名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

7 / 69
完成したので後半分を投稿。

なお申し訳ないのですが。
あらすじにある通り、前回の話の最後のシーンにおいて文章の修正を行っております。

話の内容自体には変更点は無いのですが、少しだけ描写が追加されております。
(主に煙緋の「…船隊の上空を飛んでいた?」。甘雨の「…周辺の海をも飛んでいたのですか?」。これがそれぞれ、「…船隊の上空を飛んでいた?……君にとってはそれが当たり前のことなのか?」、「…周辺の海をも飛んでいたのですか?……えっと、失礼ですが瞬詠さんは人間なんですよね?」となっています。そしてそれが当初の瞬詠の「_どう言う意味だ?自分はれっきとした人間だぞ。」と甘雨の「_人間なんですよね?」と返しています。修正前はよく読んでみると意味が通じていませんでした)

本当に申し訳ありません。

次回以降は、もう少し見直しを行って誤字脱字等のミスがないかを確認してから投稿しようと思います。


_向き合わないといけないんじゃないのか?

Side:瞬詠

 

「……簡単な話、吹いている風や揺れている波等を見て感じ取って、次の瞬間やその次の瞬間に吹く風を予測し把握する。そしてその都度、風の翼の角度や自分の飛行姿勢を最適な状態に変化させる。このようにして、その風を利用して風の翼で空を駆け続けてきたってだけの事だよ。このサイクルをひたすら瞬間瞬間毎に繰り返し続ければ空を思うように飛べるぞ。

 実際、それで船隊上空や船隊の進路方向の海域の上空を飛び回ることで船隊の捜索、それに船隊より先に目標海域や目標の島等に到達して写真機で写真を取って情報を集めたり、先んじてその島に着地することで上陸し、そのままその島の先行調査等を行い続けてきたからな…」

(…あとは急上昇や急降下、急旋回などの激しい機動や戦闘機動に入った際の話。その際の“推進力”管理関係の話は……。まぁ、別に言わなくても良いか。もしかしたら理解するのに時間が掛かるだろうし、混乱させかねないしな……。なにしろこれは個人的に、自分が得た経験から勝手に定義づけてしまったものだしな………)

 

瞬詠は、少し真剣そうな表情でそう説明する。

 

「…」

 

「…」

 

そしてそう説明を受けた煙緋と甘雨は言葉を失い、互いに顔を見合わせる。そうして唖然とした表情で瞬詠を見つめた。

 

「……は、ははっ。君には本当に驚かされるな。そんなことが出来るのであれば、これはもう“仙人”と言っても差し支えないと思うのだが」

 

煙緋は引き攣った顔をしながら、そう呟くように言った。

 

「そうですね……。ちょっと、とても信じられません。瞬詠さんが人間だなんて…」

 

甘雨も呆気に取られたような顔をして瞬詠の事を見つめたのであった。

 

「酷い言いようだな、本当に人間だぞ?___」

(___それにもしも自分が“仙人”のような、それこそただの人の域を超えた“圧倒的な力”があったのだとしたら…。今の自分のような様々な後悔、そしてその悲惨な過去や結果、それら全てを塗り替えて全てを無かった事にする事なんて出来るはずだし、そうしていたわな……)

 

瞬詠はそんな二人の様子に少しだけ眉をひそめ、苦笑いのような表情を浮かべる。

 

「……まぁ、そんな事はともかくとして。自分はそのようにして、言うなれば北斗の姐さん率いる南十字船隊の“船隊の目”として空を飛び続けてきたし、おまけに補給の為にテイワット各国にある各地の港に船隊が停泊していた時は暇潰しで各国の空を飛び回ったり、その過程で現地の人々と交流したりもしたしな」

(あぁ、本当に色々なことがあったし、色んな奴と知り合った。テイワットの各地を飛んで回った事によってな…)

 

瞬詠はそう言って肩をすくめながら、物思いにふけるかのようにほんの少しだけ目を細める。

 

「…」

 

「…」

 

そうして瞬詠の言葉を受けた煙緋は開いた口が塞がらずに目を見開いて瞬詠の事を見つめ、甘雨も驚きのあまりに口を開けて固まってしまっていた。

 

 

 

 

 

「…うん?」

 

そして煙緋は瞬詠が何気なく放ったとある言葉に気づき、ハッとしたかのように目を大きく見開く。

 

「…成る程、瞬詠は南十字船隊の“船隊の目”として活躍してきたわけだな」

 

煙緋はそう納得したかのように一人で頷く。

 

「“船隊の目”…か。言われてみれば確かにそうだな。___」

 

瞬詠も煙緋の言葉に納得したかのように頷く。そして言葉を紡ぐ。

 

「___“船隊の目”、ひいては“北斗”の姐さんの目”として海の上を飛び回り、それらを元に北斗の姐さんに自分の考えや意見を進言したり、場合によっては逆に北斗の姐さんの方から意見を求められたりしたからな…。それに自分は空を飛び回って来たことで、“綺麗なもの”や“美しいもの”…そして、“汚いもの”や“醜いもの”やらまで…。まぁ、色んな光景を見てきたからな」

 

瞬詠は目を閉じながら、過去を思い返す。

 

「それで極めつけは“あの数日間の悪夢で地獄のような海戦”だよ。___」

 

瞬詠はそう言うと目を開ける。それは何処か遠いところを見るような、そんな眼差しを。

そしてその瞳の奥底には後悔、そして憤りのような感情が渦巻いているように見える。

 

「___あの日のあんな空、あの中を必死に飛び回っては、姐さんを援護するため。そしてあの化け物の目を潰すために、あの化け物に向かって何度も突撃を繰り返しては、化け物の目を斬り潰しては刺し潰し、色んなものを投げつけたり放っては、奴の目を傷つけたり目くらましをして視界を奪ったり、そうして仲間の船隊の船や死兆星号、そして仲間達や姐さんを守り抜くために囮になって、奴の目の前や周囲で奴を引っ搔き回しながら飛び回って奴の意識を自分の方に向けさせたり…___」

 

瞬詠は静かに独り言を呟くように言葉を続ける。

 

「___まぁ、とにかく死に物狂いであの空を飛び回って抗い抜き、そうして何とか生き残ったんだ……。だが、結局残ったもの、それに残されたのは…」

 

瞬詠はそこまで言うと口をつぐむ。そして神妙な表情を浮かべる。まるで疲れ切ったとでも言うように、そして生きる活力を殆ど失ってしまったかのように、小さくため息を吐いて。

 

「…そう、だったのか。…君は、大変だったんだな」

 

「…そう、なんですね。貴方が、今まで生きてきた環境、それにその日に起きた事…。それはある意味、毎日が厳しい冒険のようなもの、そして死と隣り合わせのような場所にいたようなものなのでしょうね」

 

そして静かに瞬詠の独白に耳をかたむけていた煙緋と甘雨は、優しく慰めるかのような声音でそう言う。そうして煙緋と甘雨は察したかのように、瞬詠が生きてきたこれまでを想像するかのように真剣な表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

「…」

 

「…」

 

瞬詠が話したことと言うのは、人生の中で一番過酷な出来事であり、その過酷すぎる出来事を何とか乗り越えたという事なのであるのだが。

 

 

 

 

 

「…」

 

この悲惨で凄惨、そしてこの過酷すぎる出来事を乗り越えるまでの力を得るまでに、彼は一体どれだけの壮絶な苦痛や苦悩、そして絶望を味わったのだろうか、と。

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

「…」

 

そうして二人は同情するかのように、心配そうな表情で瞬詠の事を静かに見つめる。

 

今の瞬詠の何処か達観しているかのような雰囲気。その裏側にどのような感情が秘められているのか、それは二人には分からない。

だがそれでも二人は瞬詠に対して同情や励ましの言葉を投げかけたかったが、何を言えば良いのか、どんな言葉を掛ければ瞬詠の心の傷を癒せるのか、その術が直ぐには思いつかなかった。

 

 

 

「…あ、あの瞬詠さん」

 

そして甘雨は何か思い立ったかのように、おずおずとした様子で瞬詠に話し掛ける。

 

「…ん?…どうした、甘雨?」

 

黄昏ていた瞬詠は甘雨の呼び掛けに反応し、彼女の事を見る。

 

「はい。瞬詠さんってテイワット各地を飛び回ったって行ってたじゃないですか?“稲妻”は結構詳しかったりしますでしょうか?___」

 

「…」

(…“稲妻”か。懐かしいな、良くも悪くも“色んな事”があったな…。それに色々とお世話になった“神里さん達”のため、そうして大切な友人でもあった“彼女”のため…)

 

瞬詠は顔には出さないが、甘雨の質問に対して少し懐かしむような僅かな笑みを浮かべ、そして少しだけ胸くそ悪いような、苦虫を嚙み潰したかのような表情をほんの僅かに浮かべる。

 

「___…それに“八重神子”さんや“狐斎宮”さんとかはご存知だったりするんでしょうか?」

 

そして甘雨は瞬詠にそう質問し、話題を転換した。

 

「“八重神子”に“狐斎宮”だって?___」

(___“八重”さんか、随分と懐かしい名前だな……。だが、“狐斎宮”……)

 

甘雨の質問に対して驚きのあまり一瞬目を見開き、瞬詠は顎に手を当てながら少し思案する。

 

「___…“八重”さんは知っているし、むしろあの人、いや“人”…なのか?まぁ、一応は顔見知りで知り合いではあるが…。“狐斎宮”って誰だ?…いや、その前に何で甘雨は八重さんの事を知ってるんだ?」

 

瞬詠は首を傾げ、興味深そうな表情をする。黄昏ていた瞬詠は、何故か甘雨が神子の事のことを知っている事に対して驚いたのだ。

 

「えっと、それはですね。実は私と八重さんは、昔から璃月と稲妻の間の事務的なやり取りをしたり__あっ」

 

そして甘雨が説明しようとしたら何かに気づいたのか、甘雨は突然口籠った。

 

「…どうしたんだ、甘雨?」

 

「…甘雨先輩?」

 

瞬詠、そして煙緋は急な甘雨の変化に不思議そうにする。

 

「いえ、この話は歩きながらしましょう。もうそろそろ時間です。今からでも次の場所に行かないと、瞬詠さんをこの璃月港を案内しきることが出来ません」

 

甘雨は本来の目的を思い出したかのように、瞬詠と煙緋の二人に説明する。

 

「まだまだ見るべき場所や知るべき場所がたくさんあります。次に行く場所は七星八門の“総務司”という場所で、ここから少し離れていますので、そろそろここを出て向かわないと間に合わないかもしれません」

 

「そうか、それもそうだったな、甘雨」

 

「なるほど、確かに。甘雨先輩が私の法律事務所に訪ねてきた理由はそういう理由だったな」

 

瞬詠と煙緋は納得したかのように頷く。

 

「はい、なので早く行きましょう、瞬詠さん。煙緋さん、お邪魔しました」

 

甘雨はそう言いながら立ち上がると、煙緋にお辞儀をする。

 

「そうだな、甘雨。それじゃ行こう。煙緋、邪魔した。…これからの自分の立場や煙緋が有名な法律家という事が相まって、もしかしたらこれから長い付き合いになっていくかもしれないと思う。だから、その時はよろしく頼む」

 

そうして瞬詠も立ち上がる。そして煙緋に瞬詠はそう言い、軽く会釈をした。

 

「ああ、こちらこそだ。君の活躍を期待しているぞ、瞬詠」

 

煙緋もそれに返すように、同じように頭を下げた。

 

「それでは失礼致します」

 

「失礼した」

 

そうして甘雨、瞬詠の二人は改めて丁寧に頭を下げる。そして二人は煙緋法律事務所の扉をくぐり、そのまま事務所の扉を閉めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————————

 

「…」

(…本当に色んな事があったな)

 

煙緋法律事務所を出た瞬詠は黙りながら、甘雨と共に道を歩く。

 

 

過去の出来事が思い出されていく。

 

 

 

様々な人々と出会い、交流し、そうして次の再開を約束して別れる。

基本的には、これの繰り返しだった。

 

 

 

「…」

(…そう言えば璃月港に“彼女”がいたよな。彼女は今どうしているのか。…いやまぁ、元気か。いやでも、顔くらいは…)

 

瞬詠はふととある少女の姿が頭に浮かびあがり、そして少し苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 

「はぁ、何をやっているんだか、何を考えているんだか、自分は…。いや、いい加減に___」

(___自分は向き合わないといけないんじゃないのか?もしもこのままだったら、悲しませたままだぞ…?いい加減にしろよ!死にぞこないの自分はさ…!)

 

瞬詠は静かにそう呟く。そしてその瞳には、強い意志が宿り始めていた。

 

 

 

「___少し先を急ぎましょう。瞬詠さん。煙緋さんの所で思った以上に時間を使ってしまいました」

 

その時、甘雨は少し早歩きで駆け出し始める。

 

「あ、あぁ、そうだな。えっと、次は“総務司”だったか?」

 

そうして瞬詠もそれに合わせるように早歩きしながら二人は璃月港の街中を歩く。

 

「はい、その通りです。緋雲の丘にある総務司、あそこは輸送関連を中心に担っている“和記庁”や鉱業関連を担っている“輝山庁”、また塩業関連を担当している“銀原庁”とは違って、七星八門の中では何か専門的な事を取り扱っているという事では無いのですが、ありとあらゆる様々な実務を司っている所なのです」

 

「…あぁ、つまりはありとあらゆる様々な実務を行っている政府機関、という事であっているか?」

 

瞬詠は甘雨の説明に、自分なりに理解しようとしているのか少し顔を引き締めながら、甘雨にそう尋ねる。

 

「はい、その認識であっていますよ。…う~ん、そうですね。一番分かりやすい具体的な実務と言えば、璃月や璃月港の治安維持、また公共の安全を確保する事とでも言えるのでは無いでしょうか?つまりは分かりやすく言えば総務司という場所と言うのは、『千岩軍の本部』機能を兼ね備えた、璃月の要と言っても過言ではない場所なんですよね」

 

甘雨は分かりやすく嚙み砕いて説明する。

 

「ほう、それは凄いな……。治安維持や公共の安全の確保…か。なるほど、確かにそうだな。璃月港を守る警察のような治安維持組織から、また璃月に蔓延る魔物の対処は璃月の軍隊とも言える彼らの役割になるから、それは正しく千岩軍が果たす勤めであり、彼らの仕事になるな」

 

瞬詠は甘雨の説明に納得する。

 

「えぇ、その通りです。……そんな璃月の治安を保っている彼らの本部である総務司は、今日私達が向かう場所でもありますよ。それにもしも運がよろしかったら、総務司を通じて面白い光景も見れるかもしれません」

 

そして甘雨は歩きながら瞬詠の方を見て、微笑む。

 

「面白い光景?一体どういう事だ?」

 

瞬詠は甘雨の言葉の意図が読み取れず、訝しむような表情を浮かべる。

 

「ふふ、それはですね…。その時のお楽しみとでもしておきましょうか?」

 

「はぁ…?おいおい、甘雨。それは一体どう言う……」

 

「まぁまぁ、行けばきっと分かりますから。…それに実は私も、実際に何が行われているのかは分からないのです。まぁ、“刻晴”さんでしたら、その日は千岩軍が何を行うのかを把握しておられていると思います」

 

「“刻晴”?あの女がか?」

 

甘雨の言葉の中で出てきた“刻晴”という名前に、瞬詠は意外そうにする。

 

「えぇ、はい。その通りです。実はあの人、___」

 

そう言うと甘雨は何やら楽しげで面白そうにクスリと笑う。

 

「___千岩軍の監督役を務められているんです。そして彼女自身もそれ相当以上の実力者でもある事から千岩軍の将をも兼任しており、そうして璃月の軍事を司る人物でもあるのです」

 

「えっ、あの女、そうだったのか?」

(刻晴の奴がか?)

 

甘雨のまさかの言葉に、瞬詠は意外そうにしたのであった。

 

 

 

 

 




次回は前々回、同時並行で進めていたという話になりますので、これも早めに投稿できると思います。

取り合えず、問題が起きなければ一週間以内には投稿できると思われます。



なお余談になりますが、前回と今回の煙緋視点の話は以下の通りになります。
・煙緋視点(「煙緋法律事務所と来客者達」)
https://syosetu.org/novel/288162/16.html

興味があれば彼女視点で読んでみると、煙緋が見せていた反応は何を考えたものだったのか、また何を感じていたものなのか、また甘雨と瞬詠が煙緋法律事務所を訪れる前は、煙緋は何をしていたのかが分かりますため、より楽しめるのではないかと思われます。




そしてこれも余談になりますが、今年の海灯祭も中々面白かったですね。(まだ後日談はやれていませんが…)
ネタバレになってしまうので詳しい事は避けますが、甘雨と申鶴の仲が微笑ましかったり、また海灯祭3日目にあったギャグシーンと言えばいいのか、とにかく笑ってしまったシーンも多々あり、そうして最後の璃月港でのシーン(ストーリームービーで公開されてもいる)の嘉明の格好良さ、そしてちょっとしたアクシデントに対する閑雲の気の利かせた対応、そうして最後のシーンではとても感動しました。

本当に良かったです。来年も楽しみです。


海灯祭を祝して


—————
追記1
・本文中に誤ったクォーテーションマークがありましたため、それの修正を行いました。(“船隊”の目”→“船隊の目”)

追記2
・前書きを追記修正しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。