ラノベ廻戦   作:悲しいなぁ@silvie

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微妙だなと思ったB級映画に限って忘れた頃に続編出るよね

 

 

 

「鹿紫雲は、戦うのが怖くないのか?」

 

いつだったか、修行の合間にそう訊いた事があった。

自分で訊いておきながら、きっとそんな訳あるかとか修行が足りないからだとか怒られるんだろうなと思いながら…それでも訊かずにはいられなかった。

怖かった。

喧嘩なんて生易しいものではない、戦闘が

掠れば皮膚が裂け、肉が千切れて血が噴き出す真剣勝負(リアル)

お互いにプライドとかその後の生活を考えて互いに線引きをした上で行われる最悪が回避される前提の行為(喧嘩)ではなく、どちらか一方の死が前提である行為(戦闘)

生得領域の中──自身の安全が確約されている場での修行ですら俺には怖くて仕方なかった。

それが、実戦ともなれば…尚更だ。

漫画の主人公みたいに骨が折れたって立ち上がる根性や精神論なんてものは当然備わっていなくて、初めて骨を折った時はあまりの痛みにうずくまって嘔吐した。

頬が裂けても、血を拭って笑ったりその血を舐めたりなんてできる筈もなくて…噴き出す血とあまりにも首筋(急所)に近い場所の負傷に俺はみっともなく頭を抱えてその場で転がった。

 

命を賭けるだとか、死線を潜るだとか、そういうのは…もちろん格好良いしヒロイックだが、俺みたいな人間には出来ない事なのだと思い知らされた。

お前は所詮、成り代わっただけの偽者(クズ)なんだと嘲笑われているようだった。

 

『ああ゛?んなもん────怖いに決まってんだろうが』

 

だからこそ、鹿紫雲のそんな答えに俺は……呆気にとられてしまった。

 

「怖い……?鹿紫雲が、か……?」

 

『お前は俺をなんだと思ってんだよ…!』

 

ピキピキと青筋を立てる鹿紫雲に、だが俺は恐怖よりも疑問を覚えた。

だって、あんなにも戦ってたじゃないか。

恐怖なんてなく、恐れなんて感じさせず、竦みも震えも怯えも無かった。

そんな人間が、怖いなんて言うはず無いだろ…?

 

『チッ…お前はそもそも前提(ハナっ)から間違えてんだよ』

 

鹿紫雲はそう言うと、肩に担いでいた戦杖を俺の鼻先に突きつけた。

思わず肩が跳ね上がり、みっともなく飛び退いた俺を見て鹿紫雲は何故か楽しそうに笑う。

 

『いいか?呪力ってのはそもそもが人間の負の感情から生まれるモンだ

そんで、恐怖やらその他諸々だって当然そこに含まれてる』

 

鹿紫雲は戦杖を再び肩に掛けるとその場にどかっと腰を下ろし俺の目を見据えて話し出す。

 

『勿論、ビビッて動けねぇなんて論外だが…かと言って、なんの恐怖も感じねぇなんてのは術師としちゃ三流もイイトコだ』

 

「………」

 

頭では、勿論わかる。

そういう事なんだろうとはわかるが…それは、恐怖とは言わないだろう。

それは、強さじゃないか

俺の弱さとは別の何かだ

 

口には出さなかったが、俺の態度から察したらしい鹿紫雲は頭をガリガリと掻きながら大きく息を吐いた。

 

『と、まぁ…ここまでが一般論なワケだが』

 

「………一般論…?」

 

『俺の考えは違う』

 

鹿紫雲はそう言うと、頬杖をついて俺の顔をじっと見つめる。

 

『恐怖ってのは、生き延びる為の強さだ』

 

強い目で、俺には羨ましくて、眩しくて、マトモに見れないぐらいに強い目で…鹿紫雲は断言する。

 

『お前は俺との組手で、確かにビビッて逃げ回ってたが…逃げ回ってる間に負った傷はアバラが何本かと頬のかすり傷だけだったろ』

 

その目には、どこか苛立ちが混じっているように感じた。

気のせいでなければ、俺へのではなく…自分自身への苛立ちが。

 

『お前が俺にビビッて、恐れて恐怖を抱けば抱く程に…お前の身体は過剰な程に俺の一挙手一投足を察知する

獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くすが、アレは周到なワケでも誇りでもねぇ…そうでもしなけりゃ兎を狩れねぇからだ』

 

肩に掛けた戦杖を、ゆっくりと俺の方へ向ける。

 

『獅子が狩りに使うのは、視覚と聴覚…それに嗅覚ぐらいか

だが、兎が逃げる為に使うのはテメェの持ってる全部だ

肌で気配を感じ、鼻で方角を知り、耳で距離を測り、目で姿を確認し、口で他の仲間へ伝える…心底に怖がって、ビビッてるからこそテメェの持てる全てで対応する

要は、獅子()が全力を尽くしても(お前)にその程度の負傷を与えるのでやっとだったって事だ』

 

俺の鼻先に戦杖を突きつけ、鹿紫雲はそう笑う。

それこそ獅子のように…凄惨に。

 

「だが…それでも、俺は恐怖で動けなくなった」

 

俺の負傷が少ないのは、鹿紫雲が相手だったからで

これが組手だったからだ。

情けなくうずくまる俺を攻撃することも、恐怖に脚が動かなくなった俺を狙うことも無かったじゃないか

もし実戦なら、俺はとっくに死んでたんだ

 

『まぁ…テメェのしみったれた負け犬根性が二、三言った程度でどうにかなるなんてハナっから思っちゃねぇよ』

 

鹿紫雲はよっと、と座った姿勢から軽く飛び上がり俺の前に立つ。

 

『お前に、どんな奴が相手でも絶対に戦えるようになる魔法を教えてやるよ』

 

 

 

 

 

少年は、ゆっくりと腰を落とし前傾姿勢をとると左の腰元へ両の手を添える。

それは、誰が見ても明らかな────抜刀の構えだった。

 

(なんだ、あの構え?夏油の言ってたシン・陰流…?)

 

ゆっくりと息を吐きながら、腹部を大きく膨らませる特殊な呼吸法…俗に言う逆腹式呼吸で無理矢理に乱れた呼吸を整える。

 

『自分の中に、一振りの刀を持て

そして、その刀は────絶対に抜くな』

 

魂を観測できる真人だからこそ理解する。

肉体の主導権は既に、鹿紫雲一からユグドラシル悠仁へと移行している。

ゆっくりと両の手を握り、開く。

問題なし…鹿紫雲一もまた、魂の輪郭を捉えてはいなかった。

真人の口角が吊り上がる。

 

『目の前で誰が殺されようと、心底殺してやりたいと思う奴が相手だろうと、絶対に抜くな』

 

両者の距離は、10メートル程

互いに、瞬きの間に詰められる距離である。

 

『その刀を抜く時は、誰かの為じゃねぇ

自分(テメェ)の為だけに抜け

他人を、お前がカッコよく死ぬ為の理由に使うな』

 

両者が、相対しながらも待つ

機を、互いに互いを確実に殺傷できるタイミングを

極限の集中

瞬きすら忘れる集中…少年の目から、乾いた眼球を潤す為に涙が滲む

ほんの1滴、その1滴が…視界を僅かにぼやけさせた。

 

『いいか?恐怖はお前を縛る鎖じゃねぇ

俺も、羂索も、宿儺だって持ってねぇ…お前だけの刃だ

その刀を抜いた時、お前は─────誰にも負けねぇ』

 

足元のコンクリートが砕ける程の強い踏み込み

真人が駆ける

その両手は、掠るだけで死に至る形ある死に他ならない

少年は動かない

腰に手を添え、ただ一言

ほんの一言だけを、呟いた。

 

「抜刀」

 

真人の手が、少年の無防備な頭へ伸びる

少年は動かない

真人の笑みが更に更に、深まる

 

『………は?』

 

パン、と軽く鳴った音を真人は理解出来なかった

出どころは、自身の目の前

しかし、理解出来なかった

目の前の、死にかけの少年が自身の右手首を掴んでいる

 

真人の術式『無為転変』は自身の原型の両手、そのどちらかで触れた対象の魂を意のままに操る

その特性上…真人は自身の両手のどこからどこまでが術式対象なのかを、夏油はおろか漏瑚や花御にも話してはいない

 

あり得ない事である

普段から、真人は術式を使う際には必ず手のひらを使う

それは、相手にどこからどこまでが『手』なのかを悟られないようにする為

それは、少年との戦いでも徹底している

だが少年は、真人の手の1ミリにも満たぬほんの僅かだけ…上を握っていた。

 

無数の疑問に、真人の身体が一瞬…須臾の硬直を起こす

その硬直を、まるで知っていたように

真人の腕が強く引かれる

右腕で、右手首を引かれた真人は必然…無防備に脇腹をさらけ出す

 

少年は、()()を出した事は無かった

呪力操作に明け暮れ、身体を鍛え抜き、結界術を習得し、かの五条悟すら超える程の呪力総量へ至ってなお…それを出す事は無かった

罰だと思っていた

偽者が本物のフリをした罰だと

罪だと思っていた

偽者が本物と同じ事をしようと考える事自体が

いつしか、少年はそれを出そうとすら考えなくなった

 

少年が強く踏み込む

足元のコンクリートに、踏み込んだ脚が突き刺さる程に強く、深く

それは、奇しくも師と同じ左正拳から始まった

 

それとは則ち────

 

黒閃

 

眩き白い雷光に入り混じる、目を焼かんばかりの黒き火花

白と黒の追走が押し寄せる波濤のように真人を呑み込み、紙屑のように吹き飛ばす。

 

『いい加減わかれよ、いくらお前が頑張って黒閃を決めたって俺にはなーんにも』

 

十数メートルの距離を吹き飛ばされ、転がりながらも逆再生のように立ち上がると真人は埃を払うように身体を叩き笑う。

まるで幼子に言い聞かせるように話す真人の言葉が、途切れた

自身の喉から吐き出された──夥しい量の血によって

 

『な、なん……!?』

 

大量に呑んでいた呪物を他ならぬ真人によって吐き出させられた少年は自身とその内の鹿紫雲一…ただ二つだけになった事により逆に、強く魂の輪郭を意識する

そして、黒閃による超集中状態……今、漸くに少年は魂の輪郭を捉えるに至る

 

そんな少年の変化の全てを、真人が理解した訳では無い

だが、それでも理解する

今、自身の前に立つのは───自身を殺傷し得るに足る存在だと

 

(成長したのか…戦いの中で…!

俺を、殺せる領域(レベル)にまで……っ!!)

 

無為転変を持つ真人にとって、自身を脅かす存在は少ない

呪霊に対する絶対的優位を持つ『呪霊操術』、そして現代最強の術師である『五条悟』…その程度だと思っていた

だが、ここで出逢う

自身にとっての─────天敵!

真人の命に、手が掛かった。

 

「お前もだ…お前も───賭けろ!!」

 

全身の裂傷から血が噴き出すも構わずに、少年が吠える。

未だ、ダメージの蓄積では真人が圧倒的な優位にある

大局は間違いなく真人に傾くだろう

だが、趨勢は…少年に傾きだしていた。

 

有利、有利だからこそ…真人の思考に撤退の二文字が浮かぶ

直感

このまま戦闘を続けると、何かが変わるという直感

自身か?それとも少年か?

そこまではわからない…だが、自身が有利だからこそ退くべきだと理解する

わざわざ虎の尾を踏む必要はないのだから

脳裏に浮かぶは、夏油からの忠告

 

真人、ギャンブルは勝率じゃなくて負けた時のリスクを考えるべきだ

 

それは───雑魚の思考でしょ

真人の逃げ足を諌めるは、呪いとしての本能

目の前の少年を殺さんとする殺戮本能であり、真の人間たる嘘偽りのない純然たる害意

 

『死に体がぁ!!』

 

真人もまた吠える

死ぬのはお前だと、惨たらしく…生まれてきた事を呪う程に無惨に殺してやると

 

戦場に醜くも美しき、自我(エゴ)の花が今…芽吹く

 

 

 

 

 

 




次回────決着!!!
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