ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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74話:ルートZ-④ シェリーとココ

 

 

 幼馴染にして、魔界の王を決める戦いにおける第一目標である少女との再会を喜びかけ、シェリーは直前で違和感を抱く。

 彼女には似つかぬ派手なドレスを着込んだココ、

 そして横で構える白い衣装を纏い、ヘビの様な狡猾な雰囲気を漂わせる魔物――

 

「来ましたね……ミスシェリー、そしてブラゴ」

 

「ゾフィス……この時をどれ程待ちわびたか……!」

 

 ココを変えてしまった張本人を前に、敵意を剥き出しにするシェリー。

 それを予期していたゼオンが腕組みしながら、静かに立ちはだかる。

 

「ゾフィスはオレの臣下だ。手出しはやめてもらおう」

 

 シェリーの顔が一瞬で青ざめる。

 この場において絶対者であるゼオンの宣告は、実質ゾフィスへの干渉が不可能であると物語っているようなものだ。

 

「そんな……この魔物がやってきたことをわかった上で従えてるというの!?」

 

「同盟を忘れるな。"脅威"を排除するまではお互い不可侵だ。

 既にココの精神はゾフィスに命じて解放している」

 

 ゼオンの言葉に落ち着きを少し取り戻したシェリーがはっ、と意識を向ける。

 確かによくよく見れば今のココからは、豹変していた時の無邪気,純粋悪と言える表情が消え去っているようだ。

 

「ずっと私のことを助けようとしてくれてたんだよね? 心配かけてごめん。

 ゼオン君がゾフィスにかけあって、私を元に戻してくれたの」

 

 シェリーがずっと焦がれていた最初の目的、ココの解放をあっさりと他者であるゼオンの手により成し遂げられた。

 僅かの喪失感と虚しさ、安堵を抱きながらも、別の懸念を思い浮かべる。

 

「でも……ゾフィスがココを操っていた時の記憶は……」

 

「全部憶えてるよ。街を、私の家を破壊したことも。

 あの街の人々に……そしてシェリーにゾフィスの術を撃ったことも。

 ゾフィスの力でその記憶は消せるらしいけど、私の意志でそのままにしているの」

 

「どうして!?」

 

 少し悲しそうに、複雑な笑みを浮かべる今のココはまさしく本来の人格だ。

 だからこそ、その辛い選択を選んだ心境がわからない。

 シェリーの様子を察したゼオンが合図を送ると、ゾフィスが咳払いと共に口を開く。

 

「ココの名誉のため私から説明しよう。ミスシェリーに"ラドム"を放った時は、私が完全な支配下に置いた状態で命じさせた。

 そこにココの意志は完全に無かったが、その前の行動はそうではない」

 

「な、一体なにを……」

 

「私の力は洗脳というよりは夢を見ている催眠術に近い。

 "完全催眠状態"と"半催眠状態"に使い分け、心を操作し、破壊衝動を強めた。

 だが……"半催眠状態"においては破壊衝動を1から10に増やせても、0から1にすることはできないのだよ」

 

 ゾフィスから伝えられた2つの情報を照らし合わせれば、自ずと答えは見えてくる。

 だが、そんな都合の悪い事実などすぐには受け入れられない。

 そんなシェリーの背中を押すように、ココがそれに続く。

 

「シェリーには心配をかけまいと黙ってたけど、母は嫌がらせを受けてあの街では仕事につけず、隣町まで仕事を探しにいったせいでかなり苦労したわ。

 妹もあの街の若者達からイジメで足に石をぶつけられた時の後遺症が残ったまま……。

 大学へ行っていい仕事を見つけたところで、私達が受けた仕打ちが消えることはないし、嫌がらせが止まる保証も無い。

 深層心理のどこかで、あの人達を壊したいと思っていたのかもね。

 もちろん、ゾフィスと私がしたことを正当化するつもりはない。

 それでも、復讐する機会を与えてくれたゾフィスに、ほんの少しだけ感謝してしまったの」

 

 ココの告白を受け、シェリーは憤りを抱いたのは他でも無い自分自身であった。

 彼女にとって、生命の恩人であるココは女神にも等しい。

 ココの本心と正面から向き合って知ろうとせず、自身の中で勝手に神格化していたのではないか。

 愕然とするニンゲンの少女に反し、魔物の子達はいたってドライな反応を返す。

 

「別にその女(ココ)も連中も悪く無いだろ」

 

「ブラゴの言う通りだな」

 

「おや、まさかブラゴ(あなた)と気が合うとはね」

 

「あ、あなた達……ゾフィスはまだしもブラゴとゼオンまで! 本気で言ってるの!?」

 

 3体のリアクションから、シェリーは魔物達への道徳心の欠如を疑う。

 だが彼らの見解はそういう意味ではなかった。

 

「街の奴らがやってる弱者差別など、古今東西を紐解けばどこでもやっている、経験と統計に裏打ちされた防犯行為の延長だ。

 夜中に独りで外を歩ける平和な環境も、そうした汚れ仕事を過去世代が請け負い、不審者や別国の犯罪者を駆逐して初めて生まれるというもの。

 ココのケースは過剰防衛と言えるだろうが、小規模集団の治安維持としては間違っていない。

 だがオレの考えは王の――管理側の視点がつきまとう話だ。

 ココの友、という立場でモノを見ているシェリーの考えを否定するわけではない」

 

その女(ココ)は不当にやられた分だけ力でやり返す正当な権利がある。

 力と力がぶつかって強い方が勝った……それだけだろ」

 

「私は単に力を手にしたのに、やられっぱなしでいる思考回路が理解できません。

 きっちりと上下関係を叩き込むのが力を持つ者の務め、ひいては弱者が勘違いして反逆を起こさないためでしょうに」

 

 価値観の違いを示すような三者三様の見解。

 それに何も言い返せず黙りこくるしか無いシェリーの傍らで、ココがゾフィスの肩に手を添える。

 

「それにね、私ちょっと反省してるの。

 ゾフィスに魔界の王を決める戦いを持ちかけられた時、すぐに断って降りようとした。

 争うことも苦手だし、力に興味もなかったから。

 でも、私にとってはどうでもよくても、ゾフィスにとって王を目指すことは生涯を賭けた悲願だった。

 私もシェリーもお互い助け合って今があるのに、ゾフィスを助けるという発想が当時の私には無かった。

 きちんと向き合っていれば、こうならなかったかもしれないよね」

 

 だからココは、ゼオンにより人格を解放してもらった後に、本を燃やし自由になるという選択肢を一旦塩漬けとした。

 自分への戒めとして、破壊行為の記憶を残しておくこと。

 ゼオンの監視下の元、ゾフィスと互いを知るためにしばらく共に過ごすこと。

 この選択は後に、魔界の王を決める戦いに影響を及ぼすのだが、それはまだ少し先の話となる。

 

 シェリーはしばしの逡巡の末、不安を抱えながらもココの選択を受け入れる。

 今はゼオンという規格外のストッパーがいるが、不慮の事故でゼオンが本を燃やされ送還される可能性、またゼオン自身が気まぐれを起こす懸念もある。

 二度ゾフィスが暗躍する可能性はゼロではないのだ。

 シェリーの自己判断というよりかは、ゼオンの顔を立てるための消極的判断だろう。

 とはいえ、シェリーとココの関係は結果的に修復。

 ゼオンのGOサインが出るまでは、ゾフィスと配下の軍勢に手出しはしないという形で、一旦は和睦しその場は収まったのだった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「ゼオン殿。此度は色々とお膳立てしていただき、ありがとうございます」

 

 シェリーとブラゴをフランスへと還し、城へ戻ったゼオンへゾフィスがわざとらしい程に恭しく頭を下げ出迎える。

 心の底からの服従というよりかは、あのブラゴを術抜きで完封した規格外の力を恐れている気持ちの方が、今は強いだろう。

 

「ああ、オレの介入は正解だったな。ブラゴはパートナーが万全状態のデモルト,パムーンクラスはあった。

 あいつ単体ならまだしも、中堅魔物数体と手を組まれたら軍勢は半壊していたかもしれん」

 

 ゴクリ、と小さくゾフィスが息を呑む音が室内に響く。

 デモルト、パムーンはローテーションで月の石を護衛しているため、片方は自由には動かせない。

 もしも何かの噛み合わせで、残りの四天王が敵襲に対応していた場合、ブラゴ1体で他の魔物を全抜きされていた可能性もある。

 ゼオンの言う通り、歴史が変わったかもしれないと気付いたからだ。

 

「ところで、千年前の魔物達のパートナー達をケアする件の進捗はどうだ?」

 

 ゼオンが少し声のトーンを落とし問うと、ゾフィスは自然と背筋,襟を正す。

 

「はい、一次工程は完了しました。全てのパートナーの洗脳を順次解除。

 現状を説明した上で、改めて我々の力になってくれるか再打診を行いました。

 完全離脱を希望したものが20名。やむを得ない有事の時のみ、余裕があれば我々に手を貸すと申し出た者が10名。

 この城にローテーションで半常駐すると、協力を申し出てくれた者が、元から支配下にない者達と合わせて10名です」

 

 ゼオンの命令により、ココだけでなく千年前のパートナー達をも心の支配から解放する手筈となっていた。

 正常な意思を取り戻した者達をゾフィスが再説得するもやはり残留は厳しく、数だけでいえば4分の3もの戦力が離脱してしまった。

 だが、当のゼオンはその痛手を大して気に留めていないように見える。

 

「ここまでは想定済だ。残った10名の人間達と組んでいる魔物達の名前は?」

 

「四天王、ビクトリーム、レイラ、アルム、ミラコ、ゲリュオス、カルーラです」

 

 ゾフィスが読み上げた魔物のリストに耳を傾けていたゼオンは、ククと低く笑みをこぼす。

 

「上々じゃないか。四天王は無論、その他も粒揃いだ。

 ならば少数精鋭に絞り重点的にオレが指導を行い、戦力を強化できる。

 パートナーを失った魔物達の中にも、術を使わずとも固有の力を使いサポートできる者がいるはず。

 そういった魔物の才能開花も並行して行うことになる」

 

 ハ、と小さく頭を下げ、ゼオンのために用意した居室から去ろうとするゾフィスの背後へ、ゼオンの声が刺さる。

 

「そういえば、ゾフィスが使える術に"テオラドム"があるな?」

 

「……? はい、御座いますが……」

 

 最上級術でもない中級術を名指しで挙げられ、ゾフィスは腑に落ちない様子だ。

 

「あの技、頭一つ抜けたスペックを持っているとは思わないか?」

 

「言われてみれば確かに……ゴウ級以上の火力と範囲、初級術並の速度と心の力の消費量、とかなり高性能ではありますね。

 私も戦闘時に大分頼っていますよ」

 

「"テオ系"を使える者は一部の才能ある魔物だけだ。あのブラゴですらその資質は無い。

 つまり……お前にも大化けする才覚が眠っているやもしれんということだ。

 頭の片隅に置いておけ」

 

 臣下として、紛れもない純粋なアドバイスを受け、ゾフィスは少し意外そうにしながらも、初めてゼオンに対して向ける表情を和らげてみせた。

 

「承知しました。私の事を高く買っていただけるとは光栄ですね。

 ……ところで、今日もゼオン殿のパートナーは不在ですか? いつかお目通り願いたい所ですが」

 

 退室の際、ふと立ち止まりゼオンに問うと、しばしの沈黙を経て返答が帰ってきた。

 

「お前がオレの足元に及ぶくらい強くなったら紹介してやろう」

 

「……励ませていただきますよ」

 

 ゾフィスは苦笑しながら、その場を後にする。

 はぐらかされてしまいましたね、と背中越しに吐かれた呟きはゼオンに聞こえる事はなかった。

 




いつもご視聴ありがとうございます
そろそろ外伝も折り返しのイメージです
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