ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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70話(本編最終話):雷帝の帰還

「ッッ……エリシア!」

 

 デュフォーとサトシの背後で待ち構えるかつての仇敵。

 デュフォー陣営を最も苦しめ被害を出した女に対し、サトシとピカチュウが恐怖と緊張を隠すことなく睨みつける。

 

「そう構えないでくださいサトシ君。デュフォーさん達がいなくなったからといって、すぐにまた世界征服に乗り出すような真似はしませんよ。

 我々にも敗者としての仁義がありますし、取引のルールはちゃんと守りますから」

 

 内心を見透かすようなエリシアの飄々とした態度。

 彼女もサトシが先日の大会でベスト4まで登り詰めたことは知っているはず。

 だがデュフォーやタクトを相手にするような、本能的に警戒と畏怖を孕ませる仕草や振る舞いは無い。

 まだまだ()()()()では彼女から脅威として認識されていないことを察し、同時に先日の大会で得たマスターズエイトの地位は、脆い飴細工であったと痛感する。

 

「始めようか」

 

 頬を突き刺す冷風が吹雪くテンガン山。

 その頂きを守るかの様にディアルガとパルキア、二対の巨竜が神聖なオーラを纏いながら腰を下ろしデュフォー達の動向を静観している。

 そんな彼らの近くに歩み寄る3体の特別なポケモン、埒外個体(らちがいこたい)がいる。

 ヒトに造られたポケモンでありポケモンではない個体、ミュウツー。

 ヒトとポケモンとの間に生まれた禁忌の生命、エデン。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『わからねえもんだな。あのスリーパーが俺達のパーティで最重要な存在だったとは。

 まあニンゲンの文化に詳しすぎるとことか、ヒントはあったけどよぉ』

 

『デュフォーですらあいつの本当の力に気付いたの、結構最近だったらしいぞ。

 選抜大会の時、最後にデュフォーが集中砲火を受けていたら、あいつが特別製の完全催眠をフィールド全体に仕掛けて制圧するつもりだったようだ』

 

 ブースター(レンカ)だけが彼の過去を知っているとの噂らしいが、彼女は語らない。

 そんな空気を察していたからか、ゼオン達もイジられポジションのスリーパーといえど、プライバシーにだけは配慮し干渉せずにいた。

 

『ディアルガ、パルキア。この地に十分な自然エネルギーと瘴気が集まった。

 事前の取り決め通り、時空間制御を頼みたい』

 

『事象の仔細は把握している。そなたらが元来た場所,時へと"道"を繋げよう』

 

『そなたらも無理矢理この世界に引っ張られた被害者の様なもの。協力もやぶさかではない』

 

 デュフォーの声掛けに応じ、二頭が全身に生命エネルギーを充足させていく。

 ただそれだけで周囲にアンプで音を増幅させた様な衝撃と振動が放たれ、生物として次元が違う存在であることを知らしめる。

 

『感謝する。……それでは詳細な指定に入る。

 パルキア……X座標次元+20層。Y座標次元-11層。そしてZ座標次元+33層の地を。

 ディアルガ……865日前の16:00前後。そして更にその――日前を辿ってくれ』

 

『……掴んだ。この世界に良く似た惑星。魔物が住む次元……魔界と対を為す、魔物以外の生物が暮らす"地球"が見える』

 

『1つ目の時刻、その時刻にそなたらが転移してきた形跡があるな。質量の残滓的にも間違いない。少しの誤差は出るが、遡ることは可能だ。

 そして2つ目の時刻……こちらも更に誤差は出るが特定できた』

 

 ミュウツー、エデン、スリーパーが渾身の生命エネルギーを込め、力を送り込む。

 その間にも、彼らに囲まれている二頭の間の空間が歪曲し、薄暗い宇宙空間の様な渦が生成されようとしていた。

 

「あと数分で転移が始まる」

 

 残された最後の時間。各々が代わる代わる別れの挨拶をかけていく。

 

「ゼオン……あなたに会えて私はこの境地に辿り着けました。共に精進しましょう」

 

「ああ、最後の最後でサイトウにはしてやられた。次会ったら再戦だな」

 

 サイトウはそれ以上の言いたいことを飲み込み、笑顔のまま抱拳礼で返し引き下がる。

 彼女がこれほどの力、"人魔語らう世界"を取得した条件――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をこの場で暴露してもただ本人が辛いだけだ。

 ただでさえ異種族間の恋愛は茨の道だというのに、異世界の存在同士ともあれば、いかに幼いサイトウと言えどその行く先も知れている。

 だからせめてもの甘酸っぱい青春の思い出で留めよう、そう自分に言い聞かせた。

 

「私達の野望を砕いたんです。そちらの世界……魔界の脅威とやらくらい、難なく片付けて欲しいものですね」

 

「君達に伝えたそちらの世界での"警告"、ゆめゆめ忘れぬよう。

 他の敵に討たれてはこちらも面白くない」

 

 敵の立場でエリシア、エデンが激励を――

 

「同じ()()()()()()()として君達の存在は刺激になった」

 

「タクト、あんたには同類として色々と世話になったな」

 

 タクトとは意味深なやりとりを――

 

「デュフォー、お互い成人して独身のまま再会したら結婚しましょうか」

 

「考えておこう」

 

 ナツメとデュフォーが無表情で繰り広げる唐突なかけあいに、ゼオンが『ブーッ』と横で吹き出す。

 

『ゼオン……あいつらが付き合ってたの、知らなかったのか?』

 

『いや……知らなかった。いきなりで驚いたぞ』

 

『あいつらを見てりゃわかるだろ……やっぱお前は当分ゼオン(ガキ)でいいな』

 

 ドンカラス(オカシラ)に笑い飛ばされ顔を朱に染めるゼオン。

 その背後で、空間の歪みは膨張に膨張を続け、人間大のサイズまでに広がっていた。

 

『いよいよだ……ではこれより転移を開始する!

 最後にオレとゼオンにここまで着いてきてくれたポケモン達に改めて感謝を。

 皆、一度モンスターボールの中に戻れ。ここから他の者と相談をすることも禁ずる。

 この世界に残る者は、1分以内にボールの外へ出るんだ。

 一度外に出た者を同行することはできない。オレ達と共に別世界へと着いて来てくれるものは、ボールの中に留まり続けろ』

 

 ドンカラス(オカシラ)ブースター(レンカ)エルフーン(エルフ)フライゴン(フラーシア)ヘイラッシャ(ラッシャイ)ツボツボ(ゼシェル)ギルガルド(クラウ)、スリーパー

 全員が指示に従い、無言のままボールに戻る。

 わざわざこんな工程を踏ませる理由は、他の仲間の意見や判断に依存させず、己の意志で決めさせるためだろう。

 

「デュフォー……お前も中々重い択を迫るよな」

 

「行っておくがゼオン、お前にもこの後"選択"があるぞ」

 

 デュフォーの意味深な言葉に「?」を浮かべながらも、ゼオンはマントを翻すと空間の歪みへと躊躇なく一歩を踏み入れる。

 

「デュフォー、ゼオン、必ず無事に元の世界に帰るんだよ! 俺達ずっと友達だからね!」

 

『ゼオン。弟とまた会えるといいね!』

 

 最後に背後から飛んできた親友達の声に、ゼオンは振り返ることなく拳を突き上げ「さらば、我が友よ」とだけ呟き、次元の歪みへと完全に身を投じた。

 しばらくして、この世界に残るであろうポケモン達を見届けたデュフォーが、同行を決意した仲間達のボールを脇に抱え、後に続いた。

 

「ゼオンにとってはガッシュ達と離別することになってさぞ難儀だったかもしれないが、オレはこちらの世界に来て良かった。

 幸せな経験が出来たと思う。……さあ還ろう。オレ達の星の大地へ」

 

「ああ――あのまま魔界に還ったところでガッシュ達が"もう一つの地獄"に立ち向かうのを、指を咥えて見ているだけだっただろうからな。

 サトシ達と……ポケモンという存在と出会えたことを、今は素直に感謝しよう」

 

 歪みの入口はいつのまにか閉じていた。

 1人と1体は薄暗い闇に包まれながら徐々に意識を遠のかせていく。

 痛みや不快感は無く、ただふわふわとボヤけていく思考の中で彼らはふと願った。

 

 もしもこの長旅が自分達の償い、生まれ変わるため与えられた機会だったとするのなら。

 無事に帰還し、再び王を決める戦いへの参戦が許されるなら。

 

 ゼオン(オレ)達は――

 

 デュフォー(オレ)達は――

 

『王になる』

 

 ポケモンが生きる不思議な星。

 そこから遠く離れた次元、魔界の王を決める戦いの地へと選ばれた地球に、かつて消滅したはずの生命体が帰還した。

 





 ゼオン、デュフォー組がポケモンの世界を旅する話は終わり、当作品は一旦完結となります。
 デュフォーのパーティでスリーパーだけ特殊個体でなくニックネームも与えられなかった理由、埒外個体だったという設定でした。
 ガッシュの世界に戻った後の話も外伝として続けます。
 気になる方はもう少しだけお付き合いください。
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