ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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77話:ルートZ-⑦ 最終局面

 

「"シン・クリア・セウノウス"!」

 

 ヴィノーの詠唱と共に、全てを消滅させる天使が飛翔。

 清麿達がその姿に神々しさを感じる間も与えず、最大術同士の対決が幕を開ける。

 まずは先陣を切るゾフィスの宝槍、"ブルナク・ウル・テオラドム"が"シン・クリア"と真っ向から衝突した。

 一般的な魔物が扱える術の最高到達点である最上位のディオガ級。

 それを上回る、一部の才能溢れる者や貴族だけが研鑽と試行錯誤の末に到れる階級、ウルの力を前にもクリアの自信は揺るがない。

 

「中々強力な術だな。だが、"ウル"は"シン"には勝てないよ*1

 

 クリアの宣言通り、シン・クリアの消滅波が巨大な槍を跡形もなく消し去った。

 直後、"シン・フェイウルク"の推進力を以てクリア目掛けるアシュロンが、その間に立ちはだかるシン・クリアへと突っ込んでいく。

 

「波状攻撃か。だが、いかに強力なシンの強化術とはいえ、シン・クリアとまともにぶつかればただでは済まない……」

 

 同じ"シン"の階級内にも上下の振れ幅は存在する。

 シン級上位のシン・クリアが、発展途上であるアシュロンのシンに負ける道理は無い。

 勝利を確信したクリアの眼前で、突如シン・クリアの全身に無数の小爆撃が花火の様に爆ぜていく。

 

「生憎ですが、私のブルナクが輝くのはこれからですよ」

 

 術をあっさりと破られたにも関わらず、大して焦りを見せなかったゾフィスへクリアも僅かな違和感は抱いていた。

 だが戦闘が大規模となったことで、その違和感が意識から消え去っていた。

 

(打ち破られた場合は、保険として相手の術に爆破の遅延効果を与えるのか。

 敵の術への相殺に特化した効能……! チッ、槍を消し去るために消費した力も含めて、三分の二程度に威力が削がれた)

 

「ウオオオオオ!」

 

 消滅波に焼かれながら、アシュロンは弱体化したシン・クリアの腹を打ち破り、突破する。

 既に肉体強化の効果は消え去っていたが、残った推進力だけでの突撃でもクリアを捉え、ダウンを奪うには十分だった。

 

「ッ……!」

 

「行け、バオウ! クリアが態勢を崩した今がチャンスだ!」

 

 後方に吹き飛ばされ、膝をつくクリア目掛けて、三の矢のバオウが襲いかかる。

 だが、ダメージ自体は大して負わなかったクリアはすぐさま立て直しながら上方へと跳躍し、余裕をもってバオウの攻撃を回避する。

 

「僕の素のスピードもナメてもらっては困る。シンはともかく、そんな攻撃は当たらない……」

 

「クリア、後ろだ!」

 

 ヴィノーが初めて切羽詰まった声を上げ、クリアはすぐさま背後を振り返る。

 避けたはずのバオウが、進路を変えつつ加速しクリアの目鼻先まで迫っていた。

 

(追尾!? いや、最初に撃ったザグルゼムに当たった事で反射したのか?

 しかも速度が増した! くっ……ヴィノーのバリアに守らせるか?

 いや、いかにバリアで五感を軽減してるとはいえ、あのバオウの轟音と閃光をまともに喰らえばヴィノーが失神してしまう。

 それに、視力と聴覚に後遺症が残ってもおかしく……)

 

 魔物の中でも高い思考能力を持つクリアとはいえ、一瞬で対応が間に合うはずもなく――

 

『バオオオオオッ!』

 

「ガアッ……!」

 

 着弾と同時に、ザグルゼムで極限まで強化されたバオウの顎にあっさりと飲み込まれていった。

 呆然とするヴィノー、手応えを確信する清麿達、手を止め思わず隣の戦況から様子を伺うミールとシェリー。

 

「清麿……あの者は私のバオウで倒れたのか!?」

 

 そして、気絶から覚醒したガッシュ。各々の視界の先で、バオウの衝撃が生んだ土煙が晴れ――

 

「……残念だったね。

 覚醒が不完全な"バオウ"では僕を倒し切ることは出来なかったようだ」

 

 全身に痛々しい焦げ跡とダメージを残し、ボロボロになりながらもより邪悪な魔力を滾らせ、クリアがゆらりと身を起こす。

 クリア本人の次元が違う耐久力に加え、ヴィノーがとっさにスプリフォを唱えたことで、バオウの威力が少し鈍ったこともあり、仕留め損なったのだ。

 

「くそっ……あの強化されたバオウでも倒せなかったのか……。

 だが、ダメージは通ったしヴィノーも大分心の力を消費したはずだ! まだ諦めてはならない!」

 

 清麿の檄を嘲笑うかの様に、クリアはひたりひたりと距離を詰めながら、微笑みを浮かべ今一度強力な魔力を滾らせる。

 まるで今まで隠し持っていたサブタンクのエンジンを起動させたかのように、これまで放っていた魔力とは質,波長共に異質なものをその身に宿していた。

 

「僕にここまでの手傷を負わせたことは、褒めてやろう。

 この力に頼るのは不本意だったが、お前達を消す目的のためならば、仕方あるまい。

 そちらも僕が倒れている間にチョロチョロと小細工をしていたようだしな」

 

 ゾフィスが保険として常に携帯している、3つの月の石の欠片。

 クリアがバオウの衝撃に飲まれている間、2個をアシュロンと清麿の回復に使った。

 クリア陣営もそれを悟り、手段を選ばずこの局面を打開する覚悟を心に決めたのだ。

 

「ヴィノー、この前手に入れた力を使うんだ。あの術は僕の魔力を媒介として発動するため、心の力を消耗している今でも唱えられる」

 

「ああ……。"シンクリア・セウノウス・ルルアゼス・ファウード"!」

 

 クリアの魔力、気迫とリンクするかのように魔本が強い輝きを放つ。

 ヴィノーが素直に従い詠唱すると、クリアの右隣の空間が黒ずみ、グニャリと歪曲する。

 皆が術の効能に身構える中、ゾフィスと清麿は別の懸念を浮かべ冷や汗を流す。

 

「あの術、詠唱の最後に"ファウード"と言いませんでしたか?」

 

「ああ。まさか……」

 

 彼らの不安を可視化させるように、歪曲した空間から1つの生命体が這い出ずる。

 それは一見、緑髪の人間の少女に見える魔物だった。

 彼女は左目に装着させたディスプレイ型の装置を起動させると、眼前の清麿達を気に掛けることなくクリアへ微笑みかける。

 人間味を感じさせない無機質な微笑が、清麿達の悪寒を更に増長させていく。

 

「現ファウードの所有者、クリア・ノート様からの召喚を確認しました。

 ワーニング(警告)コード010。現時空内にファウードの存在を感知できません。

 ファウードの力の起動を中止しますか? 警告を無視して処理を続行しますか?」

 

「続行だ、ルルアゼス。"リ・ゴデュファ"」

 

承知(コピー)しました」

 

 ルルアゼスの了承と共に、クリアの全身を強い光が纏い始める。

 彼らのやりとりから何が起きようとしているか、なんとなく察しがついた清麿達は咄嗟にルルアゼスに向け、術を繰り出す。

 

「くっ……"テオザケル"!」

 

「"ギガノ・ラドム"!」

 

 だが直前で目に見えない障壁の様なものに阻まれ、攻撃はあっさりとかき消される。

 ここで初めてルルアゼスは清麿達を視認し、敵対者とは思えない丁寧な会釈を送る。

 

「申し訳ありません。私はファウードの力を行使するためのオペレーターです。

 皆様から危害を受けることも、与えることもできません。

 クリア・ノート様の方に意識を集中した方がよろしいかと。……起動完了しました」

 

 ルルアゼスの通知と共に、クリアの全身から強力な生命エネルギーが溢れ、負った傷もみるみる癒えていく。それは離れた場所にいた、ゴームも同様であった。

 

「ゴーーッ!」

 

「おおっ、どうしたぴょん? 急にゴームが強くなった気が……」

 

 ほとんどの者の状況が掴めていない中、ファウードの内戦を経験したガッシュ、ゾフィス組だけが事態の深刻さを理解し、血相を変える。

 それは紛れもなく、ファウードを警護する兵士が、その責務を履行している間、ノーコストで莫大なパワーアップを得られる禁断の契約だった。

 

「馬鹿な……あれはゴデュファの契約!?」

 

 ゼオン達がファウードを魔界へと送還した際、戦闘によりファウードの身体の一部が破壊され、その残骸は人間界へと遺されていた。

 クリアは先日、散り散りになった残骸を根気よく回収し、魔力の残滓からファウードの力の取得を試みた。

 それはまるでプログラムに必要な実行ファイルから、内部のソースコードを逆解析するような荒業。

 どうにか究明できたのは、ファウードの所有者を認識する仕組みと、ゴデュファの契約に関する技術のみだった。

 その際クリアは偶然、創造主すら想定していなかったシステムの隙を発見する。

 ファウードが魔界に健在の状態である場合、魔界以外の時空で現所有者がゴデュファの契約を発動すると、契約に必要な条件,制約を丸々踏み倒せる抜け道があったのだ。

 

「ファウードは生体兵器。

 魔界を滅ぼすために生まれた僕との相性は驚くほど噛み合った。念の為、ファウードの力を取り込んでおいて正解だったよ」

 

 活力を取り戻したクリアが、ここから先の展開を予知するかの如く、不敵な笑みで跳躍する――

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 展開はまさに圧倒的、ワンサイドゲームだった。

 対するガッシュ達も、数的有利を活かした術の波状攻撃で抵抗を試みるが、理不尽なまでに強化されたクリア側の中級術で全て防がれる。

 数分の攻防の末、アシュロンはガッシュを庇い、心の力が回復してきたヴィノーにより、上級術をまともに食らって瀕死に近い状態。

 ガッシュも清麿の立ち回りとマント捌きにより防戦一方で凌いではいるが、限界は近い。

 遠距離から補助に徹していたゾフィスはなんとか健在だが、単独では攻め手に欠けクリアに対し何もできない。

 ブラゴも、戦闘センスと学習能力で形勢逆転しつつあったのだが、ゴデュファの力で生まれたゴームとの大きなスペック差にゴリ押され窮地に追い込まれる。

 

タンク()の役割をしていたアシュロンは虫の息。

 ガッシュとブラゴももう手詰まり。

 後はチョロチョロと飛び回っているハエみたいなおまけだけ。今日ここで4体の魔物が永劫消えるわけだ」

 

 勝勢を理解したクリアからいつの間にか戦闘への昂りは消え、眼前の生命を終わらせようとする冷徹な様相が浮かんでいた。

 一方のガッシュ達は死地に追い込まれたことは百も承知の上で、逃走することなく戦意を絶やさずにいる。

 

「くっ……そんなことはさせぬ! 魔界は滅ぼさせぬ! 絶対に私達が守る!」

 

「ハエとはご挨拶ですね……。しかし、ハエは最後まで鬱陶しく邪魔をしますよ」

 

「すまねえ、ガッシュ……ゾフィス。この身体じゃ最後まで付き合えそうにねえが……やれるところまで戦い抜くぜ」

 

 そんな彼らの様子を伺うクリア。その場にいた者達は彼の容赦のない追撃を覚悟していたのだが、意外にもクリアが選んだのは、"対話"であった。

 

「ただ機械や獣の様に殺し合うのもそれはそれで風情があるが、やはり言葉のわかる生物同士、互いの主義主張をぶつけ合うのも悪くないね。

 おそらく君達の様な考えを持つのが"普通"で、僕は"異常"な個体なのだろう。

 ただ滅ぼすこと、理由も無しにそれが目的で生きているなんて、生命の理とは真逆だ」

 

「ウヌ……お主は魔界を滅ぼした後に何かをしたいわけではなく、滅ぼせればそれだけで満足だというのか!?」

 

 ガッシュの反応に対し、クリアは取り繕うことなく素直に頷く。

 だが表情だけはどこか腑に落ちない様子だった。

 

「そういうことになるね。でも僕は魔界を滅ぼせと誰かに命令されたわけでもないし、別に快感もメリットも得られない。魔界そのものに恨みがあるわけでもない。

 なのにどうして僕だけ、こんなにも"滅ぼし"に固執するのだろう。僕自身も疑問だったんだよね」

 

 それはクリア・ノートが見せた、最初で最後の本音による他者への打ち明けだったのかもしれない。

 いくら敵とて無碍に返すわけにはいかない。

 ガッシュ達がその思いでクリアのコミュニケーションに対し回答に窮していると――

 

「何故お前は破滅をすることに固執するのか――」

 

 それは決して声量でいえば力強くはなかったが、戦場にはっきりと響き渡った。

 声の主である少年から、この場の全てを掌握せんとする程の意志が宿っていたからだ。

 

「"答え"を教えてやろうか?」

 

 

*1
https://x.com/raikumakoto/status/406415760219594752




 ゴデュファクリアは鎧形態のクリア並に強いイメージです。
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