ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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最終話:決勝戦

 

 ゼオンとデュフォーがポケモン達の暮らす異世界へ転移したことで、ガッシュ達の世界はどう変貌したのか?

 結論から言うと、"ある地点"まで歴史はあまり変わらなかった。

 デュフォーは無事元の世界に戻れたが、幾重もの多次元、時空を渡ったことによる心身への負荷から休息を余儀なくされた。

 本調子となり清麿達を訪れたのは、ゴーム,クリア・ノートVSガッシュ、ブラゴ、アシュロンの戦いの後。正史とほぼ同タイミングであった。

 

 デュフォー帰還から10ヶ月後に迎えた、クリアとの最終局面。

 バードレルゴ,ザレフェドーラの遠距離砲を攻略し、強固な鎧に身を纏うクリアをガッシュ組,ブラゴ組が追い詰めていく。

 歴史が捻じ曲がったのはその後。

 

『異界の……力を……得たのは貴様だけ……だと思う……なよ?』

 

 ポケモンの世界と接続されたことで生まれた次元の歪み、その瘴気を吸い込んだ「シン・クリア・セウノウス」が、更に大幅に強化された。

 そのタイミングで間一髪、過去から帰還したゼオン、そして遠方で待機していたデュフォーの参戦が間に合う。

 たとえ金色の力が発動していたとしても分が悪い程に、強化されたクリアをかつての手持ちポケモン達と共闘し、死闘を繰り広げた結果――

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「うう――ゼオン、ゼオン」

 

 更地となった山脈に、横たわるオレの身体。不思議と痛みはそこまでない。

 デュフォーの隣で静かに燃えゆくオレの銀本。

 あのバケモノみたいな力のクリアを倒した代償にしては安いものだ。

 頭上から絶え間ないガッシュの嗚咽が聞こえてくる。

 王を目指す男児が容易く泣くな、と言い掛けオレは言葉を引っ込める。

 

 さすがに二度の離別を強いるのは酷な話だ。

 

「ガッシュ、ブラゴ。結論から言おう。

 お前達のどちらかが王となり、この戦いが終わったとしてもオレは元の魔界,時空に戻れるかわからん」

 

 不意に泣き止み、信じられないといった表情で見下ろすガッシュ。

 

「な、何を言っておるのだゼオン!? いきなりいなくなって、やっと会えたと思ったらまたすぐにいなくなるなんて……」

 

「ガッシュ、今はゼオンに少しでも多く喋らせてくれ。補足なら後からオレができる」

 

 ガッシュをやんわりとデュフォーが制する。

 最後まで世話を焼かせて、すまんな。

 

「魔界から人間界、ポケモンの世界から過去と現代を往復……オレは少々世の理を掻き乱し過ぎたようだ。

 こうなってしまっては、オレも今後どうなるかわからないんだ。

 後の事を丸投げすることになってすまないが……ガッシュ、ブラゴ。クリアとの戦いを見て確信した。

 お前達ならどちらが王になっても魔界は安心だな」

 

「何を言っておるのだゼオン! 私達はこれから魔界でずっと……」

 

「ガッシュ、お前の兄は魔界の未来を救ってくれた英雄だ。その英雄の想いを汲んでやれ」

 

 デュフォーの静止を振り切り、なおも喰らいつこうとするガッシュだったが、好敵手ブラゴの説得により、ようやく折れた。

 とうとうオレの魔本も燃え尽きる。だが不思議と涙は出てこなかった。

 離別を経過ぎて良くも悪くもオレの感覚はマヒしたのか?

 それとも――

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 視界と意識が揺らぎ、混濁の中、ゼオンは目を覚ます。

 無事魔界に魂となり送還されたか、再度ポケモンの世界に転移したか、はたまた更に別の次元に送りこまれたか――

 あらゆる事象を想定するゼオンであったが――

 

『それではこれより『魔界統一トーナメント』決勝戦を始めるぴょん!』

 

「ゴー!」

 

「なっ……」

 

 仲良く黒のペアルックとピンマイクを身に着け、白いブースに腰掛けるゴームとミール。

 その光景はさすがに彼の予想を上回った。

 

「ゼオン……意外と早く戻ったか。だが、さすがにあっちの敵は手強かったようだな」

 

 背後から見知ったパートナーの声が聞こえ、安堵と戸惑い混じりにゼオンは振り返る。

 

「デュフォー! これは一体……」

 

「オレの記憶を読んだ方が早い」

 

「あ、ああ……」

 

 言われるがまま、何故か同じく襟にピンマイクを差しているデュフォーの頭に手をかざし、記憶を参照する。

 仔細が一気に頭の中に流れ込み、ゼオンの情報を上書きする。

 

 クリア・ノートは送還され、ゼオンは消滅した。

 その後、ファウードの遣いは退散。クリアの攻撃から他の魔物を庇い続け瀕死となったアシュロンを救うため、彼の本を燃やした。

 判断力が赤子に等しかったゴームが、ゾフィス達と話し合いの末実質的に魔界の継承戦を実質放棄したことで、戦線に残った魔物達は16名。

 

 魔界が滅びかけたという事態は、すぐさま全魔物達に周知された。

 今後どうすべきか、を実質魔界を救ったに等しいデュフォーが一任される。

 そして、デュフォーが提案した新たなルールの下、魔物達は健全に王を目指す戦いを進めていた。

 

・16名の魔物達で1vs1の魔界統一トーナメントを行う。

 運営はデュフォー、ガッシュ組、ゾフィス組、ゴーム組で取り仕切る。

 組み合わせはデュフォーが無作為に選出し、場所と期間を設けて戦う。

 二連続で決定した勝負をキャンセルした場合、継承戦リタイアとみなし速やかに本を燃やす。

 それ以外で魔物同士の戦闘を禁ずる。

 

・上記規約の悪質な違反を運営が確認次第、残りの魔物達および運営が所有する私設軍で速やかにその者を総攻撃し、送還させる。

 また、新王の采配で違反者及びその親族に不利益な処遇が降りたとしても、運営は一切の責任を負わない。

 

・これまで戦闘の機会が無かった魔物、戦闘に特化していない魔物の公平性を期すため、希望者は合計24時間まで運営による指導.模擬戦闘を無償で受けることができる。

 

 ようやくゼオンも全ての情報を読み取ったところで、眼前の奇妙な光景の理由を理解する。

 

「こんなことが……結局この時間軸本来のオレは現れなかったんだな。

 ん? さっき決勝戦と言っていたな。ガッシュは……ガッシュはどうなった!?」

 

 もう一度記憶を丁寧に辿り、デュフォーが見届けたこれまでの試合結果を見直し――

 

「負けた……のか……ガッシュ」

 

 死闘の末、本を燃やされ清麿と涙の別れを迎えたガッシュの光景がはっきりと脳裏に映し出され、ゼオンは静かに肩を落とす。

 

「ああ、両者とも正々堂々と立派に戦った。そのガッシュを倒した魔物が、今決勝戦で戦うところだ」

 

 見上げるゼオンの視線の先、三度の死線を潜り抜けた2体の魔物とそのパートナーが、障害物一つ無い草原の上で相対する。

 

 

 

「まさか王を決める最後の戦いの相手がお前とはな、ゾフィス」

 

 重力を操る黒き魔物の子、ブラゴに名を呼ばれ爆発を操る探求者、ゾフィスは余裕を示す笑みを浮かべながら、明後日の方向を指差す。

 

「ふふ。万が一私に勝てたとて、王になるのはまだ気が早いですよ」

 

 指差す先、はるか遠い場所にデュフォー、ゴーム達と並び立つ白銀の魔物の子を見たブラゴの全身がざわめき立つ。

 

「ゼオン……! 戻ってきたのか!?」

 

「どうやら、別世界での厄介事を片付け、戻られたようです。

 我が主……いや、王となるため超えるべき、最後のライバルがね」

 

 しばらく両者を見比べた後に、ゾフィスの言わんとしている事を理解したブラゴが釣られて笑う。

 

「なるほど、この戦いに勝つだけでは不足だと。実質的な暫定王であるゼオンに挑んでようやく王になれるというわけか。……見直したぞ、ゾフィス」

 

「見直すも何も、あなたに見下げ果てられる様な覚えは最初からありませんが……まあいいでしょう」

 

 魔物の子達が言葉を区切り、勝負開始位置へと移動すると、そこで初めてお互いのパートナーが口を開く。

 

「ココ……何故かあなたと戦う予感がずっとしていた。

 今日は、お互い悔いの無い戦いにしましょう」

 

「シェリー。あなたとゾフィスのおかげで、ようやく自分のことが本当に好きになれた。

 だから、私達でこんな大勝負を迎えることができて本当に嬉しいよ」

 

 シェリー・ベルモンドとココ・ブラジェ、2人が幼馴染相手に初めて本気の闘争心を向ける。

 一言ずつ交わしただけで、少女達はパートナーの元へ駆け寄った。

 

「ココ……君の洗脳を解除して本当に良かった。

 強さや賢さではない。私に欠けていた王の資質を、君という存在が補ってくれた」

 

 ココを見上げるその眼差しには、相変わらず謀略を纏わせる狡猾な光が宿っている。

 だがそれに併せ、手段を選ばず魔界の民を守る為政者としての決意、そして他者に対する少しの情が芽生えているようだった。

 

 ゾフィスの成長にココが表情を和らげる様子を眺めていたブラゴが、シェリーに背を向けながら静かに魔力を研ぎ澄ませる。

 

「シェリー……どうやらこの戦いは絶対に勝てるとは断言できないようだ。だから先に言っておく。

 よくここまで俺と戦い抜いた。先の準決勝も、あの途方もなく強かったガッシュ達に勝てたのはお前のおかげだ。

 ……お前がパートナーで、俺は幸せだった」

 

「ブラゴ……」

 

 両雄、そこで会話を切り上げ眼前の相手に集中する。

 決闘の始まりを予兆したデュフォーが、ピンマイクを立ち上げる。

 

『ここまで2体とも本当に良く勝ち上がった。

 あくまでオレの感想だが、どちらが勝ち残ってもそいつは申し分ない王となるだろう。

 互いの誇りを賭けて、精一杯戦え』

 

 その言葉が狼煙となり、魔物の子達は重力と爆発を交わらせ戦いの花火を散らせる。

 十数秒も経過したところで、戦いを見守る者達は鬼気迫るその攻防の不自然さに目を奪われる。

 

「"ニューボルツ・マ・グラビレイ"!」

 

「"ロギヌス・ディオウ・テオラドム"!」

 

『おおっと! しょっぱなから、ペース配分全然考えてない超々ディオガ級以上の術の連発!? これにはゴームも大はしゃぎぴょん!』

 

『ゴー! ゴー!』

 

「申し合わせたような、明らかな短期決戦……まるでこの後の連戦を予期して余力を残そうとしているようだ」

 

 無制限の時間を保つ両者が勝負を急ぐ理由など、一つしかない。

 突き刺すような全身の痛みに苦笑いながら、ゼオンがマントに付いた汚れを払い、ゆっくりと身を起こす。

 

「あっちの世界のクリアを倒したばかりでオレの身体もガタガタだが……泣き言は言ってられんな。

 デュフォー、準備を頼む。数分とかからずに、勝者との戦いが始まるようだ」

 

「いいのか? 地力はオレ達の方が上。お互い万全の状態より、勝率は明らかに下がるぞ」

 

「あいつらはリスクを負ってまでああやって滾っているのに、「回復するまで待ってください」なんて言えんよ。最後まで付き合ってくれるか?」

 

 是非もない。ゼオンの最後のワガママに応えるべく、デュフォーはこの事態に備え日々鍛えていた心の力を開放する。

 

「ああ。だがこれが本当に最後の戦いだ。これが終わったらゼオンも休め。もう十分お前はやれることをやった。

 元をただせばお前の暴走の責任は、父王(ダウワン)にあるだろ。少しは子供らしく、親父に全部投げたらどうだ」

 

「そう言ってくれると、少しだけ救われるな。

 休んだらまた、元の時間軸とここを繋げられるか気ままに試してみるさ……おっと、どうやら勝負が終わったようだ」

 

 決着を語る静寂。

 しばらくして、相手の最大術をかわしきれず、ダメージを負いながらも勝者となった魔物がゼオンの前に立ちはだかる。

 相方の少女は幼馴染を直接この手で下したことで、あらゆる感情が混じり合った涙を流しながらも魔本を構える。

 心の力を消耗しているが、パートナーを王にするという決意は眼差しの輝きに強く映える。

 この戦いの前より、確実に手強い存在に成り上がったと言えるはずだ。

 

「ほう……勝ち残ったのはお前か。互いに万全とは言い難いが……今こそが王を決める――本当の決勝戦だ」

 

 これまで多くの憎しみと怒りが宿り、それはまさに破壊の象徴だった。

 だが今放たれしは、確かな未来への希望。

 

「今こそこの勝負を制し、王になろうゼオン……"テオザケル"!」

 

 紫電が雲一つ無い空に放物線を描いた。

 

 




これまでご視聴ありがとうございました
どうにか完結までもってこれました
もっと細かくバトルを描くつもりでしたが、キリがなくなるのでこういった形で締めました。
またひっそりと別作品を書く時はよろしくお願いします
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