グランドカーニバル2回戦 ルール概要
・1回戦終了から準決勝開始時まで、選手とポケモンは試合中以外はVIPルームに拘束され、外出することも外部と連絡を取ることもできない。
・VIPルームは衣食住、専属世話係付き、ポケモンのケア、PC端末が使用できるがインターネットは使用できない。
・対戦相手は試合開始時まで選手は知らされない。
・2回戦のバトルビデオは、準決勝終了まで視聴することはできない。
・6VS6のシングルバトルかダブルバトルを選手がリクエストして決める。
互いの希望が不一致だった場合はランダムに決定される。
・準決勝開始時の負傷、回復度合いの公平性を担保するため、第1試合と第2試合,第3試合と第4試合は同時進行で行われる。
それぞれの勝者が、準決勝の対戦相手となる。
ロケット団の介入により一寸中断した戦いは仕切り直しとなる。
自身も被害者でありながらも、ロケット団が腐れ縁の仲であったため一応はサトシも申し訳無さそうに頭を下げる。
苦笑いしながら赦しつつも、シロナは先程のヤジが飛んできた方角を見上げていた。
(……乱暴な助言ではあったけど、彼らの言っていたことはあながち的外れではない。
このままダラダラ延命しても、サトシ君に勝ち目は無い。私の狙いにサトシ君が気付いて乗ってこない限りは……)
(理由はわからないけど、おそらくシロナさんは俺に短期決戦を誘っている。
誘いに乗って下手をすれば立ち直れないくらいボロ負けするけど、おそらくこれ以外に今の俺が勝つ可能性は無い……!)
このまま長期戦にもつれ込めば、シロナは比較的安全にサトシに勝てるだろう。
しかしそれなりの消耗は避けられず、明日の準決勝にも影響を及ぼすことになる。
世界ランキング2位のシロナからすれば、ここで勝っても次負ければ同じである。
ベスト8敗退もベスト4敗退も、マイナス評価に変わりは無いからだ。
多少のリスクを孕んででも、短期決戦で被害を抑え倒したいという背景までは理解できずとも、サトシはシロナの狙いを察しそれに乗じる。
(ロケット団の言う通りだ。シロナさんの思考を読んで守りに徹しても、経験の差で絶対に負ける!
この先は感覚に身を任せて攻め続けるしか無い!)
シロナというトレーナーの本質は指示の正確さにある。
その一点だけで言えば、デュフォー以上を誇る精度とまともに競い合っても分が悪い。
幾度か彼女がブルーベリー学園へ訪問した時にコーチングと模擬試合を受けたことで、その精密さは存分に思い知っている。
ならば、精度を犠牲にした混戦に持ち込むしか勝機は無い。
「ルカリオ、次は君に決めた! メガシンカだ!」
「ルカリオ、こちらもメガシンカよ!」
シバより託されたルカリオと、シロナのパーティの中で生え抜きであるルカリオが、共にメガシンカの果て、ゼロ距離で組み合う。
「「インファイト!」」
「ルッ……!」
「オオッ……!」
格闘エネルギーを纏った左拳同士がわずかに混じり合い、互いの頬をかすめ合う。
直撃せずともその威力を思い知った双方のルカリオは、対峙する同種を強敵と認め、やや後方に飛び退きより警戒を強める。
(お互いタイプ一致の弱点を突き合える。一発でもクリーンヒットを許せば即KOだ。
生きた心地がしないけど……もっと戦術を踏み込まなきゃ!)
「「一直線に"はどうだん"!」」
「一歩下がって"シャドーボール"!」
「相手の攻撃軌道上、弱所に"ラスターカノン"!」
一転して中距離でトレーナー同士が示す軌道へ飛び道具の差し合い、膠着状態が続く。
「攻撃力と技術はほぼ互角ね……ならば、"しんくうは"よ!」
「今だ、"はやてがえし"!」
先制技――使い所を誤らなければ、ポケモン同士の捕食,役割関係を無理矢理覆すことができる強力な武器である。
その対先制技に特化し、出だしを潰せる"はやてがえし"というメタ技が存在する。
しかしこの技は上位帯の実戦では使われることはほとんどない。
相手の先制技に合わせて適切なタイミングで決め打ちしなければ、技の発動直後に致命的な硬直が発生するため、メリットに比べてデメリットが大きすぎるからだ。
シロナが崩すきっかけを掴むために、いつかは先制技を使うと直感で先読みしたサトシが、発動の機を伺い身構えていた。
不可視の衝撃波を特殊な体術により倍返しで切り替えされ、たまらず膝をつくルカリオ。
シロナはわずかに驚きながらも、歓喜の感情が優先する。
「私の読みを外す指示……素晴らしい」
(サトシ君の指示クオリティが私に近づきつつある。しかし……あなたは2体のポケモンを失うビハインドを背負っている。
まだスタートラインに立っただけで、"互角"では私には追いつけないわ!)
「ルカリオ、チャンスだ! 距離を詰めろ!」
「もう一度接近戦を仕掛けてくるわよ! "インファイト"で迎え撃って!」
サトシの視線は今まさに再度交錯するルカリオ達――ではなくその先シロナにあった。
(シロナさんは真剣勝負で手抜きや妥協をしないトレーナーだ。
だけど……俺は知っている。ダンデさんやカルネさんみたいな、チャンピオンクラスと戦う時とそうではない時では、わずかに目に宿る"熱"が変わるのを。
シロナさんはずっと、本気で戦える存在が
だから俺が今ここで、並び立つ!)
「"しんくうは"!」
「なっ……近距離でわざわざ先制技!?」
距離1M程での"しんくうは"が無防備な状態で刺さり、ルカリオはたまらずダウンする。
接近戦での打撃戦にヤマを張ったカウンターに徹していなければ、出だしを潰されあっさりと返り討ち、結果は逆となっていただろう。
更に危険を孕んだ指示に、初めてシロナは微笑みながらも小さく汗を流す。
(サトシ君が放つ指示の圧力が更に加速していく……何故!?
まさか……私? 私の存在が彼の強さを引き上げている!?)
図らずも、サトシはデュフォーとゼオンが思い描いていた戦い方の再現に成功する。
戦いの最中に相手の力に呼応して、自分の強さを押し上げたのだ。
結論から言えばこれは全くの偶発的な現象であり、今大会で以降サトシがこの事象を再現できることはなかった。
とはいえ――
(デュフォーと共に鍛えた俺のポケモン達の強さは、決してシロナさんに負けてない!)
「ミカルゲ、戦闘不能!」
(皆のポテンシャルを信じて、指示を更に尖らせ突き進むんだ!)
「ロズレイド、戦闘不能!」
このシロナとの勝負では見事に噛み合い、ここからサトシは見事に拮抗するのである。
◆◆◆◆◆
2年前、ネモとサイトウという少女達は己の若きプライドを賭けぶつかり合い、ネモがサイトウの才能を喰らう形で結末を迎えた。
それから2年後、リターンマッチとなった2人の戦いは、前回と真逆の結果になろうとしている。
格闘タイプでありながらゴーストタイプに攻撃を当てられ、相手の回避を無視できる特性、"きもったま"や"しんがん"をベースにしてサイトウが考案した"無明心眼"。
試行錯誤の果てにかつてより大幅に強化され、カルネを破るまでの境地へと至っていた。
「フォルムチェンジ。"人魔語らう世界"」
対峙しているネモは一瞬錯覚したと思ったが、確かに視認する。
カイリキーと背後のサイトウが、紐の様な細い光で繋がれ、両者の瞳に同じ様な輝きが宿っているのを。
「"インファイト"」
トレーナーがポケモンに送る指示は、どんなものであろうとタイムラグが存在する。
ナツメやゼオンが使う念話による指示だろうとも、0.2秒程度の遅延は避けられない。
だが、本来ありえないはずなのに、サイトウの指示とカイリキーの動きはその理を歪め、完全にノータイムで同調し、ネモのヌメルゴンを吹き飛ばす。
「もしかして……サイトウさんとカイリキーの思考が直接連動してる?」
「"人魔語らう世界"の構造を初見で見抜きましたか。見事ですネモ殿。
ですがこの技の素晴らしいところは、公式なポケモンバトルの場において、見抜かれたところで攻略方法が存在しないというところです」
"人魔語らう世界"の起点となるのは、ポケモンではなくトレーナー。
野良バトルなら、トレーナーへの攻撃も辞さない悪人はいるかもしれない。
だが公式戦において、サイトウに直接危害を加えることができない以上この技を防ぐことは不可能、というのがサイトウの解釈だ。
サイトウはあえて言う必要も無く伏せたが、この力は格闘タイプの技にしか使えない。
しかし、そのデメリットは"無明心眼"が補って余りある。
ポケモンのスペックと相性で負けていなければ、1対1の戦いにおいて無敵の力であるとサイトウは確信する。
一方ネモは理論ではなく本能でこの力の恐ろしさを実感する。
この力に制限が無いとするならば、相手の指示に応じてこちらが適切な指示を切り返すというポケモンバトルの大前提が破綻するからだ。
対抗しうる力があるとすれば上位の伝説級ポケモン、あるいはポケモン自身が上位のトレーナーと同等以上の判断力を持ち、主の意思を介さず自力で即断できるゼオンの様な存在だろう。
(トレーナーの力で攻略するとしたら、同じ力を使うことになるんだろうね。
でも多分私には無理だ。直感だけどおそらくこれは才能で至れる"力"じゃない。
そうならば、デュフォーさんやダンデさんといった才の極地の人達が似たような力を開発しているはずだもの)
ネモの心中を見透かすようにサイトウは自ずと口を開き――
「この力の修得に飛び抜けた才能は要りません。その代わりに
ある意味人からは、かけ離れるかもしれない禁断の領域――」
そして力を加速させる。
サイトウと連なる光の絆が強まり、更なる変貌を遂げるカイリキー。
その拳から放たれる強大な力の波動が、ネモの最後の手持ちポケモンを飲み込んでいった。
「"人魔語らうキズナヘンゲ"。ネモ殿を、そして我がライバル、ゼオン・ベルを倒すための切り札です」
決着。
激励――試合後の純粋な挨拶――ネモの脳裏に幾つかの言葉が過ったが、全てを飲み込んだ。
勝利を手にした
だというのに、その瞳の奥から僅かな悲痛を感じ取ったからだ。
いつもご視聴ありがとうございます。
終わりが近づいてまいりました。