ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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75話:ルートZ-⑤ 20サバイバー

 

「ゼオン殿。此度のリオウ一派の平定とファウード鎮圧、お見事でありました」

 

 ゼオンの現世帰還から7ヶ月が経過した頃。

 千年前の軍勢が控えていた巨城とは別、日本の地に用意した活動拠点にて、ゾフィスが主の帰還を出迎える。

 

「全滅させておいて平定もクソも無い話だがな」

 

 ゼオンは疲れたように椅子へと腰を下ろすと、すっかり臣下としてのサマが板に付いた様子のゾフィスへ、自嘲気味に笑う。

 

「それは仕方ないですね。リオウ一派がファウードの譲渡と服従を拒否したのですから」

 

 ゼオンのタイムリープにより歴史は変わった。

 リオウは呪の力でウォンレイ達を脅迫をせずとも、ファウードの解放条件である、ディオガ級以上の術を所持する魔物10体の招集に成功した。

 そのため正史でゼオンがやってのけた、コントロールルームへの侵入が不可能となり、

 その上ファウードの位置も本来とは異なっていたため、調査,探索は困難を極めた。

 頼りであったデュフォーの《アンサー・トーカー》も、魔界の兵器であるファウードに対しては十全な効果を発揮できずにいた。

 結果、ファウード内部への潜入と手下の撃破だけで、ゼオン,ガッシュ連合陣営は少なくない犠牲を出すこととなった。

 

「こちらの被害は千年前の陣営は二軍の魔物が7名。

 一軍の魔物はアルム、ゲリュオス、カルーラ、ベルギム・EO。

 現世陣営はウォンレイ、ビョンコという内訳です。

 ビョンコ達は惜しい損失ですが、あの戦力を相手にこの損害で済んだのは、ゼオン殿とガッシュ殿の手腕あってこそです」

 

 ゾフィスは既にガッシュがゼオンの弟、王族であることは把握している。

 ゼオンが教えたわけではなかったが、容姿も術も酷似し、名字も一緒なのだからゾフィスの知能を持ってすれば到れる答えであった。

 

「ゾフィスもオレに対する機嫌取りがうまくなったな……」

 

 ゼオンの返答は嫌味の様な言い方になってしまったが、それに対するゾフィスの反応は意外なものだった。

 

「正直、私が王になりたい気持ちは今も変わりません。

 しかしそれとは別に、ゼオン殿を我が主として認めている自分もいるのだからおかしな話です。

 一番近くであなたを見守っていた私だからこそわかる。

 あなたは私利ではなく、心から魔界を守るために奔走していらっしゃる。

 その素晴らしさが理解できない程、私は愚かではありませんよ」

 

 穏やかな表情から発せられるその言葉は、ゾフィスが主に対し初めて見せた本心の一端だったのかもしれない。

 それにゼオンが気付き、表情を崩したところで――

 

「……!」

 

 反射的に身を起こすと、何も無い明後日の方向を見上げ、睨む。

 

「ここから北東、5000km以上先。フィンランドの地でアースの反応が消えた」

 

 ゼオンはガッシュ、そしてゾフィスやパティといった直属の臣下に自身の力で生成した、常時保護システムを施しているが、

 それとは別に一度でも共闘した魔物全てに、魔力を感知する発信装置をつけていた。

 基本的には、対象が死亡または魔界へ送還された時にアラートする程度の機能だ。

 だが例外が無いわけではない。直ちに様子を見に行くべきか思案していると――

 

「ゾフィス、これを見て!」

 

「ココ!?」

 

 隣の部屋で休んでいたココが、慌てた様子でドアを開け、ゼオン達へと駆け寄る。

 差し出された魔本は発光し、今まで表示していなかった新たな文字を浮かばせていた。

 

『おめでとうございます。

 魔界の王を決める100名の魔物の子の戦いは残り"20名"になりました。

 以後5名が離脱する毎に、残り人数のアナウンスを実施いたします。

 残り10名となった時に、王となった時の特権を発表します。

 皆様、特権の告知を楽しみに、頑張って戦い抜いてください』

 

 本が告知した内容を読むやいなや、ゼオンとゾフィス組は直ちにその場を発つ。

 ゼオンがあらかじめマーキングしていた、フィンランドの首都へと瞬間移動し、そこからは直接アースの反応が消えた現地を目指す。

 

「ここから北へ20km進んだ所だ」

 

「ここまでくれば私も力の残滓を感知できております。

 ゼオン殿、ココ、手を」

 

 ゾフィスの指示に従い、ゾフィスを中心とし、ココとゼオンが両隣で手を繋ぎ合う。

 ココがフリーとなった方の手に持つ本が輝きを増すと、ゾフィスも魔力を滾らせる。

 

「"ディオラド・フェイウルク"!」

 

 詠唱と同時に、ゾフィス達の周囲を気圧の膜が覆う。

 直後、爆音と共に三者の身体はミサイルの様に空を直線に掛けていく。

 その効能は、ゼオンは思わず目を見張る程だった。

 

(爆発の衝撃を利用し、同行者を魔力で保護しつつ亜音速で突撃する肉体強化術か。

 小回りは効かなさそうだが、直線に移動するという用途だけなら、"ラウザルク"状態のオレを超えている……)

 

 ゾフィスの新術により100秒程で、アースが敵襲を受けた痕跡地に到達。

 術同士の攻防により抉れた地形の中から、ゼオンの生態感知で地面に半分埋まっていたエリーを感知、保護に成功する。

 搬送先の入院で、エリーから一連の説明と涙ながらの懇願を受けたゼオン,ゾフィス組、そして後から合流したガッシュ組は深刻な様子で病院を後にする。

 

「アースを一方的に打ち負かし、瞬時に空間をワープできるゴームという魔物。

 そしてにわかには信じられんが……ゴームと組んでる更に強い魔物が、魔界を滅ぼそうとしている……。

 しかし、滅ぼすと言っても一体どうやって? 王様になったところで、好き勝手に暴れようとすれば周囲が黙っていないはずだが……」

 

「……ゾフィス、どうしたの? 顔が青いけど」

 

 深刻な表情で思案を続ける清麿の横で、ココが自身のパートナーの変調に気付き身をかがめる。その理由を察したゼオンが「潮時か」と呟く。

 

「特権だ。魔本が告知していた王の特権、それは全ての魔物を一体一体選別し、自由に消すことができる権利だ。

 幼き頃、王立図書館の禁書を調べた。かつての王を決める戦いの特権がそうだった。

 ゾフィスにはオレの活動支援のため、あらかじめ一部情報を教えていたのでな」

 

 ゾフィスを除くその場の全員がゼオンの言葉に凍りつく。

 

「ウ……ウヌ!? それは本当なのか?」

 

「ガッシュよ、千年前の戦いで魔物達を石板に変えたのは"石のゴーレン"という魔物だ。

 だが、我らの父上が王となった後の戸籍データベースには、どこにもゴーレンとその血族が見当たらない。何故だと思う?」

 

 ガッシュはピンと来ていない様子だが、清麿とココは直ちに察し、血相を変える。

 

「ま……まさか……特権で消したのか!? ガッシュ達の親父がゴーレンを!?」

 

「魔界にいた頃、同様の調査をしました。ゼオン殿の証言は私も保証します。

 王様が特権を使った可能性は百パーセントと断言はできませんが、魔界から追放処分、あるいは別の次元に幽閉したなどの対策を打ったのは間違いないでしょう。

 ゴーレンの情報は文献として残っていたのに、実際の一族がどこにも見当たらないことは不思議に思っていましたが……今情報が線で結びついた気がします」

 そして……ゼオン殿の魔力感知機能を正とするならば、魔界を滅ぼそうとする敵勢力は最大でも3体となりますね」

 

「ゾフィス、何故3体以下だとわかるんだ? ……ああ、そういうことか」

 

 清麿はすぐに結論にたどり着いたが、思考がまだ追いついていないココとガッシュのため、ゾフィスが推理の披露を続ける。

 

「現在生存している20体の魔物から我々が把握している数を差し引けば、残りが3体だからです。

 ゼオン殿、私、ガッシュ殿、パティ、ブラゴ。

 ロップス、ウマゴン、ティオ、キャンチョメ、キッド。

 リーヤ、モモン、チェリッシュ、バリー、テッド。そしてカルディオとパピプリオ。

 全ての魔物の性格や思想を把握しているわけではありませんが、パピプリオを除いた16体はファウードを止めるために共闘した過去があります。

 パピプリオにしても、魔界を滅ぼそうとする者に糾合する謂れはないでしょう。

 残りはゴーム、魔界を滅ぼそうとしている魔物、"X"そしてゼオン殿が、まだ存在を感知を出来ていない正体不明の最後の魔物、"α"。

 最悪のケースが、"α"もまた"X"の仲間であることですが、果たして……」

 

「ならば、"α"本人に聞こうではないか」

 

「!?」

 

 ゼオンが指差す先、病院の外に茂っている森林から2人の影が姿を表す。

 1人は髪を天に逆立て魔本を手に持つ青年。

 もう1人は体長3mにも及ぶ、角を生やした人形の魔物。

 魔物の子のペアが接触を図ってきたことは皆理解できた。

 だが魔物が放つ圧力、そしてこの距離まで存在を感知出来なかった事実にゾフィスは最大級の警戒を払う。

 

「我が名はアシュロン。

 バオウの使い手、ガッシュ・ベル。

 その兄にして此度の戦いの優勝候補最右翼、雷帝ゼオン・ベル。

 爆発の術を操るサイエンティスト、ゾフィス・アトルだな」

 

「アシュロン……? 竜族の神童の片割れの!?」

 

 反射的にゾフィスは横目でゼオンを追う。

 同じ竜族のエルザドルがバリーに敗戦した報せは掴んでいる。

 現状、暫定王者と言って良いゼオンに唯一対抗できる存在だ。

 纏っている魔力の力強さも、一見ゼオンに見劣りしていない。

 

(こいつがアシュロンか。もしもオレがかつてのファウードでの戦いで、ガッシュに敗れ送還されていたら出会う事が無かった魔物……)

 

 ゼオンが歩み寄り、アシュロンの眼前に立つ。

 互いに相手の力量を把握しながらも、牽制するように魔力をほとばしらせ、鍔迫り合わせる。

 

「その大きな図体でよく今までオレの感知から隠れていたな。大した隠蔽術だ」

 

「ゼオン、その言葉そっくり返そう。お前の存在はファウード内で臨戦態勢になるまで、把握できずにいた」

 

「ファウードの戦いをお前も知っていたのか?」

 

「ああ。何故オレも介入しなかったのか、と言いたそうだな。

 その時まさにオレは、お前達が話していた魔物と戦った後でそれどころではなかった」

 

 その言葉から、ゼオンとゾフィスは何故彼がここに訪れたかを理解しその続きを待つ。

 

「お前がゴームと戦ったのか!?

 それともゴームと組んでいる魔物の方なのか!?」

 

 横で興奮して問い詰める清麿を、アシュロンの横にいた青年が飄々と宥める。

 

「まーまー兄さん方、一端落ち着いて自己紹介しましょうや。

 オレはアシュロンの旦那のパートナー。リーン・ヴィズでさあ」

 

「高峰清麿。ガッシュのパートナーだ」

 

「ココ・フラジェ。ゾフィスのパートナーです」

 

「オレのパートナーの名はデュフォーだが、今はここにいない」

 

 リーンの提案で全員が紹介を終えたところで、アシュロンとゼオンは互いが所有している情報を交換する。

 空間を自由にワープできる魔物、ゴーム。

 ゴームと組んでいる、王の特権で魔界を滅ぼそうとする魔物、クリア・ノート。

 クリアのパートナーは赤子で、戦いの序盤は参戦できずに潜伏していたが、ファウードの脅威辺りから活動を始めた。

 クリアから敗走した後、傷を癒やし猛特訓を積んだ今のアシュロンでも、戦えば分が悪い程の強さを持っている。

 リオウという魔物が人間界に持ち込んだ兵器、ファウードは既に魔界へ送還済。

 現在生存中の魔物20名中の16名が、ゼオンを中心とした一時同盟下におり、クリアと手を組む可能性は無いこと。

 顔を合わせるにふさわしい、貴重な情報を互いに得るのだった。

 

「有益な情報提供、感謝します。ところであなたが我々を訪れた理由ですが、クリアとゴームを倒すまでの一時的な同盟を申し出たと捉えて良いですか?」

 

「ああ。雷帝ゼオンとバオウの使い手、ガッシュ。

 ファウードの脅威を鎮圧したお前達兄弟が、悪ではないことは知っている。

 お前達となら手を組めそうだ」

 

 私も悪ではないですよ、と後ろで付け加えるゾフィス。その横でココが苦笑する中、アシュロンがおもむろに頭の角を手で抑える。

 

「南西に約2400km……大きい力の反応が突如現れた。

 クリアではない、おそらくさっき話していたゴームだろう」

 

 ゾフィスの魔力感知範囲は半径30km。

 ゼオンもマーキング無しだと半径1000km程度のため、アシュロンの言葉の裏は取れないが、ここで嘘を付く意味はない。

 

「絶好の機会だ。ブラゴのパートナーの家は瞬間移動ですぐに飛べる。

 いかにオレがパートナー抜きとはいえ、ガッシュ、アシュロン、ブラゴ、ゾフィスと共に一斉に襲いかかればゴームを確実に仕留められる」

 

 ゼオンの言葉に一同が力強く頷くが、直後アシュロンの顔色が変わり、リーンと同時に冷や汗を流す。

 

「まずい……クリア()も現れた……」




いつもご視聴ありがとうございます。
デュフォーが出てこない理由は次回辺りで説明します
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