ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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8話:アンサー・トーカーとエスパー

『――つまり5日後の日暮れまでに、残り6つの各都市を周りジムチャレンジを制覇しこのトキワシティで大会にエントリーするという計画だ』

 

 ゼオンの瞬間移動でハナダシティへと舞い戻り、自己紹介の後にデュフォーが説明を一通り終える頃には、夜もふけすっかり日を跨いでいた。

 "オカシラ"はどこから突っ込んでいいかわからない表情で、翼で頭を掻く。

 

『日の出と共に日を区切る俺の部族からすると、期限は6日後ってことだな。その間にほぼ素寒貧の俺らの衣食住を整備して、戦力補強もするんだろ。

 長距離移動手段を持っていたとしても、正気の沙汰じゃねえな』

 

『ライフラインの課題はオレ一人でどうにかする。お前らの部族がやってた様な調()()方法は使わない』

 

 当然だ、と吐き捨てるオカシラの真正面にはゼオンが座している。

 デュフォーが手配したシティ市営の宿泊所は、安価なだけあって簡素で手狭だったが、両者が間に紙コップを置き、向き合うほどのスペースはなんとか確保している。

 

『俺と兄弟分の盃を交わすなら、2つの決め事を守ってもらう。

 "持ってねえやつから奪うな"。"殺りに来た相手以外は殺るな"。それだけだ』

 

 オカシラが何故多くの者達に慕われていたか、あれだけの大規模な組織を維持できていたか。

 その理由が垣間見える、ならず者なりの矜持にゼオンも否応なしにうなずく。

 

『いいだろう。それよりオレ達はお互いの実力をもっとしっかり()()()()しなくていいのか?』

 

『必要ねえ。実戦を見りゃ嫌でもわかる。こいつは使えねえと思ったらお互いその場で切ればいいさ』

 

 それもそうだな、と呟くとゼオンは床に置かれた紙コップを取り、中に入っている一口のサイコソーダをあおるとオカシラがそれに続く。

 兄弟の契りを結ぶ際は、酒類が入った盃を交わすことがオカシラが行っていた正式な風習だが、今は時間と金銭的事情を鑑みて簡易的なもので済ませていた。

 

 儀式を見届けたデュフォーは、紙コップを片付けるとオカシラの横で腰を下ろす。

 

『さっそくだが、お前はゼオンと同じ"特殊個体"であることに加えて、生まれつきの強さ……"個体値"とでも呼ぶものが極めて高次元でまとまっている』

 

『褒めても何も出ねえぞ』

 

 オカシラは茶化そうとするが、デュフォーの雰囲気と圧が変わったことに気付き悪寒を走らせる。

 

『だが基礎ポイント、"努力値"とでもいうものは我流ゆえに無駄があるし、まだまだ発展途上だ。危ないからじっとしてろよ』

 

『……?』

 

 ゼオンはオカシラに対して気の毒そうな視線を送った後、目を反らす。これから起きる出来事を察してしまっていた。

 

 違和感。数瞬遅れて脳髄に不快な感触、異物が肉体に侵入する貫通音、そして激痛が襲いかかる。

 デュフォーの十指がオカシラの頭蓋を貫きこねくり回していた。

 怒りや憤りが生まれる以前に、何が起きたかわからないという驚きの感情がまだ勝っている状態で、デュフォーはオカシラから指を引き抜く。

 引き抜いた箇所から冗談のような湯気が立ち込め、事情を知らぬものからすれば痛ましくも、滑稽にも見える光景であった。

 

『お、お前一体何をして……』

 

『悲鳴をあげず身悶えもしないとはさすがだな。お前の脳に刺激を与えゆとりをつくった。

 そうすることでお前の"努力値”のメモリと上限値を無理矢理引き伸ばすことができる。また、新しく覚えられるわざの個数も増えたはずだ』

 

 絶句しながらも憮然と睨み返すオカシラに対し、デュフォーは悪びれる様子もなく指に付着したゲル状の体液を拭い取る。

 即戦力として採用されたのならこれくらい許容してもらうぞ、という無言のプレッシャーが放たれていた。

 

 実はこの工程を数回繰り返すことで、一度振ってしまった不格好な努力値配分を無理矢理リセットすることもできたのだが、デュフォーは手を加えなかった。

 不合理もオカシラの強さの一つだと見立て、あえて残すことにしていた。

 

『たまにモンメンの頭をマッサージしてるが、あれも関係あるんだろう』

 

『ああ。直接脳を刺激しては赤子の身体には負担が大きいから、時間をかけてマッサージという形でやっている。

 ……オレはそろそろ休むから、お前達も寝ておけ。明日から更に働いてもらう』

 

 痺れるような痛みを頭に抱えながら、『言われなくとも寝るわ』と叫びオカシラはそのまま横になり、ゼオンもそれに続く。

 新規でわざをいくつも取得し、100kmを超える距離を駆け巡り、2つのジムを制覇し、そして新たな仲間を勧誘した。

 そんな今日よりもハードになると宣言されたのに、寝付く前にパートナーを一瞥したその表情は穏やかだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「あなた達のことを待っていた。魔界の王の嫡男、『雷帝』ゼオン・ベル。そして異界から来た『アンサー・トーカー』の使い手、フォン・デュフォー」

 

 この世界で彼らへ送る開口一番の挨拶として、それはあまりにも不適切、乱暴なコミュニケーションと言えるだろう。

 だからこそ逆に、ナツメという少女の強烈な存在感とインパクトはデュフォーとゼオンにこの後も根強く残り続けたのかもしれない。

 

 ヤマブキシティは、デュフォーが元いた世界の日本でいう、首都東京とほぼ同等に位置づけられている。

 カントー地方の核となる場所であり、各都市への速やかなアクセスを求めるデュフォー達にとっては、早めに抑えておきたい重要な拠点である。

 入場ゲートは現在諸事情で封鎖されており、本来はゼオンがリスクを承知で地上からうまいこと潜入する手はずだったが、オカシラが加入したことで空から街に入ることに成功する。

 

 オカシラ加入による変化はそれだけではない。

 デュフォーを背に乗せながらも、速度強化の技を使用しているゼオンに近い速度で飛行できることで、ゼオンのワープと組み合わせて地理の問題は一気に解消される。

 またオカシラ個人の戦闘力もゼオンに比類し、なおかつ弱点の相性を補間できることで、ジムの難易度を度外視しての挑戦が可能となっていた。

 必然、彼らの足は上級者向けに位置づけられていようとも、それを懸念せずヤマブキシティのジムへと向かう。

 

 踏み入れたジムの中は、今までの2つのジムより薄暗く独特の雰囲気が漂っている。

 ポケモンが持つ生命エネルギーとも違う、かといって瘴気の様な不快なものでもない、不思議な力を感じながらゼオンはジムリーダーの少女と相対する。

 "力"の発生源が彼女だと理解した時、少女は本来ならありえないそのセリフを容赦なく2人に放った。

 

「……」

 

 ゼオンは無言、無表情のまま反射的に最大級まで警戒を高め、同時に一つの仮説を頭に浮かべる。

 この少女も『アンサー・トーカー』ならばゼオンとデュフォーの正体に至れるのではないか。元々この力はデュフォー専用のものではないのだから。

 デュフォーは特に様子を変えることなく、少女の言葉を待つ。

 

「わたしは厳密には『アンサー・トーカー』の力は所持していない。似たような存在ではあるけどね。わたしの名はナツメ。デュフォー、あなたと同じ人間の力を超えし者。この世界では超能力者(エスパー)と広い定義で呼ばれている」

 

 ナツメの説明はゼオンの知識と理解が及ぶ範疇だったため、かろうじて納得できるものだった。だがその言葉は新たな疑問も呼ぶ。

 

「待て。エスパーとやらの力で挑戦者の情報を一方的に得るのは、このジムで普通にやってることなのか?」

 

 まさか、と零しながらナツメは首を横に振る。

 

「これはあなた達にだけ特別にやっていること。

 といっても勝ちたいからやっているわけではない。カントーのジムバトルを確実に制覇してもらいたいから、むしろ協力のためといっていい」

 

「だろうな。オレ達への友好的なオーラは最初からナツメに感じられていた」

 

 当たり前に言ってのけるデュフォーに対し、お前以外にはわからんだろう、と話が見えないゼオンがすっかり慣れた態度で横から突っ込む。

 

「早速本題に入るけど、今ここでわたしに挑戦するのは止めたほうが良いと思う」

 

 ナツメはそこで言葉を区切りゼオンに視線を送る。

 目があったゼオンは訝しみながらも、自身を覗き込む瞳からミステリアスな魅力を感じ取っていた。

 

 ――ああ、こいつはデュフォーにどこか似ているな。

 

「確実にジムチャレンジを制覇するために、わざが不足しているあなたは新しいわざを取得したい。しかし実際に有用なわざを見て学ぶ機会が無い状態。

 今のあなたでは、勝てても無傷では済まないでしょうね」

 

「オレも犠牲無しで勝とうと思ってるほど甘ちゃんじゃないぞ」

 

 ――そこ心配するところか? それとも舐められているのか? 

 過保護ともいえる懸念に抱いた疑問は、ナツメにも当然即座に伝わる。

 

「あなたは今日にでも新しい強力なわざを取得するべきよ。そのためには無傷でトレーニングに専念した方が良い。

 戦力を揃えてからわたしに挑戦しても十分間に合うでしょう。

 もう一匹のお仲間(オカシラ)でもわたしには勝てるでしょうけど、あなたが戦って実践経験を積んだ方がいいでしょうし」

 

 理屈は通っている。特に否定する部分もない。だからこそ余計にわからないことがある。ゼオンもいよいよ核心的な問いをなげかける。

 

「反論する気はないが、何故オレ達にここまで肩入れする? あんたにメリットがあるようには思えないが」

 

「あなた達が存在すること自体が、この世界にとっては好ましくないの。だからなるべく早く元の世界に戻ってほしいだけ。

 ……ああ、悪い意味で受け取らないでね。あなた達は何も悪くないし、いなくなって欲しいとかそういうことじゃないから」

 

「イレギュラーなオレ達の存在が、安定していたこの世界の法則や理に影響を与えるかもしれない、ということだな」

 

 あまりにも抽象的で漠然とした話だが、デュフォーが少し噛み砕いたことでゼオンも何となく言いたい事を感じ取る。

 要するにこの世界にとって2人の扱いは、どこまでいっても突然やってきた歓迎されていない部外者ということなのだろう。

 だがその言葉に対し、ゼオンは居心地の悪さは全く感じない。

 

「ナツメはオレ達が元の世界に帰れるという前提でいるんだな」

 

「確実とまでは言えないけど、あなた達の頑張り次第では十分ありえるでしょう。

 わたしが力を合わせれば更に可能性は高まるはず」

 

 デュフォーとほぼ同等の力を持っている者の発言だ。それはただの気休めや励ましの次元を超え、ゼオンに確かな希望と標を与える。

 

「他にも理由があるんだろう」

 

 無言を貫いていたデュフォーが初めて口を開く。ゼオンも今の説明だけですべての違和感が拭えたわけではない。

 2人を帰還させた方がこの世界にとっては良い、という説明はナツメ個人が尽力する理由としては弱いのではないか。

 

「そうね、もう一つの理由はあなた達をわたしが勝手に気に入っているから」

 

 恥ずかしがることなくナツメはそれに答える。デュフォーに負けず劣らずのオーラと圧力をその瞳に宿らせ、2人をゆっくりと一瞥する。

 

「わたしもこの特別な力のせいで幼少期にあなた達と似たような苦労をした、といえば大体想像がつくでしょう。だから個人的に共感を覚えているの」

 

 ざわ、とジム内の雰囲気が淀む。

 デュフォーはかつて被検体として過ごしたあの日々を、ゼオンは王宮での日々を思い出し、かろうじて負の心とオーラを放つ直前で踏みとどまっていた。

 もしデュフォーとゼオンが逆の立場ならナツメに対し感情移入と同情はするだろう。

 率先して助けるかと言われたら疑問だが、それは個人の決断の範疇であり、ナツメが自分達を援助しようとする気持ちは理解できた。

 ならばこれ以上の詮索は野暮というものだ。

 

「十分な答えだ。そろそろ話を本題に進めるか。ゼオンが次に取得するべき技――"ノーマルタイプ"と"かくとうタイプ"について」

 

 ポケモンは自分が所持しているタイプ以外のタイプのわざも取得できる。

 ただしそれは個人の資質に左右され、一生かけて修行しても覚えられない技もある。

 ゼオンの場合は幼い頃から肉体を鍛え、格闘戦を好んでいたこともあり、ノーマルタイプとかくとうタイプの物理攻撃わざに対する適正を所持していた。

 当然デュフォーとナツメは己の力でそれを把握済である。

 

「ええ、わたしがこれから勧めるのはかくとうタイプのわざの方。効率よく取得できる環境を紹介できるわ」

 

「ならばこれからは別行動だな。ゼオンはナツメについていけ。俺はその間に色々やることを済ませる」

 

 ポケモン、法律、文化、バトルの学習に情報収集全般、ライフラインと日用品の確保に金策、パーティ構築、育成計画――

 一見ゼオンばかりが奮闘しているように見えるが、実際はデュフォーがそれ以上の仕事量を抱えている。

 それが身にしみているからこそ、ゼオンもただ己の成果をあげるべく異議一つ唱えず初対面のナツメについていく。

 

「デュフォー、朗報を待っておけ」

 

 ナツメに連れられている間どの様な事を聞こうか、どうやって会話で場をもたせるか、

 内心で気を揉むゼオンであったが、ジムを出てものの数十秒で目的地に到着したことでその懸念は杞憂に終わる。

 

「ここは――格闘道場か」

 

 エスパージムに隣接している格闘道場――かくとうタイプの技を覚えるにはまさにお誂え向きの場所だろう。

 

「腕がなるな。お前(デュフォー)が何をするかは知らないが、オレも期待以上の手土産を持って帰るぞ」

 

 意気込みを露わにするゼオンに対し、ナツメは超能力によって感知した情報を、表情を変えること無くありのまま伝える。

 

「んーと……あなたのパートナーなら、ジムの裏側に新しくできたパチスロ屋に今入ったみたいだけど」

 

「……はい?」

 

 ポケモンリーグのエントリー期限まで 残り127時間

 

 

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