ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

66 / 79
66話:頂へ

『もしもしアキノリお兄ちゃん、今どこ? ポケモンフーズの棚卸し手伝ってよ!

 ……あ、今日はお休み取ってガラルのポケモンリーグに行ってるの?』

 

『ごめんユカ、今日だけは俺、父さんのお店の手伝いできねえ。

 グランドカーニバルの準決勝と決勝は絶対に現地で観るって決めてたんだ。

 ユカも仕事しながらでいいから、オンラインで視聴しときなよ』

 

『アキノリお兄ちゃん、いつも言ってたもんね。

 あのマスターズエイトのデュフォーさんが、2年前のカントーリーグで初めて公式戦をした相手がお兄ちゃん。

 逆にお兄ちゃんはあれが最後の引退試合だったって』

 

『あのバトルは俺の人生を変えた。あれが無かったら、俺は今もろくに働きもせずにアテもなくポケモンマスターを目指して、ユカ達に迷惑をかけていたかもしれない。

 デュフォー君との戦いは一生忘れられないよ。それじゃあ、試合始まるからまたな』

 

 観客席で家族との通話を終了させた男性が見下ろす視界の先。

 広大なスタジアムの中央でポツンと佇む少年と青年が静かに相対する。

 少年が大きく微笑むと青年が小さく返した、そんな気がした。

 

『さあ、今季グランドカーニバルもいよいよ終幕が近づいています。

 本日これより、準決勝の第1試合と第2試合を同時に開始いたします!

 私が実況を預かるは第1試合。まずはマサラタウンのサトシ選手。

 ワタル選手やシロナ選手といった、チャンピオン級を次々と喰らうまさかのジャイアント・キリングに期待が高まります。

 対するはアローラチャンピオンのデュフォー選手。

 愛弟子であるグラジオ選手、そして因縁のライバルでもあるタクト選手と名試合を繰り広げました!

 デュフォー選手がトレーナーとしてデビューした日から、友人であり師弟関係でもある2人が、この最高の舞台でぶつかる劇的なマッチングとなります!

 準決勝はエントリーした10体、全てのポケモンが使用可能、3体まで同時選出可能なバトルです!

 ただし、先に5体戦闘不能となった方が負けとなります!

 半端な戦力の投入はむしろ逆効果。戦略難易度は間違いなく最高レベルでしょう!』

 

「ああ……信じられない。あのサトシが、シロナさんに勝って準決勝まで行くなんて!

 それにその相手がデュフォー君だなんて。

 2人とも応援しなきゃ……でもどっちが勝つのかしら?」

 

『デュフォー君(さん)が勝(ちます)(つ)(つね)(つのう)』

 

 客席でハラハラしながら我が子と、その親友であり師を見守るハナコへ四方から同時に声が木霊する。

 タケシ、カスミ、オーキド博士、シゲル、ヒロシ、ナツメ、アマネ、グラジオ――サトシとデュフォーの関係者が勢揃いで一同に会し、客席の一角を占有していた。

 

「サトシはワタルさん、シロナさんといった格上に勝つため、多くのポケモンを負傷することになりました。

 一方デュフォーさんはタクトさん相手には苦戦したものの、グラジオさんをほぼ無傷で突破しています。デュフォーさん相手にこの消耗度合いのハンデ差は致命的です」

 

「シロナさんと戦った時、サトシ君は奇跡的に一時的な覚醒を遂げていたに過ぎない。

 もう一度シロナさんと戦ってもそれがまた再現できる可能性は低いはずだし、デュフォーと戦っても同じ結果になると思う」

 

「ピカチュウにとって相性の悪い、シロナさんのガブリアスがアランさんとの戦いでドクターストップしていたのも大きいですよね」

 

 各々がデュフォー優勢の根拠を口にするが――

 

「皆の言う通り普通に考えればデュフォー君が確実に勝つだろう。しかし――」

 

 背後から音もなくシンジを引き連れ現れた、タクトの見解は少し異なる。

 

「2つの条件が揃えば、サトシ君にも勝ちの可能性は出てくると思う。

 1つは、サトシ君のエースポケモンが負傷していないこと。そしてもう1つは――」

 

「……? タクトさんそれ逆じゃないですか?

 そうなったらむしろサトシに勝ち目は無い気が……」

 

 2つ目の条件を聞いたタケシが思わず聞き返す。

 だがそんな外野のやり取りなどお構いなしに、勝負は始まろうとしている。

 

「始めるぞ、サトシ」

 

「ああ……」

 

(デュフォー……初めて戦った時はそもそもバトルとして成立すらしなかった。

 2回目にカントーリーグで戦った時は、指導バトルでただ育ててもらっただけ。

 3回目の去年は6体がかりで善戦したけど、結局ゼオン1体に返り討ちにされた。

 少しずつ縮まっているけど――あまりにも元の差が大きすぎる。

 いつも……どんな時でも俺の先にデュフォー達がいた。俺が困っていたら助けてくれた。

 今日は恩返しをするつもりで……俺がこの2年間で手に入れた全てをぶつける!)

 

 デュフォーとサトシに近しい者、そうでない者、ポケモンバトルにあまり詳しくない者ですらも、この2人のバトルが()()であることをすぐに察する。

 

「行け、フライゴン(フラーシア)ブースター(レンカ)

 

「リザードン、ルカリオ、君達に決めた!」

 

 両者が先発を繰り出したことで、一気に高まる観客のボルテージ。

 だが、一部の実力者達はすぐさまその選出に違和感を覚える。

 

「デュフォーさん、先発にツボツボを出さないのか?

 ルール上、間違いなくこの戦いは激しい交代戦になる。ツボツボの"ねばねばネット"と"ステルスロック"は必須運用だと思ったけど」

 

「デュフォーのブースターは確か短期決戦型の高火力高速アタッカーだったはず。

 長期戦やサイクルには向かない……」

 

 サトシにとってもそれは同様の疑問であった。

 ツボツボの高い起点作成能力は1回戦の対グラジオ戦で証明済。

 対策に懸念を抱く厄介な存在であったため、戸惑いを感じつつも気持ちを切り替え、標的に集中する。

 

「ルカリオ、フライゴンに"れいとうパンチ"! リザードン、"ごうもうか"発動!」

 

フライゴン(フラーシア)、テラスタルだ』

 

 リザードンが前方のブースター(レンカ)を警戒しつつも全身に獄炎を纏わせる。

 その横ではフライゴン(フラーシア)の全身が銀色に鈍く輝く光を纏い、ルカリオのれいとうパンチを容易く弾き返す。

 テラスタルによりはがねタイプに変身し、天敵であるはずの氷技へ瞬時に耐性を得た。

 

「いきなりテラスタル……! でも、テラスタルは一度発動したらタイプを戻せない。

 それに、はがねタイプになったら格闘技が効果抜群だ! 今度はインファイト!」

 

フライゴン(フラーシア)、"フェアリースケイル"』

 

「フリャア!」

 

 フライゴン(フラーシア)が叫ぶと、全身を纏うテラスタルエネルギーの上に、ピンク色のオーラ層が生成される。

 《フェアリースケイル》――特殊個体であるフライゴン(フラーシア)が持つ特性。

 バトル中に自身のタイプをフェアリータイプにスイッチできる、世にも珍しい能力。

 それに加えこの特性には、デュフォーすらも当初見抜けなかった、秘めた力があった。

 テラスタル発動後も、この特性を活かしテラスタイプとフェアリータイプ、元のドラゴンタイプを自在に切り替えられることができるのだ。

 

 フェアリータイプにより威力を激減されたインファイトの殴打に耐え、フライゴン(フラーシア)はカウンターの"じしん"をルカリオへと突き立てる。

 

「ルオオッ!」

 

「ッ……ルカリオ、戻れ! ゲッコウガ、後を任せた!」

 

 直撃により大ダメージを負ったが、間一髪サトシの交代が間に合った。

 戦闘不能は避けられたものの、負傷度合いからもうこの戦いでルカリオを再度使うことは難しいだろう。

 そして、入れ替え直後のゲッコウガはルール上、相対しているポケモンが技を繰り出すか、数秒経過するまで技を出すか攻撃することは許されない。ビハインドは負ったままだ。

 

(このフライゴンは……2年前の選抜大会でシンジが逃がしていたナックラーだよな。

 はがねのテラスタルと組み合わせて、複数タイプをリアルタイムにスイッチできるなんて……こんな潜在能力を持っていたとデュフォーはあの時から見抜いていたんだ!)

 

「俺があの時見限ったナックラーか。ガブリアスの劣化種と言われたフライゴンがこうも化けるとは……俺もまだまだだな」

 

 相対するサトシ、客席からはシンジが共に感慨深くフライゴン(フラーシア)の成長を見守る中、もう片方の戦いも今火蓋を切ろうとしていた。

 

『十分な焔が溜まったぜ……』

 

『いつでも来なよ……』

 

 リザードン、ブースター(レンカ)共に練り上げた炎エネルギーを全身に滾らせ、相手を警戒しながら主の指示を待つ。

 

「"フレアドライブ"!」

 

「"れんごくボティ"レベル2。"メテオラ"」

 

「「ウオオオオオ!」」

 

 それは互いにただ炎を吹き上げ、真正面からバカ正直にぶつかり合っただけ。

 しかし衝撃と熱風が後方のデュフォーとサトシを襲う程のエネルギーを生み出す。

 数秒の鍔迫り合いの末、じりじりとリザードンが後ずさる。

 

『っ……修羅の炎を纏った俺が僅かに押されてやがる……!?』

 

 特殊な"もうか"の力を制御したリザードンの火力は、ゼオンですら認めるレベル。

 それと五分以上に渡り合うということは、パワーでゼオンと並ぶ領域にいる証左。

 だが、ブースター(レンカ)が成長した真価はここから先にある。

 

「"れんごくボティ"レベル3。"反転・絶対零度"」

 

 温度操作の力を極めたその先。エネルギーを一瞬だけ反転させることで、炎ではなく氷撃を発生させる荒業。

 生み出された氷塊が、リザードンの尻尾の先端へと収束し、これまで徹底的に秘匿されていたブースター(レンカ)の切り札にリザードン、サトシ共に驚愕する。

 

『こいつ……俺の弱点を!』

 

「凍らせた……!? そんなことが……」

 

 ほのおタイプは氷技に耐性を持つ。だが、リザードンにとって弱点である尻尾の炎だけは別だ。

 急激な体温低下により、一撃で機能停止へと追い込むための攻撃。

 リザードンは指示を仰ごうとして――

 

「コウガ!」

 

「フリャア!」

 

「ゲッコウガ、"へんげんじざい"で常にタイプを変え続けて、フライゴンのタイプスイッチに対抗するんだ! 必要なら――()()()()になろう!」

 

(……サトシはゲッコウガの指示で手一杯か……ならよぉ!)

 

「オオオオッ!」

 

 真横の攻防とサトシの状況を鑑みて、とっさに自己判断でメガストーンの力を発動、自身にメガシンカを切る。

 メガリザードンXに変貌したことに生まれた、強大な生命エネルギーを尻尾に集約させ、辛うじて氷の奇襲に耐える。

 

『捉えた』

 

 リザードンの背後、完璧な死角に回り込んだブースター(レンカ)が王手を突きつけていた。

 ブースター(レンカ)はメガシンカに対する適正が無い。

 だが、メガシンカ時に身体への変貌による負荷と衝撃で一瞬の硬直が発生することは戦闘経験から学んでいる。その隙を見逃す彼女とデュフォーではなかった。

 

「"れんごくボティ"レベル3。瞬獄炎」




いつもご視聴ありがとうございます。
いよいよ最後のポケモンバトルです。もう少しお付き合いください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。