ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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63話:6体目~8体目

相棒(カイリュー)も……ダイマックスも、メガシンカも突破された。

 どこで俺は見誤った? "キョダイセンリツ"を決められた時点で、障壁で守りを固めひたすらバトルを遅延させるべきだったのか?

 それとも、初手のカイリュー対決が天王山だと思い込んだのが敗着だったか?

 だとしたら――俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのか?)

 

 龍使いの頂点であるワタルだからこそ、エースであるカイリュー対決を仕掛けられたのなら、全力でそれを咎めに行く。

 サトシ視点でそれが予想ができたのなら、ワタルのダイマックスの消化とバトルの単純化を同時に演出できたのではないか。

 ワタルは静かに己の行動、判断を一つ一つ省みる。

 だがそれは決して敗因分析などではない。

 この反省を次に活かす――その想いで最後の一匹を送り出す。

 

「頼む……サザンドラ!」

 

(サトシ君、俺はカントー地方の王者として、ここからの勝利を最後まで諦めない。

 だが……窮地であることは認めよう。俺は最初、君が再起不能になったとしても構わない覚悟で君を叩き潰そうとした。

 今は違う。もしも君が俺を超え、マスターズエイトに食い込む資格を持つトレーナーなら……最後の選択を誤ってくれるなよ!)

 

「行くぞサザンドラ……テラスタル!」

 

「リザードン……決めるぞ! "フレアドライブ"!」

 

 サトシが繰り出した3体目――隻眼のリザードンが咆哮と焔を吹き上げ、果敢にサザンドラへと突っ切っていく。2年前の死闘により、光が失われた右目からも闘志だけは消えていない。

 

『おおっとサトシ選手、サザンドラ相手に相性の悪い炎技で特攻した! ここまで合理的に弱点を突く攻撃をしていたのに、これはどういうことか!?』

 

 一部のトレーナーはその意図を理解し、身を乗り出し事態を見守る。

 テラスタル――西欧に位置するパルデア地方で発見された、未知のテラスタルエネルギーを応用した、フォルムチェンジ。

 ポケモンの遺伝子情報を一時的に書き換え、現存するタイプのいずれかに変身できる力。

 理論上、この時点でサトシ視点ではテラスタルの選択肢は18パターンも存在することになるのだが、明らかに決め打ちしたようなその背景を、ギーマは正確に読み切っていた。

 

『ワタル選手のポケモンは、ほのおやみずタイプなどにめっぽう強い半面、こおり、いわ、ドラゴン、フェアリータイプの攻撃が一貫して通ってしまいます。

 その一貫性を切るためには、受けるためのテラスタルを用意する必要があります。

 サトシ選手は以上を踏まえて、このターンにワタル選手がテラスタルを切るという"一点読み"に走った。

 サザンドラ自身の弱点と、パーティの一貫性をほぼ一手に打ち消せる――』

 

 光り輝くライトメタルの結晶――はがねタイプのテラスタルに包まれたサザンドラと、リザードンがぶつかり合う。

 ドラゴンタイプかなにかの技を受けきり、切り返すつもりだったのだろうか。

 想定外の炎技を喰らい、発射したての"ラスターカノン"ごと弾き飛ばされ出落ちに近い形で、目を回しダウンする。

 

「サザンドラ戦闘不能! 4体全て倒したことによって、第7試合はサトシ選手の勝利!」

 

 一瞬の静寂。観念したようにワタルがうなだれたことで、スタジアム緊迫が解除されたかの様に皆が歓声をあげる。

 

「すごいサトシ……! あのワタルさんに勝っちゃった……」

 

「これはもしかすると……もしかするんじゃないか!」

 

 まさかの大金星に色めき立つタケシ達を横に、先程までいの一番にサトシの勝利を予期していたデュフォー達は、渋い表情を浮かべ第8試合を迎えるべく席を立ち上がる。

 

「見事な勝利……だが、あれでは足りない」

 

「ああ、あの戦い方ではサトシは次か準決勝で負けるだろうな」

 

「何故だ!? サトシの戦いに何かまずいことでもあったのか?」

 

 タケシの問いに、デュフォーはゆっくりと首を横にする。

 

「サトシが悪いわけではない。むしろ、ワタルに勝とうと精一杯尽くしたと言っていい。

 だがあの勝ち方は、ワタルがドラゴン使いで初手のカイリュー対決でどう動くか予期できたという隙を突いた戦略だ。

 言い換えるなら、事前準備に徹しなければならない程に、オレ達マスターズエイトとサトシの間には、力の差が存在しているということだ」

 

 事は単純。確かにサトシは努力してデュフォー達に近づいた。

 だが近づいたというだけで、決して並んだわけではないのだ。

 

「あと2年あれば話は変わったかもしれないが、もしもの話をしても仕方がない。

 もはや根本的に戦い方、発想を変えれば話は別だが――こればかりはオレ達がどうこうできる話じゃない」

 

「どうして? デュフォー達に考えがあるなら教えてあげれば……」

 

 カスミの言及を遮るかのように、ゼオンがため息を吐く。

 

「何のためにオレ達が3週間前から指導を絶ったと思っている?

 オレ達はサトシの倒すべき目標であるのに、最後まで依存させてどうする。それに――」

 

 自分達がこの世界を去った後もサトシが自立できるように――

 そう言いかけ、思いとどまりゼオンは客席を後にするのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 剃り込みの入った金髪に鋭い眼光、影のある表情――

 グラジオというトレーナーにとって、デュフォーは憧れにも等しい。

 実母ルザミーネ束ねるエーテル財団が、傘下のスカル団を含めロケット団へと糾合され、無謀にも単騎で乗り込み母を奪還しようとした彼の前に、デュフォーは現れた。

 圧倒的戦力を誇るレインボーロケット団を、万全な事前準備と完璧な戦略で最小被害のまま攻略、瓦解させたその力に焦がれ惹かれたのは必定と言えるだろう。

 アローラリーグに移籍した際は真っ先に駆けつけ、公私ともに多くを過ごしリーグ戦でも幾度と挑み続けた最終目標。

 そのデュフォーと千秋楽の大舞台で対決。ボルテージも最高潮まで高鳴っていたが――

 

ギルガルド(クラウ)、対特殊用"キングシールド"を自陣全域に薄く展開。

 ヘイラッシャ(ラッシャイ)、"あくび"でクロバットを流せ』

 

「ギュウン!」

 

「ラッシャイ!」

 

 コンビネーションを駆使し、ひたすら躱し、あしらい、いなし、ごまかし、修復する。

 "ステルスロック"、"どくどく"、"まとわりつく"といったスリップダメージで、着実にグラジオのポケモンを削っていくデュフォーの姿がそこにあった。

 

『第8試合……これは息の詰まるダブルバトルです!

 デュフォー選手、ツボツボで起点を作り、強靭な受け性能を持つギルガルドとヘイラッシャの3体でサイクルを回し、グラジオ選手の猛攻を完璧に受けきっています!』

 

 受けループ――パーティ全体を耐久力の高いポケモンで固め、サイクルを回しながら定数ダメージで押し切っていく、相手の対策有無で勝率ががらりと変わる特殊戦術。

 観客の立場からすればじれったく退屈な試合運びに見えるが、戦っている当人からすれば数十手の詰将棋を指しあっているかの様な、一切気の抜けぬ緻密な攻防戦だ。

 そしてグラジオは静かに訪れる敗北を享受しながらも、この戦いに充足すら覚える。

 残り1体まで追い詰めたというのに、一縷の勝ち筋すら残さぬ冷徹な受けは、デュフォーの最も強く厳しい部分が顕現した――そう理解しているからだ。

 

『戻れ、ヘイラッシャ(ラッシャイ)。出番だブースター(レンカ)

 

「なに……!?」

 

 だからこそ、デュフォーのこの一手に動揺が走る。

 

『おおっと……デュフォー選手、勝利目前となって初めて最後の1体を選出!

 ……ブースターのようですが、受けってできましたっけ?』

 

『いいや、ブースターは火力が高い反面耐久が低いから、受けループには向かねえっす。

 特性の"こんじょう"を発動させてやられる前に一発殴って倒す、典型的な燃える闘魂アタッカーですよ』

 

 第8試合の解説を務めるシンオウ四天王オーバの言う通り、ブースターという種族は攻撃力以外のパラメータがパッとしない。

 その上、グラジオはデュフォーと長い時間を共にしたため、レンカという"個"の事情も知っている。

 

(どういうつもりだデュフォー……そのブースターは先天的な病を抱えていて、あんたのパーティの中では最も力が劣るアタッカーじゃないか!

 その子が苦労しながらトレーニングをしていることも知っているし、あんたのことは尊敬しているが……いくらなんでも遅れを取る俺じゃない!)

 

 そう、グラジオはブースター(レンカ)が異常体温に苦しみ、限られた時間しかまともに戦えないことを知っている。

 だからこそ――()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事実を知らぬが故、刺さる。

 

『2年間よく耐えた。これが真のお前のデビュー戦だ。"れんごくボティ・レベル1"』

 

『うん!』

 

「なっ」

 

『えっ』

 

『おっ』

 

 グラジオも、アナウンサーも、審判も、オーバですらも――それに反応すらできない。

 ブースターはただフレアドライブの要領で前方に突進しただけ。

 それだけだというのに、人々の視認と意識を置き去りにして、グラジオの前で身構えていたシルヴァディごとフィールド反対側の壁際まで吹き飛ばしていた。

 

『シ、シルヴァディ戦闘不能! 4体全て戦闘不能となったため、第8試合はデュフォー選手の勝利!』

 

『あ……っと失礼しました! ブースターがグラジオ選手のエース、シルヴァディを秒殺! 実況の私も思わず見逃してしまいました!』

 

『身を覆う炎と生命エネルギーを推進力とスピードに変えた、捨て身のフレアドライブか……個人的に好きなタイプだねえ』

 

 ワンテンポ遅れてようやく皆がその瞬殺劇に反応を示し始めた頃には、グラジオも己の失着を十二分に思い知らされた。

 自身がブースター(レンカ)の力を見誤っていたこと。

 そう仕向けるように、デュフォーが他者にブースター(レンカ)情報封鎖をしていたこと。

 日常生活を戦略に組み込む程の徹底ぶりを見せられれば、敗北も自然と受け入れられる。

 

「デュフォー……あんたも人が悪い。その子(レンカ)を秘密兵器にしておくなんて」

 

「元々これくらいのポテンシャルはあったが、どうしても反動と身体への負荷の問題が付き纏っていた。ちゃんと戦えるようになったのはつい最近だな」

 

 手を火傷しない様、ブースターの全身をタオルでくるみながら指圧を施すデュフォーを見届け、グラジオはそれ以上の言葉を飲み込みその場を後にする。

 この勝負、デュフォーはブースター(レンカ)を出さず情報を隠した上、ただ守っているだけで2回戦に勝ち進めた。

 それでもわざわざ最後を派手に決めたのは、おそらく興行を意識したからだろう。

 いくら勝つためとはいえ、クルクルとサイクルを回して削るだけでは玄人にしか受けない。

 観ている一般の観客へのカタルシスを考え、最後は派手な火力戦に持ち込んだのだ。

 ではこれは、果たして後に戦うもの達への"侮り"なのだろうか?

 デュフォーに限っては、そうとも言い切れない。

 常に何重もの伏線を張り巡らせている彼なら、これすらも後の布石となる可能性はある。

 迂闊に戦術を批判できないほどの差が、今のグラジオとデュフォーにはあった。

 

「ツボー『こりゃ(HPが)瞬溶けしましたわなぁ』」

 

「ラッシャ!『レンカの姉御は俺達の中でも一番努力してたからな! 納得の強さだぜ!』」

 

 デュフォーが所持するポケモンの中で、唯一勝率が芳しくないブースター(レンカ)の勝利は、この2年間で新しく加入したメンバー達にとっても喜ぶべきことであった。

 

『よくやった、ツボツボ(ゼシェル)ヘイラッシャ(ラッシャイ)ブースター(レンカ)ギルガルド(クラウ)。おかげで主力級を温存できた。……どうしたゼオン?』

 

「……いや、なんでもない」

 

 後ろで試合を見守っていたゼオンは、意味深な沈黙と間を残し、首を傾げるデュフォー達を置いて先に会場を後にする。

 何のことはない、ヘイラッシャ(ラッシャイ)のネーミングセンスに触れるべきか。

 年相応の呑気な思案に耽っていただけであった。

 

 1回戦が終わり、戦いは新たなマスターズエイト同士がぶつかる2回戦へ。

 

 

 




 いつもご視聴ありがとうございます。
 一気にデュフォーの新ポケ3体登場しました。
 2回戦も半分ほどダイジェストで進みます。
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