ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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72話:ルートZ-② 三転する未来

「何だお前達は……」

 

 長きに渡り裏社会の頂に君臨。

 数刻前まで欠けること亡き望月の如く、我が世を謳歌していた男の顔は、別人の様に青ざめていた。

 

「被検体"D"。この名に憶えはないか?」

 

 幾重にも厳重なセキュリティが施された男の本邸、その中心部の私室に我が家の如く押し入った少年と子供。

 少年の方が放った言葉に、男はソファの上で胡座をかいたまま、忘却していた記憶を呼び覚ます。

 アメリカ軍部の軍事力をも凌駕する、次世代の戦争兵器。

 それを生み出すためにだけ造りあげた、人越の頭脳を持つ少年、"D"。

 兵器が完成し、用済みになった時点で確かに廃棄したはずだ。

 

「バカな……生きていたのか!? それよりも……」

 

 自身の正体を知るものなどこの世に五人もいない。

 デュフォーを調教していた博士。あの機関の最高責任者であった彼ですら、ここにたどり着くのは不可能だ。

 それを何故、被検体風情がここを突き止められたのか。

 そしてどうやってセキュリティを破ったのか。

 次々と浮かぶ疑問が全て顔に出る男を見下ろす少年の態度は、どこまでも無機質だった。

 

「お前、頭が悪いな。

 "お前達が隠れている場所はどこか"

 "どうすれば各々が用意した防衛ラインを突破できるか"

 そういう疑問に『答え』が出せるよう、お前達がオレを育てたんだろう?」

 

 デュフォーはあえて一部の情報を伏せたまま挑発する。

 男が所有していた研究施設により開花させられた、《アンサー・トーカー》はあらゆる疑問に対して瞬時に解を出せる。

 しかし、この能力はあくまで思考の延長であり、考える材料が全くない問いに答えを出すことはできない。

 そうでなければ、デュフォーが施設に軟禁されていた時に、"母が何故自分を捨てたのか"、"自分は何故ここに捕らえられているのか"という疑問に答えが出せなかったことに説明がつかない。

 

(本来なら、こいつの居場所をオレは導き出せなかった。

 こいつはこいつで、徹底的に情報封鎖を敷いていたからな。

 既に未来を経験し、先回りの知識を得たゼオンがいることで、ようやくこの状況が成立できたわけだが、こいつの視点からすればオレが全知にも似た力を得たと誤解するだろう。

 

 混乱,恐怖の渦中にある男へとゼオンが無遠慮に歩み寄る。

 懐に忍ばせてあった護身用の拳銃を奪い取りながら、そのまま腹へと《バルギルド・ザケルガ》の力が秘められた雷結晶を容赦なく叩き込む。

 本来人間相手に打ち込む場合には相手の許諾が必要だが、自分達へ先に攻撃を仕掛けてきたなど、ゼオンが明確に敵と認識した相手には、無条件で設置できる。

 

「ゼオン、もう十分だ。ここからは下がっていろ。お前が手を汚す必要は無い」

 

 この先に起きることを察したゼオンは、その提案に対し小さく首を横に振る。

 

「いや……オレもこうなるとわかっていて、お前をここまで送り届けた。

 少なくとも責任が発生している以上、目を背けずに見届けるさ」

 

 主語のはっきりとしない二人の会話ではあったが、男は直感的に更なる恐怖と悪寒を抱く。

 その正体は、懐から小瓶を取り出しながらデュフォーが次に放った言葉で明らかとなる。

 

「誘拐、人体実験、殺戮兵器による大量殺人……本当ならお前の邪悪な遺伝子を残さぬよう、一族郎党皆殺しにするところだが、家族に恨みはない。

 お前の知っている情報と所持している資産全てを吐き、終わり次第この毒を煽れ。

 そうすれば無関係の者だけは見逃してやる」

 

「ま、待て……その前にまず話し合おうじゃないか、お前たちは勘違いを……ギャアアッ!」

 

 嫌だ――。

 金も、権力も、力も全て手にし、あと一歩で表世界の覇権にも手が届くかというところで、たかだが実験台の子供一人に邪魔されるだなんて。

 時間稼ぎを試みた男の身体に、今まで犯した罪の報いを刻むかのように激痛が走る。

 質問に答えろ、というデュフォーの指示を無視したことで、雷の苦痛を与える雷結晶の発動条件を満たしたのだ。

 それは数秒程度の衝撃であったが、どうにかこの場を切り抜けようと悪足掻く男の心をほぼほぼ圧し折るには十分であった。

 

「別館に控えているお前の私兵、その増援がたどり着くまで約5分。

 それまでそうやってダラダラと会話を引き伸ばす非協力的な態度をとるのなら、不本意だがローマに匿っているお前の家族にも、オレの怒りを受け止めてもらおう」

 

 それがただの脅しか、はたまた最後通告かは、デュフォー本人にしかわからない。

 それでも確かにその言葉は決定打となり、男を完全な絶望に叩き落とし、足掻きを諦めさせるのだった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「何者です……あなたは」

 

 人里離れた山奥に建てられた、巨大な古城。

 その頂上に構えた自室にて、独り思案していた魔物の子は、突如室内に現れた気配に最大級の動揺と警戒を示しながらも、低く冷静な声で問いかける。

 気配の質から、侵入者の正体はおそらく自分と同じ魔物の子。

 十中八九、自身を王を決める戦いの競争相手である魔物と知っての襲来になる。

 問題は、どうやってこの場所まで容易く侵入できたのか。

 索敵と隠密、高速移動を兼ね備えている魔物の単独行動なのか、それとも役割分担して徒党を組んでいるのか。

 必死に思考を巡らせる魔物の子を嘲るような、笑い声が侵入者から漏れる。

 

「クク……3ヶ月前にオレ達が始末したニンゲンの男といい、小悪党は似たような反応をするんだな。だが、怯えを表情に出さぬよう努めているところは褒めてやる」

 

 消灯している薄暗い室内を、高みから見下ろすような言葉を吐きつつ歩み寄る侵入者。

 眼前まで立ちはだかったところでその姿が明らかになると、魔物の子は今度こそ動揺を隠すことなく、その名を口にする。

 

「雷帝ゼオン……!」

 

 王を決める戦いにおける最大の障壁の一つ、現王の嫡男ゼオン・ベル。

 かつて魔界にいた頃、親に連れられ政府の式典へ出席した時に、来賓席に座る姿を見たことがある。

 

「自己紹介は要らぬようだな。"ロード"・ゾフィス」

 

 これまで徹底的に秘匿していた正体をあっさりと言い当てられた、爆発の術を操る子。

 ゾフィスは反射的に思い浮かんだ対応案から、真っ先に"攻撃"の選択肢を削除する。

 

(まさか……これほどの資質とは!)

 

 ゾフィスの正体と居場所を容易に突き止め、あまつさえ自身も身分を隠すことなく真正面から単身、容易く押し入る。その時点で己とは次元の違う存在であることは明らか。

 加えて魔力量。おそらく相手は何もしていない平常状態であるにも関わらず、自分が全力で開放した時の出力量を確実に上回っている。

 ブラゴよりやや強い程度だと思っていたが、実物は想像の二周りも三周りも上だった。

 奥の部屋で"待機"状態となっているココを呼び出し戦闘態勢を整えるまで数秒。

 下の部屋で休んでいる千年前の魔物達が駆けつけるまで数十秒。

 その間にこの雷帝は容易く制圧してくるだろう。

 戦闘を仕掛けるのは愚の骨頂だ。

 

 ゼオンも表情や魔力の質に圧力を込め、雷帝の名に恥じぬ威厳を保ち格の違いがはっきりとわかるよう振る舞っている。

 では得意の口八丁で手練手管、小細工を弄して駆け引きを仕掛けるよりも、極力相手の機嫌を損ねず会話を引き出すべきだろう。

 

「これはこれは、優勝候補の王族様がどういったご用件で?」

 

 接客用の茶は要らぬぞ、と壁を作るようにゼオンは吐き捨て、すぐさま用件を口にする。

 

「前回の魔界の王を決める千年前の戦いで優勝候補だった"石のゴーレン"。

 そいつの力により石化され、人間界に取り残された千年前の魔物達……お前が復活させたのだろう?」

 

 ゾフィスが想定していた通りの質問が飛んでくる。

 ここにたどり着ける者なら、当然掴んでいてしかるべき情報だ。

 偽る意味も隠すメリットも無い。

 

「おっしゃる通り、よくご存知ですね」

 

「そして復活させた魔物に、かつてのパートナーの子孫達を新たな魔本の契約主として組ませ、己の私兵としている。これも相違ないな?

 お前に従わぬ者は、洗脳して物言わぬ兵に作り変えてでも……」

 

 わずかに、雷帝の魔力から不愉快さと威圧感が増した、そんな気がした。

 だがこれも少し丁寧に調べればわかること。

 

「否定はしません。ルールに逸脱しない戦術として運用しております」

 

 変にとぼけるのは逆効果。だからといってバツが悪そうに振る舞うこともしない。

 やましいところは何も無い、と毅然と応えるゾフィスに、ゼオンも同じく王を目指す者として最低限の誇りを垣間見る。

 

「戦う気の無い人間の意識を操り支配する……まさにゲスの所業だ。

 だが、かつてのオレも少し似た愚行を犯した手前、批難だけをするわけにはいかん」

 

 腕を組みつつも、少しだけゾフィスに向けた"圧"を和らげる。

 

「感情を抜きにしてお前を評価した場合、すこぶる優秀という結果に落ち着くな。

 能力の希少性と有用性もさることながら、前王ダウワン・ベルとオレですら成し遂げられなかった、千年前の残留孤児達を救出した功績には敬意を評する。

 オレ個人は貴様のやり口を嫌悪するが……それを補って余りある功績を与えるべきだろう」

 

 どうやら話が変わってきた、とゾフィスは称賛を受けながらも逆に身構える。

 話をまとめると、ゼオン個人はゾフィスのことが気に入らないが、それは捨て置き王族の立場としては惜しみない恩賞を授けたい、という趣旨のようだ。

 上に立つものの器量を十二分に出しながらも、個人の意志も曲げない。

 王の風格を纏わせつつも、ゼオンは魔力を練り上げ掌に雷結晶を生成する。

 

「この雷結晶を身体へ埋め込み、オレへの服従を誓え。オレの側近として仕える栄光を貴様にくれてやろう。

 オレが王になった暁には、お前に国務長官ないし、財務長官の地位を約束する。

 此度の戦いでオレが期待する働きをすれば、更にインセンティブをつけてもいい」

 

「その結晶の効能とやらを伺っても……?」

 

 得体の知れない装置に対し、さすがに眉をひそめ戸惑うゾフィスへゼオンは愉快とばかりに笑みをこぼす。

 

「クク……この結晶は何もしやしない。お前がオレに対して謀反でも起こさぬ限りな」

 

 やはりロクなものではなかった、とゾフィスは内心で舌打ちする。

 これを埋め込むことはゼオンに以降逆らうことができないのと同義、実質的に王になることを放棄しろと言っているようなものだった。

 だがゾフィスはそこで思考放棄せず、王を決める戦いの参加者でも屈指を誇る高い知力を駆使し、策を巡らせる。

 ここで拒否をした場合の最悪のケースは、ゼオンの怒りを買いそのまま撃破され、魔界へと送還されること。1対1の直接戦闘の勝率は絶望的、それはゾフィスにもわかる。

 

(クソッ……今この場を生きながらえるには、要求を受け入れるしか無い。

 ここまで入念に準備し立ち回ったのに、才能と生まれに恵まれたガキの気まぐれ一つで王への夢が絶たれるのか!

 いや待て、私が王になる可能性はまだゼロじゃない……。

 この戦いの優勝候補はこいつの他に竜族の2体、一枚落ちるがあのブラゴもいる!)

 

 竜族の神童、エルザドルとアシュロンが恵まれた生来のスペックにかまけず死ぬ気で修行し鍛え上げたのなら、いかにゼオンといえど脅威の存在となる。

 ゼオンと相打ちにでもなってくれれば、優勝候補が2体消えるだけでなく再び自由を手にし、王になる機会が手元に舞い戻る。

 それどころかゼオンの庇護を受けることで、今自分をしつこく付け狙っているブラゴを代わりに潰してもらうことも可能だ。

 

(服従を強いられるという屈辱を度外視すれば……決して悪い取引ではない。

 それに次善の道としてこいつが王となった場合、魔界の実質No4、国務長官の地位が約束されているのも大きい。

 いかに口約束とはいえ、プライドの塊の王族が取引を反故にする可能性は薄い)

 

 あらゆる選択を天秤にかけ、しばし必死に皮算用を脳内で繰り広げた末、ゾフィスは笑顔を引きつらせつつも、わざとらしく恭しい態度で膝を付いた。

 

「……臣下に加えていただけるとは、ありがたき幸せ。

 雷帝のご厚意と恩賞、頂戴いたします」

 

 ゾフィスが面従腹背で、虎視眈々と逆転の機を伺っていることはゼオンも百も承知。

 しかし雷結晶を打ち込んだことで、直接的な反逆は不可能となった今、ひとまずは支配下に置くことに成功したことで本来の目的へとフェーズを移せるのだった。

 

「これでようやく次の段階の話ができる。心して聞くことだ」

 

「と、言いますと?」

 

 生存している魔物の数が残り10体になった時点で、魔本からある情報が告知がされる手筈となっていること。

 王の特権――魔界に現存する全ての生命を自由に抹消できる権利が手に入ること。

 加えてまだ予備調査の段階ではあるが、特権を手にしたのなら、魔界を滅ぼすであろう思想をもった魔物がこの戦いに参加していること。

 

 訝しむゾフィスに対し、ゼオンは急遽用意された来客用の椅子へと腰掛けながら、惜しむことなく自身の機密を開示する。

 無闇に情報を漏らす愚を犯さぬだろうという程にはゾフィスの賢さを買っていたからだ。

 

「なっ……」

 

 平静を装い心を閉ざす能力には自信があったゾフィスも、これだけの事実を矢継ぎ早に知らされ、あからさまに愕然とし言葉を失っていた。

 数分ほどの沈黙を経て、コップに入った水をあおり一息着いたゾフィスは、腕を顔の前で組みながら、初めて神妙な表情で真剣にゼオンへと向き直る。

 

「魔界を滅ぼす可能性のある魔物……仮に"X"としましょう。

 あなたが……ゼオン殿がわざわざ私を従えようとしたのは……千年前の魔物の軍団を、Xへの対抗勢力とするためですね?」

 

 王を決める戦いにおいて、数は絶大な力を発揮する。

 その理由は、脱落条件である魔本の焼却にある。

 どれだけ魔物が強かろうと、パートナーが優秀だろうと、不慮の事故が起きれば本はあっさりと燃えてしまう。

 逆に言えば弱い魔物でも徹底的に相手の対策を練り、本を燃やすという一点に目的を絞り、万全の準備を整えれば強敵に勝てる可能性を秘めているといえる。

 それはゼオンや竜族の様に、魔物が強ければ強いほど潜在リスクとしてつきまとう。

 だからこそ、この戦いにおいてあらゆる戦闘方法で試行回数を稼ぐという意味では、千年前の軍勢はうまく運用することで圧倒的なアドバンテージを誇るのだ。

 

「やはりお前……ゾフィスは我が幕僚として優秀だな。

 お前がまだ王を諦めていないことはわかる。それを踏まえた上で、オレの目の届かない範囲で謀略、小細工、絡め手を弄することくらいは大目に見てやる。

 その代わりに、Xの存在がはっきりするまでは大人しくしていることだな。最重要の機密を知った今、相応の責任を負ってもらうぞ」

 

 発破をかけられ、ゾフィスも自然と身体を武者震いさせる。

 いかに彼が狡猾、卑劣な性格の持ち主とはいえ、自身が王になることと魔界の未来を守ること、どちらを優先すべきかの分別は弁えている。

 今だけは野心を捨て置き、純粋に己がすべきことを振り返った時、自然とその名を眼前の上司へと伝えていた。

 

「そ、それならば……あいつを……ブラゴをなんとかしなくては!」




いつもご視聴ありがとうございます。
当初の構想と違ってかなり行き当たりばったりな展開となっております。
着地点は構想通りに持っていきたいです。
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