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ケーちゃんは色々とギャップが多い娘でとても好き。いつまでもドクターと楽しい日々を送ってほしい。
柔らかくてモフモフな感触。心地よい微睡みの中、甘い芳香が私の鼻腔をくすぐる。徐々に覚醒していく意識。私は、いつの間にこんな抱き心地の良い抱き枕を用意していたのだろう。柔らかなものを抱いたまま私はぼんやりと目を開ける。目に入る執務室はいつも通りだが、応接用の大きいソファの上で横になっていた自分の胸の中に、女の子が収まっていることだけがいつもと違った。端正な顔立ちと閉じた瞼にまつ毛、小麦を彷彿とさせる黄金色のふわふわな髪をしたケーちゃん……ケーちゃん!?
知らぬ間に抱き締めていた少女の体から身を離し、がばっと上体を跳ね起こす。
「あっ。おはよードクター。」
ケオベがぱちりと目を開け、ソファに横になったまま無垢な笑顔を私に向けた。
「ドクター、気持ち良さそーにお昼寝してたね。おいらもつられて寝ちゃった。」
えへへー、と相好を崩しながら身を起こす。たらりと冷や汗がわたしの背中を流れる。
「今、何時?」
「うーん、えっとねー」
難しい顔をしてケオベは壁時計を睨み付ける。
「3時か」
ほっとした。最近続いていた徹夜が原因で、少しの仮眠を取るはずが寝落ちして時間を食ってしまったのだが、会合の時間には間に合いそうだった。
「ケーちゃん、これから出掛けてくる。夜には戻るから、またここへ来てくれるかな。」
「えー、今日はヴァルカンお姉ちゃんもいないし、つまんないよ。おいらも連れて行って!」
「今回はちょっと連れていけないな」
「むう。ダメー!」
ケオベが私の腕を両手で引っ張ってくる。
「ドクター、一緒に遊ぼう?外へ行こうよ!きっと楽しいよ!」
ケオベは子供のように遊ぼ、遊ぼと一生懸命に私を引き留めようとする。
「最近ドクター忙しいから、おいら寂しいよ。もっとおいらと遊んで!」
「ごめんよ。帰りにお土産持って来るから」
「お土産?それは美味しいもの?」
「そうだよ」
「やった!待ってる!」
無邪気に笑ってケオベはソファに戻り、ソファ上で胡坐をかく。尻尾をふりふりさせながらいってらっしゃーいと大きく手を振る彼女に微笑み、私は荷物を持って執務室を出た。
(私も。もう少しあのソファでのんびりしていたかったな)
会議室までの道中も、私はケオベのいる執務室に未練を残していた。
午後の陽光の差し込む執務室で、あのケーちゃんの柔らかい体を抱き締めながら……。
あの感触を思い出し、けしからん考えが頭をよぎったので一発自分の頭を殴っておいた。
会議を終えた後、クロワッサンに取り置きを頼んでおいた荷物を受け取り、執務室に戻って来た私は、ソファ上でブランケットにくるまりすやすやと寝息を立てているケオベを見た。
(そのブランケットは、私の仮眠用なんだがな)
苦笑しながら私は両手に抱えた箱を応接用のテーブル上に置き、執務室内に散乱していた武器群を整頓していく。どうやらケオベは執務室内に自分の武器を持ち込み、その手入れをしていたらしい。私は武器を壁際に並べて置き、そして新たに用意した一枚の写真を、壁にかけたボード上に貼り付けた。
「うーん。おはよー、ドクター。」
ケオベが目を擦りながらソファ上で目を覚まし、そして部屋中央のテーブルに置かれた箱に気がついた。
「あっ!これって……」
「そう、ケーちゃんへのお土産だよ」
「うわあーー」
ケオベがいそいそと箱を空けると、その中には特注のケーキが入っていた。
「こんなに大きいケーキ、おいらにくれるの?」
ケオベが目を輝かせる。彼女の尻尾が大きく揺れている。大型の10号サイズ、概ね15人分の大きさだ。たっぷり苺を乗せた誕生日仕様のケーキ。
「ああ。今日はケーちゃんの誕生日だからね」
「たんじょうび……?あ、おいらの生まれた日?」
「そう。誕生日を迎えた人は、こうしてお祝いして貰えるんだよ」
私がここ数日徹夜で仕事を前倒ししていたのは、こうして彼女の誕生日を祝う時間を作る為だった。
「そうなんだ!やったー!」
飛び上がらんばかりの喜びを見せるケオベ。
私は応接用の食器を用意し、一刻も早く食べたそうにうずうずしているケオベの元に並べる。
「早く早く!ドクター、一緒に食べよ!」
「分かった」
ケオベの向かいに座る。よだれを垂らして今にもケーキにかぶりつきそうなケオベの後ろの壁に、私とケオベが映った写真がボード上に貼り付けられている。サルゴンのアカフラで、リターニアで、あるいはボリバルの海で。
任務先での思い出の数々。以前ケオベはこれらの写真を見て、こう言ったものだ。
「沢山のおいらとドクターがいるね。これがおいらとドクターの宝物ってこと?それなら、これからも悪い奴らをぶっ飛ばす度に、おいらとドクターの宝物が増えるね。悪者を沢山沢山倒したら、この部屋中がおいらとドクターの宝物でいっぱいになるね!」
無邪気な笑顔でそう言う彼女の言葉に、私は目頭を熱くしたのだった。
「……ああ。そうだね」
(こんな体を引きずって世界中を回ってたというのですか?奇跡としか言いようがないかもしれませんね。ただ、この子の体はもう……まだ挽回の余地があると祈るしかありません……)
「誕生日おめでとう、ケーちゃん」
ケーキを口いっぱいに含んで。あどけない笑顔を見せる彼女に、私は心からの言葉を贈る。
いつまでも、健やかでいてね。