ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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いつもご視聴ありがとうございます。
今話より外伝となります。
ポケットモンスターの世界は終了し、金色のガッシュの世界でのお話となります


EX章:エピソードG(ガッシュ)
71話:ルートZ-① 光射す過去へ


 

 少年の生きる望みは完全に絶たれた。

 

『君のお母さんだがね、彼女はお金欲しさに君を我々に売ったんだよ。

 たった1万$というはした金でね……。

 死ぬ前に君の最大の謎が解けたね』

 

 科学者の男の餞別と共に、少年を拘束していた研究所は爆破される。

 これまでずっと渇望していた自由を手にすると同時、極寒の雪山に放り出され、"死"を突きつけられる。

 地上最強の頭脳と知力があれど、生身の人間が生還できる"解"を出すことは不可能。

 急速に奪われる体温と力。雪原に膝を付いたその時――

 

「まったく……()()()間一髪だったな"デュフォー"」

 

 "施設"の人間達のほとんどが興味を持たず忘れていただろう、今や誰も知らぬはずの少年の名。

 音もなく目鼻先に現れた白銀の子供が、年齢に合わぬ母性を孕んだ優しい表情で呟いた。

 

「お前は……?」

 

 敵意は向けられていない。むしろどこか親しみさえ感じる子供。

 矢継ぎ早に想定外、理外の出来事が立て続けに起きたことで、完全に思考を放棄しパニックに近い状態のデュフォー。

 その様子を察知し、子供は相棒を純白のマントでくるみ魔力を練り上げる。

 

「全身から魔力が迸る……久々の感覚だな。

 ひとまず話は後だ、まずはここを離脱するぞ」

 

 復活した瞬間移動で、呆然としているデュフォーを冷気が蝕む前にワープさせる。

 ここに来る前、街中で犯罪者集団のアジトを襲撃,強奪し、あらかじめ確保していた活動拠点へと舞い戻った。

 少し汚れた借宿に近い拠点だが、しばらく寝食するだけなら十分な場所だ。

 薄暗い簡素な居間で互いにホットティーをすする内に、昂っていたデュフォーの心、冷えた肉体が少しだけ落ち着いて来たことを察し、子供は静寂の中語り始める。

 

「オレはゼオン。ゼオン・ベル。

 人の理を超えた超常の力を持つ、こことは違う世界から来た"魔物"の子だ」

 

 デュフォーが受けた仕打ち、現在の心身状態は知り尽くしている。

 いっぺんにあれこれ言わぬよう、噛み砕くように、少しずつ情報を開示していく。

 

「……つまり、オレは未来の世界からやってきた。

 既にこの日、お前とは一度会っている。それから3年以上、ほんの数時間前までオレ達はずっと一緒だった」

 

「ゼオン、お前の話は大体理解した。だが現時点で全てを信じるわけにはいかない。

 オレを納得させるだけの()()()はあるのか?」

 

 想定していたデュフォーの反論へ、「そうこなくては」と頭を振りゼオンは右手に魔力を込める。

 

「オレは自身の記憶を他者に共有することができる。3年以上の記憶を一度に見せると、お前の脳に負担がかかるから小分けにしていくぞ」

 

 言動で抵抗しないことをデュフォーによる無言の同意とみなし、彼の頭に手を当てデュフォーへとこれまでのアーカイブを明け渡していく。

 

 魔界時代の記憶――

 王を決める戦い――

 魔導巨兵ファウード内での最終決戦――

 突如転移したポケモンの世界での旅路――

 

 ゼオンは3年以上に渡る記憶を数日に小分けし、長編シリーズの映画をロードショーで連続上映するかのように、少しずつデュフォーの頭へと刻んでいく。

 今日も好物のホットドッグとサイダーを両手に、ソファーの上でデュフォーは記憶の旅の終章を閲覧する。

 

「そしてお前はサトシという少年達、そして未来のオレと別れ、この世界へと無事に戻ってきたというわけか。最後に迫られた()()()()()を選んだ上で……」

 

 この世界へと戻る直前、デュフォーと時を遡っていた時の最後のやりとりがゼオンの脳裏に浮かぶ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「デュフォー……今なんと言った?」

 

 時空の波をさまよう旅路の終着。朧げだった意識も覚醒し、あと少しで元の地へと戻れるところまで来て、ゼオンの表情は険しさを増していた。

 

「ディアルガには2つの時間をマーキングさせた。

 1つ目のマーキングAはファウードでのガッシュとの最終決戦時。

 そしてもう1つマーキングBは、オレ達が最初に会った日。

 今ならオレ達はそのどちらか、任意の時間を選択して遡れる」

 

 デュフォーがあえて選択を提示したのは、完全にゼオンのためだろう。

 この人間界でガッシュ、そしてその関係者達に数々の酷い仕打ちをする前まで時を遡れたのなら、それら全てを無かったことにできる。

 叶うとしたら僥倖にも程があるが、ゼオンはふと時を遡る際のリスクを頭に浮かべる。

 

「過去の世界に戻るとして、()()()()()()はどうなるんだ?

 それに実質オレ達は周囲と寿命のズレが出るはずだ。

 マーキングAなら2年、マーキングBなら3年以上。ニンゲンより寿命が長いオレとガッシュにとっては誤差だが、デュフォーはいいのか?」

 

「オレの寿命は気にするな。ディアルガが言うには、時空の歪みを修正した上で遡ることになるので、過去のオレ達がそのまま今のオレ達に置き換わることになるはずだ」

 

 デュフォーの言うことを正とするならば歴史の不整合、いわゆる"タイムパラドックス"などの心配はいらない。

 だからこそゼオンは違和感を抱く。直前に"重い選択"があると言われていた。

 だがデュフォーの事情を考慮しないのならば、生まれた星を捨て新天地へ行くデュフォーのポケモン達に比べれば、大して悩む選択には思えない。

 そんなゼオンの疑問は、直後全て吹き飛ぶことになる。

 

「マーキングAとBは一直線につながってはいない。

 正確に表現するなら、Bからあらゆる行動と選択により運命が無限に分岐し、その枝分かれした道の一つがAとなる。

 ゼオンがBに戻ってやりたいことは想像が付く。その場合はAに到達する確証は無い。

 一方でオレは2年前のAに戻ると決意している。つまりお前がBの時空に戻るなら――」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「未来のオレとは永久に別れることになるかもしれない。

 その上でお前は別行動を取り、マーキングB……つまり3年前のこの時まで遡ったというわけか」

 

 ゼオンの記憶を巡る長旅を終えたデュフォーが際の結末に対し、僅かに眉をひそめ訝しむ。

 

「どうやらお前にとって未来のオレは大事な存在だったようだ。

 それは今のオレにもわかるが、だからこそわからない部分もある。

 何故未来のオレと共にマーキングAへ戻らなかった?」

 

 ゼオンにとってデュフォーは家族にも等しい存在に成り上がった。

 だがそれは、3年間も苦楽を共に過ごした彼だからであって、今目の前にいるデュフォーは正確には違う。

 その上で何故別行動を取ったのか、その思考が理解できずにいる相棒へ、ゼオンは簡潔にして素直な"答え"を提示する。

 

「オレはお前ほど割り切れなかった、というだけだ」

 

 かつて自分達が人間界で行った罪。

 デュフォーはその業を背負った上で未来へと進むつもりだが、ゼオンは違う。

 これまでの行動が起点となりガッシュが王になる機会を失ったとしたら。

 成り代わった別の王が魔界を破壊したとしたら、ゼオンは永劫自分が許せなくなる。

 そして、今のデュフォーもゼオンからすれば大事な存在には変わりない。

 

「それにオレの記憶を見たならわかるはずだ。今から2ヶ月後、お前を利用していた組織が作り上げた殺戮兵器で、無関係の人々が多く死ぬことになる。

 かつてのオレ達は事後になって一部の連中を倒しただけで、大本の被害を止めることができなかったんだ」

 

 無論、この悲劇の責はデュフォーにはない。

 しかし自分の力がきっかけで、多くの死傷者が出たことはデュフォーの心へ大きな闇を植え付けることになる。

 かつてアポロに指摘され激昂したのも、そのトラウマを踏まれたことに起因している。

 

 そして、先程のゼオンの言葉を言い換えるなら、未来(ゼオン視点で過去)の情報を所持、戦闘以外の能力を鍛え上げた今のゼオンなら、それを防ぐことが十分に可能だということ。

 先日まで生きる意味を失っていた少年の青い瞳に、僅かに焔が宿った気がした。

 

「その件は今のオレの力でどうとでもなるが……その前にやっておくべきことがある」

 

 ゼオンの視線は自身を捉えているようで、見据えているのはその先――彼にとっての最愛の弟(ガッシュ)だとデュフォーは悟る。その答えを出すのに能力は要らなかった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 このうっそうと茂る森は双面を持つ。

 昼は陽の光の下、心優しき野生動物達と戯れる憩いの空間。

 そして夜は静寂と暗闇、そして瘴気と錯覚する気配が漂う恐怖の領域。

 

「うう……」

 

 一寸先は闇を体現する暗き森の中、魔物の子は無力に震える。

 己の意志など無関係とばかりに無理矢理エントリーされた、魔界の王を決める戦い。

 異世界へと放り出され、その参画に必須条件であるニンゲンのパートナーが見つからぬまま、一人孤独に時間を浪費していた。

 ジリジリとメンタルが削られていく日々の中、その時がやってきた。

 

「ガッシュ……見つけたぞ」

 

 名を呼ばれた子供は、弾かれるように抱えていた顔を上げ、声のする方へと振り返る。

 何故自分の名を知っているのか、どうして自分の場所がわかったのか、何のために自分に会いきたのか、あらゆる疑問を全て吹き飛ばす光景がそこにあった。

 

「わ、私と同じ顔……!?」

 

 自身を見下ろす魔物の子と、ニンゲンの少年のペア。

 少年の手にあった懐中電灯により互いの姿は視認できる。

 背丈が僅かに高いこと以外は自分と酷似した容姿、雰囲気の魔物の子は、紫電の瞳を僅かにうるませているように見えた。

 

「オレはゼオン。お前の双子の兄弟であるゼオン・ベル。

 こいつはオレのパートナーのデュフォーだ」

 

「お、お主が……私のお兄ちゃん! うう……」

 

 人間界に来てから初めて出会った魔物の子、それが魔界にいた頃、噂だけでしか聞かされていなかった実兄だった。

 衝撃と歓喜、緊張と恐怖の緩和が同時に押し寄せ、大粒の涙となって具現化する。

 しばらくさめざめとその場で泣き崩れていたが、落ち着きを取り戻したところでガッシュにある疑問が浮かぶ。

 此度自分が参加しているのは、100体の魔物の子によるサバイバルレース。

 最後の1体になるまで戦い、相手を魔界へと送還し続けなければいけない以上、この世界で出会う全ての魔物の子はライバルであり、敵である。それは兄であるゼオンとて例外ではない。

 それくらいは、まだ発展途上といえるガッシュの知能でも判る。

 だからこそ、ゼオンが自身を探し出し会いに来た目的は――

 

「オレはお前をずっと恨んでいたが、それは誤りだった。

 そしてガッシュ、お前は親に煙たがられ捨てられたのではない。親心からお前を守るためのものだったんだ。

 ガッシュよ、兄弟で共に魔界の王を目指そう。その後は家族皆で一緒に暮らすんだ」

 

 差し伸ばされた小さな手は、一度収まったガッシュの涙腺を容易に再び崩壊させる。

 

「ウ、ウヌウ……。周りは敵ばかりの戦いに放り出され、ずっと一人で寂しかったのだ。

 そんな中にお兄ちゃんと会えて、しかも私の味方でいてくれる。そしてこの後は家族一緒に暮らせるなんて……こんなにうれしいことが一度にあって良いのか……!」

 

 返答の代わりにゼオンの手が優しく、震える肩へと添えられる。

 

「魔界では一度も顔を合わせられなかった分、これからはお前の傍にずっといてやる……と言いたいところだが、オレとデュフォーはやるべきことがある。

 それにガッシュはガッシュで、パートナーと共にもっと強くならねばならん。

 オレはお前のパートナーを知っているから、後で居場所を教えてやろう」

 

 最愛の弟を見下ろすはずのゼオンの瞳に、僅かに鋭い影の様なものが宿る。

 この世界に帰還する前、エデンより受けた"忠告"が脳裏にこびり着いていた。

 

『君たちの世界に、"滅ぼし"の力を持った個体が存在している。

 ボクと同じく世界から爪弾にされた"イレギュラー"な存在ゆえ、波長が合ったのだろうね。遥か遠い次元越しでありながら、お互いその存在を感知できた。

 君たちがこちらの世界に転移したアクシデントにより、時空の因果律は歪まされた。

 結果、その力の個体も影響を受けただろう。元の強さよりも強化された可能性は十二分にある。……ゆめゆめ気をつけると良い』

 

 

 

 

 

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