ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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64話:サトシVSシロナ

 "少女"にとってポケモンバトルは趣味であり人生の一部でもあった。

 バトルを知って最初の数年は、常にポケモンのことを考えていた。

 毎日が未知の新地方に突然投げ出されたような日々で、とにかく目の前に捉えるもの全てが新鮮で、得体が知れなくて、そして面白かった。

 

 時は流れ少女が妙齢の美女になり、ポケモンバトルの頂へと近づいて来た頃。

 かつての広大な未開の地はとっくに勝手の知れた光景で、単に金を稼ぐために巡るルーティンの道と化していた。

 時間と金、労力と勇気を惜しまなければ、まだ見知らぬ別の世界を見つけられる可能性があるのは知っているが、そこまでのモチベーションは沸き起こらない。

 

 弟子や教え子と言うべき、己を慕う存在も幾千と現れた。

 

 ――僕はシロナさんの後輩というだけで光栄ですよ。

 

 ――シロナさん! あたしもいつかシロナさんみたいチャンピオンになりたい!

 

 色々な子達がいたが、本気で自分に追いつき、追い越そうと身も心も極限まで追い込む程にポケモンバトルに打ち込む者は、5人といなかった。

 そしてその数少ない内の1人が、今最高の舞台で自分とポケモンマスターの座を争っている。

 

『さあ、2回戦第2試合も中盤に差し掛かろうとしております!

 サトシ選手は既に2体のポケモンを失い、4対6の状況。

 シロナ選手とはジリジリとじわじわとその差が付き始めております!』

 

(俺はずっと全力だ。この先の――デュフォーの戦いを諦めることになってでも、ここで力を出し切る覚悟で戦っている。

 それなのにシロナさんには全く届かない!)

 

 サトシは覚醒したポケモンマスターの力を使い、どのタイミングでどの角度から技を打ち込めば相手の隙を突いて急所に当てられるのか、相手の技の弱所を突いて突破できるのか、その答えを算出しながら戦っている。

 では何故シロナに通用しないのか?

 なんのことはない、シロナはトレーナーとして現時点ではサトシの完全上位互換。

 より優れた指示と答えを出せる、というだけの話なのだ。

 既にサトシは指示内容を全て防御に回し、受け続ける一方。

 そうでもなければもう1,2体を失っていただろう。

 もはや観客達も――サトシ本人ですらも、"格"が違うということを察し始めている状況で、その声は突然会場に鳴り響いた。

 

ジャリボーーーイ(サトシ)!! 死にかけの老人を点滴に繋ぐ様な、辛気臭いバトルしてんじゃないよ!』

 

『ロケット団の野望を見事に砕いてみせたんだろ! 相手がチャンピオンだろうがビビることはないぜ!』

 

『いつものオミャーらしく、火の玉みたいにぶつかって行くのニャ!』

 

『ソーナンス!』

 

 観客席からの光景や音声は選手へ届くことはない。

 指示や罵声等による、援護や妨害行為を防ぐためである。

 ならばこの声は一体どこから発せられたのだろうか。

 そんな疑問よりも、その声の懐かしさにサトシは思わず手を止め誰もいない空を振り返る。

 

「今のはムサシ……コジロウ……ニャースにソーナンス!?」

 

『し、失礼しました! スポンサー席から熱狂的な方々が実況席に乱入してしまいました!

 結果的に偏向的な実況を流し、試合を妨害したことを心よりお詫びいたします!』

 

『私の部下が大変失礼を働きました。後ほどお詫びとして貴委員会への追加融資を検討させていただくので、何卒ご容赦願いたい』

 

『これは……トップスポンサーであらせられるロケットコンツェルンのサカキCEO!

 いえいえ、なかなかどうしてお元気な社員の方々で私もビックリしてしまいました!』

 

(今の声はサカキ……!? ここに来ていたのか!)

 

 泡を食った様な司会者の声と、低くどこか冷え切った男の声を聞き、サトシは何が起きたかを察する。

 2年前にロケット団を滅ぼした時、そのまま幹部層を全員起訴して完全解体とはいかなかった。

 ボスであるサカキと中枢幹部の身辺を洗ったところ、世界的なシンジケート『ロケットコンツェルン』のCEOとその側近だったのだ。

 

 サカキは皮肉にも、反社組織のボスよりも経営者としての資質が上回っていた。

 世界市場の中枢に大きく食い込んでいる『ロケットコンツェルン』の経営破綻は、世間に大きな損失をもたらす。

 そう判断した政府は、不本意ながらもデュフォーと協議し、司法取引をもちかけた。

 金融と経済を保護するという名目のもと、毎年一定の納付と協力を政府,各機関へ行うことを条件にサカキは特別に保釈された。

 実質カントーポケモンリーグ運営下での飼い殺し状態ではあったものの、投獄だけは免れることに成功していた。

 ここにサカキがいるのも、ポケモンリーグ本部への筆頭スポンサーとして招待されたからだろう。

 

「貴様ら、よくも私に恥をかかせてくれたな」

 

「ボ、ボス……じゃなかったサカキCEO!」

 

 気持ちが逸って実況席に殴り込んだムサシ達を引き上げさせ、スポンサー席に戻ったところでサカキはアナウンサーに対する営業スマイルから一転、彼らを睨めつける。

 震え上がり互いに抱き合う2人と2匹を尻目に、サカキはフィールド上のサトシを認識する。

 

「こんなどうでもいい興行、顔だけ出して試合はまともに観戦していなかったが……よくよく見たら、我らの覇道を阻んだ忌々しいガキの一人じゃないか。

 Jにこっぴどくやられたと聞いていたが、まさかマスターズエイトまで上り詰めるとはな」

 

「あのジャリボーイ(サトシ)はああ見えてなかなか骨がありますからニャ」

 

 どこか誇らしげなニャースの横で、サカキは面白くなさそうに鼻を鳴らす。

 

「ふん……一方私はデュフォーとかいう小僧の傀儡に成り下がり、裏切り者の貴様らとビジネスごっこの日々……落ちたものだ。金に不自由しないことは不幸中の幸いだがな」

 

 ムサシ達は元ロケット団で悪事の前科はあったものの、デュフォー指揮下のもとサカキの足止めに成功した功績を以って恩赦を与えられていた。

 サカキと同様、なかなかどうして高い商才を持つ2人は反社から足を洗ったサカキの手足となり、今日まで日常業務を支え続けた。

 再びサカキと元の鞘に収まり、この上ない顛末と言えるが、サカキからすれば彼らなどかつて手を噛んだ飼い犬に変わりない。

 不機嫌な態度を隠すこと無く接するサカキの背後から――

 

「しかし、サカキ坊ちゃまがご立派になられて草葉の陰で御母上は喜んでいると思いますよ。お久しゅうございます」

 

 女の声が聞こえ振り返る。

 

「お母さん!?」

 

 年を重ねながらも麗しい容姿の中年女性を見たムサシは飛び上がるほどに驚き――

 

「ミ、ミヤモト!」

 

 サカキは動揺から目を剥く。

 

「えっ……ムサシの母ちゃん!?」

 

「ボスのお知り合いですかニャ?」

 

「ミヤモトは我が母上……ロケット団先代頭領の付き人だ。

 先代の勅命であったミュウ捕獲のミッションから音信不通になっていたが――まさか生きていたとはな」

 

 階級的には一団員でありながら、サカキを前に全く物怖じしない様子から、只者ではない気配をコジロウ達に与えつつミヤモトはサカキの隣へと無遠慮に腰掛ける。

 

「ふふ、色々と後始末と野暮用を片付けておりましてね、馳せ参じるのが遅れました。

 それでも陰ながら坊ちゃまの様子は見ておりました。

 先代の頃のロケット団はお世辞にもクリーンな組織とは言えませんでしたが、横の絆も強く、弱きを守るどこか昔ながらの義賊としての一面もありました。

 坊ちゃまの代になられて組織は強大になられたようですが、代わりに失われた志も多かったと思われます。

 あの坊や達に滅ぼされ生まれ変わった、今のロケットコンツェルンはどこか昔のロケット団に近い雰囲気を感じましてよ」

 

「回りくどい言い方はよせミヤモト。あと私の事を坊ちゃまと言うな!」

 

「これは失礼。真剣な話をさせていただくなら、サカキ様は非凡な商いの才覚をお持ちです。

 武の力に偏ったロケット団は潰えど、サカキ様の天下布武が潰えたわけではありません。

 これからは非武装の時代に合わせ、財の力で天下を取れば良いではありませんか。

 そのためには、我が娘とそのお仲間はなかなかサカキ様のお役に立てるはずですよ」

 

 飄々とミヤモトに笑い飛ばされ、サカキは苦虫を噛み潰すような表情で、呆然と様子を見守るムサシ達へと再び意識を移す。

 

「確かに……こいつらの製品開発と販売の能力には目を見張るものがあった。人の適性と才能というやつはわからんものだな。

 私も男だ。悪の組織の首領としての負けは()()()認めよう。

 お前の言う通り、ひとまずはほとぼりが覚めるまで経済界で覇道を目指してみようじゃないか。その間こいつらは、私を裏切った代償としてたっぷりこき使ってやるぞ」

 

「はいっサカキCEO! ……ところで、ポケモンマスターって一人しかなれないんだろ?

 ジャリボーイ(サトシ)が仮にここでシロナに勝っても、デュフォーと戦うことになったらどっちを応援すりゃいいんだ?」

 

「そりゃあんた……応援も何もデュフォーが勝つに決まってるじゃない。

 あんた達も2年前の潜入ミッションで、エリシアとかいう伝説厨のバケ女のヤバさは思い知ったでしょ。

 あの女はそこのシロナ並に強かったはずなのに、作戦込みとはいえデュフォーには歯が立たなかったのよ、次元が違いすぎるわ」

 

「だとしても……ニャア達はデュフォーもジャリボーイ《サトシ》も両方応援するニャ!

 それでこそ我ら好敵手というものだニャ」

 

「ソーナンス!」

 

 酷使を示唆するような言葉にも喜んで返事し、呑気に観戦を楽しむコジロウ達へ、サカキは忌々しそうに舌打ちを飛ばす。

 だがミヤモトと共に彼らを眺めるその眼差しから呆れこそ無くならずとも、棘のようなものはいつの間にか抜け落ちていた。

 

 





 いつもご視聴ありがとうございます。
 そろそろガッシュの世界の外伝、どのように書こうか検討中です。
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