個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア! 作:波間こうど
誰が完結って言ったよ。この話がどんな物語か覚えてる?
これは、僕たちが最高のヒーローになるための物語だ……
違うね。
つまるところこれは僕がみんなのことを曇らせる、最高のロールプレイをするための物語だ。
目を覚ますと、そこは闇の中だった。
一寸先どころか、自分の体の輪郭すらも理解できないような極地の闇の中、僕という存在が存在していることを理解することすら許されない闇の中に僕はいた。
いや、なんか詩的なことを言い出したわけではなくて、文字通りの暗闇の中に居るのである。体だけがそこにあって、他には何もない。僕という存在だけがポツリとなんの光源もない暗闇の中にあ……え!? 裸じゃん!! ちょっ! 裸なんだけど!! ちんちん見えないけど裸だぞ!! よくないよくない!!
少年誌なのにこんなことしていいのか……? なんて思いながら辺りを見渡す。周りには誰もいなくて、何もない。文字通りの暗闇だけがあった。なんなんだ? 僕は確か──。
「あぁ、死んだんだっけ? 僕」
自分でもびっくりするほど軽くその言葉は飛び出した。我ながらなんとも達観したセリフだ。前回も今回も死因ほぼ自殺だしね……仕方ないね……仕方ないかなぁ……?
「2回目ともなるとなんか慣れてお疲れ様でした〜って感じするなぁ。クランクアップでーす! みたいな」
「2回目……つまり君は、前も死んだことがある、この世界の住人じゃないということだね」
「……ありゃ、いたの」
真っ暗な空間に、彼は一人佇んでいた。
誰かって? そう。ラスボス先生さ。今回僕のせいでろくに活躍することもできず活躍の場を完全に奪われてしまった哀れな存在であるところのラスボス先生は、僕のことをジロリと睨みながら問いかけた。答えばっかり聞く前に自分で考えろって習わなかった?
というか、そんな格好して、寒くない? なんで全裸なの? 僕が言えたことじゃないんだけど。強制フルチン領域? カスみたいな領域だな……滅べばいいよ。BL的展開なら本当にごめんなんだけど興味がないんだ。あ、ちんちんは見えないけどね。デカくても小さくてもなんか腹立つから見えなくてもいいんだけどさ。
うーん。死んだ後に死後の世界なんてところで最後に話すのが君なのは嫌だなぁ。なんで僕が好き好んでラスボス先生とお話ししなきゃいけないのさ。しばくよ? ギャラ出せや。
「やぁ、譲葉。元気そうで何よりだ」
「先生につきましては……元気? じゃないか。その顔見るとゾクゾクするからやめてくれる? 死んだときの無様な顔思い出すじゃん」
「……君が初めからそれを出していたらもっともっと警戒していたのにね」
「たられば止めたら? みっともないだけだぜ」
僕自身たらればみたいな存在ではあるのでこれはただの煽りである。めちゃくちゃ馬鹿にしてます。ごめん。馬鹿にするだろこんなの。無様オブザイヤーですよ。
「いくつか質問がしたくてね。心中した仲なんだから構わないだろう?」
「勝手に心中扱いするのやめてね」
「まず一つ目だ」
「聞けや金玉頭」
一向に僕のいうことを聞いてくれないラスボス先生が僕に向かって指を立てる。
「君がこの世界の神か?」
「馬鹿言うなよ。僕がこんな世界を創造できるわけないだろ。……創造できたら苦労しないさ。僕は神じゃなくて、信者。リスナーさ。いや、無神論者な上に全く、この上なく、神なんて信じちゃいないけども」
「……元の物語では、僕が世界を支配したのかい?」
マジで話聞いてるのか? こいつ。ただまぁ、それに対する答えはハッキリしている。今更だけど、君は間違っているよ。
自分で言っていたろう。あなたはヴィランだ。
そしてこれが物語なら。
ヒーローが勝つのは自明の理だ。そうだろう? 君が読んだコミックもそういう話だったんじゃないのか?
「君は負けたよ。ヒーローに」
それも特に嫌いなヒーローに。なんて、そこまでは言わないであげる。赤ちゃんになってまで負けた無様ヴィランの話しても仕方ないしね。……いや、今回の僕の負け方がラスボス先生をなぞってるから腹が立つとかじゃなくて。僕は自殺だから。弔くんに全部任せてクールに去るぜ……ってしただけだから。
「…………君はつくづく僕の思い通りにならない子だね」
「お褒めに与り光栄だよ」
「ただね。僕を連れ去るために。弔を解放するために。僕ごと自らを消去したのは痛手だったんじゃないかい? 自分を丸ごと消すなんて。馬鹿のすることだ」
「死にたくなくて数世紀生きた生き恥男は違うなぁ……」
「君は死んだって構わないと?」
まぁ、そういうこともできるね。別にこの命が尽きたところで──。
「あ」
なんだかピーピーうるさいなと思ってたけれど、そうかそうか。あんなに謎の個性とかいうものがあって、その個性と、謎に発展した医療技術があるのにも関わらず、寿命もある至って普通の世界だ。
考えればわかることだ。彼は、ビビっているのだ。死んだことがないんだから。
「なるほどなるほどそういうことか」
「なにがなるほどなんだ」
「お前は残機ないんだっけ?」
「……は?」
彼の顔が驚愕に歪んで、すぐさまくしゃくしゃになる。流石は自分の弟を殺しといて「大好きなんだ!」と叫んだ男。みっともなさだけで言えばぶっちゃけ他の追随を許さない。情けない顔を見せてくれるじゃないか。本当にこれが悪の帝王の顔か……? 作中の半分以上梅干しだったからそんなこと言ったってしょうがないんだけどさ。なんであの面でラスボスできたんだ。萎れた金玉みたいな顔しやがって。ぶん殴るぞ。でも、今は……
「いい顔するじゃないか!!」
顔が歪んで、僕の言ってることを理解してからは曇っていく。僕の言葉が嘘じゃないと認識できているからこそ、僕のことを過大評価していた、彼が! 僕の言ってることが間違いじゃないと気づいたから!! 流石にいい顔してくれるじゃないか。梅干しとは思えないぜ! 弟くんに大好きなんだって叫んでた間抜けとは思えない曇り顔で最高に興奮しちまうなぁ!!
「悪いね。僕は残りストック“1”なんだ」
というか僕がそう簡単に死ぬと思ってたの? マジで? オツム弱弱人間さん? 僕はみんなの最高の曇らせを見たら死んでもいいとは思っていたけれど、自分の大事なものを残して死ぬような人でなしじゃないよ。いや、人の心ないのかとかはよく言われたけど。馬鹿なこと言うよね。あるからみんなの心を最適に踏み躙れるんじゃんか。
「言ったろ? コンテニューさ。ラスボス先生」
僕の周りの闇にヒビが入っていく。割れていく。間からは光が漏れ出して僕の体を包み込み始めた。これで僕がどうなるかはわかったかな?
「嘘だ、嘘だ嘘だ!! そんなこと許されるはずがない!! だから僕は長寿の個性を奪ったのに……!! 死者蘇生なんて神じゃないと許されない!!」
ラスボス先生が必死に走ってくるのが見える。その顔はくしゃくしゃになっていて死ぬことが、どうしようもなく怖いように見えた。そりゃそうだよね? 他の死ぬってことは最悪個性でなんとかできそうな感じするもんね。でもここまで来たらわかるでしょ? 個性なんて使えないの。だって君の体は死んでて、君は個性『オール・フォー・ワン』に付随する残留思念みたいなものなんだからもう既に死んでるんだよ。なのに必死に生きようとして愚かだね♡ かわいそうだね♡ 無様だね♡ 本当にいい顔♡ 捨てられると思ってる子犬が走ってくるみたいな可愛さがあるよ♡ 本当に本当に滑稽だ!!
「譲葉! 置いていくな! 僕のことを!」
手を伸ばす。必死に伸ばしても、その手が届くことはない。
「連れて行け!!」
「馬鹿だなぁ……」
本当に涙を禁じ得ない無様なラスボスに対して微笑んでみせた。願わくば、彼が最後まで最高の顔をしてくれるように。微笑んで──。
「つぎは
コンテニュー しますか ?
▶︎はい
いいえ
× × ×
「ゴポ……ゴポ? …………ホガッ! ゴポゴポッ!? ごがあァァァァァァ!」
ポッドを蹴り潰して、試験液と一緒に自分の体が流れ出した。息ができないの死ぬ、ほんと、死ぬ。ニューゲーム即デッドは死にゲー過ぎて笑えないよ。僕のこと馬鹿にしてんのか。誰だよこんな転生の仕方用意したやつは。馬鹿にしないで欲しいな。誰だ! 僕だ!
「ゲホッゲホッ! あ゛〜! 死ぬかと思った!!」
僕の個性。それは『不義遊戯』じゃない。
何故、僕が不義遊戯じゃないのか。それは僕にもわからない。ただ、黒閃が出た時点で違うに決まっているのだ。
黒閃は呪力が爆ぜた時に起こる現象だ。呪力の衝突と、打撃の間に寸分の誤差すらもない時に起こる現象。つまり、僕の個性には付随して呪力があることになる。
そもそもその時点でそこそこおかしい。
ならば僕は生得術式が『不義遊戯』の無個性人間なのか? それも断じてノーだ。この世界に呪術はない。
だが、呪力はある。それが僕が黒閃が打てた理由。ただ、人や物に呪力は宿っていない。だから僕は部分転移や物と人の転移なんて東堂葵のしてないことすらすることができたんだ。呪力はあるけど、それは僕だけに宿っている。
しかし、そもそも考えればおかしなことで、『不義遊戯』の術式対象……個性対象が呪力を帯びているものから、呪力を帯びていないものになったのは術式から個性にシフトしたから起きたことなのだとして、ならば呪力が爆ぜて起きる“黒閃”現象はおかしいのだ。だって、個性になったから呪力というものを帯びていないものを対象に選べるようになったのだから。
本当は文化祭くらいからわかっていた。
僕の個性は『不義遊戯』ではない。そして、本格的に僕の個性を理解したのは『サーチ』を手に入れてから。『呪力』だのなんだのって散々言ってきたけど、本当のところはそこにはないんだ。今までも散々説明を渋ってきた。本当は『呪力』ですらないってね。
じゃあ、『不義遊戯』ってなに?
僕のこの個性って? なに?
それは僕の体に宿った、
思えば、転生者であることを理解したときに個性を宿したんだろうね。なんでわからなかったんだ。僕が他の人と違う点なんて一つだけだろう。他の人と違って、この世界の誰とも違う僕だけの特性だ。
僕は転生者だ。この世界に生まれ落ちた、元は第四の壁を越えた先で生まれた人間だった。それが一度死んで、この世界に生まれてしまった。これだけは他の人と違うところだ。
きっと、あの子との会話が呪いだったんだ。
『そうだなぁ、そういう意味なら羂索みたいな個性がいいかも』
『え〜? 気持ち悪いよ』
『だとしても、』
『生まれ変わっても、俺はきっとお前のお兄ちゃんになるよ』
あの会話が、僕をここまで連れてきた。
個性『転生』
原理こそわからないんだけど、いや、分かったら苦労はしないんだけど。僕はどうやら生まれ変わることができるらしい。その際に乗り移った体が持っていた個性を使うことができる……つまるところ、僕の体にはもともと不義遊戯が宿っていて、その上で僕がその体に後乗りしたということなのだろう。不義遊戯が宿っていたのは完全に運でしかなくて、僕の本当の個性はこの、体に乗り移る憑依、もしくは転生といったところなのだろうと思う。
……これじゃあメロンパンが
「……これ、
しかし、そうなんだから仕方ない。過去は変えられないし、このことに気づいてから着々と準備して来たしね。
「まぁ、一か八かの賭けもいいところだ……肉体は自分で作ってなきゃいけない上に。定着にも時間がかかる」
それでも最後こんな賭けにも勝てちゃうのが僕なんだけどね。運だけはいいんだよね〜。悪いとも言えるんだけどね。
一応体自体は準備してた。脳みその入れ替えがどうやって起こるのかもわかんない、羂索と同じ術式なのかと言われると少し怪しい。そもそも初回……川原優吾から舞妓譲葉への魂の転送がどういう風に起こったのかもわからない。今回も死んだあと別の世界に魂だけが転送される可能性はあった。
あったけど……でも、僕は準備はとことんまで突き詰めてやる主義なんだ。
…………よし。
そんじゃ、まぁ……うん。迎えに行こうか。
あんまりにも待たせ過ぎてしまってるんだ。今更オシャレとか見た目とかどうだっていいんだ。そんなこと考えたって仕方ないんだから。
服は……これいつの時代のやつ? みたいなやつあるけどまぁいいや。こんなので。何年経ってるかもわからんし、流石に少しばかり情報収集はするけど。
早く行くって言ったしね。
「それじゃあ行くか」
僕はドアを開けて、外に踏み出した。
さっきまでの真っ暗な闇とは違って、白い蛍光灯に照らされた光の中へ。
× × ×
やってきたのは本当に至って普通な、一般的な街だった。
簡素な住宅街。生活区域という感じで、スーパーやショッピングモールも近くにある上に学校なんかも多くて子育て支援までしっかりしているような街だ。あの戦火に巻き込まれた際には随分と消し炭のような有様になっていた気がするけど、七年という時間は偉大だ。何もかも消し去ってくれる。
そんな場所に、僕はやってきていた。なんでこんな場所にいるのかと言われると困る。そもそも、現在の僕に動機は一つしかない。
あ、曇らせじゃないです。
「お、いたいた。君が……ごめん。名前知らないや」
「誰? なに? その顔」
「いや、ふふ、そっくりだなぁと思って。いや、当たり前なんだけどさ」
「……なんでそんなに笑ってるの?」
「え〜……なんでだろ。当てられる?」
僕が声をかけたのは少女だった。事案とかいうなよ? 自覚はあるんだから。
声をかけたのは女の子だ。一人の女の子、たった一人の女の子。猫のように切れ長で、それでいて青い瞳。髪の毛はロングというほどでもないけど白色のキューブがついたゴムでツインテ風にまとめられている。
道端でお人形と遊んでいる少女。道路には丸がたくさん書かれて、それでけんぱ遊びまでできるようだ。随分とアクティブな……でもお人形遊びを外ですることある? お人形遊びを外でしながらアクティブ? どういう子? 枠組みに収まってない……変な子だな……。
そんな変な子に声をかけた。いや、うん。声をかけた理由なんて語るまでもないみたいなところがあるのだけど、あえて説明するのなら声をかけなくちゃいけなかったから……かな。僕としては声をかけるところから物語が再開するからね。
「? おじさん誰?」
「おじ……」
「……? おじさんでしょ?」
「ハハ、うん君からしたらおじさんだよね。僕の名前は……いや、名乗るなら自分からだよ」
「怪しい人に名乗っちゃいけないってママに言われてるの」
「マジ? え? 僕怪しい?」
「怪しい。変。不審者。通報するよ?」
「よし。わかった。わかったから防犯ブザーから手を離そうか」
「嫌だ。警察のお縄につきたくなかったら先に名乗りなよ不審者」
警戒心が強過ぎやしないか。どうなってんだ……えぇ……? 何? なんでそんなに警戒心強いの……? 僕のこと完全に不審者認定しててびっくりするわ。
……まぁ、逃亡生活をしていたこともあるだろうし、当然と言えば当然、なのか? いやでもまさか彼女が自分の子をそんなことに巻き込ませるわけがないか。そういう信頼はあるんだよね。クズの癖してさ。
「僕の名前は……ま、お母さんが来てから話そうか。すぐにわかるからさ」
「……ママのお友達?」
「お友達……お友達ねぇ……そうだね」
あの関係をなんと表すのかって話になるけどね。でも、まぁ、お友達ではあるのかもしれない。ただ、この関係をお友達と表すのかと言われれば……いやでも……君がその関係を否定しているんだよなぁ……。
結ばれなかった関係をエモいで消費するクズにはなりたくないんだけど……?
「…………ママに友達はいないよ。いるけど、いないの」
「……そう?」
「もう、会えないんだって」
………………なんで七年もかけたのかなぁ。
僕はいつも遅いんだ。知ってるけどさ。
「その、会えないお友達の一人だと思ってくれればいいよ。さぁ、君の名前は?」
僕の言葉に少しだけ悩んで、少女は小さく口を開いた。
「……ユウハ。優しいに葉っぱで優葉だよ」
優葉。
そうか。君はそんな名前を貰ったのか。
『ねぇ、ゆずくん』
『うん? なに? ヒミコ』
『子どもの名前って考えたことある?』
『急にどうしたの?』
『ゆずくん作戦名とか、ゲームのキャラにつける名前素敵だから何か考えてるのかなって』
『考えたこともなかったなぁ。まず、子どもを持つなんて……考えるような年じゃないじゃない?』
『そうかな? 私は結構考えるよ? 白馬の王子様が迎えに来てくれたり、誰かが私のことを……救ってくれて、その人と一緒になるんだろうなってずっと考えてた』
『へぇ、ロマンチックだね』
『私のことを救ってくれたのは白馬の王子様なんかじゃなかったけど」
『僕乗馬できるよ?』
『そういうことじゃないです……ただ、すごく優しい人で、その人との間に赤ちゃんができるのなんて普通のこと、考えてたよ?』
『そんなもんかぁ』
『ね、だから聞いてみたいんだ。赤ちゃんにつけるならどんな名前?』
『ん〜? そうだなぁ』
『難しいなぁ……自分の子どもでしょ?』
『自分の子ども!』
『…………』
『ゆずくん?』
『……優って、漢字は使いたいな』
『え?』
『ただ、優しい子にはなって欲しいんだ』
「ぷっ! あははは! そのままじゃんか!」
「何がおかしいのよ! パパの名前から一文字もらって! 死んじゃったパパが入れたかった漢字を入れてるんだよ! いい名前だよ!」
「だからそのままなんだよ!」
そのまま過ぎるだろ。字面がそのままじゃないか。なんだって? 優しいって誰かがいれたかった漢字と、葉って誰かの名前から漢字をとった? そのまんますぎないか流石に! だって、名前なんて呪いなんだぞ! 自分の可愛い娘に! なんて名前をつけてるんだ!!
……やれやれ。僕の彼女はとんでもなく可愛いらしい。参っちゃうよ、タハー。
「おじさんだって、ママの友達だって言うなら知ってるんじゃないの? パパの話!」
「お、おじ……う、うぅん! 何を?」
「ママがしんどい時に救ってくれたんだって、ママのこと病気でもなんでもない、ただの女の子なんだって笑ってくれたんだって、そう言ってたんだよ。どんな人だったの? 私のパパ」
「それは……」
確かにいつだかに聞いた言葉だ。彼女はどこまでも僕が言った言葉を胸に抱いてくれているのだろう。どこまでいっても僕のことを、言葉を胸に抱きながら生きていてくれているのだろう。それがたまらなく嬉しくて、それがたまらなく苦しい。本当に、今更なんだけど。
「……そりゃいい男だね」
「まぁ、女の子誑かすし、あんまり構ってくれないし、多分笑顔よりも泣いた顔とかの方が好きなサディストで、笑いながら人のこと裏切ったり貶めたり踏み躙ったりするような頭がおかしいところもあったんだけど、それはそれでいいところだったというか」
「え?」
「手繋いだら照れるところとか、優しいところとか、最後に好きって言ってくれたところとか全部含めて可愛いから許してあげてるけど酷い男で、でも二人でイチャイチャしてる時は耳元ですごく名前呼んでくれるからそこは可愛かったというか……」
「あの子そんな話までしてんの?」
おい、小学校低学年にそんなこと言うんじゃねぇよ。びっくりするじゃん。僕じゃなくても引くぞ。情事の話……? かな? いや、知らないけど。恥ずかしいから聞かなかったことにするけど。普通に。
……え? 僕そういう時名前呼んでんの? マジ?
「とにかくいいパパだったんだよ! すっごく惚気られるんだから」
「あーそー……」
「なんでおじさんが恥ずかしそうなの?」
「ほっといてくんない?」
うわー、顔熱いんだけど。これ何? 僕が悪い感じ? えぇ、そうかなぁ。たった数年でここまでこの子がペラペラ話せるくらいに話してるあの子が問題だと思いませんか? 僕はそう思うんだけど? 違う? そっか……
僕が優葉ちゃんと話していると次第に日も暮れて行った、周りの子供たちが家に帰り始める音、草木の揺れる風景に、風が撫でるコンクリート。警戒を解き始めた優葉ちゃん。なんだか、随分お時間が経っているらしい。
つまりそろそろ帰宅の時間だということだ。
「……え」
後ろで何かが落ちる音が聞こえた。振り返るとおそらく落としたスーパーの袋と、それを持っていたであろう手を震わせている女性が佇んでいる。
長髪の女性だ。見たことのない髪型で、流行っているのだろうか? リクルートスーツだけど、働いているのだろうか。君が? 娘を養って? 生きにくいことこの上ない一般社会で?
「はは、成長だね」
彼女は僕のことがわからないだろう。なんせ死んだし。見た目も全然違うのだから当然というかむしろ分かる方がびっくりするけども。なんで分かるんだってなるわ。それこそ分かるなんて、運命でもなきゃ、
「ゆ……ず、くん……?」
…………いつも君は僕の予想を超えてくるねぇ。このセリフを言うことになるとは思わなかったよ。
「キッショ、なんでわかるんだよ」
どろりと彼女の纏う個性が解けた。
七年という時間はこんなにも彼女を成長させるのか。背後で落ちる夕陽に溶けて、彼女の体が影に落ちる。
それは息を呑むほどには、綺麗だ。
「ゆずくん! ゆずくん! うわぁぁぁん! うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「………………ただいま。ヒミコちゃん」
縋りついて泣く彼女に僕の服をかけてあげる。いやね。うん。僕が言うのもなんだけど道の往来だよ? 君さぁ。全裸はいかんよ全裸は。全員の目を潰して回らなきゃならなくなるじゃん。
というかこの子が防犯ブザー引く可能性あるから。このくらいの時期の女の子なんてママ大好きなんだから。いや、優香はそうじゃなかったからどうなのかと言われたらわかんないところもあるんだけどさ。優香は母親のことを名前にさん付けで呼ぶからね。あんまりに病室に来ないから。舐めすぎだろあのババアもっかい殺したろか。
「……パパ?」
「ん。僕がパパだよ。よろしくね? 優葉」
彼女は周りを見てキョロキョロと見渡して服の裾を掴んだ。そうして、恐る恐るといったように僕の方を見る。どうやら防犯ブザーは鳴らされないらしい。助かる。ここで鳴らされたら僕は速攻で捕まっちゃうからね。ガチでやばい。本当に。『サーチ』ないし、もう鈍りに鈍ってるから成長したみんなとやるのは避けたい。
「……ほんとに?」
「もちろん。僕がパパさ。証拠は何がいい? なんだってしてあげよう」
「じゃあ……抱っこ」
彼女の小さな体を抱きしめる。優香は、このくらいだったか? なーんて……。
……………………。いけない、なんだか、雨が降って来てる気がする。あれー? 狐の嫁入りってこと?
これは、僕が、みんなを曇らせる物語だ。
そして、曇りには雨がつきものだろうなんて。
小洒落た締めで彩ってみるよ。
「……ただいま」
さて、始めようか。
ここから、もう一度。今度は本当に筋書きのない、僕の────。
僕の『曇らせアカデミア』をね!
Fin
曇らせはハッピーエンド(主観)で締めなきゃダメに決まってるよね。
少しだけ長く語ります! 長いと思ったら無視してください! 自分語りしない方がいいとかは分かってるんですけど、僕は作者の人柄まで含めて作品を追うのが割と好きな方なので、ある程度は作者性を外に出します!! 文句に関してはごめんね!!
はい! これで「個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!」は堂々の完結となります! 2年半もの間、応援してくださった皆様! ありがとうございました!!
初めは確か三が日が暇だったみたいな理由で書き始めた拙作がここまでたくさんの人に見ていただきまして、好きだと言っていただき、評価していただき、何故だかコミュニティができて……ありがたいことにたくさんの人に見ていただく機会を得たことは僕にとって得難い財産であると思います。
本当におかげでここまで続け来られたのはたくさん読んでくださった、応援してくださった皆さんと、100枚を超える挿絵を描いてくださった絵師 んこにゃさんのおかげです! 本当にそのおかげでここまで来ることができました。改めて、本当にありがとうございました!! マジでご飯いこう。打ち上げ。
これからもこの物語は続いていく……のかは定かではありませんが! たまに譲葉のことを、そして優葉の行く末なんかを考えてくれたりしたら、それだけで、彼らはとても報われると思います。ただの落書きが段々と僕の熱を思い出させてくれました。
舞妓譲葉という少年を僕はずっと忘れないと思います。僕にとって、とても意味のある主人公でした。僕の書いたキャラクターであそこまで愛されて、たくさんのイラストにされて、動画が作られて人形が作られた子はいません。
たくさんの評価、お気に入り、そして感想ありがとうございました!! 皆さんのその全ての応援が本当に力になっていました。最後の方滞りがちになっていたのは返す分も書きたいと思っていたのとシンプルに死ぬほど多忙だったからなのでこれからまたチマチマ返していきます!!
これからはオリジナルを主軸にまた小説を書いていければと思いますので、また波間こうどのことをよろしくお願いします!
活動報告などはX(Twitter)からお願いします!! 是非チェックしてくださいな!!
波間こうど : https://x.com/Namima_kodo
んこにゃ(KONY) : https://x.com/Nkonya0529
皆さんありがとうございました!! 今後またどこかで会えたら嬉しいです!!
またね!!
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