ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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67話:最古の三体(レ・プルミエ・トロワ)

 氷撃を発生させる程の力を、本来得意であるはずの炎エネルギーに全て変換。

 自身のニックネーム、レンカゲロウが表す通り超高度の炎熱から周囲に陽炎を生み出し、リザードンの背に全身を打ち付ける。

 

『グオオオッ……なんだこの炎は!?』

 

 メガシンカを果たしたことで、ほのおとドラゴンタイプの複合になり、より高い炎熱耐性を得たはずのリザードンの身体を容易にノックバックし、貫く威力。

 相手の耐性を無視する凶悪な炎だと察した時には、ほぼ決定的なダメージがリザードンに刻まれていた。

 

(やべえ……押し切られる……この俺が?)

 

 生涯初の背中を焼かれる感覚。敗北への恐怖。己へのプライド。

 あらゆる感情が激流の様に流れ、そして最後に――

 

『リザードン殿……ピカチュウ殿……(サトシ)を頼んだ』

 

 かつて喪った同胞(ピジョット)の声。一瞬、腹の底から力が溢れた気がした。

 

『負けるかあああっ!』

 

『えっ!?』

 

 ブースターと同じ、いや凌駕する獄炎を発現させ、死に体から無理やり脱出。

 身体を反転し、獄炎を纏いし拳でブースター(レンカ)の頭上に振り下ろす。

 時間にして一秒未満。追い詰められた形相で、地に叩きつけられ目を回すブースター(レンカ)を見下ろすリザードンの姿が決着を示していた。

 

『わりいな……今日ばかりは俺だけのために戦ってるわけじゃねえんだ』

 

 リザードンは確信する。

 十分な経験と強さを得た上で、土壇場で初めて生まれたこの力、強力ゆえに消耗も膨大で、不用意に使うべきではない。

 生命力の根源を削りながら生むこの獄炎を、もしもJとの戦いで開花させたいたならば、仲間を守るために再起不能になるまで使っていただろう。

 

(メガシンカしてなきゃ……離別した仲間達の想いを力に乗せなきゃ押し切られてた。

 この小娘が本当にゼオンの仲間内で最弱のアタッカーなのかよ。

 チッ……締めてかからねえとヤバいな)

 

 改めて敵戦力の強大さを痛感する横で、もう片方の戦いも決着を迎える。

 

「フリャア……」

 

 サトシとゲッコウガの絆を強めたことにより発現した、特殊なフォルムチェンジ。

 "キズナヘンゲ"により五感を共有するレベルまでにシンクロしたサトシからの的確な指示で、目まぐるしいタイプのスイッチ合戦の果て、フライゴン(フラーシア)を制する。

 サイトウとカイリキーが発動させた"人魔語らう世界"をも上回る同調率だが、ゲッコウガのダメージがサトシにも体感で刻まれるリスクも存在していた。

 

『ハァハァ……お互いノルマの1体は片付けられたねえ。やるじゃねェか先輩』

 

『ケッ……昔の誰かさんに似て生意気な後輩だな』

 

 双方軽口を叩きながらも、気を緩ませることはない。

 今なんとか倒した相手は、おそらく敵勢力の中では威力偵察の斥候部隊。

 主攻はまだこの先に控えている。

 

「ブースター、フライゴン共に戦闘不能! デュフォー選手の使用ポケモン、残り3体!」

 

『なんと、サトシ選手がリード! ……デュフォー選手が最初からここまでビハインドを負うのは、私初めて見ました! これはもしかすると、もしかするのか!?』

 

 ()()()の事態を期待し、にわかにざわつき始める観客達。

 だがサトシの表情は硬いまま、心中には動揺が走る。

 

(なんだ……!? デュフォーとの戦いはいつも絶望と憧れを抱く程の凄みを感じていたのに、今日は違う……不調か?)

 

 そうはいったものの。サトシからすればあまりデュフォーを気遣う余裕もない。

 デュフォー側には周知されていないが、1回戦と2回戦の激闘で、ラプラス、カイリュー、ジュカイン、ウオノラゴンがドクターストップとなっている。

 現状、残りは万全のゲンガー、ゲッコウガ、メルメタル、ピカチュウ、負傷したリザードン、ほぼ戦闘不能のルカリオと決して十分とは言えない戦力だ。

 一部の観客が同じく抱いた違和感を代弁するよう、アマネが忌憚の無い疑問を口にする。

 

「今日のデュフォーさん、なんかおかしくないですか? リザードン対ブースターの対面でも、ヘイラッシャをクッションにして立ち回るなりあったでしょう。

 個別の戦術はともかく、戦略レベルははっきりいって私以下ですよ」

 

 謎をこじ開けるべく、タクト、シンジがその意見に乗じ踏み込んでいく。

 

「確かに昨日ボクと戦った時と違う。はっきり言って今日の彼ならボクが確実に勝てる。

 だがデュフォー君が消耗している、手を抜いている……というよりは戦略全般の旗振りを別人が仕切っていて、デュフォー君がその通りに動いているように見えるな」

 

「同感です。それにこれはゼオンの策でもないですね。ゼオンは今やトレーナーとしての腕も四天王に引けを取らないレベルだ。こんなピリッとしない立ち回りはあり得ない」

 

「つまり、デュフォーでもゼオンでもない第3者がこの戦いに関与していると……?」

 

 更に深まる疑問。だがポーカーフェイスを貫くデュフォーからその真意は見抜けない。

 ふとデュフォーが初めて言葉を発したことで、バトルはお構いなしに佳境へ向かう。

 

「サトシと初めての公式戦でオレは"何故ポケモンマスターを目指すのか"と問うた。

 2年間色々あったが――その"答え"は出たか?」

 

「ううん、まだその答えは見つからない」

 

 求められているのは、デュフォーが望む言葉ではなく事実。

 だからサトシは飾ること無く本心を口にし、デュフォーが小さく頷く。

 

「そうか。ならば今はそれでいい。では……決着を付けよう。

 行け、エルフーン(エルフ)ドンカラス(オカシラ)――ゼオン」

 

 3つのボールから同時に3体が出ずる、それだけで会場全域の雰囲気が一変した。

 皆の期待に恥じぬ圧力と生命エネルギーを放ち、ただ佇まいだけで3体はその場の空気を支配する。

 

『とうとう出ました――大将ゼオン・ベル!

 そして王を守る飛車と角のエルフーンとドンカラス!

 デュフォー選手がトレーナーとしてID登録をしたその日から苦楽を共にしたこの3体、なんと公式、非公式戦問わず一度も戦闘不能となったことがないのです!

 それぞれがチャンピオンのエース級以上の力を持つ、最古の三体(レ・プルミエ・トロワ)で巻き返しなるか!」

 

「こっちも総力戦だ、ゲンガー、メルメタル――ピカチュウ!」

 

 ここからは少しでも引けば押し切られる。サトシは本能から全戦力の投入に踏み切る。

 キクコより託されたゲンガー、アローラ地方に留学した際に仲間になったメルメタル、そして最初の相棒――ピカチュウ。

 左右をエルフーン(エルフ)ドンカラス(オカシラ)に固められ、守られるように後方に控えるゼオンの姿を見て、サトシとピカチュウは彼の身に何が起きたかを即察知する。

 

「ゼオン……!? これって……」

 

「ピ……!」

 

 一見普段と何も変わらない外見のまま、ゼオンはサトシ達が己の現状を見抜いたことに気付き、威を振るうかの様に圧を強める。

 

「言いたいことは色々あるだろうが、今は飲み込んでくれ。

 戦場で会った以上は全力で戦うのみだ」

 

 サトシはピカチュウとしばし顔を見合わせ、そしてゼオンの思惑に乗ろうと互いに示し合わせた。

 元よりこの戦いは、ゼオンに自分達の成長を見せることにある。

 ならば彼の意思を汲むことは是非も無い。全力、そして最強の布陣で迎え撃つまで。

 

「ゲンガー、メルメタル、ゲッコウガ、リザードン! 皆でエルフーン(エルフ)ドンカラス(オカシラ)を抑えてくれ!」

 

 またも会場がどよめき、息を呑む。

 1対1と2対4の構図。誰もがその軍容の偏りに訝しんでいた。

 

「どうしてサトシはゼオンに最大勢力を当てないんだ? デュフォーさんのドンカラス達も凄まじく強いが、せめて均等になるように戦力を振り分けるべきだ」

 

「さっきボクが言った、サトシが勝つための2つ目の条件。"ゼオンが選出されること"に関係があるのだろう」

 

「タクトさん、まさか……」

 

 シンジは長く師事していたがゆえ、タクトが言わんとしている事を先回りして察していた。

 

「ああ、ゼオンは昨日ボクのメガレックウザとの死闘でほぼ戦闘不能状態だった。

 今ドクターストップになっていないのがおかしいくらい、ダメージが蓄積しているはずだ。

 それにデュフォー君もゼオンほどで無いにしろ、かなり疲労が残っているだろうね」

 

 それを聞いた皆がハッと振り返る。

 見た目はあくまで平静そのもの、泰然としているゼオン。

 だが親しい者にしかわからないくらい、僅かだが表情から余裕が失せている。

 

「頼むデュフォー」

 

「ああ」

 

 ゼオンの合図に合わせデュフォーがこの戦いで初めて強い闘争心を放ち、その対象となったサトシ、ピカチュウが反射的に身構える。

 

「ピカチュウ、全てをぶつけよう」

 

「ピカ!」

 

 後にサトシは語る。この最後の攻防は体感で実時間の十数倍に及んでいた、と。

 

「「"でんきショック"!」」

 

 ゼオンの右掌から迸る紫電、ピカチュウの頬袋から穿つ金雷が交わり、僅かの余韻も残さず雲散した。鍛え上げられた王族の雷と完全に互角の領域まで上り詰めた、ピカチュウの雷に思わずゼオンも内心で唸る。

 

(この先の決勝など――いや、そもそもこの戦いのペース配分すら考えていないな。

 おそらくピカチュウの力は保って2分。ここで出し切るつもりの捨て身とはいえ……よくぞここまで磨き上げた!)

 

「ピカチュウ、"ばちばちアクセル"!」

 

雷刹華(らいせっか)

 

 皆の視界から両個体が消え失せ、風切音とソニックブームのみがフィールドに舞い上がる。

 マッハを超える速度強化状態の肉弾戦に突入。サトシはキズナ現象による僅かな視界共有、デュフォーは《アンサー・トーカー》の力で異次元の攻防に指示を添える。

 

「エディションブリューナク(単宝槍)!」

 

「ピカー!」

 

 トレーナーとしてほぼ完璧と言って良いデュフォーが持つ、ただ1つの隙。

 彼が知りえない初見の事象にだけは対応ができない。その一点を貫くべく、デュフォーにすら秘匿していた切り札をピカチュウは開放する。

 放出した強力な電撃を後出しで形状変化。伝説の槍を冠したその技名に恥じぬ、一直線の雷槍を頭上に生成した。

 

「かみなりパンチ《剣の型》――雷霆剣(らいていけん)

 

 技の性能、危険性を本能で察知しながらゼオンは愛用の雷剣で迎え撃つことを決意。

 音速まで加速した自重の威力を乗せて、雷槍と雷剣が轟音と共に衝突。

 鍔迫り合いは長く続かず、槍が剣に砕かれる。

 

「ゼオンの形態変化技のインスパイアか。十分な完成度ではあるが……模倣ゆえに本家には僅かに落ちる」

 

「ッッ……初見なのに対応したのか!? ……エディショントリシューラ(三又宝槍)!」

 

 衝撃で吹き飛ばされながらも、態勢を立て直し、砕け分散した雷を瞬時につなぎ合わせ、三又の槍を再生成。

 しかし新技を出される程、切り札を切られる程、デュフォーは冷ややかに集中力を増し"答え"を導き出していく。

 

「障壁突破、能力変化無視、相殺時相手技の生命エネルギー破壊……三種の力をそれぞれの先端に纏わせたのか。

 素晴らしい……かみなりパンチ《円刃の型》――雷月咬(らいげっこう)

 

 デュフォーからゼオンへの直接念話で座標をリアルタイムで指示。

 矢継ぎ早に全方向、正確な角度から雷のヨーヨーを当て続け、トリシューラを堅実に削りこそぎ落としていく。

 

「くっ……これでも……」

 

 この戦いに全ての焦点をあわせ、この先の戦いを捨てた。

 対するデュフォーとゼオンは本調子には遠く、続く決勝戦を見据え力を残さなければならない。

 初見の隠し玉も惜しまず投入した。なのに、届かない。

 感覚を共有しているピカチュウの急激な消耗、枯渇も自分の事の様に伝わってくる。

 そしてサトシの焦燥を加速させるかのように――

 

『こっちをほったらかしとはよぉ、帽子の小僧(サトシ)はちーっと俺様をナメ過ぎなんじゃねえの?

 ゼオン(ガキ)を汲み取って一騎打ちに横入りするヤボはしねえけどよぉ』

 

 右の戦場ではドンカラス(オカシラ)が縦横無尽に飛び回り、1対3のハンデをものともせず残存勢力と五分に渡り合い――

 

『オカシラさん慌てる必要はないよ。ゼオンお兄ちゃんは勝つ。

 万が一があったとしても、ピカチュウ君も余力はまず残らない。

 わたし達が目の前の相手を丁寧に制圧するだけで、この戦いは終わるよ』

 

 その横では、圧倒的タイプ不利をものともせず、エルフーン(エルフ)ドンカラス(オカシラ)をサポートしながら、ゲンガーを《神薙の悪戯心》で翻弄し、圧倒する。

 勝ち目ゼロのままなら、まだ諦めもついた。

 リードした瞬間僅かでも勝ちを期待しただけに、今のサトシは不退転の選択肢を突きつけられていた。

 自身のトレーナー生命を、相棒(ピカチュウ)の現役寿命を削るその先の力に手を出すべきか――

 

 決着まで、残り30秒。

 




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