いつも手が届かないと思っていた。
終ぞ並べるイメージが沸かなかった。
常に目標として追い続けたゼオン、デュフォーと刹那的とはいえ五分に張り合っている。
際限なく力強さを増していく
ああ、なんて眩しい――
――
「っ……あれ?」
まばゆい光の中、ピカチュウと混ざりあった意識が段々と遠のき、そして再び戻る。
2回戦前に寝泊まりしたVIPルームのベッド上、薄暗い中横たわるサトシがいた。
ぼんやりする頭で周囲を見渡し、隣に寝そべるピカチュウを見て、少しずつ状況を察知する。
「……もう試合は終わった……?」
「サトシ、気付いたの?」
ベッド横のソファでうとうとしていたハナコが、サトシの覚醒に気付き顔を上げる。
水差しからコップに注いだ水をサトシに手渡し、室内の内線電話から外にかけると、しばらくしてタケシ達が室内へと見舞いにやってきた。
「タケシ……みんな……俺、試合の記憶が無いんだけど、どうなったの?」
誰からの返答も無かったが、皆の表情と雰囲気から言わずとも結果は明らかであった。
自分はデュフォーに負けたのだろう。
悔しさや反省よりも先に別の疑問が頭に浮かぶ。
「決勝はいつから始まるの? デュフォーの対戦相手はもう決まってる?」
「……もうグランドカーニバルはとっくに終わったわ。
サトシ、あんたとピカチュウ40時間近く眠りっぱなしだったのよ。初日は点滴も受けてたわ」
少し言いづらそうな様子でカスミが口火を切ると、アマネ達もそれに追従する。
「バトルビデオはそこのPCから閲覧できます。
私達から結果をネタバレされるより、自分の目で確かめて見た方がいいでしょう」
この時点でサトシは仲間の余所余所しい態度に、言いようも無い違和感を抱く。
元々デュフォーは勝ち目の薄い相手。
負けたところでこんなに気を使われる筋合いはないはずだ。
腑に落ちないままサトシはPCを立ち上げ、自分視点での情報が欠落している2回戦から順を追って試合を追っていく。
2回戦第1試合――デュフォーがタクトを撃破。サトシよりもよっぽど苦戦した試合内容から、準決勝のデュフォー,ゼオンの消耗理由を今になって理解する。
第3試合はサイトウがネモに勝ち、第4試合はダンデがコージーに勝利。
内容的にはコージーが勝勢で進めていたが、ラスト1VS1で連続で急所に喰らい続け、まさかの大逆転。
準決勝第1試合は、ピカチュウとゼオンの最大技同士の激突中にサトシ達が気絶。
リザードンを含めた残りポケモン達は健在であったが、ルールにより試合は即終了。
おそらくそのまま続けていても、デュフォー率いる
ダンデのパーティがコージー戦でほぼ半壊していたこともあり、準決勝第2試合はサイトウがダンデに圧勝していた。
動画内の観客から聞こえてくる笑い声にシンクロする様に、サトシは疲弊した身体に痛みを走らせ辛そうに笑う。
「はは――あんなにダンデさんを追い込んでたのにあそこから運負けするなんて、コージーさんらしい試合だなあ。
デュフォーとサイトウの決勝はどうなったんだろう……」
ビデオを再生するやいなや、稀有なキズナヘンゲにより、サイトウに似た褐色の少女型にフォルムチェンジしたカイリキーとゼオンの激しい一騎打ちが始まった。
結論から言うと対戦時間は2分とかからなかったのだが、準決勝を経た自身の経験から、両者の体感時間は10倍以上だったと察せられる。
壮絶な相打ちの果て、連戦に次ぐ激しいキズナヘンゲの負荷により余力を失ったサイトウは、そのまま
祝福、寂しさ、羨望、あらゆる感情を次々と巡らせながら、アーカイブを見届けサトシは静かにPCをシャットダウンする。
「……仲間達をねぎらったら、デュフォーとゼオンに優勝おめでとうって言わないと」
ハナコ、カスミ、アマネ――そのサトシの呟きに誰も応えようとはしない。
違和感が不吉な悪寒へと変貌する中、タケシが覚悟した様子で彼に"宣告"を言い渡す役割を買って出る。
「落ち着いて聞くんだサトシ。
デュフォーとゼオンはもうここにいない。――明日、元の世界に帰るんだ」
◆◆◆◆◆
計画というのは万全を期す程、完璧に練るほど想定外のアクシデントに見舞われやすい。
成功するはずのプランがつまらない要因でコケるのを、幼少期から何度も見てきた。
だからゼオンは、きっと今回の帰還プランにも何かトラブルが起きることを覚悟していたのだが――
「ずいぶんあっさりと成功の目処が立ったな……」
「入念に準備をしていればこんなものだろう」
第1工程:グランドカーニバルで、デュフォーが見事ポケモンマスターへ――
第2工程:王者の権限をもっての、エデンとエリシアの一時釈放――
第3工程:"あかいくさり"含む必須資材の入手――
第4工程:
最終工程:テンガン山でディアルガとパルキアを呼び出し、時空間移動の交渉――
滞り無く完了し、今や元の世界に戻るためのお膳立ては全て整い、準備が整うまでひたすら待機するフェーズへと突入していた。
「あっさり、ではない。君達がこの2年間ひたすら奔走し錯誤し、時にはこの世界のために尽くしたからこそ今がある。当然の帰結だと思うよ」
傍らにダークライを控えたタクトが、何も無い空を見上げるゼオンの呟きを、その背後で拾う。
テンガン山頂上に設営された、簡易プレハブ小屋の中にはデュフォーの他にサイトウ,ナツメが。
そして外にはタクト達とミュウツーが待機している。
仮に全盛期のロケット団が全軍で襲いかかっても、対抗しうる過剰戦力が集結。
デュフォーの補助に加え、帯同しているエデンとエリシアが裏切り、あるいはディアルガ,パルキアが暴走した時のための保険でもあった。
だが拍子抜けする程にエデン達もディアルガ達も協力的であり、帰還するための異空間ゲート完成の予定まで、既に残り30分を切っていた。
『おい
『なんだ急に今更改まって』
初めて自身の名前をはっきりと呼ばれ、ゼオンはむず痒そうに
『お前、決勝の後からほとんど回復してねえようだが、昨日も戦ったのか?
ミュウツーも見たとこボロボロの様だが……』
『ああ、
あいつはデュフォーと共同作成した訓練用のバトルシミュレーションシステムで、オレが大会で戦った相手全員と大会期間中に擬似的に戦ったらしい。
あいつなりになるべく対等な条件で、オレと決着を付けたかったのだろう』
『ミュウツーの奴といいお前といい……一昨日の決勝でも
呆れたような口調のその奥に、確かな感心が垣間見えた気がした。
たまに戦闘論を語ったりバカ話をするくらいで、過度なに馴れ合いはしてこなかったというのに、ここに来てまた少し心を開く
ゼオンもこの世界で終わりの時が近づいていることを察していた。
『お前こそ、それだけ強いのに頂きを目指さないのか』
『俺様のケンカは手段であって目的じゃねえからな。
だが、お前達に着いていって世界中の猛者共と戦りあえたこの2年間は、悪くなかったぜ。――楽しかった』
『ゼオンのお兄ちゃん、ミュウツーさんと戦ったの!? どっちが勝った?』
『ククッ……ゼオンのツラを良ぉーく見りゃあ結果はなんとなくわかるぜ』
10分ほどが経った頃、その穏やかな空気は突如破られる。
「ゼオン、デュフォー!」
「ピー!」
「サトシ!? ピカチュウ!」
試合後に昏睡し続けていたことで、別れを告げることが出来なかった親友達。
リザードンの背に乗り、テンガン山の山頂くんだりまではるばる息を切らせてやってきたその姿を見て、ゼオンも思わず身を乗り出す。
「ごめんゼオン。もうすぐ元の世界に帰るっていうのに、オレ達眠りこけちゃってて。
タケシに場所を教えてもらって」
「いや、オレ達こそお前に別れを言わずにこの世界を去ろうとしてすまなかった。デュフォーが計画に変更はないと言っていたのでな」
気まずさから謝罪をお互い押し付けあってる間に、いつの間にかデュフォーもプレハブ小屋から出てきていた。
「サトシ、ピカチュウ。良くここまで来てくれたな。
危うく別れの挨拶もせずに去るところだったが――悲観することはない。
何故ならオレ達は必ず再会するからだ。これは永遠の別れではない」
「そうだよな。俺……一度もデュフォー達に勝てなかった。
だから、俺達がもっと強くなった時に勝負するためにも、また会ってもらわなきゃ困るぜ!」
「ピカー!」
「はは……そうこなくてはな」
サトシが寂しさを紛らわせるように声を張り上げると、デュフォーは傍らのピカチュウを優しく撫でながら確かに、はっきりと笑い返した。
「お前……本当に変わったな。だがオレ達はこの世界から異物として認識されていたはず。
「再会フラグはよくへし折られますからねー」
「お前ここまで空気読まないのすげーな」、とゼオン、
「デュフォーさん、
いつもご視聴ありがとうございます。
今回の話が長くなりすぎたので2話に分けて予定より1日早く投稿します。
次回こそ本当に6章終了です
後半は今週中にアップする予定です。