ローグライクなスタンド使いのキヴォトス新生活記録 作:enigma
アビドス編エピソードの更新に迫りくるアリ夏イベントにハフバ・・・楽しみが盛り沢山ですね。弊シャーレは2天井分の石とチケットを溜めて来る日を待ちわびております。
それでは最新話、どうぞ。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
―――カリカリカリカリカリ・・・
「・・・・・・・よぉ~~し!!」
「・・・オッケェイ!これで・・・」
「終わったぁーーーー!!」
「決着ゥーーーーーーーーーッ!!」
ペンを走らせる微かな音だけが響く静まり返った生徒会室の中、ふと同じタイミングで俺とユメ先輩の声が木霊した。
バイト代未払い事件から数日が経った今日この頃・・・あの一件に加え、先月の事件における住民への補填の為の金額算出、ヘルメット団やその他自治区内の問題解決にかかった経費の処理、他所からやってきた怪しい商人や事業家の怪しい勧誘に先輩が引っかかって起こった面倒事の後始末に、新入生の入学式に向けた準備等々・・・その他諸々の問題を今まさに乗り越え、漸く現状積み上がっていた喫緊の問題を捌くことが出来た。
部屋内の卓上全てを埋め尽くす積みあがった書類の山は圧巻の一言であり、正直今すぐにでもマジシャンズ・レッドでチリ一つ残さず消し去ってやりたいくらいには腹立つ代物だ。
「ひぃ~ん疲れたぁ~~~~ッ!!もう動けないよぉ~~~~~~!!」
「あ゛あ゛あ゛ぁ~~~~お疲れ様ぁ~~~・・・漸くここまで来られましたねぇ~~・・・」
机に突っ伏す先輩の姿を尻目にアビドス指定のジャージの首元のチャックを開けて、首・肩の固まった筋肉を交互に自分の手で揉み解しながら俺は大きく溜息をつく。
ここ一か月は本当に忙しかった。再起できない様に襲撃してきたヘルメット団は必ず捕まえてヴァルキューレに突っ込んでるのに、それでも3日に一回、下手すると毎日ヘルメット団が襲撃してくるし、俺がいない時に金欠問題で町中で困り顔晒してた先輩が何度もすり寄ってきたアホ共が持ち掛けてきた投資詐欺やネズミ講の勧誘などにまんまと引っかかって俺が追跡してぶちのめす羽目になったり、治安が元々世紀末並みな為先輩が単独の時にチンピラに絡まれたりなどしょっちゅう問題が起こっては駆り出されるし・・・そんな中、睡眠時間と訓練の時間をなんとか確保しながら補填予定の被害者の当時の損害を裏帳簿から何まで調べ上げたり、書類作成の手伝いしたり、学校終わりに賞金稼ぎに奔走したりと、いろいろやっていたらあっという間に月日が経っていた。どう考えても、俺の知っている学園生活じゃないんだよねこれ。
・・・まあ、これで住民への補填が終われば来月からはその仕事がなくなる分楽にはなるだろう。
「後はお金の問題ですね。幸いヴァルキューレに突き出した連中の中には金になる奴等がいくらかいましたし、そうじゃない奴らも奪った戦利品が売れて小金にはなりましたけど・・・先輩、今月の収支はいかほどになりそうで?」
「えっへへぇ~♪実はねぇ~~・・・じゃん!今月はこんな感じ!」
「えっと・・・おぉ~~、
突き出された収支報告書を見て、そう感嘆の声を上げる。
とりあえず今月の利息分を払っても170万くらいのおつりが出るわけか。
「うん!ここ一か月アビドスに来たヘルメット団をヴァルキューレに引き渡したり、戦利品を売り払っただけでこんなになったんだよ!凄いよね!」
「まあ確かに。」
『我々ガ最初ニ相手ニシタへるめっと団ハ一団全員デ700万円ニナッタコトヲ考エルト、ココ一月分纏メタ額トシテハチョイ安メニ感ジラレマスケドネ。』
「うへぇ~、今まではアビドス中の売れそうなものをなんとか掻き集めて足りない分をカバーしないといけなかったのに、ちゃんと働いた分だけで黒字になったのは初めてだよぉ~!・・・これでバイト代も出てたら、もっと良かったんだけどねぇ~・・・」
「何というジリ貧生活。」
『先細リ必至過ギテアル意味笑エマスネェ、ヒヒヒヒヒッ!』
色々と突っ込みたいところはあるがとりあえず最後の一言は聞かなかったことにしてコメントを返す。まあ普通に考えたらアビドスの諸問題を捌きながらたった一人で月収800万円も稼げるわけはないし、足りない分はそりゃあある物売り飛ばして凌ぐしかないわな。いや待てよ、この人の言う今までとやらが、以前在籍していたという他の生徒会役員もいた状況だったらと考えると・・・うん、改めて考えても俺がいない間良く持ってたよな、この人。
そんなことを考えていると、
「ところで、泰寛君はお仕事どうだった?流石に今月は色々と忙しかったし、もしあんまりお金がないなら、今月はこれで凌いで来月補填の事も含めて何とかしていくのもありだけど・・・」
「えっと、俺のは・・・」
そんなことを聞かれてちょっと言葉を濁す。次のアクションとそれに対する反応を予想してどうしようかと改めて一瞬考え込むが・・・
「ちょっと待っててください。これは言葉で伝えるより実際に見せた方が早いと思いますんで。」
「え?泰寛君?」
遅いか早いかの違いと考えて言葉を続け、先輩を置いて廊下に出ていき、少し離れた位置にある教室に入っていく。
そしてそこでダンジョンの倉庫から、ずっしりと中身の入ったボストンバッグを4つ取り出して生徒会室に持って行った。
「あ、戻ってきた・・・?泰寛君、そのカバンは?」
「まあまあ、まずは中身を見てください。」
机の上に置き、それぞれのバッグのチャックを開けて先輩に中身を見るよう示す。
先輩は戸惑うようにおずおずとカバンに近寄ると、カバンの口を広げて中身を見た。
「え、なになに?なんか随分入ってるみたいだけど、何が中に・・・
??????????????」
その中身を見た瞬間、脳内を疑問符が埋め尽くしているかのように先輩の体が硬直し、動かなくなってしまう。
その様子からすぐに再起動しないだろうと考えて、待っている間にアライブに倉庫の冷蔵庫から取ってこさせた麦茶とおやつのカスタードプリン(ビールジョッキサイズ)を取り出して、食していく。
ん~~~~、ウマい!卵の黄身の濃厚さにカスタードとバニラエッセンスの甘さ、カラメルソースの香ばしい味わいが堪らん!!
「?????????????」
その後15分くらいかけてプリンを間食したが、未だに無量〇処でも食らったようにフリーズ状態から戻ってこない先輩。
予想以上の遅さに内心呆れつつも、いい加減元に戻ってもらうために肩を掴んで揺らす。
「・・・・・・ユメ先輩、いい加減再起動してください。その調子だとそれだけで今日一日終わっちゃいますよ。」
「・・・はっ!?ここはダレ!?私はどこ!?」
「色々と発言がおかしいですよ先輩。」
『草w』
声をかけると、漸くユメ先輩がある意味テンプレな譫言と共に正気を取り戻して辺りを見渡し始める。
「あ、あれ!?泰寛君!?いつの間にそんな近くに!?ていうか私、何やってた!?さっき泰寛君にお仕事の収入を聞いた後、教室を出てった所までしか記憶がないんだけど・・・」
「短期記憶の消失とかどんだけショックだったんですか!?ホラ!これですよこれ!ちゃんと落ち着いてこれをよく見てください!!」
「え?このバッグの事?なんでこんなに置いて・・・?????????????」
「またかよ?!」
『天丼乙、ケケケケケッ!』
また〇量空処食らったみたいにフリーズした先輩を揺らし、起こしにかかる。
「そっか・・・これはきっと夢なんだ。きっとこれからまた気持ちよくお布団の中で目が覚めて、電車とバスに揺られてアビドスに着いたら泰寛君と一緒にこれから事務処理したり、ご飯食べたり、楽しくお話ししたり、アビドスのパトロールに一緒に行ったりするんだ・・・」
「今バリバリ目ェ覚めてんでしょうが!!寝言はちゃんと寝てから言ってください!」
『ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!ヒィーーーッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!』
その後、髑髏の様な口を開き馬鹿みたいに引き笑いを繰り返すアライブの傍らでユメ先輩は放心して正気に戻ってを繰り返し、漸く真面に話が進むようになったのはそれから約45分後の事だった・・・
「うへぇ~~~~~、未だに信じられないよ・・・私、本当に今お布団の中で夢を見てるわけじゃないんだよね・・・」
「そのやり取り何回目ですか・・・気持ちは分かりますけどいい加減話を先に進めましょうよ。」
「だってぇ~~~~!こんなにお金が目の前に積まれてるところなんて見たことがなかったんだもん!」
そう言って未だ動揺は抜け切らぬものの、どうにかフリーズしなくなったユメ先輩が指差す方向には、口の開いたバッグに入っている俺が今日までに稼いできた札束の山・・・しめて総額、3億4257万円の現金があった。
いやぁ~稼いだ稼いだ。まさかこの短期間でここまでの稼ぎになるとは思わなかった。
後、稼げたのは良いのだがそれはそれとしてマジで治安悪すぎだろうキヴォトス。驚くべき話だが、この現状でも一応一昔前よりは大分マシらしいのだ。巷で聞いた話によると、次代の連邦生徒会長候補がその手腕をいち早く振るうようになってからキヴォトス全体の治安が近年で最も良くなったという。一番良くなった治安状況で、経費がほぼかからない俺だからとはいえ賞金稼ぎで億も稼げる状況とか改めて考えてもヤバすぎ・・・ぐぇえ!?
「凄い、凄いよ泰寛君!これならあっという間に借金がなくなるよ!やった!やったぁ~~~!!」
気が付けば喜びのあまり感極まったユメ先輩が俺を抱きしめていて、俺はユメ先輩の腕の中で反射的に纏っているイエローテンパランスの強度を調整した。
あぶねぇ~、見た目こそそんじょそこらのグラビアアイドルが裸足で逃げ出すほど発育している見目麗しい美少女のユメ先輩だが、鍛え込んでも俺はキヴォトス人と比べ肉体が貧弱な地球人類。高ぶって手加減を忘れているユメ先輩のハグは俺にとってゴリラが仕掛けるサバ折りと大差ない。
イエローテンパランスを纏ってたからよかったが・・・味方の咄嗟の行動にすら死の危険を感じて警戒しないといけないとかどういうこったよ。安息の場所が倉庫とベネツィアホテルにしかねえぞキヴォトスこの野郎。
早くダンジョンに潜って勘を取り戻し切らねば(使命感)
「うへぇ~、えへへへへへぇ~~♪奇跡だよぉ~、こんな、こんな日が来るなんて・・・こんなにお金があれば、今までの借金があっという間に無くなるし、今までやりたくて出来なかったあれやこれやも・・・えへへへへぇ~~~♪」
・・・とりあえずちょっとやそっとじゃ離してくれなさそうだから、嬉しさのあまり涙目になって笑っている先輩が落ち着くまで、今まで生きてきて全く縁のなかった異性のハグの感触をイエテン越しに満喫することにする。
「・・・あ!というかどうやってこんなお金が用意できたの!?」
そうして暫く俺を抱きしめ喜びいっぱいでほわほわとしていた先輩だったが、ある程度時間が経つと案の定ふと満面の笑みからハッとした表情へと変わり、当然だが金の出所についての質問がされた。
「誰か親切な人が寄付してくれたとか!?それともとんでもなくお金が入るお仕事に就けたとか!?それとも・・・何かすごく危ないこと、だったりする?」
徐々に眼差しから感じられる心配そうな態度を深めて俺の目をじっと見つめてくる先輩に、俺は少し言葉に詰まる素振りを見せつつ、事前に用意した策に沿って真ん中に置かれたボストンバッグを指差す。
「・・・・・・先輩、そこのボストンバッグの中をもうちょっと見てもらってもいいですか?」
「え?な、なんで?」
「今の質問に答える為に必要なものを一緒に入れてまして・・・」
「そ、そうなの・・・なんだろ、他に何か入ってるの?」
先輩はそう言いながら俺の指示通りボストンバッグの中を探り・・・程無くして札束とは違うA4サイズの一枚の紙を見つけ、それを取り出す。
「????なにこれ・・・えっと、【アビドスのため、ご自由に、お使い、ください】?【対価、は、いりま、せん】????」
紙の一面には、新聞や広告などの文字の切り抜きを張り付けて作られた数行の文章のみが存在し、彼女はたどたどしく読み上げる。
それを視界に入れながら、若干の罪悪感を感じつつも今は必要な事と割り切って、俺は話を進めていった。
「・・・実はですね、このボストンバッグと金・・・一昨日朝起きた時に、気が付いたら正面玄関に置かれてたんですよ。」
「え!?どういうこと!?」
「分かりません・・・今朝いつも通りトレーニングをしようと玄関口に行ったら、本当に知らない間に、いつの間にか置かれてまして・・・どこの誰が置いていったのか、頑張って調べたんですけどね・・・ただ分かってるのは、そこにある紙の記載内容くらいでして。」
「そうだったの!?えっと、これってつまり・・・その、アビドスを支援しようとしてくれてる誰かが、これを置いて行ってくれたってこと?」
「おそらくは。」
驚きすぎたのか、また呆然とした表情になってしまい、俺の顔とボストンバッグを交互に見比べる先輩に、俺は神妙な表情でそれに応える。
・・・・・・・・すみませんね、先輩。正直嘘つくのは心苦しいんですけど、流石にここ一か月でのあんたの様を見てるとちょっと正直に伝えるのはどうかなって思ったんですよ。いくら合法の範疇とはいえ、賞金稼ぎやっててこれだけ稼げてることなんて周りにばれるリスクは避けるに越したことはないですし。
「とりあえずあんまりにも怪しかったんで、報告する前に一通りの調査をしときました。結果、バッグにもその用紙を含めた中の物にも特にこれといった異常なものはなく、お金の方も偽造紙幣の類じゃないことは確認済みです。代わりにこれを持ち込んだ本人を特定しうるものもありませんでしたが・・・正直怪しさ満点ですけど、とりあえずこれ自体は使っても問題ないとは思いますよ・・・」
―――ホロリ
「・・・うぅっ!ひっく、えっぐ・・・!」
「ん?・・・ちょ!?ユメ先輩!?」
自分でもこれはどうかと思うような話でユメ先輩を説得しようと話を続けていたら、元々ユメ先輩の目じりに溜まってた涙が突如として増えて頬を伝って流れ落ち、その直後に破顔した先輩が突然泣き始めてしまった。
何事かと思って背中を摩りながら介抱していると、鼻声になりながら先輩が口を開いた。
「グスッ・・・ご、ごめんね。なんか、いろいろと凄いことが一度にありすぎて・・・気持ちの整理が、全然・・・追い着かなくって・・・グスッ・・・」
「先輩・・・(アカン、いろいろと畳みかけすぎた。)」
椅子に座らせ、背中を撫でて落ち着くのを待つ。
そうして暫く待っていると・・・
「生徒会が私一人になってから、どんどん入学取消の電話も来て・・・ほんとは、もうどうしようって頭を抱えてたんだ・・・色々と、上手くいかないことがある度に、弱音が頭を過ぎることもあって・・・・・けど、泰寛君がうちに来てくれて・・・本当に、いろんなことが一気に起こって・・・」
・・・やがて、涙と鼻水を流しながらぽつり、ぽつりと先輩は言葉を続けていく。
「そうですね・・・本当にいろいろありましたよね・・・」
こっちの世界に来て久々に怪我と飢餓と厳しい環境を前に死に掛けたり、死に体でアビドスでチンピラ蹴散らしてるうちに先輩に拾われたり、二度目の高校生活送る羽目になり、書類捌いたりチンピラ凹したり賞金首捕まえたり先輩助けたり書類捌いたりチンピラ凹したり賞金首捕まえたり先輩助けたり・・・あれ?おかしいな、ロクな思い出があまり出てこないぞ?濃さで言うならこれまでの人生で10指に入る濃度の体験なんだが・・・美少女との束の間の休憩タイムくらいしか良かったと言える経験が無いというのはどういうこと?青春とは一体・・・
「私に、とってね・・・ここに泰寛君が来てくれたことが、とてつもない奇跡だったんだ。色々と頑張って、でもどん詰まりになってる気がしながら、それでも奇跡が起きるって信じで、そして来てくれた・・・そこから、まだまだ大変だけど、私でもはっきりわかるくらい、少しずつ良くなってきてる気がして・・・それで喜んでたら、今日のこれだよ?復興どころか、借金の返済だけで何百年もかかるって言われてたアビドスに、急にこんなにお金を出してくれる誰かが現れて・・・夢に見てたアビドスの復興が、一気に近づいたと思ったら・・・もう、いろんな思いで、胸がいっぱいになっちゃって・・・」
本人の言葉通りいろんな気持ちでいっぱいになっているのか、先輩の顔は泣き顔と笑顔が複雑に混ざったような、どう表現していいか言葉に困る様な表情になっていた。
「とりあえずこれで顔拭いてください。ほんとに凄い顔になってますよ。」
「う゛ん゛・・・グスッ ズビィ~~~~~~~~!・・・・・う゛う゛う゛・・・う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ッ!!」
「先輩!?」
多めに渡したティッシュで顔に塗れている鼻水と涙を拭いていく先輩だったが、後追いで出て来た滝の如き涙と溢れる鼻水でビッチャビチャになってしまう。
その有様はさながら、サンドリコの花にやられた美食四天王かミネラルウォーター飲んだ億泰の如し。
「せ、先輩・・・」
「や゛っだよ゛!わだじだぢ、ア‶ビドズ(復興)ふっごうでぎる゛ん゛だよぉ゛~~~~~!!グスッグジュッ・・・・う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ッ!!」
いやいやまだ全然気が早い・・・と、言いたいところだったが、突然そんな有様になってしまい危機感を煽る要素も特になかった俺は逆にその展開に焦ってしまって、そのまま盛り上がった気分のままに涙の止まらない先輩の背中を摩りながらなんとか落ち着かせようとする他なかった・・・
「あははは・・・いやぁ~、お見苦しいところを見せちゃったね~・・・」
「いえ、お気になさらず・・・俺も突然こんな金を貰って好きに使って良いって言われたら驚かずにはいられませんし。」
あれからまた時間を置き、気持ちが落ち着いたようで俺の目の前で拭いて綺麗になった顔で笑顔を向ける先輩。泣いた影響が残ってるのか目がまだほんのり赤いのはご愛敬。
「何はともあれ、とりあえずこれであの件の住民への補填と今月の利息の返済はどうにかなりますから。最低限返すモノ返したら残した分で金を稼ぐ方法でも考えましょうよ。」
「うん、そうだね!えへへぇ~、こんなにお金があれば、いろんなものが買えちゃうよねぇ~。最新のインフラ設備とか、車とか・・・あ!この辺り足場悪いから、いっそヘリとか買ってみたりしてもいいかも!後々、まだ見つかってないお金になりそうなものを見つけるのに役立つ道具とか!」
「なるほど。」
楽しそうに想像を膨らませて色々と欲しいものを挙げていく先輩の言葉に頷きつつ、内心で挙げられたものに対して考えを巡らせる。
車は物にもよるが、概ね仕様が俺の世界のそれと大分似通っているから免許さえとればすぐに使えるだろう。楽な移動手段はあるに越したことはない。
学校のインフラについてはちょいちょい水道や電気が故障か何かで使えなくなることもあるため投資先としては普通にあり寄りだ。
ヘリは・・・俺も先輩も、どっちも使ったことが無く真面に扱えるようになるまでに時間がかかるだろうし、使用も砂漠地帯の行き来は車より便利という程度で、不定期に砂嵐も起こるアビドスだと正直俺達の現状では車の方が優先度は高い気がする。
金目の物探す道具もアビドス自体が広大だし、手掛かりになる資料も大体とっ散らかった状態で雑に保管されていたりで、まず探す場所の当りを付けるだけでそれなりに時間を要する。おまけに場所や状況によってどんなものが使えるかが違うため、あらゆるシチュエーションを考慮してそれなりの種類を揃えなくちゃいけない。今は全く要らないが後々必要になれば買い揃える、くらいの感覚でいるべきか。
「えへへへへ♪お金が沢山あるって凄く良いよね!今までやらなくちゃいけないことで頭がいっぱいになってたのに、今は買いたいものややってみたいことがどんどん湧き上がってきて、楽しくって仕方ないって感じ!」
「漸く真っ当な形で余裕が出てきたって感じですよね。喫緊の払うもの最低限払ったら最終的に2億チョイくらいは残りそうですし、これを元手に何か大きく儲けられそうな手段の模索の為に足を止めるのも悪くないですね。」
ちなみに今のところ構想段階で準備も何もないが、賞金稼ぎ以外にこれならって手が一つある。現状概算で諸々含めて初期費用に2000万円前後かかり、必要な免許の取得など準備にちょいと手間がかかるが、当たれば現状の賞金稼ぎ以上にある意味楽に稼げるだろう。まあ、稼ぎ方がある意味一般の理解を得にくい手法なのと俺の能力フル稼働でやる仕事の為、先輩に丁度いい感じの説得をするためにちょいと手間がかかりそうなのが一番の難点か。なんて言って説得しよう?
「2億・・・2億かぁ~。今まで億単位のお金なんて遠い世界の話だったのに、今億のお金が自由に使って良い姿で目の前にあるなんて・・・えへ♪うぇへへへへへへへぇ~~~~♪」
「・・・・・・・・」
浮かれまくっている先輩の姿を微笑ましく感じるが・・・・・同時に、入学してから見てきた彼女の惨状が脳裏を過ぎる。
「言っておきますけど先輩、この金に手を付けていいのは絶対に、何時如何なる状況だろうと事前に二人で相談してお互いOK出した時だけですよ。」
「え?」
突然そう言われたことに驚いて呆けている先輩に、目を細めながら畳みかける様に言葉を続けていく。
「入学してから今日までの先輩の有様を見て、不本意ですが俺は一つの学びを得ました。『先輩に自由にできるお金は持たせてはいけない』ことと、『先輩の独断で生徒会としての契約をさせてはいけない』ということを。というわけで先輩、別にプライベートで稼いだお金のことまでは言う義理も資格も無いんでどう使おうが構いませんが、この金は合間でやってた人助けに必要なケースだろうと、詐欺に騙されてた時の様な金銭が掛かる契約の時だろうと俺の許可なしには使わせませんからね。学校名義の金や利権が動く契約をする時も同様ですよ。」
「ちょっ!?ちょっ!?!そ、それはひどくない!?そ、そりゃあ私も・・・・・・ちょ、ちょぉ~~~~っと・・・ミスすることも、も、勿論・・・あるけど・・・で、でも!私も一応生徒会長なわけだし・・・」
「・・・・・・・・」
「そ・・・そのぉ~~~~・・・勿論、悪い人に騙されてお金を払うのは駄目だと思うよ?貰い物のお金だからなおさらだけど・・・うん・・・で、でも!困ってる人を助けるために止むを得ない時とかは、その、現場の判断というか、緊急事態だからというか・・・そのアビドスを良くしていくための出費として・・・・使わざるを得ない時も、あるんじゃないかなぁ~~~って」
「うん、絶対ダメ。」
「そんな食い気味に言う程!?な、なしてぇ~~~~!?」
「信頼と、実績ィ・・・ですかね。今まで積み上げた数多くの生き様が、もうこれしかないってこれ以上なく雄弁に語ってると言いますか・・・」
もうね、話の調子から見てもう確実にやらかしそうな雰囲気をヒシヒシと感じるわ。絶対にお金を預けられねえよ。
「ひぃん、しょんなぁ~~・・・」
涙目になって項垂れる先輩を尻目に、俺は借金返済と補償に必要な分だけ机に出して後の残りはバッグ毎持ち上げる。
「その様子だと何かの拍子に使ってしまいそうなんで、とりあえずこっちは俺の方で管理しときますね。何か入用になったら声をかけてください・・・さて、それはさておいて、色々と話し込んだところで最後の詰めをちゃっちゃとやっていきましょう。補償相手への金の振り込みに振込に関する通知の送付等々、金があるのが分かったことでやるべきこともまた出来たんですから、数少ない貴重な新入生の入学式の準備と一緒にさっさと片付けないと。」
「うう、はぁ~~い・・・」
その後はいったん部屋を出てから倉庫にしまい、また部屋に戻っていって二人で作業を再開した。
「はぁ~~~~、いよいよ私も2年生かぁ~。新入生の子ってどんな子なんだろうなぁ~?いい子だといいなぁ~・・・」
・・・したはずだったが、早々に雑談タイムに入ろうとしている先輩だった。まあここでの仕事は、後は作った資料を基に通知文書を作るだけの単純作業しかないため焦る必要もないのだが・・・
「【小鳥遊ホシノ】、でしたっけ?新しい子って。地元の中学出身とは言え、こんな借金漬け破綻寸前の学校に態々入りに来る辺り少なくとも気合は入ってそうですね。」
とりあえず、資料をパソコンで作りながら話に乗ることにする。
「こ、これからちゃんと巻き返すから(震え)あ、因みにこれがその子の写真だよ。学生証用の証明写真だから肩から上しか映ってないけど。」
「どれどれ・・・う~~ん、仏頂面だけどこれはまごうことなき美少女。いや、キヴォトスの生徒で美少女以外に会った試しがないですけど。」
渡された資料のうち、小さめの写真に注目してそう感想を漏らした。何かの目の様な形状のヘイローに、ピンクブロンドのアホ毛が目立つショートヘアー、青と黄色のオッドアイ、証明写真にしてもやけに警戒心の強そうな仏頂面と、結構な属性を抱えてそうな印象を受けるな。後は、見た感じ肩幅などから高校入り始めにしては結構小柄なんじゃないかとも思う。
「泰寛君!私は!?私はどうかな!?」
「間違いなく美少女でしょ。(為政者には致命的に向いてないけど)地元愛が強く頑張り屋で、明るく天真爛漫な雰囲気で心和ませてくれる、可愛らしさと女性としての魅力ばっちりの、俺がキヴォトスで見た限りでは断トツトップの美少女ですよ。」
「・・・・・・・・・」
よくわからんが隣からそこそこマジな雰囲気でそう聞いてきた先輩に、あまり深く考えずに彼女への印象を伝えると、そのせいか彼女は口をパクパクとコイのように開閉させながらあっという間に赤くなってまたフリーズしてしまった。
・・・なんとなく気持ちは分かるが、手が止まったままはよろしくないので起こしにかかる。
「先輩。」
「・・・・・・はぅあ!?いや!あの!その!えっと、えっと・・・これは、その、違くて!その、えっと・・・え、えへへぇ~、こ、この子がうちの制服に袖を通して入学式に来てくれるのかぁ~!楽しみだなぁ~!ね!泰寛君!」
「あっはい、そうですね。」
よくわからんが、さっきのやり取りは無かったことにするようだ。
ちょくちょく先輩がこっちをチラ見しながらも、その後は作業を進めていく・・・
「・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
「?今度はなんです?」
「・・・・・・・・・・泰寛君、そう言えばいつもジャージ姿だけど、制服は?」
「キヴォトスに男用の制服なんてありませんよ。学生全員女ですもん。まあジャージは男が着ても問題なさそうだったんで、この通り制服代わりに今まで着てましたけど。」
入学前後の時はともかく、今となっては特に不便も何もないから気にかけてなかったな。
でも今後、外部との大事な仕事とかが入る様になったらどうするか・・・いや、よく考えたら親が俺の成人日に買ってくれたスーツ・・・はもったいないから使わないけど、ビジネススーツは普通に俺が来ても問題なさそうなのが売ってたし、今度それを調達するか。
「う~~~~ん・・・・・・よし!」
「?」
「泰寛君、今度制服を買いに行こう!」
「・・・・・・・え?」