召喚とかいう無から生物が出現する現象を個性の一言で片付けるのやばない?   作:そるしあ

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シガールルルァキィー

 

 

 

「わぁおぅ」

 

「あぁ?」

 

口を半開きにしながら変な声を出した俺に向け、ヴィランの片方がガンを飛ばしてくる。

 

特に攻撃を受けることもなく地上に降り立ち、改めて二人のヴィランの姿を間近で認識するまではよかった。

 

よかったんだが、問題は目の前のヴィランの姿よ。

 

いやすんごい手ェ!

 

もう一方に気を取られていたり、遠目すぎていたりで、先程ガンを飛ばしてきた方の姿をまともに認識できていなかったんだけども。

 

なんというか、たくさんの数の手の模型?が体中にくっついているのだ。

 

なにそれ……こわ……。

 

そんなんもう手手手ー手・手ー手手じゃん(?)

 

この際、全身に手を装着するとかいう悪趣m……奇ばt……。

 

……えー、そう、斬新すぎるファッションについては目を瞑ろうと思う。ぎゅっ。

 

いや全然よくはないんだが、とりあえず今は一旦棚に上げることにする。

 

そんなことよりも、だ。

 

その手はどうやってくっついてるんですの???

 

あーた戦闘とかで結構激しめの動きをしてらしたんじゃございやせんこと???

 

謎すぎてお嬢様口調がまろび出てきますわよ!

 

見たところ、全体的に自立して離れないような構造は見受けられないんだが。

 

もしや、全身に手をくっつけることができるとかいう、えらく局所的な個性なのかな。

 

そんな個性、あんまりだよ……! こんなのってないよ……!

 

それか個性とは関係なく、ただ強力な接着剤みたいなのでわざわざ貼り付けただけとか。

 

え。

 

顔面にも!?

 

今どきの若者はファッションのためなら不利益を顧みないとは聞くが……。

 

それはちょっと不利益がすぎるんじゃないかな。

 

いくらなんでも覚悟が決まりすぎている。

 

そりゃそんなガンギマった目にもなるよなぁ!

 

「お前ら、なぜ戻ってきた!」

 

そんなこんなで状況とは関係ないところで錯乱していると、俺たちの急な登場に目を剥いていた相澤先生の声が響いた。

 

それと同時に、周りを取り囲んでいた下っ端ヴィラン数名が襲いかかってくる。

 

ヒーハー! とか叫びながら。手に黒いマヨネーズを持って。

 

どんな個性やねん。

 

「チィッ」

 

相澤先生が舌打ちし、即座に動こうとする。

 

だが、それよりも早く放たれた巨大な氷塊が、それらのヴィランを一瞬で氷の彫像へと変えた。

 

「なぜって、加勢ですよ」

 

そして、紅白男子による決めゼリフが、妙にキラキラしたエフェクトとともに放たれる。

 

なんか紅白男子がかっこいいことしてる!!!

 

ご丁寧に前髪まで掻き上げちゃってまぁ!

 

ずるい! 俺もそれやりてぇ!

 

俺も負けじと勇んで周囲を見渡すが、あの派手な一撃に怯んだのか、それ以上近づいてくる者はいなかった。

 

玉無し共がよぉ!

 

まぁ俺は物理的に無くなったんですけどね。

 

わはは。

 

下ネタやめてね。

 

ひとまず俺も形だけでも入っておくべく、前髪を掻き上げてみることにする。

 

スッ

ブスッ

アウチッ

 

勢い余って指先が目を直撃した。

 

いてえ。

 

「また変なのが湧いてきた。ま、ボス戦前の連戦はゲームの定番ってところか」

 

そんな俺たちの様子を見ながら、例の手のヴィランが首筋をポリポリと掻き、ダルそうに呟く。

 

なんやお前、舐めとんちゃうぞこらぁ!

 

ボス戦前の連戦がどれだけプレイヤーの精神を削るか知らんのけ!

 

その鬼畜仕様でどれだけの勇者が散っていったと思ってるんだ。

 

許さんぞDQ2!*1

 

これ以上舐められないためにも、ぴこちゃんと一緒に唸りを上げることにする。ぐるるぁ。

 

鼻で笑われた。

 

きさまー。

 

「ダメだ! 今すぐここから離れろ!」

 

そうして俺たちが構えを取った瞬間、相澤先生の切迫した制止の声が響き渡った。

 

「あいつらは危険すぎる。特にあの脳無とかいう黒い肌のヴィラン。……紗守名の眷属もあいつにやられた」

 

───そして、その一言が耳に届いた途端、世界から色彩が剥落した。

 

顔や指先の筋肉から力が抜け、瞳孔が冷える感覚を伴って、視線が目の前の黒いヴィランに固定される。

 

だが、それもほんの一瞬のこと。

 

思考に割り込もうとする黒い澱みを振り払うように首を小さく振る。

 

同じ轍は二度も踏むまいと、肩の上のぴこちゃんへと目を向ける。

 

ぴこちゃんが顔をスリスリと擦り寄せてきた。

 

は? かわいすぎる。

 

これには心の中のジャッジマンも「有罪(ギルティ)」からの「尊死刑(デス・ペナルティ)」宣告だ(?)

 

紗守名の心は乱れた。

 

そうして取り繕ったが、一瞬の「それ」は周囲の空気を一時的に飲み込むに足るものだった。

 

相澤先生は僅かに目を見張り、紅白男子は眉間の皺を一層深くする。

 

そして。

 

「……へぇ。いい顔するな、お前」

 

手のヴィランは、ゾッとするような暗い愉悦をその笑みに滲ませた。

 

 

 

------------------------------

 

 

 

突然だが、ゆにちゃんはとても “はやい” 。

 

様々な個性が溢れるこの社会においても、ゆにちゃんに比肩する “はやさ” を持つ者は相当に少ないだろう。

 

そして、それは純粋な移動速度のみに限定されない。

 

以前俺の脳内で開催した、第192回「愛しの我が子ちゃん達のすごいところを語ろうの会 ~ゆにちゃん編~」の一部を引用すると次の通りだ。

 

まずは一つ目。先程も挙げた移動速度。

 

ハヤァァァァァいッ説明不要!!! 今更語るまでもない程の超スピードだ!!!

 

次に二つ目。反応速度。

 

どんな攻撃も瞬時に躱すその様はまさに “当たらなければどうということはない” と言わんばかり!!!

 

続いて三つ目。加速度。

 

───主の命が下された時、その出足は音すら置き去りにする─── きっとたぶん

 

そして四つ目。食事速度。

 

食べるの早すぎて喉に詰まっちゃわないか、俺ちょっと心配になっちゃう!!!

 

とまぁこのように、ゆにちゃんの持つありとあらゆる “はやさ” は他の追随を許さないほどに秀でている。

 

ちょっと余計なのも混じってた気もするけど。

 

さて、先ほど並び立てた要素の内の幾つかは、戦闘中に取り得る行動の中でも “逃げ” の場面において特に求められる要素だ。

 

それらの要素が抜きん出ているということは、即ち “逃げ” においてゆにちゃんは抜きん出た性能を有しているということになる。

 

では、翻って現状に目を向けてみよう。

 

なんやかんやあって、相澤先生を連れて一度撤退することにした我々は現在、急いで奴らから距離を置こうとしているところだ。

 

というのも、相澤先生が頭部から血を流しながら気絶しているため、可及的速やかに止血処理を行う必要があるのだ。

 

直撃こそ免れたが、まさかあの一瞬であそこまで踏み込んでくるとは、まっこと恐ろしいヴィランよ……。

 

そして、それを為し、今も尚我々の行動を邪魔立てしやがっているのは許されざるくそぼけあほかす筋肉ダルマ、怪人脳無。

 

奴は縦横無尽に駆け回るゆにちゃんを撃墜すべく、背後から猛追して来ているのだ。

 

・・・・・・そう、全力で “逃げ” を打つゆにちゃん相手に猛追して来ている。

 

おかしくない???

 

さっきゆにちゃんに比肩する “はやさ” を持つ者は相当に少ないってドヤ顔で解説したばかりなんだけど。

 

もっと言えば、奴には翼も無ければ移動系の個性を使っている様子も見られないので、奴は素の身体能力だけでゆにちゃんに迫っていることになる。

 

マジで? コレおま全部生身で?

 

数多の移動系個性の優位性を、筋肉ただ一つで凌駕するような所業はどうかと思うんだ。

 

筋肉は全てを解決するってよく言うけど、本当に筋肉で全てを解決しちゃうのはちょっと話が違うんじゃないかなぁ!!!

 

なお、チラリと脳裏を画風の違うおじさんが過ぎった*2*3が、そちらは気にしないこととする。

 

あれはもうなんかそういう存在だからね、仕方ないね。

 

それを思えば、脳無とかいうヴィランが、「オールマイト殺しの実行役」とやらで抜擢されているというのはある意味で納得感があるかもしれない。

 

さて、そんな脳無の猛追に対し、ぴこちゃんが冷気を振り撒き、紅白男子が氷壁を幾重にも築いて足止めを試みているわけだが。

 

しかし、その全てが無意味。

 

無理・無駄・無駄無駄無駄無駄ァーーーッというカスの3Mが繰り広げられているのが現状だ。

 

氷を粉砕し、冷気を物ともせず、ただ純粋な暴力性だけを漲らせて筋肉の塊が迫りくる。

 

怖すぎて滅。

 

もう全然恐怖してる。おしっこチビりそう。

 

ちょっとグロめな巨躯の怪物が、岩とか地面とか粉砕しながら背後に張り付いてくるこの絶望感。

 

これもうホラーだよ。ジャンル変わっちゃってるって。

 

俺バイオとかで見たもん、こんなシーン。

 

そんな俺の恐怖を嘲笑うかのように、一瞬、本当にわずかに生じた「隙」を奴は見逃さなかった。

 

ゆにちゃんのステップが、瓦礫の破片に僅かに狂わされた刹那。

 

視界が、漆黒に塗りつぶされていく。

 

巨大な、あまりにも巨大な拳が、眼前にまで肉薄しようとしていた。

 

あ、これ、ダメなやつ───

 

脳裏に、先程見た光景がフラッシュバックする。相澤先生をパンチの風圧だけで叩き伏せ、昏倒させたあの暴力。

 

あんなのを生身で、しかもこの至近距離で受けたらどうなるか。

 

───頭がパーン!*4

 

ああ……走馬灯が見える───

 

 

 

らん、らんらららんらんらん。

らん、らんらららん。

 

どこからともなく、少女の透き通った歌声が聞こえてくる。

 

不思議と恐怖はない。なんか金色の野にでも降り立ちそうなほどに心は穏やかだ。

 

ふと、幼き日の光景が蘇る。

 

まだ個性が発現して間もなく、検査の間しか我が子達に会うことを許されていなかった頃。

 

病院の先生らに内緒で、後ろ手にぴこちゃんを隠しながら家に連れて帰ろうとしたことがあった。

 

しかし、途中でバレて、取り上げられそうになる。

 

『なんにもいない。なんにもいないったら! きちゃだめ!』

 

『眷属です。やはり隠れて連れ帰ろうとしていたか。渡しなさい、翔華』

 

『いや! なんにも悪いことしてない!』

 

『強力な眷属と幼い君とは、同じ屋根の下ではまだ住めないのだよ』

 

『ああ! お願い、離れ離れにしないでぇ! お願い───』

 

 

 

───いやこれなんか別の混じってね?

 

そんな思考を脳内で完結させるよりも早く。

 

「離れろぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

鼓膜を震わせる絶叫とともに、横合いから何かが閃光のように割り込んできた。

 

 

「SMAAAAASH!!!!!」

 

 

俺の鼻先をかすめるほどの超至近距離で、大気が爆ぜる。

 

走馬灯のBGMを爆音で掻き消して、脳無の巨体が土煙の中へと消えていった。

 

 

 

*1
飛び火

*2
私が来た!

*3
←来るな

*4
グルメレースMAD

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