R-15です。直接的な性描写はありません。
新年を迎えるというのに年越しそばを食べなくなったのはいつだろうか。――それ以前によくよく考えてみたら、年越しそばというものを食べた経験が無い気がする。
東京のアパートの一室、壁から通り抜けた寒さを強引に中和するために稼働するエアコンの稼働する音。小さい机に肩を並べて年越しそばを食べる。
「今年も終わるねぇ」
「あぁ」
一年前の自分はアイドルになって、プロデューサーと恋人になっていることは考えられるだろうか。そして大晦日に並んで年越しそばを食べるなど――
プロデューサーの自室で一緒に過ごす。音楽番組に呼ばれていないのは悲しいが――いや、そもそも霧子が18歳未満のため参加できないか。
「来年はどうする?」
「う~ん、どうにもこうにも霧子の大学受験を考えないとなぁ」
「――そうだねぇ」
本当は私との関係をどう深めるのか訊きたかったのだが。テンプレのように「私じゃなくって他の女の事考えてる」と言っても良いのだが、どうしようもなく仕事人間の彼に嫌われたくないと思って何も言えなくなる。
「……あ、ごめん。嫌だったよな。お家デートなのに他のアイドルのこと言って」
「ううん、Pたんがワーカーホリックなのは今に始まったことじゃないし」
「う……すまない」
小型テレビでは惰性的に場所もよく分からない寺院の光景が映し出されている。別のチャンネルでは人気アイドルがライブをしている様子を中継で見れるが見ない。ライブを見始めるとプロデューサーが仕事モードに入るからだ。事務所のテレビで録画しているから気にはならないが少し残念でもある。
「今年は――なんか色んなことがあって、密度がすごかったよ」
「確かに。――結華に会って、一目ぼれしてスカウトして……アイドルにも俺の恋人にもなってくれた」
彼はしみじみと言う。――彼は雑談しながらだと食事が止まってしまうのでここで会話を打ち切ろうかと考えたが
「だから……ありがとう」
「――! ……うん、プロデューサーも私に出会ってくれてありがとう」
本当に彼は、不意打ちで私を喜ばせてくれる。
*
そのあとは結局のびた蕎麦をすすって、彼の家で積まれていた死にゲーをああでもないこうでもないとプレイして。2時を超えた辺りで脳が限界を迎えた。
「そろそろ……寝る?」
「あぁ……そうしよう」
彼が少し様子のおかしいことに気づかずにいそいそと寝る準備を行う。といっても、玄関のカギを確かめたりトイレに行ったりだが。
結華がトイレから出ると彼は台所で薬とともに水を飲んでいた。
持病らしい。彼は「頭の病気」と言うだけで恋人である結華にはその正体について答えようとしなかった。寛解の兆しは見えているらしく、最近薬の量が減ったことを嬉しそうに彼女に伝えたことをよく覚えている。
結華は布団に潜り込む。この狭い部屋に寝具は1組しかない。
恋人なのに、未だに恥ずかしい。下着は普段使いのナイトブラだが……果たして今日は見せるのか。
「じゃあ電気切るよ」
部屋の電気が消える。周囲が何もわからなくなり、彼がベッドに近づく足音が聞こえる。
「ようこそ、Pたん。布団の中は温めておいたよ」
「ん……うん……」
いつもの軽口を返してくれない。普段なら「苦しゅうない」とか「そんな短時間で温まるわけないだろ」とか返すのに。
変だと思って彼の顔があるあたりを見つめたが気づかれた様子はない。
掛け布団が捲られ、寒い空気がなだれ込む。すぐに彼の体で蓋がされたが布団の中が少し冷えた。
そして抱きしめられた。いつものような包み込むものではなく、全身でしがみつくように。結華の控えめな胸がつぶされて、脚に彼の冷え切った足が絡みつく。
「……どうしたの? 様子がなんだかおかしいけど」
たまらず訊いてしまったが、彼は咎めることもなく「あー……」と唸り自身の頭を何度か叩く。
「薬が切れた」
「薬って……いつも飲んでるアレ? さっき飲んだじゃん」
「さっき飲んだから……効き始めるのは1時間後か2時間後ぐらいか」
会話が微妙に成立していない。脳にかかっている圧迫感が会話を鈍らせてるのだろう。
「だから……ごめん。少しだけ甘えさせてほしい」
頭を撫でられる。彼の鼻が結華の頭に触れるのを感じる。
いつも甘えているばかりで、甘えられるというのは珍しい結華としては少し恥ずかしい。
「Pたん――! もう……三峰の匂いは落ち着くの?」
「……あぁ」
「えっ」
照れ隠しのつもりでからかったのだが、呆気なく肯定され、たじろく。相当弱っているらしい。
結華は腕を広げ彼を誘う。
「――おいで」
「――……あぁ」
彼は結華の体を覆い、190を超える長身が150程度の華奢な体を潰す。
「え、ちょ、重――」
「ごめん……」
離れようとする彼を強引に抱きしめ逃げられないようにする。
「大丈夫だから、ね? ちょっと重いけど、私の身体になら全ての体重をかけても大丈夫だから……ね」
「……ありがとう」
彼は結華の匂いを嗅ぐために彼女の首元に顔をうずめる。顎が肩口に刺さって少し痛い。
思っていることを隠しながら結華は彼の頭を撫でる。
「……もう少し強く抱き締めても良い?」
「うん、いいよ――Pたん」
さらに結華の胸が押しつぶされる。脂肪の塊がない分、あばら骨が更にきしむ。
彼の太ももが結華の股座を圧迫する。
彼の吐息が結華の首筋を撫でる。
(これは――ちょっとなぁ)
圧迫感が結華を悦ばせる。彼の頭の匂いが鼻腔をくすぐる。
落ち着いたのか彼の寝息が結華の心をときめかせる。
苦しいのが快感に繋がるとは思いもよらなかった。
(甘えられるのが嬉しいのかな……それとも、私がMなだけ?)
ベッドに縫い付けられている現在、ふつふつと湧く性欲を抑えることはできない。
朝起きたら押し倒そう、と結華は決めた。
*
朝に起きた彼はとりあえず自身の体の下にあった結華の体の容態を確認する。
――よかった。どうやら外傷はないらしい。
自分の不甲斐なさに嫌気がさす。まさか精神安定剤の効果が切れて年下の華奢な恋人に覆い被さってしまった自分が情けない。
「えっと……生きてる……? 寝てる……だけ?」
彼の耳は結華の吐息をとらえ、彼の胸は接触している彼女の胸の中に収められた心臓の動悸を感じる。
起き上がろうと静かに体躯を上げようとしたが結華の腕が尚も彼の胴を抱きしめ続ける。
やや強引に彼女の体を仰向けから横にした。少なくともこれで恋人の体で圧死などということは免れるだろう。
「ごめんな……情けない彼氏で」
スーツを着ていない自分が張りぼてであることは自覚していたが、まさか恋人に文字通りの負荷をかけてしまうとは。
せめてもの贖罪のため彼は結華の頭をやさしく撫で、軽く抱きしめた。
*
目が覚めた結華は自分が下敷きから脱していることに気づいた。
少し体が痛い。彼と結華で体重の差は目測30kgはあるはずだ。
今は……軽く抱き留められているだけか。
名残惜しい。あの情熱的、もしくは病的な抱擁は感じ取れないだろうか。
「おはよう、結華」
「……おはよー」
どうやら彼が結華の起床に気づいたらしい。
いつものように好青年な彼。
(私を甘えさせてくれる――彼)
なるほど、同じ事務所の毒舌高校生アイドルがあんな風な態度をプロデューサーにとっていた理由が今ならわかる気がする。
「さて、明けましておめでとう。朝食は――うわっ!?」
彼を強引に押し倒す。モラルなど考えない。
――あの、弱い彼をもう一度見たい。か弱い私にも縋り付く衰弱したあなたを……
「え、急に押し倒して……どうした?」
「――昨夜のお礼、まだもらっていないから」
「それは――」
喋ろうとしている彼の会話を強引に打ち切るように唇を自身の唇でふさぐ。水分が飛んで粘つき臭い唾液を彼の口内に強引に流し込む。
「だからこれから姫初め、しよ? ……昨夜みたいに甘えてもいいからさ」
*
三峰結華は性欲が強い。これは恋人に執着しやすい、所謂メンヘラ一歩手前である精神構造にあると自覚している。
だからこそ、彼が自分の体に縋り付き獣のように貪る瞬間が好きだ。
「あっ……あぁ……」
今のように。
結華の上に覆いかぶさっていた彼が果てた。彼が脱力し、結華の体を押しつぶす。
「――結華」
「なぁに、Pたん」
彼の頭をなでる。お互いが裸で痴態を晒しているくせに、その姿はまるで子供の様だ。
「……もう少しだけ、こうしたい」
「……うん、いいよ」
ありがとう、と彼が結華の体をさらにきつく抱きしめる。
*
朝食は情欲と悦楽にふけっていたため、ブランチとして昼食を作る。
といっても、適当な顆粒出汁と醤油・塩・冷凍庫に保存されていた名前も分からない青菜や肉と一緒に餅を煮込んだ雑すぎる雑煮だ。
テクニックも何もない料理に違わずの雑な味だったが、悪くはない。
小さな机に肩を並べて雑煮を食す。小さなテレビでは正月定番の代わり映えしない番組が垂れ流されていた。
「Pたん」
結華は彼の腕に甘えるように絡みつく。先ほどの情事では慣れない“甘えられる”ことをしたが、やはり彼に甘えるのも好きだ。
「どうした?」
あれ程の痴態を見せていた彼が今では凛々しい顔でこちらを見ている。そのことが少しおかしくて。
自分だけが彼の弱い部分を知っているみたいで――
「――今日、どうする? 初詣行く?」
「人が多いからあんまり行こうとは……」
「Pたんって案外出不精だよねぇ……」
テレビの無駄に装飾された画面を惰性的に眺めながら、結華は恋人と過ごす初めての正月をどうすべきか思案し始めた。
2023年、私は初めてss書きになった……のですが
なんなら、合同誌の企画に寄稿したりもしたのですが
アーマードコア6の記憶しかねぇ!
ちなみに私は三峰・凛世推しです。普段はPはづ狂いだけど。