ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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68話:キズナのジガディラス

 

『――というのがグランドカーニバル、そしてその後のタイムテーブルだ。

 このスケジュールに沿ってオレとゼオンは元来た世界へ帰る』

 

 準決勝開始30分前。VIPルームにデュフォーの声と、手持ちポケモン達の相槌が木霊する。

 

『最善はオレが優勝し、そのままポケモンマスターの権限を即行使して帰還を試みることだが、しくじった場合は次善としてサトシ優勝に賭けることになる』

 それも叶わなかった場合、エデンという政府の恥部を利用し脅しをかけてでも、エデンとエリシアの力を借り受ける』

 

『万が一、それでも奴らが協力を拒んだ場合は?』

 

 ゼオンの問いにデュフォーの目が鋭く、スッと僅かに細まる。

 

『いくつか代替案は用意しているが、全て失敗した場合は今の地位を返上し、セキエイ監獄を急襲してレインボーロケット団残党を解放する。

 その足でシンオウ地方の"テンガンざん"へ向かう。

 もちろん、これは手詰まった場合の最終手段だ。このフェーズに移行した場合、お前達は着いて来なくて良い。

 オレ、ゼオン、スリーパー、ミュウツーだけでこの計画を実行する』

 

 不正防止のため室内のやりとりは専属のコンシェルジュに監視されている。

 しかしデュフォーは終始ポケモン達が使う共通言語で話しているため、物騒なその会話内容が読み取られることはない。

 「今サラっとオイラを入れたような……」というスリーパーの呟きを流すかのように、ドンカラス(オカシラ)が大げさに笑い飛ばす。

 

『これだけ苦労して世界王者の一歩手前まで登り詰めたのに、全て投げうってテロリストに転げ落ちる気かよ。

 ツンツン(デュフォー)はやっぱイカれてれんな。……それよりゼオン(ガキ)よ、お前次もその身体で出るつもりか?』

 

 皆の意識がゼオンへ移る。

 昨日、タクトの切り札であるメガレックウザとの激闘を繰り広げたばかり。

 ゼオンの強力な生命力、回復力を持って一晩治療を受けても、体内にメガレックウザのエネルギーが深く食い込み、少ししか回復できなかった。

 ほぼドクターストップに近い状態だが、スリーパーの協力を経て、自身の生命エネルギーと混成した認識阻害術により、負傷チェックをくぐり抜けていた。

 

『相手がサトシだった場合は出る。……いや出させてくれ、"頼み"だ』

 

 皆に向かって満身創痍のゼオンが深々と頭を下げる初めての事態に、デュフォーは僅かに表情を変えドンカラス(オカシラ)が驚き目を見開く。

 

『俺もダークライとやりあってかなり痛手を負ったが、ほぼ回復し切ったぞ。

 はっきり言って今のお前のパーティ貢献度は、俺やエルフより下だ。

 そしてここまで俺達は、ツンツン(デュフォー)を勝たせるために尽くしてきた。

 その延長で幽霊のバアさんは腕を、帽子のガキは仲間を犠牲にした。

 それを全て理解した上で、お前はワガママを優先したいってことでいいんだな?』

 

 仲間内で唯一ゼオンと同格、デュフォーとも五分の付き合いであるドンカラス(オカシラ)が、皆が内心でモヤモヤしていた気持ちを代弁する。

 本調子のメンバーで固め、ゼオンは決勝に備えるのがどう考えても最善策のはず。

 それは重々承知の上、ゼオンは明らかに圧力をかけながら問い詰めるドンカラス(オカシラ)に重い表情で応える。

 

『ああ、その指摘ももっともだ。お前が納得いかないというのなら遠慮せずに言ってくれ』

 

『バーカ……俺だけじゃなくて全員に聞くべきだろそりゃ』

 

 鼻で笑うドンカラス(オカシラ)の後ろから、神妙な様子で仲間達が前に出る。

 ブースター(レンカ)エルフーン(エルフ)フライゴン(フラーシア)ヘイラッシャ(ラッシャイ)ツボツボ(ゼシェル)ギルガルド(クラウ)、スリーパー

 各々がゼオン達に対して自身の意見を口にしていく中、デュフォーもまた別の選択を彼らに突きつけようとしていた。

 

『ゼオンの件はわかった。準決勝でサトシと当たった場合は、"途中でメンバー交代を一切せず、アタッカーのみで構成。最後にピカチュウとゼオンが一騎打ちなるようにサポート"。これをオレ達の総意として動くことにする。

 そして別件となるが、お前達には選んでもらいたい。オレとゼオンが元の世界へと戻る際――元生まれたこの世界で生を全うするか、オレ達と共にあちらの世界へ共に旅立つか』

 

 時は再び、数十分後へ――

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ピカチュウとのキズナ現象。更に力を強め限界を超えかけたサトシは、直前で反射的に出力を落としていた。

 今の自分達の生命は、家族,デュフォー達,そして失った仲間達によって繋げられたもの。

 ならば個人的な都合でそれを無駄遣いするのは、彼らに対する冒涜に等しい。

 

(これ以上負荷をかけるのはやめて、今のままの力で戦おうピカチュウ。

 ゼオンは完璧な強さを持つけど、ルール上1つだけ隙が生まれている。何故かゼオンは特殊形態を全く使わない!)

 

 ゼオンに勝つべく、過去データを洗い続けていたサトシは、ある法則を見つけていた。

 本大会に限らずダイマックスなどを使う公式戦は幾度とあったが、ゼオンはメガシンカ、ダイマックス、Zわざ、テラスタルを使ったことがない。

 メガシンカは適正が必要だが、残りの3つはどのポケモンでも使えるはず、温存する理由がない。だがもしもゼオンだけが使えないのだとしたら――

 

「"トキワの神雷"!」

 

 ハイスピードバトルから一転、互いに静止し地に腰を据えた戦いに切り替わる。

 "かみなり"をベースとしたピカチュウの広範囲電撃が、デュフォー陣営全域へ放たれ、ゼオンは直感と経験からそれがピカチュウの切り札であると察知。

 準最大術で迎え撃つ判断をデュフォーと共有する。

 

「"10まんボルト"!」

 

 十に枝分かれした強力な電撃がゼオンの左掌からうねりをあげる。

 デュフォーの指示によりそれぞれの角度からピカチュウの雷の弱所を的確に突き、威力でやや劣りながらも弾き返した。

 

『なんとシロナ選手のエース、ダイマックストゲキッスを倒す決め手となった、ピカチュウの大技がただの"10まんボルト"で防がれた!

 しかもゼオン・ベルにはタクト選手のメガレックウザを撃破した大技も控えている!

 これは絶体絶命かー!?』

 

(くっ……数ヶ月も鍛錬した最大技も防がれた! ゼオンはあの強力な雷を使うのにエネルギーを溜める時間が必要だったはずだったのに、即発動できるようになったのか!)

 

 正確にはゼオンは"10まんボルト"に要するチャージの隙を克服したわけではない。

 トレーニングを経て短縮したものの、未だ発動までには5秒の時間を要する。

 それをカバーすべく、ゼオンは左掌と右掌に独立して生命エネルギーを練り上げられるようにした。

 右掌で通常攻撃と最大術、左掌で大技を打ち分けて戦う。

 

(ピカチュウはまだ体内の別領域(サブメモリ)に生命エネルギーを保持する技術は修得していない。

 よって、次のオレの最大術は無防備な状態で刺さるはず……)

 

「ゼオン、構えろ。来るぞ!」

 

「今だピカチュウ!」

 

「ピカー!!」

 

 サトシ、デュフォーの合図と同時に、ノータイムでピカチュウからMAXまで充足した生命エネルギーが放たれる。完全に想定外の挙動,僅かに対応が出遅れる。

 

「何……!? この力はどこから……」

 

 "Zわざ"はポケモン本体の生命エネルギーと独立している。

 "トキワの神雷"に残る全てのエネルギーを注ぎ込んだことで、ゼオンはこれが最後の攻撃であると誤認した。その隙を突いた別働隊のZわざによる、正真正銘最後の勝負が行われる。

 

「"1000まんボルト"!」

 

「"ジガディラスの電磁砲"!」

 

 観客席にも届くほどの轟音と閃光の中、先程よりも遥かに強大な紫電と黄金雷が交錯。

 フィールドほぼ全域を埋め尽くす程の攻防が続く。

 

『ZIGAAAAAAAA!』

 

 ゼオンが魔界にいた頃より修めていた最大術、ジガディラス・ウル・ザケルガをベースに生み出した"でんじほう"。巨大な翼と角を生やした雷神が咆哮を上げ、タクトのメガレックウザをも退けた規格外の威力の雷波動を放つ。

 

「行けピカチュウ! これを逃したら、多分もうオレ達はもうこの先ゼオンには勝てない!」

 

「ピーカー!」

 

 そして――負ける道理など無いジガディラスの雷、更に上回るそれを全身痙攣させるほどに限界を超えながら、放ち続けるピカチュウがいた。

 

『なんとーサトシ選手のZ技がゼオン・ベルの切り札を押している!

 これはもしかして、もしかするのか!?』

 

「これがサトシ君のピカチュウの底力……特級の特殊個体だったか!」

 

「まさか……ゼオンに勝てるのか!?」

 

 実況、客席、共にこの勝負の分水嶺を迎え僅かも見逃すまいと注視。

 

『行けピカチュウ……やっちまえ!』

 

『ったく……あんな力持ってるなら教えとけっつーの、大先輩よ』

 

 サトシ陣営も――

 

ドンカラス(オカシラ)さん!』

 

『ちぃと危ういな。いつでも動けるようにはしておけ……』

 

 デュフォー陣営も――思わず意識を眼の前の敵から逸らし、その一騎打ちを見守る。

 まるでこの世界へやってくる直前の戦いをなぞるかのように、少しずつ確実にジガディラスの雷が後退し、ゼオンの喉元へと迫っていた。

 

「ぐ……あの時の清麿と違って、サトシは仲間の力など借りていないはず……なのにまたジガディラスは……オレは負けるのか……!」

 

 己に不利な条件は幾重にも重なっている。その上でこれまでの攻防で全て上回ってきた。

 それでもなお、最後の力勝負は明らかに劣勢。ガッシュとの決戦を焼き直す様な流れに敗北をよぎらせる。

 ゼオンは父王(ダウワン)と出自の事もあり、決して自己肯定感の高い子供ではない。

 今までの魔物の子同士の戦いは、圧倒的な資質と実力差で自負を保っただけに過ぎない。ここに来て精神が揺らぎかけたとて彼に落ち度は無いだろう。だからこそ――

 

 "待たせたな、ゼオン"

 

 これまで後ろで見守り続けていた相棒は、皮肉にも心のどこかでこの局面を望んでいたのかもしれない。

 

(デュフォー!?)

 

 直接頭に響くデュフォーの声。

 続いて全身に力と生命エネルギーが満ち溢れる感触。

 明らかにジガディラスの雷はその力を増し、ピカチュウの電撃を再び押し戻し始めた。

 

「ピ!?」

 

「ゼオンの雷がまた強大に……まだ力を隠し持ってたのか!?」

 

 "ポケモンバトルは魔物同士の戦いと違い、トレーナーは指示するだけだ。

 ポケモンが正しい判断で動くことが出来れば、その指示すら完全に無用の長物となる。

 この世界に来てからずっと考えていた。オレもゼオンに貢献できることは無いか……。お前を勝たせたいという願いを活かせないか。これがオレの"答え"だ"

 

 メガシンカもダイマックスも使えないゼオンのため、デュフォーが己の才能を開花させ発現させた力。

 魔本の力を再現するべく生まれた、己の心の力をポケモンの技に上乗せできる"キズナヘンゲ"。

 

「デュフォー……お前頭が悪いな」

 

 小さく呟くゼオンは、"キズナのジガディラス"に昇華した電磁砲で"1000まんボルト"を弾きながら微笑む。

 

 ――お前には最初からいつだって助けられっぱなしだよ。

 

 デュフォーに聞こえぬ様努めたつもりだったが、果たしてキズナの力で心の内を見透かされているのか。

 眼の前の戦いと勝利から一瞬意識を逸らしたその時――決着はいきなり訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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