ローグライクなスタンド使いのキヴォトス新生活記録   作:enigma

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資格試験の勉強とか、ブルアカの各種イベントとか、新しい生活に向けた準備とか、色々とやってたらもうこんな時期・・・前回投稿一か月以上前とかマジ?

とりあえず、水着カンナが可愛くて癖に刺さったのとついでにビナー君対策でお迎えしました。フブキはハフバと水着アリウス目的で見送ってます。

---追記---
虗様、7話の誤字報告ありがとうございます!


【不払い賃金】と【キヴォトスの大人】

「えええええええええええええええっ!!?ど、どどどどど、どういうことなんですかそれぇええええっ!!」

 

それはアビドス商業地区に存在する、とある10階建てのビルの最上階で起こっていた。

社長室と思われる立派な調度品や家具の置かれた広い部屋の中で大声をあげて騒ぐのは、アビドスの制服に身を包んだ少女・・・梔子ユメ。

連日の疲れが積み重なっているのか少々クマを浮かべ疲労感を漂わせる顔を驚愕の表情に歪め、相対している人物に向けて何かを問い詰めているようだった。

 

「ふぅ~~~~~~~・・・・・君ねぇ、何度も同じことを言わせるものじゃあないぞ。」

 

それに答えるのは、彼女の視線の先にいる存在・・・【CEO】の立て札が乗る、いかにも高級そうな大型デスクに片肘をつき、恰幅の良いデザインの体全体を明後日の方向へとむけて葉巻を燻らせる一体のアンドロイド。

 

 

「いいか?我が社では労働者全員に紙面で雇用契約書を書かせる規約になっている。正規社員もアルバイトも関係なく、だ。加えて、労働時間の管理は全て各々が打刻する専用のタイムカードで行い、給料日の前日までにそれらを提出する決まりなのだ。さて、先程君は私がタイムカードと雇用契約書の提示を求めた際、何と答えた?タイムカードも、雇用契約書も、まるで知りもしなかった・・・そうだな?」

「は、はい・・・そうですけど・・・でも、私の時は本当に口頭の契約だけでいいって・・・それに、タイムカードの話もなかったし・・・」

「そんなことは私の知ったことではない・・・・・・フゥ~~~~~~・・・つまりだ、君は我々に対して自らの労働時間を証明できるものはなにも持ち合わせていない・・・というより、そもそも雇用契約の証明自体出来ないということだ。こんな輩においそれと金をくれてやる道理など我々には無いのだよ。」

「け、けど・・・!でも!私、これまでずっとここの運送で毎日働いてたんですよ!?週95時間仕事をし続ければ300万円出すって契約で今日まで働いて・・・でも約束の給料日にお金が振り込まれてなかったから・・・」

「なんだそのバカみたいな話は、聞いたこともないぞ。唯の荷運びでそんな給料をだしているところなどあるわけなかろうが。」

「えええええええっ!?そ、そんな・・・」

 

運送会社のCEOに懇願を切って捨てられ、悲嘆にくれながらもなんとか交渉を続けようとするユメだったが、社長は葉巻を一息吸って煙を吐き出すとさらに言葉を続ける。

 

「とにかくだ。君の話は荒唐無稽で、とてもじゃないが金を払うに値する正当性が見受けられない。これ以上君に構っていられる程私も暇ではないのでね、何もなければさっさと失せたまえ。」

「ひぃんっ!?ちょ、ちょっと待ってください!あの・・・その・・・!」

 

これ以上話すことはないと話を切り上げられそうになるユメは、何とか話を繋ごうとしながら、同時に説得に足る話の切り口を頭の中で模索し始める。

そして、何かを思いついたのか急いで持ってきていた鞄の中を探り始めた。

 

「なにをしている?さっさと出て行きたまえ。私は君のような学生と違って忙しい身の上なのだ。日々下から送られてくる膨大な書類の山を捌き、提携先との商談を纏め、働く社員たちが生活に困らないよう金を稼がなくてはならん。君の様な高々一介のバイト程度に今こうして費やしているこの一分一秒が、何百何千万といった金を稼ぐ機会を我々から奪っていることを、君は理解して「しょ、証拠ならあります!!」・・・なに?」

 

嫌味交じりの退去指示を途中で切られた社長がユメの方に向き直り、彼女はさらに言葉を続けていく。

 

「働いてた証拠ならあります!私、実は働いてた日の就業時間とかどこで誰とお仕事したとか、担当した車のナンバーとか、何を運んでたとか、そういうの全部メモにして残してあるんです!!」

「なっ!?」

「雇用契約書はないですけど、あれがタイムカードの代わりになると思うんです!!・・・アレ、ドコニシマッテタカナ・・・」

「メ、メモだと!?どこかに記録を残してあるのか!?」

 

その話を聞いたCEOは、突然葉巻を灰皿に叩きつけて椅子を足で弾きながら勢いよく立ち上がる。

 

「?は、はい。最初の3日目までは後から思い出しながら書きましたけど、それ以降のはその日の終わりに毎日ノートに・・・」

「仕事した場所や、何を運んだかも書き記してあるのか!?」

「は、はい・・・」

「貴様、あの仕事はメモは禁s・・・いや、なんでもない。それよりもどこだ!?そのメモはいったいどこにある!?」

「え?キャッ!?」

 

ドタドタと慌しく詰め寄ってきたCEOに困惑して身動きできなかったユメは、反応する間もなくカバンをひったくられ、中身を床にぶちまけられる。

 

「ちょっ!?いきなり何するんですか!?」

「これでもない・・・これも違う!ええい!そのメモ書きとやらは一体どこにある!?金が欲しいのだろう!?さっさと話せ!」

「え、えっと・・・多分、家に・・・」

「そうかそうか!ならすぐにでも社員に取りに行かせよう!君はここで待機していたまえ!」

 

そう言うとCEOはすぐさま机まで戻り、社内電話の受話器を手に取ってどこかに電話をし始める。

 

「あ、あの。私が取りに行った方が早いと思うので、行かせてもらえ・・・」

「駄目だ!もしもの事があってはいけないだろう!?君は絶対にここから動くな!!」

「え?え?え?」

 

あまりにも強引な物言いで怒鳴られ、先程とは違う意味で言葉が出なくなってしまうユメ。それを見ながら電話を終えたらしいCEOは、彼女に近寄って行って手を突き出す。

 

「ほらッ!早く家の鍵を渡したまえ!」

「ちょ、ちょっと待ってください!?なんだか色々とおかしいような・・・」

「それが無いと手配した社員が取りに入れないだろうが!!時間がないんだ!さっさと渡したまえ!!」

「・・・・・」

 

その剣幕と話の中身に、流石に何かおかしいと漸く感じ始めた彼女は、後ずさって身を引く。

 

「な、何かおかしくないですか!?さっきから私が行くのはだめで、社員さんに行かせようとするなんて・・・というか、知らない人を自分の家に挙げるのは、ちょっと・・・」

「それがどうした!?お前は金に困っているのだろう!?そのメモ帳とやらの内容次第では給料の支払いとやらがなされるのだ!高々その程度の事を堪えるだけで300万だぞ!?何の問題がある!?」

「そ、それは・・・でも、こんなの・・・」

「さあ!さっさと鍵を渡せ!早く!」

 

有無を言わさない剣幕と金を強調した自身の弱みを強調する物言いに、引きながらも無意識に鍵を入れてある制服のポケットに視線が向くユメ。

 

「!そこに入っているんだな!?さっさとそれを渡せ!!」

「ちょっ!?」

 

それを目敏く見抜いたCEOは、彼女に詰め寄り目線が向いていたポケットに手を伸ばす。それを反射的に回避しようと、彼女は更に後退り・・・

 

 

「運送会社のアンドロイド社長、密室で女子高生に詰め寄りセクハラ行為、か。マスゴミが聞いたら喜んで飛びつきそうな話だな。」

 

彼女が壁際まで追い込まれ、CEOの手が彼女に届きそうになったその時、二人のいずれの物とも違うくぐもった声が部屋の中に響いた。

 

「!?だ、だれだ!?」

 

CEOとユメは、二人ともその突然の事態に一瞬硬直し、CEOは怒鳴り声をあげながら声が聞こえた方向を見る。ユメもCEOにつられて同じ方向を向いて・・・

 

「良ぃ~い椅子だなぁ~これ。さっすが社長さん。家具一つとっても良いもの使ってんなぁ~おい。」

「なっ・・・なんだ貴様!?いつからそこに!?」

「泰寛君!?なんでここに!?」

 

その視線の先に、先程蹴り飛ばされた椅子を直してさっきまでのCEOのようにゆったりと座っている、アビドスのジャージに身を包んだマスク姿の自分の後輩の姿を見た。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

どうもこんにちは、梶原泰寛でございます。

ここ最近ですが、毎日毎日ほんっっっっっっっとぉ~~~~~~~~~~に忙しいです!

犯罪都市世界と言って良いほど治安ゴミ屑のこのキヴォトスで生き抜くため、毎日早朝に起きて筋トレ―――最近は加えて戦闘訓練も追加―――を行い、朝食のパール・ジャム入りの料理で回復したら即生徒会事務をする。喫緊の問題であるこの間のヘルメット団という名のチンピラの被害の補填の為に必要な書類を作り、情報が足りなければ足でそれらをかき集め、またそれらに並行して生徒の募集やアビドス復興のための案の協議、金になりそうなものの捜索・調査。そしてそれらに加えて、2~3日に1回くらいは行われる他のヘルメット団やらチンピラの襲撃の対処及び後処理。それらに追われて漸く学校での活動が終われば、その後は金策の為に賞金首の場所・行動パターン・戦力・警備体制などを調査したり問題なければ捕えて金にして・・・ここ一か月足らずの間、マジでそれだけ繰り返すような生活ばっかりしていた。土日とかは本当は休みなんだが、実質的に賞金首を金に換える作業の日になっており、『これが社畜の苦労というものなのか』と何度も思ったものだ。

 

さて・・・そんな生活に心身を削られているのは当然俺だけではなく、俺の一つ上の先輩であるユメ先輩も同様なのだが、彼女について昨日ちょっと気になることがあった。

 

月の半分を超えてそろそろ一連の処理も一段落しそうだという話から、そういえば今月いくら儲かっただろうなんて話になった時・・・彼女が前に言っていた運送業のアルバイトの給料からそろそろ振り込まれているはずだと言って携帯の画面を見たのだが・・・「え!?」と声を上げて突然百面相をし始めたことがあったのだ。

その時何事かと聞いた時は、あからさまに何かあったと思われる慌てた様子をなんとか隠そうとしながら「なんでもない」の一点張りで何も言おうとしなかったが、勿論そんな下手糞な誤魔化しが通じるはずもなく、ユメ先輩が「明日はちょっと遅れていくから先に頑張っててね!」と言って家に帰った後で彼女が明らかにおかしくなった時の携帯の画面をハーミット・パープル*1で確認したのだ。

開いた画面はどうやら彼女の銀行口座の入出金明細の画面だったらしく、前に嬉々として言っていた運送会社の名前とこれくらい入るだろうと言っていた金額を探したがそれらはどこにもなく、前後の会話の流れも加味して慌てていた原因はこれだろうと当りを付けた俺は急遽予定を変えてこの会社の事を念写した彼女の就業記録を基に調べることにした。

そして一晩掛け、粗方の事を調べ終えた俺は先輩の家を一旦訪れたが入れ違いになってしまい、その後彼女を追って件の運送会社まで戻って・・・今現在、あからさまに怪しい態度全開で怒鳴り散らす社長とそれに気圧されながら身を引いて逃げる先輩の前に姿を現していた。

 

 

「き、貴様!?いつからそこにいた!?誰に断ってそこに座っている!?そこはCEOの、この私の椅子だぞ!?」

「知ってますよそれくらい。ここに立て札ありますし。」

 

さっきここでCEOが座っていた時のように悠然と腰かけ適当に返事を返してやる・・・にしても、本当に良い椅子だなこれ。これに座りながら仕事したら、凄く捗りそうだ。

 

「こ、この・・・!」

「さて、社長さん。あんたがお求めのものはこれかな?」

 

椅子の座り心地を一通り堪能したら、改めて二人のいる方向に向き直って机の下から取り出すような所作で一冊のノートを二人の前に晒す。それが何なのか気が付いた先輩は、驚いた顔で叫んだ。

 

「あ!それ私のノート!?なんで泰寛君がそれ持ってるの!?」

「玄関の前に落ちてましたよ先輩。昨日明らかに様子がおかしかったから今朝ちょっと家の方に様子見に行ったら、これが落ちてたんで何事かと思いましたよ。」

「ひぃんっ!?め、面目ない・・・」

 

嘘である。実際は家の中にこっそり入って、うっかり忘れていたであろうこれ・・・先輩のここ一か月足らずの運送会社での就業記録が書かれたノートを持ってきていた。

因みに何故これの存在を知っているかというと、俺が先輩に態々これを書いてもらっていたからだ。最初にバイトの事を聞いた前回の利息の支払い日には詳しいことは聞けなかったが、後日バイトの条件を詳しく聞いて確実に何かしら落とし穴のある仕事だと思い、バイトの規則を無視する形になるが絶対に毎日これだけは書いてくれと念押ししていたのだ。運送業などは往々にして労働環境がブラックな所が多く、度々客から難癖をつけられたり身に覚えのない責任が投げ付けられることもあるから、アリバイ証明の一環で書くようにと。

後なんで家にこれがあるのか知っていたかということについては、あの慌てようだと忘れて行っている可能性もあるとノートの場所を念写したら案の定自室の机の下に放っておかれていたのが分かったからだ・・・・・・改めて考え直すと、ノートの為にうら若き女子の自室を物色した下りが言い訳じみて我ながら気色悪いな。

・・・よし、このことは墓場まで持っていく事にしよう。

 

「!それが例の・・・丁度良い!さあ早くそれを渡せ!」

 

そんなことを長々と考えていると、社長さんはユメ先輩を放置して語気を荒げながらこちらにぐんぐん詰め寄ってくる。

俺は椅子から立ち上がって身を引きながら、ユメ先輩の方に向き直る。

 

「先輩、とのことですけど渡します?」

「え?えっと、えっと、えぇ~~~~っと・・・お願い!」

「了解。」

 

先輩の返事を聞いて立ち止まり、詰め寄ってきていた社長にノートを差し出すと社長は「さっさとよこせ!」と荒々しくノートを俺から分捕り、その中身を飢えた獣の如く睨み付け勢いよくページを捲っていく。その後少しして全ての確認が終わったのか、ページを閉じて顔を上げた社長は俺とユメ先輩を睨み付ける様に見てきた。

 

「・・・貴様ら、これを他の誰かに漏らしたり、他の場所にコピーしておいていないだろうな・・・」

「さあ?ここまで急ぎで来たんでそんな余裕は・・・先輩が特にそういうことしてないなら俺は知らないですね。」

「えっと・・・泰寛君には色々と話しましたけど、それ以外の人には別に・・・コピーとかもないです、はい・・・」

「そうか・・・くくくくく!そうかそうか!」

 

俺と先輩がそれぞれそう答えると、社長は何か安心したかのように一息ついた後間を置いて突然嬉しそうに笑い始める。先輩がその様子を怪訝そうに見つめる中、何をするかと注目していると、奴さんは懐に手を伸ばしながら俺達の視界を遮る様に後ろを向き、何かもぞもぞとし始めた。耳を澄ませば、ボソボソと囁く様な声が漏れてきているのが耳に入ってくる。

 

「あ、あの~~?急にどうかしたんですか?」

 

不審な行動を疑問に思った先輩が、何をしているのか問うも、返事は帰ってこない。

そして少しの時間を置いて懐から手を出して顔を上げたかと思ったら、部屋の隅に向かって奴さんは突然駆け出した。その向かう先にある物は、一台のシュレッダー。

 

「え!?な、何をして・・・」

「フンッ!」

 

---ビリビリビリィッ!

 

「こんなもの!こんなもの!」

「ああ!?何してるんですか!?」

 

問いただそうとするユメ先輩の声を無視して、社長はシュレッダーの側に着くと起動してメモ帳から破ったページをシュレッダーに次々突っ込んでいった。

紙を放り込まれたシュレッダーは、その一枚一枚を無慈悲に、止まる気配は全くなく粉々に裁断して内部のダストボックスにどんどん溜めていく。

それを見ている先輩は困惑しながらもようやく社長を止めようと動き出そうとしていたが、その道半ばで社長がバイトに関する記述のあるページを裁断しきったようで、ノートを床に叩きつけながらこっちに振り返った。

 

「クックックックックッ!ハァッハッハッハッハッハッハッ!馬鹿共めッ!これでもう何も問題はない!これで、君達が働いた証拠は今度こそなくなったわけだ!」

「そんな!?こんなことしていいと思ってるんですか!?こんな、人の頑張りを踏みにじる様な事して・・・」

「当然だ!貴様のようなガキには理解できないだろうがな、世の中なんて他人を踏み躙り、蹴落としてナンボだ!如何に自分の利益は守り、如何に他人は安く最大限に利用できるか、大人とは!社会とは!それらを巧みに行える者が君臨する世界なのだ!貴様らも踏み躙られるのが嫌なら、大事なものは後生大事に抱えていることだな!!」

「・・・ハァ~~~~~。」

 

「してやったり」とでも言わんばかりの高笑いする社長の姿に、もうなんというか、呆れて溜息しか出なかった。

予想出来ていたし、そうなったとしてもさほど問題ではないから静観していたが、改めて目の当たりにすると下らな過ぎて言葉にならねえな。さっさと用事済ませて帰りてぇ~。

 

「・・・で?もう気は済んだか?そっちのターンは終わり?話を進めてOK?」

 

とりあえず馬鹿みたいに笑いまくってる社長に、もう面倒臭くなってスマホの画面操作をしながら敬語を外して声をかける。

気分が乗ってるところに水を差されたからか、社長はちょっと間を開けた後露骨に舌打ちしてこっちを睨み付けてくる。

 

「貴様・・・ふん、まあいい。そんな生意気な口ももうじき叩けなくなるからな。今のうちに言いたいことを言っておくといい。」

「え?それってどういう・・・」

「・・・さっき呼んでた警備の連中なら、多分暫くは来られねえんじゃあ~~ねえかなぁ~~~~?」

 

「・・・・は?」

 

ペースを取り戻そうとしていた社長の目の表示が点になっているのを見ながら、話しを続ける。

 

「これは別に俺とは何の関係もないことなんだけどよぉ、どんだけ無茶やって早くしても、道中のあの様子だと来られるようになるまで短くても2、3時間くらいはかかると思うなぁ~俺は。」

「・・・は?貴様、何を言って・・・」

「さっき胸元弄ってこそこそしてたよな?あれ、下にいる警備員を呼び出してたんだろ?俺達の口封じのために・・・えぇ~~~~っと、これが内線電話か。警備の番号は・・・これだな。」

 

呆気に取られている社長を置いてデスクの内線電話を手に取り、番号を入力して電話をかける。ついでにスピーカーモードにして他の二人に聞こえるようにするのも忘れない。

 

『{ピッ}しゃ、社長!?申し訳ございません!ただいまそちらに向かおうとしているのですが・・・』

「どうした、何か問題でもあったのか?」

『それが・・・上階に続く経路が、全て通れなくなっているんです!』

「・・・は?」

 

電話機のスピーカーから出てくる部下の言葉に、社長の頭部の表情モニターがポカンとした顔の表示になり、その後すぐさま額に浮かんだ青筋と両目だけの表示になる。

 

「な、何を馬鹿な事を言っている!ちゃんと状況を説明しろ!」

『は、はい!現在原因を調査中なのですが・・・まず社長室に続くエレベーターが全機使えなくなっており、また建物内部の階段は全ての階において防火扉が閉じられている上に、溶接でもされているのか全く開かなくなっています!非常階段も同様の理由で出入りが出来ない状況にあり、現状そちらに向かうことが出来なくなっております!』

「な・・・なんだと!?」

『更に現在警備システムにも不具合が発生しているのか、全階層の状況が把握できない状況にあるのですが、そちらは現在どうなっておりますか!?』

「ぐ、が、が・・・き、貴様ぁああああッ!ここに来るまでに、いったい何をしてきた!?」

「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ、いきなり何て言い草だそりゃあーよー。まるで俺が、ここに来るまでの間に、今の奴が言った状態にしてこの階を封鎖してきたみたいな言い方じゃぁあ~ないか?何か証拠でもあるっていうのかぁ~~おい?」

「馬鹿か貴様は!?貴様が現れるついさっきまで何の問題も上がってこなかったんだぞ!状況を考えれば、貴様が何かしたとしか考えられんだろうが!!今すぐ全て直して来い!損害賠償を請求されたいか!?」

「やって見ろよ三下の小悪党!ありもしない証拠で責任を追及できるほど世の中甘くないってことを嫌って程噛み締めさせてやろうか!?さっきテメェがゴミにしたノートみてぇーによぉおおおおッ!!」

「なん、なんだとぉおおっ!!」

『社長!そちらは今どうなっているのですか!?社ちょ{ブツッ}』

 

憤慨して地団太を踏む社長を無視し、通話を切った受話器を机に置いたら置いてけぼりにされて所在なさげにしているユメ先輩の側に寄って行って、彼女に声をかける。

 

「先輩、唖然としてる場合じゃないですよ。しっかりしてください。」

「ひぃ~ん・・・や、泰寛君。さっきから何がどうなって・・・私、ただバイト代をもらいたかっただけなのに・・・」

「いやまあそこに関してはドンマイというか、それはそれとしてこんなのに証拠品をみすみす渡すような選択なんて自分でちゃんと判断して突っぱねてほしいというか、色々と言いたいことはありましたけどそれはひとまず置いておくとして・・・」

「も、もうすでにいろいろ言われてるような・・・」

「とりあえず先輩には今、選択肢がいくつかあります。まず一つは、損切ってことで今回のバイト代は諦めてさっさと帰る選択()。」

 

なんか言っているが無視して、目の前に右手の人差し指を立てながら話を続ける。

 

「そ、それは・・・折角ここまで来たんだし、できればちゃんと貰いたいんだけど・・・」

「でしょうね。誰だって思う、俺だって思います。」

 

そう言って今度は左手の人差し指を立てて、話を続けていく。

 

「というわけで、もう一つは社長から何としてでもバイト代をせしめる選択()。こっちはまあ、正直何とかならないこともありません。」

「ほ、ほんと!?じゃあ勿論そっちで・・・」

「ただしこれについては、現状俺らの取れる手立てだとやり方が先輩の気に入るものではないかなぁと。」

「え?」

 

左手の指を、中指、薬指・・・と一本ずつ立てながら手段を並べていく。

 

「言っちゃあ悪いですけど、今のところ社長を脅迫するか、力尽くで強引にもぎ取るか、洗脳するか・・・給料を勝ち取る手はこれくらいしかないですね。」

「全部物騒!?というか最後、洗脳って何!?何する気なの!?」

「それはやる時が来たら説明します。」  

「やらないからね!駄目だからねそういうのは!」

「おい貴様ら!聞こえているぞ!私に何をする気だ!?いいか、私に指一本でも触れてみろ!貴様らを追い込んで呑気に学生なぞやってられんようにしてやるからな!!」

「で、どうします?以上を踏まえて洗脳以外で、やるかやらないか。もしくは俺が思いつく以外の他のプランが有るか無いか。」

 

喚き散らす社長を無視し、先輩の目を目線を合わせまっすぐ見て問いかける。

 

「・・・ねえ、本当にそれしか方法ってないのかな?」

「他人なんて蹴落として当然、何も知らない子どもなんて食い物にするのが最適解と本気で心底信じてる奴の説得による交渉ですか。俺達にあの社長の見下す姿勢を覆すだけのバックグラウンドがあれば有効だと思いますけど、現状の俺達だと0と小数点の後ろにいくつ0を付ければいいか知れない成功率でしょうね。完全に0とは言いませんが今の状況を考えたら俺なら先に挙げた選択肢のどれかを取りますよ。」

「で、でも全部力尽くしかない中から選ぶのはぁ・・・」

「諦めて帰る、が抜けてますよ先輩。まあこの状況なら明らか向こうに非があるんで、俺だったら後ろ3つのどれかに偏りますけど。」

「う、う~~~ん・・・」

「何を勝手なことを言っている!状況が分かっているのか!?多少予定が狂ったが、依然貴様らが袋の鼠な事には変わりがないんだぞ!たかが学生一人とヘイローもないガキ一人でどうにかなるか!!」

「あれの言い分は無視して結構ですよ。この程度の状況ならどうとでもなるんで。」

 

社長を適当にあしらいながら、改めて先輩に尋ねる。

先輩の方はというと、ちょっと目を伏せて考え込むような素振りを幾許か見せた後、ゆっくりと目線を上げた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・泰寛君。」

「はい。」

「・・・ごめん!こんなところまで助けに来てくれて、私のバイト代を取り戻せるように折角色々と頑張ってくれてるのに・・・その・・・今回は・・・無かったことに、てことじゃ、ダメかな?」

「むしろ先輩の方がそれでいいんですか?毎日学校も頑張った後、へとへとになってバイトやってたんですよね?毎日疲れが隠し切れないくらいになって、そんな顔色悪くなって、目にちょっと隈もできかけるくらい頑張って・・・それで漸く手に入れるはずだったバイト代ですよ?あんなのに押し切られて諦めていいんです?」

「誰が『あんなの』だ!?礼儀を弁えんクソガキが!この私を誰だと思ってブフォオアッ!?」

『イイ加減喧シイゼてめー、礼儀ノ在リ方ト真逆ノ道爆走シテル奴ハ黙ッテナ。』

 

もう話の邪魔にしかなっていないため、ウェザー・リポートで作った雨粒をキング・クリムゾンの手に貯めて社長の死角になっていた俺の体の陰から勢いよく社長の顔面に叩きつける。天井のスプリンクラーの方向から出た様に射出された雨水が社長の顔面のモニターに見事に叩きつけられ、それなりの炸裂音の直後に社長は咄嗟の反応が間に合わず無様にひっくり返った。その姿に、いつもなら引き笑い交じりに喋るアライブが抑揚なく中指を立てながら吐き捨てるのを横目で一瞬見て、再度先輩の方へと目を向ける。

 

「・・・で、バイト代300万円は諦める路線で、本当に良いんですか?」

「あっはい・・・・・・・・・・うん。残念だけど、やっぱりその、上手くいかなかったからって、それで脅したり力尽くで奪ったり・・・そういうやり方で無理やりお金を取るようなやり方をしてたら、いつかそんなやり方が当たり前になっちゃうような気がするし・・・そんなことを積み重ねて、いつの日かアビドスを取り戻せたとしても、それは私達が思い描いたアビドスにはなってないと思うんだ。」

「・・・・・・・・・」

「それに、今回は私が騙されちゃったからこうなったわけで、だからその・・・泰寛君には、私の失敗のフォローの為だけにそういうことをして欲しくないからさ・・・」

「了解。そういう事ならまあ、さっさと帰りますか。」

 

聞くべきことは聞けたため、肩を竦めながら出入り口に向かっていく。

 

「え!?う、うん!」

「どうしたんですか?諦めて帰るんでしょう?」

「いや、それはそうなんだけど・・・こういう時の、理不尽な事された時の泰寛君にしてはこう、思ってたよりあっさりしすぎというか、それはそれとして腑に落ちないというか・・・」

「俺にしてはってどういう意味ですかね・・・」

「いやだって・・・ほら、前に私が外に出てる時に、襲ってきたヘルメット団を泰寛君が一人で相手してた時とか・・・」

「・・・ああ、あれですか。」

 

あれか・・・偶々学校に俺しかいない時にヘルメット団が来て、全員ぶちのめした後の連中の悪態にイラっと来て日々のストレスとのシナジーで軽くキレた結果、文字通り全て引ん剝いて全身刈り上げた後人里に戻ってこられるかもしれないギリギリ遠方の砂漠に捨てようとした時のあれか。あの時は結局先輩がタイミング悪く一人目を全裸にした時に戻ってきて、有耶無耶になった挙句お叱りを受けながら長々事情説明する羽目になったな・・・

 

まあ先輩の性格ならああ言う返答はある程度予測できてたし。この状況に腹立つのは事実だけど、それはそれとしてここまで言って本命の被害者が引くなら本人の意思を尊重するわ。逆に、これが俺自身の被害だったなら絶対に引かねえけど。何が何でも毟っていくかこっちの不利益にならない範囲で、ばれないように同レベルの理不尽な目に合わせてやるわ。

 

「まああの時とは状況も違いますから。それより行きましょうよ、もうここであんまり時間かけててもいいことないですし。」

「う、うん。そうなんだけど・・・」

「ぐ・・・あ・・・くっ、なんだ?今、何が起こって・・・あっ!!」

「あ。」

「あ、やばい。」

「き、貴様らッ!どこに行くつもりだ!?」

 

ひっくり返った状態から復帰した社長が帰ろうとしている俺達に気が付き、再び怒鳴り散らしてきた。

よし、いい加減さっさと帰ろう。

 

「先輩!走りますよ!」

「え!?ちょ、ちょっと!?」

 

先輩の手を取って社長室を出て、ビルの外壁に一番近いであろう壁の方に向かって走り出す。走っている俺達の背中を叩くように、社長の声が響いてきた。

 

「や、泰寛君!?どこに向かってるの!?そっちは何もないよ!?」

「逃げられると思っているのか!?ここは地上15階だぞ!」

 

てめえの会社経営にも逃げ場はねえけどなぁ!!明日以降を震えて待ってろ!!

 

「ちょ!?待って待って!本当にぶつかっちゃう!!ちょ、待って・・・」

 

止めようとするユメ先輩をキング・クリムゾンと共に無理やり引きずって壁に向かって突っ込む。後数センチで、そのまま壁に激突する・・・

 

「スティッキー・フィンガーズ。」

 

その直前に、体から出た新たな人型が素早く壁を殴りつけた。頭部の上半分を覆うヘルメットと手足のプロテクター、身体各部のジッパーの金具が特徴的な細身で筋肉質の人型・・・スティッキー・フィンガーズの殴りつけた壁は、拳を起点として出現したジッパーが開くことで人が通れるサイズの通り道となり、ぶつかる寸前だった俺達をビルの外に通す。

流石にそのままの勢いで外に出たら少々まずいため、出る直前でスピードを落としながらユメ先輩をキング・クリムゾンの脇に抱えさせ、壁抜けに使ったジッパーを閉じながら新たに壁にジッパーを作り、落ちない様にその金具に捕まった。

 

「・・・え?え?壁は?さっきぶつかりそうになって・・・あ、あれ?というか、私達今外に・・・」

「あ(察し)」

 

突然の出来事に、またしても呆けてしまったユメ先輩。エピタフで見てはいないが現状に意識が追い付いた時の行動を予測し、無意識に捕まってる金具と先輩を抱える力がより強くなる。

 

「・・・わぁ~~~~~、たっかぁ~~~~~い・・・・・・ひぃんっ。」

「お、おう・・・」

 

・・・どうやら杞憂だったようだ。地上15階の高さを認識して恐怖が勝ったのか、最後に特徴的な悲鳴を一つ上げて気絶してしまった。

 

「・・・よし、今のうちに降りよう。」

 

また起きて今度こそ騒がれないよう、次々にジッパーを作ってさっさと降りる。途中ウェザー・リポートで砂塵を発生させ姿を隠しながら周囲を警戒するが、まだ中でやった工作に手間をかけているようで外を警戒している奴はいないらしく、先輩を抱えながらそう時間をかけず地面まで降りることができ、追手が外に出てくる前にさっさとその場を離れた。

 

 

 

 

 

「よし、ここまで来ればもういいか。」

 

先輩を抱えながら移動し続け、乗った電車の座席に彼女を座らせてようやく一息つく。

・・・地面に降りてからは人目を考慮して彼女をおんぶしたままここまで走ってきたが、思ったより疲れることはなかったな。ここ一月半ほど、頑張って鍛えてきた甲斐があった。

 

「おっと、今のうちにこっちも早めに済ませておかないとな。」

 

先輩の隣に座り、スマホの画面をまた開く。

先程操作していた画面には、昨日調べたあの会社の情報の数々が映っている。キヴォトスでも違法扱いの武器や盗品の輸送、ブラックマーケットでの禁制品の売買に関する書類、裏帳簿、その他マフィアや犯罪組織の荷物の輸送依頼引き受け等等、中には先輩のバイト内容と照らし合わせると事情を知らない彼女やその他のバイトを使ってそれらの仕事をこなしていた事が分かる物も多くある。

先輩は知りもしないことだが、あの社長が先輩の残した勤務メモにあそこまで過剰反応を見せたのも、規則違反というよりはメモから裏の仕事が他所にばれることを恐れての事だったのだろう。

・・・さて、それらの表示を一旦消して、通話アプリで電話をかける。

 

「{トゥルルルルルルルッガチャッ}俺だ。例のアレを手筈通りに・・・ああ、よろしく。終わったら予定のルートで戻って来いよ。」

 

・・・よし。これであれらの資料は各報道機関とヴァルキューレの通報サイトにばらまかれる。

明日以降、もうあいつらは俺達程度に手間をかけている余裕はなくなるはずだ。念の為暫くは警戒しなくてはならないが、後の事は時間が解決してくれるだろう。

とりあえずその間は、先輩に【護衛】を着けておかないとな。

 

「後は・・・そうそう、これもあったな。」

 

ジャージのポケットから出したかのようにポケット内の鍵を通して倉庫から、一冊のノートを取り出す。正方形で一つの唇のマークがデザインされたシールが張り付いているところだけが違う、さっき先輩がシュレッダーにかけられたあれと同じノート。

アビドスに着いたら、これも後でちゃんと先輩に返しておくとしよう。

 

---グゥ~~~~~~~

 

「・・・もう12時か。色々やってたらあっという間に時間が過ぎたな・・・・・帰ったら仕事もしねえと・・・」

 

その後、電車の振動で先輩が倒れないよう気を使いながら、俺は学校までの道中を昼飯の事を考えて過ごすことにした。

*1
念写能力がある茨のスタンド

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