超高校級の幸運に内定していた少女は、高度育成高等学校に入学する。 作:杏仁豆腐
ようやく新話が投稿出来ました。
これからも自分のペースで投稿していくので、気ままにお待ちいただけたらと思います。
今回の話では過去、現在の試験においてそこそこ重要な記述がありますので、是非初めの過去編の部分も読んでいただけたらと思います。
T.Y.の記憶
私はいつも独りだった。
周囲の人間は誰も私の願いや思考を理解してくれないし、私の考えを尊重してもくれない。変人だと、つまらない人だと、話しにくい人だと、そう評価され、いつも独りぼっちだった。
そんな私の世界にある日、一色の色が落ちた。その色は闇夜のような深い深い黒だった。
『初めまして。私は────だよ。その髪飾り、とっても可愛いね。良かったら、今度近くのショッピングモールに行かない?あそこにも可愛いらしいアクセサリーを扱っているお店があるんだ。』
私の前に現れた彼女は、誰にも理解されなかった私の好きな物を褒め、認め、共感してくれた。
『……分かりました。一緒に行って差し上げても構いません。』
私は彼女の性格、声、平凡な容姿を受け入れ、彼女を傍に置く事を許容した。私とは似ても似つかない性格、私とは違う趣味を持ちはするが、私の考えを拒絶しない真っ黒な存在。初めて私が興味を持った人間。
私は彼女と話す内に少しずつ打ち解けていき、大切な友人として接する様になっていた。彼女は私と同じ部活に入り、私と一緒に様々なゲームをした。トランプ、百人一首、人狼ゲーム、ルーレット……それらの殆どで私は勝利したが、彼女はそんな私に食らいついてくる。とても運の良い人間だった。
『……あー、また負けちゃった。凄いね、──ちゃん。私も先手なら勝ててたかもなぁ。』
『うふふ、先手か後手かも運……つまり運も実力のうち、という事ですわ。』
『まあそうだけどさ、それにしても──ちゃんって本当に強いよね。そういえば、最近は外でも活躍しているんでしょ?噂は結構耳にしてるよ。本当に凄いよね!私もいつか……君に勝てたら良いなぁ。』
彼女はいつも私に対して友好的だった。私はそんな彼女に心を開き、自分の秘密を少しずつ打ち明けていった。
『私には大きな……いえ、人によればちっぽけとも言えるものなのですが……とにかく、夢があるのです。』
『夢?どんな夢なのか聞いても良い?』
『ええ、勿論ですわ。私の夢は───』
私が自分の夢を淡々と語ると、彼女は真剣な表情で何度も頷き、私の夢を応援すると言い笑い掛けてきた。
『……あなたは馬鹿に、しないのですか?』
『え?』
『私は、今言った通りの夢を持っています。大きな……けれど人によってはちっぽけな夢ですわ。叶うかどうかも分からない、でも叶ったとして常人に理解される様なものでは無い、という事はよく理解しているつもりです。どうして、私の夢を応援してくださるのですか?どうして、私の夢を馬鹿にしないのですか?』
『応援しちゃダメなの?馬鹿にしなきゃいけないルールでもあるの?』
彼女は不思議そうに首を傾げる。私が彼女の反応に少し戸惑っていると、彼女は笑った。
『だってさ、夢を持つ事は良い事でしょ?それに……皆趣味も性格も容姿も違う。それぞれ考えている事も全く違う。誰かに理解されない様な夢って、そんなにおかしい?自分の夢を正確に理解してくれる人なんてそうそう居ないんだから、別に気にしなくて良いと思うよ。私だって、──ちゃんの夢を全部理解出来てる訳じゃないけど、素敵な夢だと思ったし、いつかその夢が叶った時私を招待してくれたら嬉しいなって思ってるよ。──ちゃんの夢の先を、私も一緒に見てみたいんだ。』
初めてだった。初めて私の夢を肯定し、応援してくれた人だった。それが嬉しくて嬉しくて、私は彼女ともっと沢山遊びたいと思う様になった。
『──この世に神様はいないんだ。夢を叶えるのも自分、夢が叶わないのも自分。結局決定権は何にしても自分にある。その夢の為に今を必死に生きる──ちゃんは凄いよ。私も──ちゃんみたいに、熱くなれるものが欲しいなぁ。』
しかし、彼女とは中学を卒業し、疎遠になってしまう。
それから、私は私の持つ才能を使って荒稼ぎをし、夢の先を彼女に見せられるよう努力した。いつか、親愛なる彼女を自分の城に招待出来るように。
たとえ道を違えたとしても、彼女と歩んだ日々や思い出は消える事無く、輝いている。手を伸ばせばいつでも思い出せる。
そして、これは確信では無いが、彼女はこちら側の人間の可能性がある。私と勝負した時、確かに彼女は才能を持つ者特有の何か……そう、目に見えない片鱗があったのだ。
『確信は無い……だけど、彼女には私の才能より大きい何か……天才達が恐れるような何かがある気がします。いつかまた再会したその時、その何かの片鱗の正体、恐れた何かを知る事が出来れば良いのですが……特に彼女は私の天敵の様な気がしてなりませんし。』
私は彼女と再会する時を心待ちにしている。そして、彼女の事をもっとよく知りたい。彼女がどんな人なのか、どんな夢を持っているのかを。
『あなたとまた再会した時、私は夢の為にどれほどの努力が出来ているのでしょうか。夢は、叶えられているのでしょうか。』
誰に問うでもなく、私は空に向かってそう呟いた。
一人の少女の淡い想いは叶うこと無く、二人の運命は別れた。再会することもなく、互いの近況を知ることも無く時は無情にも流れていくのだ。
『さぁ、張り切っていきましょう!お仕置きターイム!』
無情で無機質な機械音が頭上のモニターから聞こえる。モニターの中では何人もの少年少女達が怯え、不安、怒りを抱きながら一人の少女の処刑シーンを眺めていた。しかし、美香はそんな映像なんてお構いなしに前を進み続ける。かつての友のいのちの灯火が消える悲劇的な瞬間だというのに、そんなものに目もくれず歩き続ける。
「…早く、早く逃げなきゃ。私はこんなところで死ぬわけにはいかないのよ、盾子。」
あたり一面が真っ赤に染まった住宅街……その中を美香と両親は進み続ける。安全地帯、食料、希望を求めて、歩み続けるしかないのだ。
「美香、本当にそっちで合っているのかい?」
厳格そうな美香の父親が彼女にそう問い掛けるが、美香は小さく頷くだけで何も答えない。
「……そうか、分かった。運の良いお前がいうのだから、そうなのだろうな。本庄先生も、お前の運を頼りにしていたんだ。きっとお前は神に選ばれた子に違いない。」
父親は不安そうな声ではあるが、表情はいつも通りの無表情だった。
「……一体、いつまでこんなことが続くのかしら。もういっそ、私も死んでしまいたいわ。」
母親の不安そうな言葉に父親と美香は一瞬目を見開き泣きそうになる。涙で滲む視界は何度目を擦ってもやっぱり赤で、彼女達の心は限界をとっくに迎えていた。
「……きっと、いつかは終わるはずだよ。流行り病が蔓延しても、偉大な学者達が特効薬や緩和薬を開発したように、このおぞましい絶望にも対抗できる大きな希望が生まれる……そう信じるしかないんだ。こんな世界にだって、きっと神様はいる。だからさ、絶望しながらも、苦しみながらも前に進むしかないんだ。」
そんな言葉を口にしながらも私は絶望していたのだ。
……この世界に……そして、江ノ島盾子に。
「神様、お願いだから、私とお父さんとあ母さんを助けてください。」
(神さまなんて居ない。そんなの、誰よりも私が一番分かってる。)
◇◇◇
「ふわぁ……おはよう、藍ちゃん、美紀ちゃん。」
「おはようございます。」
「……もう朝ですか。」
私が声を掛けると2人は眠い目をこすりながらゆっくりと私の方へ振り向き挨拶を返す。
「無人島で寝れるわけないって思ってたけど意外に熟睡出来たかも。洞窟の中は涼しくて快適だし、生活はしやすそうだね。」
「確かにそうですね。日向にテントを立てて寝ていたら、ここまで質の高い眠りが得られている訳ありません。」
「2人の言う通りですね。」
私の発言に藍と美紀も頷き同意を示した。本来、真夏に外で眠れるわけが無いのだが、私達Aクラスはベースキャンプを洞窟にした為、比較的涼しいところで寝ることが出来る。葛城が洞窟を見付けてくれたおかげで快適な生活が送れる為、葛城には頭が上がらない。
翌日の午前、クラス全員が朝食を摂り終えて、クラスメイト達の半数以上が、食料調達や島内の散策に向かって行く。
ちなみに今日の朝食は鮎の炊き込みご飯だ。朝、早起きをした生徒数人が食料調達に向かい、鮎を5匹釣ってきてくれた。生徒全員分だと足りないので、調理班の女子生徒が炊き込みご飯にして、全員が食べられるようにしてくれたそうだ。
炊き込みご飯にしたら全員が食べられると、瞬時に思い付き行動に移した女子生徒は大したものだ。この無人島試験に溶け込み、適応している。適応は大切だ。
「この後はまた自由行動でしたよね?」
「そうだね。私は途中でスポットの更新に行かなきゃ行けないけど、基本的には食料調達という名の自由行動だね。」
「分かりました。では、各自支度を整え次第洞窟の入口に集合しましょう。今日は2人に生き餌GETの方法を伝授します。」
スポットの占有は8時間で切れてしまう。なので、8時間毎に更新を行わなければいけない。Aクラスが占有しているスポットは3つで、全てベースキャンプから近い為すぐに回る事が出来る。
私も支度を整えて洞窟の入り口へと向かう。洞窟の入り口では、藍が壁にもたれかかったまま、リュックの中を整理していた。
「お待たせ!」
「遅いですよ、美香。もう少しテキパキ動いて下さい。早くしないと、生き餌を取られてしまいます。」
「あはは、ごめんね。遅くなっちゃって。」
生き餌を捕まえて釣りを始める生徒が多くいるとは思えない、と藍の発言に心の中で突っ込みを入れる。
初日は迷子や遭難、体調不良に備えて二人一組での行動が義務付けられていたが、今日からは自由行動が許可されている。だから私は今日、美紀と藍と共に食料調達を行う約束を交わしており、支度を整えて洞窟の入り口で落ち合う事になっていたのである。
しかし、藍の他に美紀の姿はなく、洞窟の中も彼女の姿は無かったので、少し心配だ。真面目な美紀が何も言わずに、自分勝手な行動を取るとは思えないので、藍に美紀の行方について尋ねる事にした。
「あれ?……美紀ちゃんはまだ来てないの?美紀ちゃんが一番遅いなんて、珍しい事もあるものだね。」
「……そう、ですね。」
私が藍にそう尋ねると、彼女も表情は変えないが少し心配そうな声で同意を示した。その瞬間、洞窟の前にある川の辺りがざわつき始めた。
「おい、葛城を出せ!」
「ん?どうしたんだ?」
「外が騒がしいな。」
私と藍も不審に思い、目の前の川の方へ視線を移す。すると、そこには噂のCクラスの王、龍園翔と身体能力の高い山田アルベルト、龍園に付き従う雑魚Aの石崎大地が葛城の名を叫んでいた。
「あれは……Cクラスの王、龍園翔ですね。わざわざ無人島に来てまで、問題を起こすなんて、流石不良の鏡のような男です。」
「あはは、まあ、そうだね……不良の鏡、か。言い得て妙だね。」
龍園翔を近くで見るのは初めてだ。噂のCクラスの支配者は殆ど想像通りで、凶悪そうな笑みを浮かべている様はまさに悪人と言える。
「……でもちょっと予想外だなぁ。まさかこんなに背が低いなんて。もっと大漢を想像していたから少しびっくりだよ。」
「確かに、私も最初見た時は少し驚きました。」
Cクラスの王だから、もっと大きく屈強な男だと思っていたのだが、こんな平均的な身長だというのは予想外だ。
「まあ、人は見かけによらないと言いますし、油断しない方が良いでしょう。」
「そうだね。」
そんな会話をしている内に、葛城が洞窟の中から姿を現したようだ。しかし、彼は一人ではなく美紀と共に現れたのだ。
「何の用だ、龍園。」
葛城は龍園の姿を捉えると真っ直ぐ彼らの元へ向かい、鋭い視線を向ける。
「おいおい、そんな怖い顔すんなよ。ちょっと葛城に用があってな。」
「貴様のクラスとは極力関わりたくないのだがな。」
「まあそう言うなよ。今日は別に喧嘩を売りに来たわけじゃないんだ。ただ少し交渉しに来ただけだぜ?」
「交渉だと?悪いが今は取り込み中だ、後にしてもらおう。」
そう言って葛城は龍園の横を通り過ぎようとするが、龍園は素早く腕を葛城の前に突き出しそれを阻止した。そして、龍園は葛城にだけ耳打ちするような仕草で、小声で話し始めた。
「なあ葛城。今回の無人島試験では、俺らのクラスとお前のクラスで協力関係を結ぶってのはどうだ?悪い話じゃないだろ?」
「断る。」
「即答かよ。でもいいのか?これはお前らにとっても悪くない話だと思うんだがなぁ?」
「何……?」
葛城が訝しげな表情で龍園に聞き返す。
「今回、俺達Cクラスはポイントを全て使ってAクラスに物資を提供したいと考えている。物資が増えれば、お前達のクラスは試験ポイントを温存できる。つまり、今回の試験で勝つ事が出来る。そうすりゃ、葛城がAクラスのリーダーになれるだろうな。……だが勿論、タダでは渡せない。お前達Aクラスに要求するもの、それは────」
龍園は言葉を区切り、ニヤリと口角を上げた。
「プライベートポイントだ。」
龍園の提案を受け入れれば、Aクラスは今回多額のクラスポイントを得られる可能性は高い。試験に勝利すれば葛城派の勢力は拡大し、クラスリーダーへ一歩近づくだろう。
しかし、逆に負けてしまった時のリスクがかなり大きい。今回Aクラスは坂柳が参加していない為、坂柳派は葛城に従うとは思えない。試験を妨害する可能性もある。そして何より、今回の試験では試験ポイントがマイナスされる条件が複数あり、目立たずに坂柳派が葛城派の足を引っ張ることも容易だ。そんな試験の中で他クラスの要注意人物が訪ねてきて協力を持掛けるというのはかなり怪しい。
「毎月Aクラスは40万プライベートポイントをCクラスに支払って貰う。たかだか1人2万で特別試験の勝利が買えるんだ。安いもんだろ?今回の試験もそれなりに楽しみながらできるしな、思い出作りもバッチリだろう。……どうだ?」
この学校において多くの生徒がAクラス卒業を目指す中、大切とされるものは勿論クラスポイントだ。クラスポイントとプライベートポイントは別物だが、互いに密接に関係しており、どちらか片方があれば良い、というものでは無い。
プライベートポイントは生活を豊かにし、必要な物を得る為の一つの手段として使うことも出来る。対してクラスポイントは毎月支払われるプライベートポイントの額を決めるものであり、卒業後の進路を保証するとされているAクラスへ昇格する為に悲痛不可欠な物だ。どちらが重要かと問われれば多くの生徒はクラスポイントだというが、プライベートポイントが無ければ多くの手を失う事になる。つまりどちらも必要不可欠なアイテムなのである。
「……お前が契約を結べば、今すぐにでも俺達はお前達のクラスに協力してやろう。……ああ、ついでだ。オマケに他クラスのリーダー情報が分かればそれも教えよう。どうだ?お前とは良い関係を築けると思うんだがな。」
龍園はいやらしい笑みを浮かべながら、葛城の返答を待っている。葛城は不愉快だと言わんばかりの表情を龍園に向け、口を開いた。
「……断る。お前の提案には大きく分けて2つの落とし穴がある。」
「……ハッ。落とし穴、だと?」
龍園は乾いた笑い声を上げ、葛城をじっと睨み付ける。葛城はそんな龍園の凶悪な顔に臆することなく彼の提案の欠点を指摘し始める。
「……まず1つ目だ。今回の試験で買ったとして、得られるクラスポイントは数百クラスポイントだ。AクラスがCクラスに毎月40万プライベートポイントを支払うとなれば、長期的に見てCクラスに利点は大きいが、Aクラスには長期的な利が無い。それもこの試験に敗北すれば、今回の提案はリスクしかない。そして……考えたくは無いが、もし内部の生徒が裏切り行為をしてしまえば確実に俺がリーダーとなるのは不可能、今回の提案は俺を陥れる為のものとしか考えられないな。」
「酷い言われようだな。それとも葛城、お前は怖気付いてるのか?存在するかも分からない裏切り者に。」
龍園はお得意の挑発で葛城をおちょくるが、葛城は彼の挑発を無視し話し続ける。
「次に2つ目だ。リーダー情報を伝えると言ったが、そのリーダー情報が正しいという確証が無い。そして、互いのクラスのリーダーを指名しないというルールが無い以上、信頼関係は初めから破綻している。つまりウチを陥れる為の偽の情報を流される可能性が高く尚且つ、ウチのクラスのリーダーを指名される可能性も高い為、今回の提案は受け入れられない。」
「おいおい、偽の情報だなんて決めつけるなよ。」
「……確かにそうだな。リーダー情報に関してはただの憶測でしかない。だが、それを考慮しなくとも、この提案は受け入れられない。」
葛城がそう断言し龍園の提案を断ると、龍園はつまらなそうに舌打ちをした後、再び口を開いた。
「そうかよ。まあ良い、今回はこれで引いてやろう。だが……こっちは知ってるんだぜ?葛城派の裏にいる参謀様の正体を、な。精々坂柳にやられないように努力するんだなァ!」
そう言いヒラヒラと手を振りながら龍園は洞窟を去って行った。
「葛城派の参謀の正体を知っている……?一体龍園は何を勘違いしているんだ。町田のことか?別に隠しているわけでは無いんだがな。」
龍園が去った後、葛城はポツリとそう呟いた。
「……ようやく荒らしが過ぎ去りましたね。」
藍はそう言うと、地面に置いていた釣竿とバケツを持ち上げた。そのタイミングで後ろから聞き慣れた声がした。
「……お待たせしてしまいすみません。」
「あっ!美紀ちゃん!遅かったみたいだけど、どうしたの?」
「心配してたんですよ、美紀。」
私と藍は急いで美紀に駆け寄る。
「ごめんなさい。実は、真嶋先生に呼ばれて、星之宮先生に少し体調を確認して貰っていたんです。」
星之宮とはBクラスの担任で、保健医を務めている教師のことだ。今回の無人島試験には当然同行しており、怪我や体調不良等、何かあればすぐに申し出るよう言われており、その対応をするのが彼女だ。
「そうだったんだ……でも、ここにいるってことは体調に問題は無いんだよね?」
「はい。ご心配をお掛けしてすみません。」
美紀は私達を安心させるようにニッコリと微笑むが、少し無理をしているようにも見える。
「なら良かったです。もし体調が悪くなればすぐに申し出てください。無理は禁物です。……ではそろそろ釣りを始めましょうか。」
藍は釣竿を手に取り、海の方へ歩き始める。私もそれに続き、美紀も後ろから付いてくる形になった。海岸に到着すると藍はスコップをバケツの中から取り出し、湿った砂を掘り返していく。
「うえぇ、気持ち悪。本当にこんなところから生き餌が取れるの?藍ちゃん。」
「はい。生き餌は大体砂の中にいますから、こうやって掘り返すんです。」
藍はそう言って手馴れた手つきでどんどん穴を作っていく。私も見よう見まねでやってみるが、上手くいかない。藍の真似をしてスコップを地面に突き刺すのだが、なかなか上手くいかず、生き餌は見つからない。そんな私を見かねたのか美紀が声を掛けてきた。
「あの……私が代わりやっても良いですか?」
「勿論だよ。じゃあ交代ね。お願いね、美紀ちゃん。」
美紀はスコップを受け取り、私のやっていたところから掘り返し始める。するとすぐに生き餌が姿を現した。
「あっ!出てきました!」
「本当だね!とりあえこの袋に入れておこう!」
私は美紀が見つけた生き餌を素早く掴み上げると海水の入った袋の中に入れた。
その後も何度も生き餌を捕まえ、15匹を超えた頃、遂に藍が釣り開始の宣言をした。
「さあ、今からこの生き餌を使って魚を釣りますよ。」
そう言って藍は釣竿の浮きを海に投げ入れた。そして、魚が食いつくのを待ちながら雑談を始めた。
この無人島試験は、基本的に自由行動ではあるものの、1日2回、午前8時と午後8時に点呼があり、その時間内に点呼場所にいなければ一人につき5ポイント試験ポイントから引かれることになる。しかし、それ以外の時間は基本何をしても自由であり、食料調達や散策等、ルール内のことであれば何をしても問題ない自由時間なのである。
「結構釣れたね。他の皆はどうかな?戸塚君なんかはライバル意識を燃やしてたし、沢山釣ってくれてたら嬉しいんだけどなぁ。」
私は釣竿の先を見つめながら、そう呟いた。するとすぐに藍が私に続いて予想を話し始める。
「そうですね。沢山釣って食料確保に務めて欲しいものです。初心者とはいえ、自給自足の生活をしているのですからせめて一人1匹は釣っていて欲しいですね。」
「そうだね。……でも、もし釣れてなかったとしても大丈夫なように、私達も沢山釣っておこう。」
私はそう言うと、藍も面倒臭そうな顔をしながらも頷いた。
無人島では誰もが助け合わなければいけない。空腹という要素も他のクラスに付け入る隙を与えてしまう。だからこそ、派閥や交友関係の善し悪しを越えて一つにならなければいけない。あの殺し合い学園生活でもし超高校級の彼らが一つになっていたとしたら、もしかしたら江ノ島の付け入る隙なと無かったのかもしれない。タラレバなんてしても誰も幸せにならないが、タラレバだって言いたくなる。何故なら私はあの殺し合いで───
「…あっ!引っかかった!……少し重い、ですね。美紀、美香、手伝って下さい!」
「わ、分かりました。」
「任せて!」
私は過去の記憶を掻き消すように釣りに集中した。そして藍は何と……
「え……で、デカっ!」
大きなタコを釣り上げたのだった。
「……中々なサイズですね。今夜はタコパーティーですね。」
そして私達は数時間後、釣り上げた魚と3匹の大きなタコを持ち帰って調理班の女子生徒に手渡した。女子生徒達は魚の種類やタコの大きさに驚きながらも下処理を施していく。
「……本当に凄いね。森下さんは釣りの才能があるんじゃない?」
「……あはは、私もそう思うよ。」
「ありがとうございます。私もプロのフィッシャーを名乗れるレベルだと自負しています。」
藍は少し照れながらも、自分の実力を肯定し、自信気に笑った。確かに、今回の釣果を考えれば、藍の言うことは間違っていない。もしかしたら。藍には超高校級のフイッシャーの才能が眠っていたのかもしれない。
その後、葛城と坂柳派の橋本が了承し、30ポイントを使ってタコパセットを購入し、今日はタコパをすることになった。
「うわあ、まさか無人島でタコパが出来るなんて思いもしなかったなぁ。」
「はい。とても楽しみです。」
私と美紀はウキウキしながら、タコパの準備を始める生徒達を見つめていた。すると、そんな私達の後ろから橋本がやってきた。
「よっ。今回のタコは全部森下が釣り上げたんだって?スゲェな。釣りの才能があるんじゃねぇか?」
「ありがとうございます。ですが、私の実力はまだまだですよ。」
橋本の褒め言葉に藍は面倒臭そうにしながらも謙遜する。そんな私達に、次は葛城が話し掛けて来た。
「少し良いだろうか。橋本、悪いが時間を貰えないか?今後のことについて少し話しておきたい。」
「あ、ああ、分かった。」
橋本は葛城にそう答えると、私達から離れていった。そして2人は少し離れた位置に移動し、何やら話を始めたようだ。そんな様子を見ていた美紀が私に話しかけてきた。
「……橋本正義、少しきな臭いですね。」
「え?そうかな?」
2人の会話は聞こえないが、特に変わった様子は無いように見える。だが藍には何か感じるものがあるらしい。
「はい……だって橋本正義は今日の朝龍「おーい!もうタコ焼くぞ!お前らもこっち来いよ。」……行きましょうか。私の不安も杞憂なはずです。」
そう言い藍は焼き始めのたこ焼きの匂いにつられてその場を猛スピードで去って行った。
「……良いところで話が中断しちゃったな。とりあえず私達も行こうか、美紀ちゃん。」
「……そうですね。」
そして、私達は藍の後を追ってたこ焼き器の置かれたテーブルへ向かって行く。焼き立てのたこ焼きは全員の紙皿に乗せられ、みんなそれにかぶりつく。大自然の中で天然のタコを使って作られたたこ焼きは最高に美味しかった。いつもお祭りや家で食べるものとは違い、何故かテンションが上がった。
「凄い、アツアツで美味しいね!」
私がそう言うと美紀も美味しそうな顔で頷き、藍はひたすら黙々とたこ焼きを食べ続けた。藍が黙っている時は、確定で夢中になっている時だ。つまりこのたこ焼きは藍にとって最高のご馳走ということになる。2人が幸せそうで私自身も嬉しくなってしまう。
「うんめぇっ!最高に美味しいですね!葛城さん!」
「うむ、そうだな。命に感謝して有難くいただこう。」
「ねぇねぇ、おかわりまだ?」
「うっせーな!焼いてる俺達だってたべたいんだぞ?」
「そうよ!焼いてあげてるんだから少しくらい待ちなさいよね!」
楽しそうな会話、綺麗な星々、少し暑い夏の夜、全てが青春であり、私が手を伸ばした未来だ。
「……なんか今更青春って、変な感じだな。」
私がそう小さく呟くが、誰にも拾われることはなく喧騒の中に消えていった。
「良かったら真嶋先生も如何ですか?」
「……そうか、ではありがたくいただこう。」
葛城が真嶋に気を遣い、焼き立てのたこ焼きを手渡す。真嶋もそれを美味しそうに食べ、教師と生徒との距離が少しだけ縮まったような気がした。そして、葛城の人柄や性格の良さに感銘を受け、彼を支持すると宣言した生徒が新たに出てきた。確かに葛城は坂柳ほどではないが、リーダーに相応しい男のようだ。
「……青春、だなぁ。」
もし私が希望ヶ峰学園に通っていたら、超高校級と呼ばれる彼らと些細なことで喧嘩したり、こんな風に笑いあったりした日があったのかもしれない。かつて同じ中学に通った多恵子ちゃんと勝負して、勝ち越せる日があったのかもしれない。彼女の夢が実現する瞬間を、実現への軌跡を見届けることが出来たのかもしれない。
そんなタラレバを思いながら、私は夜空を見上げこう思った。
(……私はやっぱり、超高校級と呼ばれるほどの才能は無かったんだ。少なくとも、78期生に私は相応しくなかったんだね。)
そう思った時、美しい星々は淀んだ雲に隠れ、曇り空へと変わっていった。なんだか不吉だなと思いながらも、私はたこ焼きを食べながら淀んだ空を見続けたのだった。
◇◇◇
Aクラスがたこ焼きパーティーを行っている頃、島の某所にて数人の生徒達が顔を見合せていた。その場は和気あいあいとしたなんてとても言えるような状況ではなく、とてもつもない緊張感が漂っていた。
「……こんな時間にこんなところに呼び出して、一体何の用なの?」
黒髪の女子生徒は目を釣りあげて呼び出した張本人である男子生徒を見上げた。
「───龍園君。」
男子生徒───龍園翔は、そんな女子生徒に鋭い視線を向けながら淡々と話し始める。
「ハッハッハ、せっかくロマンチックな場面だってのに相変わらずだな、鈴音。」
龍園はそう言いながら、鈴音と呼んだ女子生徒に一歩近づく。そして、1枚の紙を取り出し鈴音に見せつける。その紙を見た瞬間、女子生徒は訝しげな顔で龍園を睨み付ける。
「……一体どういう風の吹き回しかしら?龍園君。」
鈴音は龍園が差し出した紙を見ながら、そう呟いた。
「ハッ、そう警戒すんなよ。楽しい楽しい
彼がそう言った瞬間、女子生徒の後ろでジャリッと砂利を踏む音がした。彼女が慌てて振り返る。
「さあ、役者も揃ったことだし、
まだまだ夜は長い。朝が来るのは何時間も先だ。果たしてこの
この試験の行く先に淡い期待を抱きながら、話し合う彼らの近くで一人の青年はほくそ笑んだ。
「予想通り、だ。」
本話を読んでいただき、誠にありがとうございます。
今回の話ではまず、前世で繋がりのあった超高校級のギャンブラー、セレスティア・ルーデンベルク視点の過去回想と無人島試験の龍園と葛城の交渉のくだり、そして最後の堀北と龍園、謎の青年の夜会話がメインとなっています。
過去回想については、主人公の過去を掘り下げるだけでなく、友が死ぬ瞬間すらも無情になって自分の為に生きようとする主人公を描いています。あんな世界ですから仕方ないとも言えますが、それでも主人公にとって親友である安広多恵子が処刑されるという映像がモニターから流れているのに、そんなことにも気付かず主人公は家族と一緒に逃げることで精一杯。そんな極現の精神状態が表現出来ていれば嬉しいです。
そして彼女と彼女の父が口にした神という存在、これも神島の過去と現在の思想に基づく重要なワードです。神島は神の存在を信じていませんが、時折何かに縋るように存在しない神に祈ることがあります。以前の過去回想?でも少し触れているので、是非見返して頂けたらよりこの物語を楽しめるかと思います。
そして次に龍園と葛城の交渉についてですが、今の葛城は生徒会役員であり、尚且つ坂柳にもほんの少しだけ見込まれています。つまり彼は原作の葛城と違い、成長しているのです。なので龍園が原作でAクラスと結んだ契約はもちろん結ばないし、なんなら無人島試験中に信者を増やしてしまうという魔改造葛城となっています。といっても能力値にそこまで変化はなく、少しだけ思いやりが前に出るようになっただけです。
以前は自派閥の人間に重きを置いていましたが、今では派閥関係なくクラスの人間を思いやり、彼の気遣いは教師にまで及んでいます。彼は自クラスのみ思いやる、劣化なのか強化なのか分からない一之瀬帆波という感じで成長しています。一之瀬はクラス関係なく優しさを振りまきますが、葛城が大切にするのは自クラスのメンバーであり、そこが一之瀬との違いです。
そして最後の謎の会話ですが、これは今後の物語で明かされていきます。今回の無人島試験ももうすぐ終わりを迎えます。今回の試験、一体どんな流れでどんなクラスが一位の座に着くのか、是非予想してみてください。皆さんの期待、そして自分が作ったハードルを越えられるよう、何とか頑張って執筆していきます。少しでも応援していただけたら嬉しいです。
干支試験、主人公はどのグループに入って欲しいですか?(グループ詳細は8話後書きに記載しておきます。)
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リーダーグループ
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参謀グループ
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おバカ(?)グループ
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仲良し三人組グループ
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坂柳派グループ
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葛城派グループ
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坂柳派、葛城派混合グループ