攻防、文字に起こせば単純だろうが内実はそうではない」
シゲル達の背後から聞こえる落ち着き払った声。
青年期に差し掛かった男女2人と、隣に付き添う白銀の子供にその場の皆が色めき立つ。
「デュフォー、ゼオン、ナツメ!」
早々にグランドカーニバル出場を決めたデュフォー達が、観戦席にいる皆のもとに合流する。
「サトシとピカチュウは、オレ達が考案したメニューでトレーニングをしていた。
最後に進捗を確認したのは3週間前だが、その時点で2年前のオレ達の力に近づきつつあったはずだ」
ピカチュウは定期的にゼオンがトレーニングを施し、主にフィジカルと生命エネルギー方面の強化を図った。
戦闘技術こそ緩やかな成長だが、電撃の基礎威力は2年前のゼオンの雷にやや劣るレベル、瞬発力も素でかつての"でんこうせっか"の速度を出せるまでになった。
一方のサトシは、デュフォーによる精神的トレーニングとリハビリカリキュラムをメインに進めていた。
「サトシもかつての"ポケモンマスター"の力をほぼ取り戻し、鋭い指示で相手の死角と弱所を見つけ攻め立てている。
対するイツキはエスパーの力を駆使して、擬似的にサトシと同等の力を手に入れ攻撃をうまく捌いているな」
エスパー適正のあったイツキはナツメのもとで修行をして、彼女に近い力を手にした。
図らずとも、デュフォーとナツメの弟子同士、代理戦争の構図となっている。
(このリキキリン、前の2体とはレベルが違う。イツキさんの完璧な防御司令もあって攻撃が全然通らない……)
(サトシ君、この2年で色々あったらしいが僕は君の驚異的な成長を恐れている。
だからこそ決して油断はしない。このまま勝負が終わるまで、力の出力を緩めることはないよ)
互いが互いを強敵と認めた上で、先手を握るサトシがこの2年間で手に入れたカードの1枚を、ここで切る決断に踏み切る。
「ピカチュウ、"ナンバリングモード"だ! 4! 3! 1!」
「ピ! カ! ……チュウ!」
サトシが叫ぶ数字のみに呼応し、"こうそくいどう"と"でんきショック"を矢継ぎ早に繰り返すピカチュウ。彼らのその姿を見た仲間達は、2年前のある戦いが脳裏に去来する。
「あれは……シンジが選抜大会で使っていた《ナンバーシステム》だ。
サトシも使えるようになったのか!」
「ああ、ナンバーシステムは修得こそ難しいが、複雑な演算や判断力を必要としない。
ひたすら努力と反復練習を積み重ねれば使いこなせる、サトシ達に合った戦術だ」
いかにイツキのエスパーによる察知能力が高くとも、指示する隙が無ければ効果は発揮できない。
その狙いを読み取ったイツキも、サトシの指示速度に追従すべく戦法を切り替える。
「手数で押すつもりか……ならば、リキキリン、"チャネリング"!」
障壁で守りを固め、防戦一方だったリキキリンは一転してピカチュウの猛攻に合わせるように、全方位に隙無く念力を飛ばし攻防を成立させる。
「リキキリンもあの速度に対抗した!? ナンバーシステムも使ってないのに?」
肉眼ではその内情を視認できない。ナツメとデュフォーはエスパーと《アンサー・トーカー》により、イツキとリキキリンのカラクリを見抜いていた。
「今、イツキ君とリキキリンは念話により直接交信をしている。
言葉を必要としないため、指示速度によるタイムラグはナンバーシステムと同じくらいに、短くなっている」
「す、凄い……! 指示精度だけじゃなくてスピードまでカバーできるなんて、攻略不可能の完璧な戦術じゃない!」
「いや、サトシの狙いは指示速度で圧倒することではない。直に両者の差が現れてくる頃だ」
カスミに対するゼオンの示唆から数十秒後。
雷の炸裂音と念波が入り交じる、目まぐるしい攻防にひずみが生まれ始めた。
「くっ……まさか……!」
無言で静止状態のまま、念話で指示を飛ばしていたイツキが苦痛に顔を歪ませ頭を抱える。
「イツキの力は本物だ。だが短時間で大量の念話を飛ばせば、脳に大きな負荷がかかる。
サトシは休ませずに力を使わせ続け、イツキを"処理落ち"させるつもりだろう」
「っ……そろそろ限界か。リキキリン、一旦障壁で凌ぐんだ……」
意図された盤面に誘導させられていることに気づき、念話による力の供給を打ち切り、防御態勢に切り替える。それこそがサトシの最終目的地だと気づかずに。
イツキのこの一手により、戦いの終局までを見越したゼオンが微笑み、ナツメが瞳を閉じる。
「そう、そしてサトシはリキキリンの障壁を先ほど1回見ている。
発動直後に発生する、右上一箇所の弱所にさえ気付ければチェックメイトだ」
デュフォーの宣告に申し合わせるかのように、かつてのピカチュウの切り札だった"100まんボルト"が障壁の弱所を突き破り、3Mを超えるリキキリンの全身を飲み込んだ。
「リキキリン戦闘不能! イツキ選手のポケモンが全て戦闘不能となったため、本戦決勝第8試合はサトシ選手の勝利!」
歓声と拍手の中、イツキは力無く膝をつき、リキキリンをボールに戻す。
握手すること無く会釈だけして去っていったが、サトシはそれに対し何も言及しない。
今季のポケモンマスターを目指すという夢――イツキの3年間はたった今終わったのだ。
サトシもこの日のために費やしてきたからこそ、その心中は察するに余りある。
だから今は、サトシの高度な指示を再現し続けたピカチュウを精一杯労うだけだ。
「1年半前までは勝ったり負けたりのライバルだと思ってたんだけどね……」
「すぐに追いついてみせる……とはちょっと軽々しく言えないか……」
グランドカーニバルへの出場が確定し、世界のTOP16に食い込んだ。
常人の手の届かない所へ行こうとするサトシを、ヒロシとシゲルが観念と祝福が入り交じる複雑な気持ちで見届ける。
シゲル達が待ち構えている客席へとサトシが戻ったところで、第1会場からアマネとカキツバタ、金色に光る瞳に黒髪の少年が続いてやってきた。
「わやじゃサトシ! グランドカーニバルに出られるなんて凄いことだぞ!」
「ったく、後輩に先越されちまったぜぃ。キバナ先輩に負けたのが悔やまれるなぁ」
「おめでとうございますサトシ君。私達は惜しくも決勝で敗れましたが、あとはサトシ君をブルーベリー学園代表として応援しますよ」
「スグリ、カキツバタ先輩、アマネ、ありがとう!」
この2年間、カントーから遠く離れたイッシュ海上の学園で、共に切磋琢磨した仲間達(カキツバタは去年卒業)からの祝辞を正面から受け止めるサトシ。その背後から――
「見事だサトシ。今日の戦いぶりは文句なしに四天王級のパフォーマンスと言って良い」
「デュフォー……ゼオン……」
その青年が言葉を発する度、周囲の人間が畏怖を込め遠巻きに一挙手一投足を注視する。
全ポケモントレーナーの頂点に位置する、到達者8人の一角。
サトシがスランプに陥っている間に、カントー四天王からアローラリーグへと移籍。
そのまま即チャンピオンに君臨した、マスターズエイトであるデュフォー。
そしてその終生の相棒でありエースであるゼオンは最早、関係の浅い凡百のトレーナーが気軽に接して良い存在では無いからだ。
「だが、イツキを含めサトシが倒したトレーナー達はチャンピオン級には及ばない。
そしてこれから先、グランドカーニバルで戦う相手は全てチャンピオン級だ」
「それだけではないぞサトシ。お前達本戦突破組はオレ達には無いハンデを抱えている」
ゼオンの示唆は皆まで言わずとも明らかであった。
エントリーしたポケモンは予選から大会終了まで、一切変更できない。
予選と本戦を戦ったサトシ達は使うポケモンと実力、技の一部を皆に晒してしまった。情報アドバンテージで大きな不利を抱えたと言って良い。
更に、特定のポケモンを連投させる勝ち方をした場合、酷使させられたエース級ポケモンへのダメージと疲労も確実に残っているだろう。
その状態で万全かつここまで全ての情報が秘匿されている、デュフォー達マスターズエイトとまともにぶつかれば、分が悪い。サトシもそれを踏まえた上で――
「でも、俺達にしかないメリットもある。だろ?」
「ほう……」
かつて2年前の事件で失われた、サトシとピカチュウの目の輝き。
再び宿ったその光がゼオンへと語りかけていた。
一度でも負けたら3年間の戦いが終わり――という、後のない真剣勝負の経験をトレーナーとポケモンが共に積み成長できる。
この機会を逃さず、大会前よりも強くなってグランドカーニバルに挑んで見せる――と。
今日、この時が初めてだったかもしれない。
ゼオンがサトシとピカチュウを「弟子」でも、「友」でもなく、倒すべき「ライバル」として認識したのは。
「正直、今日の戦いが全力だとしたら期待外れだったが……この先の本番で更に上のパフォーマンスを発揮できるとしたら――楽しみになりそうだ」
◆◆◆◆◆
『先ほど、本戦決勝全試合が終了しました!
ここにグランドカーニバルに出場する16名が決定いたしました!』
ドームの天井から七色のスポットライトがスタジアム内を忙しなく動き回る今までにない特殊効果が、これまでの戦いとは次元が違う事を物語る。
スタジアム内に足を踏み入れた直後、会場から今までにない重圧がサトシを襲う。
これまでは純粋に応援されるだけだったが、ここからは違う。
ポケモンマスターへ成り上がる可能性が現実的になったサトシへの希望、努力しても手が届かなかった者からの羨望、マスコミや物見遊山の観客から撮れ高の失敗への期待。
このプレッシャーこそが、デュフォーとゼオンが居続けた領域、世界。
当のデュフォーがサトシ達とは反対方向から、他のマスターズエイトと共に入場し、横並びで待機していた本戦勝ち上がり組の正面へとやってくる。
「ここにいる多くの者は、ロケット団の一件で世話になった。
そしてある者はサトシへの継続的なケア。ある者はオレのポケモンとの稽古……。
ここにいる皆に、感謝している。だからこそ1回戦でここにいる誰と当たることになっても、悔いの残らぬようオレの持つ全ての力を開放し戦ってみせる」
8人は力強く微笑んだことで、デュフォーへの無言の回答を済ませる。
仲間であり好敵手であり、そして超えるべき壁となった彼とその想いは一緒であった。
『おおっと、デュフォー選手から早速の宣戦布告か! その通り、1回戦は必ず
現役または有望株同士で戦いたい者がいる場合、まずこの1回戦を突破しなければ、その機会すら与えられないのです!
では只今よりその栄えある選手達を、不肖この私が一名ずつ発表させていただきます!』
瞬間スタジアム内が無音となる。
客席も、ステージの効果音も、選ばれし選手達の紹介を一瞬でも聞き逃すまい、と邪魔しないよう静まり返っていた。
いつもありがとうございます。
次回、登場メンバー全員を発表します
なんと今になってアニポケのアランの存在と、WCSのダンデ圧勝がネットで炎上してたと知りました・・・。
自分の解釈では、ダンデは全地方のチャンピオンの中で僅差でNo1のイメージです(絶対王者というほどではない)
本当は本戦1回戦から書きたかったのですが、とても時間とペースが確保できないのでベスト16まで一気に進めました。
基本はサトシとデュフォーの物語なので、1回戦は他の勝負はほぼダイジェストの予定です
それとあとがきでベスト16入りボツになったキャラたちの裏事情を書いていきます。