ローグライクなスタンド使いのキヴォトス新生活記録 作:enigma
---ジリリリリリリッ ジリリリリリリッ
「ぐっ・・・うるせぇ・・・」
突然のけたたましい電子音が頭に響き、気が付けば見知った自室の天井が、電気の消えた薄暗い闇の中眼前に広がっていた。
重たい瞼を精一杯開き、枕元に配置されたテーブルの方を向いて未だ煩くジリジリと鳴り響く目覚まし時計を止める。
時刻は・・・午前4時丁度か。
「んだよ、まだこんな時間か・・・もう、ちょっと・・・寝ら、れ・・・・・・」
---パンッ! パンパンパンッ!
「いや駄目だ、さっさとトレーニングしねえと。」
寝落ちしそうになった瞬間、ここしばらくで聞き慣れてしまった火薬の爆ぜる音の幻聴がして一気に目が覚めてしまった。
なんとも酷い目覚めだが、仕方がないので部屋の明かりをつけてから運動着に着替え、コップ一杯の水を飲んでから全身の一通りの柔軟とアライブに任せた全身マッサージ、他準備運動をする。
夕飯前まであった残りの傷が綺麗サッパリなくなっているおかげでスムーズに進み、約1時間かけてそれらを終えたら、2種4個の鉄球が納まったガンベルトをしっかりと腰に巻き、扉を開けて隣の部屋・・・出入口兼用の倉庫に移動する。
そこから荷物が置かれた倉庫にある密集した物置き台や本棚の間を通り抜けて生活用スペースの洒落た長机の前に座ったら、上に置かれているもの・・・10枚程度のディスクを立てかけたディスクスタンド3つと十数枚の折り畳まれたメモ付きの紙をチェックする。それらの配置チェックが終わったら、プラ板の上で外履きに履き替えてアライブを呼び出す。
「接続と外の確認よろしく。」
『了解、ヒヒヒヒヒ・・・』
引き笑いを漏らしながらアライブは天井に向かっていって、天窓の様な天井の巨大円形ライトに腕で触れる。
すると腕が天井にめり込んでいき、そのまま頭、胴体、足と沈んでいって天井の向こうに消えた。戻ってくるまでの間、寝る前に装備しておいたディスクを今一度確認する。
「・・・キング・クリムゾン、ウェザーリポート、イエローテンパランス、エアロスミス・・・よし、全部あるな。」
確認したら、イエローテンパランスのビジョン・・・混濁した黄色いスライムを外に出し、全身を包み込んでさらにそれを俺自身の姿に擬態させる。
『OK、出テキテモ構イマセンヨ。』
「よし。」
擬態完了後、天井からアライブのOKの声が聞こえてきたため天井に向かってジャンプする。さっきのアライブの様に天井に吸い込まれ、一瞬で宿直室に放り出されたら床をチェックして着地、そのまま部屋を出てまだ日の出前の真っ暗い廊下を進み、玄関からグラウンドに出て校庭の内縁ギリギリを走り出した。そして一周ごとに、バーピージャンプ20回と懸垂10回・・・これを只管繰り返す。
「ぜぇっ!はぁっ!ぜぇっ!」
運動を始めて約20分、フォームを気にしながらも限界を攻める様に走り続けていたら早くも息切れしてきた。爺の体の時と比べたら羽のような体の軽さだが、全盛期はここに波紋の呼吸を維持するタスクがあっても一日中余裕で走り続けられたことを考えると、良くも悪くも文字通り15歳まで若返ったことを実感する。
正直今すぐ止めたい気持ちに駆られるが、キヴォトスの治安への危機感と全盛期に再び到達したい気持ち、ダンジョンを彷徨うしかなかった頃のヒリついた感覚を想起することで捻じ伏せ、ひたすら続ける。
「フゥ~ンフゥンフゥ~~ン♪きょ~うからふったり~♪ひっとりっからぁ~♪ふったりの学校~♪フンフ・・・」
「ヒュー・・・ヒュー・・・コヒュー・・・」
「えええええええええ!?どういう状況?!」
あと・・・もう、ちょい・・・あと、一周・・・それだけしたら・・・
「ちょっ!?泰寛君何してるの!?大丈夫なのこれ!?」
「あ・・・ゼヒュー、ユメ、せんぱい・・・おはよう、コホッ、ございます・・・ヒュー・・・」
「息絶えそうな感じで無理に挨拶しようとしなくていいから!もう、フラフラじゃん!今にも倒れそうだよ!?」
「だ、いじょう、ぶ・・・です・・・もう、少し・・・あと、もうすこ・・・」
「いやいや無理無理!その感じはもういろいろとダメだから!ほらっ!止まって止まって!お願いだから一旦立ち止まろうっ!」
「ちょ、待・・・」
「大丈夫?落ち着いた?」
「あ、はい。全然大丈夫です。」
いつの間にか時刻は8時半を回っていたようで、現在俺は登校してきたユメ先輩に保健室まで連れてこられ介抱されていた。
「もう、校門に入った瞬間いきなりあんな状態で出てくるからびっくりしちゃった・・・なんか昨日より大分治ってるみたいだけど、それでも無理しちゃだめだよ?今日からいろいろと頑張るんでしょ?」
「いや、これはこれでちゃんと計画性のある無茶というか・・・」
「嘘でしょ!?白目向きながら転ばないのが不思議な走り方をしてて、あれのどこに計画性があったの!?」
つまり擬態の維持に支障が出るほどの状態ではなかったので問題ないな、ヨシ!
「まあ何はともあれありがとうございました。俺はこれから朝飯食うんですけど、ユメ先輩はどうします?」
「私?私は午前中、対策室で事務仕事だよ。経費の整理とか、生徒募集のチラシ作りとか、色々とね。」
「なるほど・・・あ、そういえばユメ先輩。図書室に公民や法律関係の蔵書っておいてましたっけ?」
「え?うん、どうして?」
「空き時間にキヴォトスの法律の勉強でもしようかと考えてまして。俺、まだまだここのルールとか真面に知らないんで合間合間に少しでも勉強しておきたいんですよ。」
前の世界でもそうだが、社会のルールはちゃんと理解していて適切に利用できる人間の味方だ。ただでさえ不利な立場で、ルールも真面に把握できていない状況だと言葉巧みに不利な契約を結ばされる恐れもあるため、仕事やトレーニングなど他のタスクと並行で絶対勉強しなければならない。後は社会情勢や物流、相場を把握して稼ぎになる流れを掴めるようになったり・・・やること多すぎてさっきまでと違う意味で気分が悪くなってきた。
「そっかぁ~、勉強熱心だねぇ~。私も先輩がいた頃は生徒会業務の為に色々教わってたんだけど・・・おじさん難しい話はちょっと苦手でさぁ~。泰寛君がその手の事で頼りになってくれるとすっごく有難いなぁ。」
「先輩俺の一つ上で女でしょ、何故におじさん?・・・まあそのあたりは気長に待っていただけるとありがたいです。」
「うん!期待してるね!・・・じゃあ私は行くから、あんまり無茶しすぎちゃダメだからね!」
「了解です(無茶しないとは言っていない)」
そう言って、部屋から出ていくユメ先輩を見送る。
「・・・行ったか。」
足音が遠ざかり、こちらに引き返す気配もないと判断した俺は、アライブにまた鍵を出させて目当ての物をコイツに持ってこさせる。
『イヤァー、倉庫ノ接続中ニコノ二ツハチョット重イデスネェ~』
そんなことを言いながらも、アライブは目当ての物・・・【クリームシチュー・トマトとモッツァレラチーズのサラダ、食パン】とメモ書きされた折り畳まれた一枚の紙と、ブルーシート、折りたたみの机を一つずつ持って鍵の赤い石部分から現れる。
俺はブルーシートをまず受け取り、保健室の隅にそれを広げ、その上に机の脚を広げた状態で置く。続いて机の側に座り、折り畳まれた紙を机の上に乗せて開くと・・・中から紙のメモ書きにあった通りの物が皿に盛られた状態で現れる。
皿の手前側にはフォーク・ナイフ・スプーンもそれぞれ置かれており、すぐにでも食べ始められる状態だった。
「ンン~~~、我ながらよく出来た感じ。よし、食うか・・・」
漂う香りに唾液腺を刺激され、さっそく食事を始める。
ダンジョンで散々食べた憧れの料理人の味を研究し、俺なりに再現したトマトとチーズのサラダは、口に入れた途端新鮮なチーズのさっぱりとした味わいとトマトの酸味・ジューシーさ、バジルなどのハーブの風味が口の中で合わさり、幾度となく食べてきたにもかかわらず全く飽きさせない旨味を感じた。
サラダを置いて千切った食パンで口直しをし、続いて今度はクリームシチューを口にする。
「モグモグ・・・うん、うまい!」
ぶつ切りにした鶏もも肉や、ブロッコリー、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎなど日本のシチューの定番ともいえる具材に、サツマイモやブナシメジ、キャベツを追加して、クリームソースと別個で作ったコンソメ、各種ハーブと共に煮立てて作ったクリームシチューは、それぞれの味わいが調和して一つの料理として納得のいくものに仕上がっていた。
嗅いでるだけで疲れが消え失せていくような感覚になり、一口食べるごとに心と体が温められ、さっきまで感じていた気怠さを忘れてガツガツと食べていく。
「ング、ング・・・暑くなってきた!!」
全体の半分くらいまで食べたところで体が猛烈に蒸し暑くなってきてしまい、食事の手を一度止めて上下のジャージを脱ぐ。
それでもなお蒸し暑さは止まらないため全裸になるがそれでも感じる暑さは変わらず、さらに全身に痒さを感じてきてしまい、アライブに飯を口に入れてもらいながら痒い所を搔くと・・・
指先にあっという間にべっとりとした垢がへばりつく。
指の第一関節と同じかそれ以上の体積の垢が、掻いた指の先にそれぞれ、べっとりとだ。
特に痛みもないので意に介さずそのまま体を掻きまくっていると、垢はボロボロと常識では考えられない速度で大量に削げて落ちていく。垢の総量がソフトボールサイズになったあたりで手が足りず、口いっぱいに頬張ったタイミングでさらにアライブの手を借りて手が届かないところを掻きまくると、あっという間にバスケットボールサイズすら超えそうなほどの体積の垢が落ちてブルーシートの上に堆積していく。
傍から見れば全身の至る個所の肉が抉れて骨まで見えてしまうんじゃないかと思うほど体表が削げていき・・・ふとしたタイミングで、全身の痒みがピタリと止まる。
「よっと・・・おぉ~~~、スゲェーことになってる!」
残っている垢を落として自身の体を見てみれば、先程と比べて格段に逞しくなっていた。
中肉中背でのっぺりとしていた体表は、腹筋はうっすらと六つに割れ、胸筋や腕周り、下半身はさっきまでと明らかに違いが分かるほど太く厚く凹凸が出来て、肩や背中はパッドでも入れたのかと思う程発達し、力を籠めれば全身の筋肉の陰影と皮下を走る血管がしっかり浮き出ている。
窓ガラスの前でポージングした姿を映して見ると、ライザップ顔負けの細マッチョに大変身を遂げた自分の姿があった。
・・・これ、変わりすぎててユメ先輩腰抜かすのでは?ちょっとパール・ジャムさん頑張りすぎ?
・・・まあいいか。
とりあえずこれをあと2~3週間、呼吸矯正マスクを付けながら繰り返せば基礎体力作りは一先ず達成して、戦闘トレーニングに移れるだろう。
決意を新たにしつつ飯の残りをかっ食らい、後片付けをアライブと共に行って、その後図書室へ移動して幾つかの本を見繕う。
借りる分の図書カードも書いて本を倉庫内の机の上に置いたら準備完了。ユメ先輩に対策室の外から声をかけて、町中に向かうべく校舎の外へと出ていった。
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「お、あったあった。」
アビドス自治区から電車に揺られながら移動を繰り返し、現在俺がいるのは、連邦生徒会の自治区【D.U】に存在する最大手の銀行の前。まずはここで個人口座と通帳、キャッシュカードの作成手続きを行う。
これがないと、いろんな支払い手続きとか給与振込とかが頗る面倒だからな。まさに、社会人(学生)のマストアイテムだ。
「お邪魔しまーす。」
都会の大銀行というのもあってか、俺はちょっと浮かれた感じで開いた自動ドアの先に一歩足を踏み入れた。
―――ダダダダダッ! ダダダダダダダッ!!
「全員その場に伏せろォッ!!」
「オラオラ!!さっさと一か所に集まれテメェら!!ちょっとでも怪しい真似しやがったら鉛玉ぶち込んでやるぜぇッ!!」
「ヒィイイイイイ!?」
「・・・・・・お邪魔しました~・・・」
自動ドアの先に広がっていたカオスな状況に反射で見切りをつけ、全力で目を背けて全速力でその場から30メートルくらい離れた物陰に飛び込んだ。
「ふぅ~~~~・・・どういうことだよ!?」
なんで市街地のど真ん中で大手銀行が襲われてんだ!?え?都心の銀行だよねここ?折角この手のイベントがありそうな近場の地方銀行を避けて、態々セキュリティがしっかりしてそうな大都市の銀行に来たのに、こんなピンポイントで起こることある?
・・・とりあえずあいつらは早めに片付けとこう。正義感というのもあるが、放置しといてこっちに飛び火してきたらたまったもんじゃねえ。
「エアロスミス、ウェザーリポート。」
精神を集中して、エアロスミスと、周囲に浮雲が漂う頭に棘の生えた人型スタンド―――【ウェザー・リポート】が出現する。
「行け。」
俺の意に従い、ウェザー・リポートのビジョンが大気に溶け込み風となってさっきの銀行の中に入っていく。エアロスミスも、俺にしか聞こえていないだろうプロペラのエンジン音を響かせながら後に続く。
そして、ウェザーの能力により大気の流れを通して、銀行内の様子が詳細に俺自身に伝わってくる。
『チンタラすんなッ!!サツが来るまでに纏め終わってなかったらタダじゃ置かねえぞ!!』
『ヒィ!?スミマセン!すぐに詰めますから撃たないでぇ!!』
『おいお前らっ!金目のものがあったら今すぐ出しなっ!』
『素直に出せば痛い目だけは見ないで済むぜ?』
『や、やめてください!これは会社から預かった大事な金で・・・』
『ほぉ~ん、そいつはさぞかしたくさんあるんだろうなぁ~♪』チャキッ
『お、お願いします!本当に勘弁して・・・』
「・・・糞みてぇなやり取りだな。」
伝わってくるやり取りの内容に思わずそんな感想が漏れるも、エアロスミスのレーダーと合わせて内部状況の把握に努める。強盗の数は・・・10人ってところか。民間人と強盗の位置関係は・・・よし、把握完了。念の為の細工をしてから一か所に集められている民間人の頭上にエアロスミスを移動させ、旋回させながら囲んでいる襲撃犯たちに機銃掃射をお見舞いしてやる。
『『ギャッ!?』』
『『グヘッ!?』』
『ガギバゴグガペゲッ!?』
『は!?お前らなにしてアガガガガガッガッ!?』
『テ、テメェら何かしやがったのか!?{ガチンッ}ハァッ?!こんな時にジャmグハッ!?』
『リーダー!?クソッ!?{ガチンッカチカチッ}なんで出ないおごぉっ!?』
「・・・・・よし、制圧完了。」
最後に念入りに内部をチェックし、強盗犯全員の無力化を確認したらその場を離れた。
内部は予想通り、アホ面晒して横たわるボロボロの強盗らしき連中と、その連中の側に落ちている不自然に水滴がついてたり水が滴っている様々な銃火器、それらを取り囲んで騒ぐ銀行員や客たちの姿があった。
「後はこれで警察が来てしまえば問題ねえな。さ、俺も次のところ行かねえと。」
未だに一つも片付いていない用事をさっさと消化するべく、俺はその場を離れていった。