Twitter(X)上でのアンケートの結果書いたバレンタイン話。
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ウィーディちゃんのちょっと背伸びしがちで怒りっぽい感じがとても可愛くて好きです。(個人の印象です)

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第1話

 2月14日。バレンタインの日。私はロドス艦内の温室にいた。

 温室に差し込む日差しは暖かい。私は午前中の暖かい日差しと温室の木々を感じながら、マイカップに淹れたお気に入りのハーブティーに口をつける。心を落ち着けたい時に、私はいつもポデンコさんのティーサービスを利用させて貰ってる。

(そろそろ……行こうかな)

 そう思ってから何度目なんだろう。私はずっと今いる席を立てないでいる。外へ行こうと思っても足が言うことを聞いてくれない。この居心地の良い温室から出られない。

(どうしよう)

 私は手元に置いた箱に目を遣る。ハートのリボンで丁寧にラッピングした紅い箱。

(渡さなくても、良いのかな)

 箱の中身は、私が初めて作った手作りチョコレートケーキ。ガトーショコラ。機械に頼らず、リーフの手伝いも断って。レシピ本と睨めっこしながら、深夜の厨房で一生懸命作ったチョコレートケーキ。

 そんな努力をしてまでこのチョコを作ったのに。バレンタイン当日の土壇場になって、私はこのチョコをドクターに渡すのを尻込みしていた。

(慣れないことまでして、苦労して作ったのに。ドクターに喜んで貰えなかったら、辛いよ……)

 ここにあるガトーショコラは、度重なる失敗と改良を乗り越えて、やっとその味と形状に納得の行った物。それなのにいざ渡す前になって、一生懸命作ったケーキが大した物に見えなくなってしまっていた。きっとドクターは、他にも沢山のチョコを受け取るから。

 ドクターはロドスの中でも特に人望が厚い。人気者のドクターに、きっと色んな人がチョコを渡そうとすると思う。ロドス代表のアーミヤさんとか、お菓子を作り慣れてるアズリウスさんとか。装飾とか見栄えに凝った、お洒落なチョコレートがドクターの元に集まると思う。そんな人達のチョコと比べて、私のチョコは本当に大丈夫?

 

 遠くで鳥が囀る音が聞こえる。花壇のスプリンクラーで水が撒かれる音も聴こえる。温室はとても静かで心が落ち着く。だから、無理してここから出なくても良いのかな。このチョコは、無かった事にしても良いのかな。

(……慣れないことなんてしなくて良かった。私は技術者として、私の出来ることでドクターに尽くせば良かったんだ。その方がドクターの役に立てるし、惨めな想いをしなくて済むのだから)

 哀しい気分のままチョコの廃棄を検討し始めたけれど、このチョコケーキをこっそり友人の一人に見せていたことを私は思い出した。その友人、ウィスパーレインは私のガトーショコラを見て微笑んでくれた。

(素敵なケーキですね。ウィーディさんが一生懸命作ったことが分かります)

 初めて作ったケーキに自信の無かった私は、ウィスパーレインの言葉に大いに救われた。

(作者の想いは、その作品に表れます。きっとこのケーキを受け取る人は、幸せ者ですね)

 

 

 ドクター。貴方は戦闘が終わった時に、よく私に声を掛けてくれるよね。よくやった、ウィーディ、って。

 私、その言葉を聞くと、本当に頑張って良かったなって思えるの。今までの苦労が全部吹っ飛んでしまうくらいに。

 貴方が私を認めてくれるから。貴方が私に、困難に立ち向かう勇気をくれるから。

 私は、恐怖で足のすくむような戦場にも立つことが出来るの。

 ロドスの皆の為に、感染者の為に。そしてドクターの為に。私は頑張りたいから。

 

 

(廃棄なんて……絶対駄目)

 私は首を振り、弱気な自分を叱咤激励する。

(私は、私の気持ちをドクターに知って欲しいから、このケーキを作ったんじゃないの?)

 たとえ未熟なケーキでも、精一杯作ったケーキでも。私の想いを、貴方に知ってほしいから。

(人間関係は苦手。だけど……)

 怒りっぽくて不器用な私でも。貴方を想っている人がここにいることを、貴方に知ってほしいから。

 私は無言で立ち上がる。テーブルに置いていたマイカップを鞄にしまい、ケーキの箱を袋に入れて大事に抱える。

 そして、私は温室を後にした。

 

 

 

 日中ドクターが執務室にいることを確認していた私は、昼休憩が始まるまで執務室近くの廊下にあるソファで待機した。両手で大事に抱えたケーキの箱が振動するんじゃ無いかってくらい、私の心臓の鼓動は早くてうるさかった。昼休憩のチャイムが鳴ると同時に、私は堪らずドクターの部屋の前に駆け寄り、扉をノックした。

 ドクターの呼び声を聞いて、私は入室する。

「ウィーディじゃないか。どうかした?」

 書類の積まれた事務机の近くに立ち、ぶらぶらと歩きながら背中を伸ばしていたドクターが聞いてくる。運良く執務室には他に誰もいなかった。

 私は抱えた箱をぎゅっと抱き締める。

「あ、あの……あのね…………チョコ、作ったの」

 恥ずかしさのあまり俯いてしまう。ドクターの顔が見れない。私、もう顔が真っ赤だと思う。

「ドクターなら受け取ってくれるよね?これ!」

 そう言って呆気に取られた様子のドクターに箱を押し付ける。

「それじゃ!」

 紅い箱を手にしたドクターに背を向け、逃げるように執務室を後にした。

 

 

「良かった……」

 執務室近くのソファに逃げ戻り、私は脱力して座り込んだ。頬が熱くて、頭が痺れるような感覚。

「渡せて、良かった」

 私の手中にもう紅い箱は無い。私のチョコは、ドクターの手に渡った。

(ありがとう、ウィスパーレイン)

 私は心の中で友人に感謝する。もう少しで私は、ずっと後悔するところだった。

(もう大丈夫だから。もしチョコを気に入って貰えなくても、私は大丈夫だから )

 私の気持ちを、ドクターに渡せたのだから。

(今は、それで十分)

 

 

 でもこの時、私にはすっかり忘れていたことがあった。

 バレンタインのことばかりを気に掛けていたから、同じ日の午後に、ドクターと作戦実験の約束をしていたことを失念していて。

 数時間後にまたドクターと顔を合わせることになってしまった。

 それだけでも恥ずかしいのに、「ガトーショコラ、美味しかったよ」なんてドクターが笑顔で言うもんだから。

 私、何を話していいか分からなくなって。頭がオーバーヒートして……。

 私が地面に卒倒する前に、ドクターが抱きとめてくれたんだって。

 

 


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