危機契約#9が終了した際に、お疲れ様でしたの意味を込めて書いた作品です。
pixivページ(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18954401

イベリア出身のオペレーターを登場させていますが、イベリア陣営に限らず、全てのドクターの努力に想いを馳せながら書きました。

1 / 1
波飛沫の跡に。

 ーーオペレーターの各員に通達。本エリアの作戦は終了しました。輸送船の到着予定時刻まで、各自待機してください。繰り返します。本エリアの作戦は終了しましたーー

 

 

 天候、曇り。気温11℃

 

 

 イベリアの浜辺に人影があった。四人、いや五人。ロドスのオペレーター達だ。荷物を一か所にまとめて、時間を潰している様子。それぞれ砂浜に腰を下ろしていたり、所在なく立ち話をしていたりする。

 

 彼ら/彼女らの故郷はこの地、イベリアにある。しかしイベリア出身の彼らが還る場所はこの地ではない。任務を終えたオペレーター達は、これからロドスに帰投する。このイベリアの地を離れて。

 

 

 

「恐ろしい敵でした。」

 ウィスパーレインが海を眺めながら呟く。彼女の薄藤色の髪を潮風が揺らす。潮風は海の濃厚な香りをオペレーター達の元へ運び、海鳴りは未だ止まない。ごうごうと響く音が、広大で巨大な存在の在処を示し続けていた。

「海の怪物達。こちらの精神に干渉してくる攻撃の数々。あのような戦場にいて、生きて還って来れたこと。今でも実感が湧きません。」

 彼女の傍らに立ち、静かに耳を傾けているのはウィーディ。

「でも、私達はこうして帰って来た。」

 ウィーディがウィスパーレインに語る。

「戦術さえ正しければ、心配することなんて何もない。ロドスの工業技術も日々進歩してる。今までの私達の努力を信じれば、きっとこれからも、今回みたいな成果が上げられるよ。」

 ウィーディはウィスパーレインを励まそうとしている。

「そうだね。ウィーディの言う通りだよ。」

 ウィーディに同調するのは、浜辺に座ったエリジウムだ。

「ドクターの指揮と、僕達オペレーターが息を合わせれば。あんな海の怪物にも負けない、強力なパートナーシップを発揮出来るんだって。今回も証明されたね。」

「ウィスパーレインもありがとう。」

 ウィーディがウィスパーレインの手を取る。

「貴方達が後方支援に徹してくれるから。身体の弱い私でも、前線に出る勇気を持てるの。」

 ウィーディの真っ直ぐな視線。彼女の感謝が、ウィスパーレインに向けられる。

「…お役に立てたのなら。良かったです…。」

 ウィスパーレインが微笑む。たとえ一時の儚い笑顔であっても、そこにはたしかな安堵の雰囲気が感じられた。

 エリジウムの隣で、同じく浜辺に座っていたソーンズが目を向けていた事に気づき、ウィーディは眉間に皺を寄せる。

「ソーンズ、何か言いたい事でもあるの?あんたの事だから、【油断しない方が良い。海を甘く見るな。】とでも言いたいの?」

 ソーンズは眉を上げて見せた後、こう言う。

「いや、そうじゃない。」

 ソーンズの意外な返答に、えっ、とウィーディやエリジウムは驚いた様子を見せる。

「今回の作戦に従事した者で、海の脅威に直面しなかった者はいないだろう。皆、あの現場の有様を見た上で、海の脅威と向き合った。そして、少なからず戦果を上げることが出来た。それは評価すべきことだ。」

「珍しいね!ブラザーがそんな事を言うなんて。」

「…言うまでもないことだが、成功した作戦においても反省は必要だ。」

 ソーンズは念のため、といった風に釘を刺す。

「だが、俺は何も成果そのものに目を瞑るべきとは思っていない。……正直に言おう。今俺は、浮かれている。」

 表情を変えずに彼はこう言った。いや、口の端だけ笑みをつくっていた。

「浮かれてる!?君がだって?」

 驚天動地の出来事でもあったかのように、エリジウムが彼の隣を立ち上がる。

「ロドスに帰ったら、俺特製の花火でも出してやる。深夜にでも決行するか。」

「花火!君がアンドレアナと一緒に銃の研究をしてた時に、作ったって言ってたやつか!大仕事の後だ、皆で景気よくパーっとやろう!そういうことだよね!ブラザー!」

「…私の前で、よくそんな悪巧みが言えるね?ソーンズ。」

 歓びを露わにするエリジウムと、怒りで握りこぶしをわなわなと震わせながらそう言うウィーディ。彼女はソーンズの悪ふざけの犠牲者だった。過去に、ウィーディの管理する水道システムをソーンズに爆破されたこともある。

「でも、今回ばかりはしょうがないか。」

 ウィーディが溜息をつく。

「ソーンズ、せめて深夜に隠れてやるなんてことしないで。ちゃんと火気使用の申請を出すように。それと、艦内システムに異常をきたすような破壊行為は厳禁。ルールはきちんと守って。」

「分かった。」

 珍しく聞き分けの良いソーンズだった。

「ウィーディ。お前も来るか。」

 よほど機嫌が良いのか、ソーンズはウィーディにも誘いをかけている。

「……行く。」

 ふてくされたような表情で俯きながらウィーディが答える。

「どうせ、皆花火したがるでしょ。私だけ仲間外れなんて、嫌。」

「花火ですか。」

 ここまでの話を横で聞いていたインディゴが微笑む。

「きっとロドスの甲板上が、煌びやかな光でいっぱいになるんでしょうね。ふふ、今から楽しみです。」

「そうだね。皆誘って、賑やかにやろうか!」

 エリジウムが調子よく言う。

「ロドスは温かい所です。とても明るくて、温かい。」

 そう言ってインディゴは海を見る。

「あの冷たい海で。私達が光を見失わずにいられたのは、ドクターがいてくださったから、ですね。」

 インディゴの視線につられて、オペレーター達は海を見る。

「そうだね。」

 エリジウムがうんうんと頷き、言葉を続ける。

「どんなに劣悪な環境であっても、劣勢下にあっても。きっとドクターは最善手を見つけてくれる。そう信じられるから、僕達は頑張れるのさ。」

「うん。ドクターは本当に凄い。ドクターがいてくれることに、私、いつも感謝してる。」

 ウィーディも同調する。

「ドクターの光は、あの海に届くんです。あんなに深くまで届くんです。どうしてそこまで出来るんでしょう。どうしてあんなに深い所に、希望の光を見出せるんでしょうか。」

 インディゴは曇天の空を見上げる。

「深く潜れば潜る程、光を守ることは難しくなります。圧倒的な暗闇の中で、希望の光を灯し続けることは、たとえドクターであっても簡単では無い筈です。」

「…でも。私、分かる気がする。ドクターがどうして頑張れるのか。」

 ウィーディが静かに言葉を紡ぐ。

「ロドスの仲間と一緒に、どこまでも行けるんだって。ドクターも証明したいんじゃないかな。」

 ウィーディは自分の胸に手を当てる。

「私もそう。私の力で、どこまでロドスの皆の役に立てるか知りたい。だから頑張ってる。きっとドクターも、自分の光でどこまで照らせるのか、知りたいんじゃないかな。」

「そうだね。ドクターみたいな人だって、自分の力を知りたいのかもしれない。でも、だからと言って、各部隊から人気者の僕に。困難な任務にばかりお呼びが掛かるのは、そろそろご遠慮願いたいな。」

 やれやれと言った風に苦笑するエリジウム。両手を上げて大げさに首を振る。

「エリジウムも大変だね。高難度任務で、よく一緒してる気がする。」

 ウィーディが笑う。

「ウィーディこそ、危機契約でいつも大活躍じゃないか。今回だってね。」

「…ありがとう。」

 ウィンクして見せるエリジウムに、目を細めてお礼を言うウィーディ。

「あら、皆さん何の話をしていますの?」

 砂浜で話を咲かせていたオペレーター達の輪の中に、アズリウスとグラウコスが浜辺の方から戻って来る。

「あ、アズリウスさん、それにグラウコスさん。どうでしたか?何か見つかりましたか。」

 インディゴが声を掛ける。二人共、何かを両手で掬う様にして持っていた。グラウコスが答える。

「いいえ。打ち上げられたジャンクから使えそうな物を探してたんですが、めぼしい物は見つかりませんでした。その代わりに、アズリウスさんが貝殻集めをしようと言ったので。貝殻が、これだけ。」

 そう言って手を開いて見せる。暗色の殻が多く、決して色鮮やかとは言えなかったが、種々の貝殻が二人の開いた手の中に収まっていた。

「なかなか綺麗な物はありませんでしたわね。でも楽しかったですわ。グラウとのデート。」

 茶目っ気たっぷりにアズリウスがそう言う。

「えっ……。デート、だったんですか!」

 グラウコスが遅れて驚いた反応を見せる。

「あれっ、でも………そうかも……」

「ところで。先ほどまで皆さん、顔を突き合わせて何かお話されてましたけど。何をお話されていたんですの?」

 アズリウスが再び先程の質問をする。

「そうね。今回の任務のことだよ。」

 ウィーディがアズリウスの質問に答える。

「ドクターは凄いね、って話をしてたんだよ。」

 総括してしまえば、至極簡単な話だった。あの昏い海から、皆生還したのだ。ドクターの指揮の下で。

「…そうですわね。私も、そう思います。」

 アズリウスが貝殻を握ったまま、両手を胸に当てる。

「心細い戦場でも、ドクターがいてくださるだけでどれほど心強いか。ドクターには、感謝してもしきれませんわ。」

 アズリウスが細めていた目を開き、私の方をしっかりと見る。

「ドクター。そちらに立っているのではなく。こちらにいらっしゃいませんか?」

 アズリウスが声を張り、少し離れたところにいる私を見据えて声を掛ける。

「あっ、ドクター!」

 アズリウスの隣のグラウコスも気づき、他のオペレーター達もこちらを見る。

 …参ったな。たまたま通りかかって、つい立ち聞きをしてしまっただけなんだが。アズリウスは狙撃オペレーターを務めているだけあって、遠目に私を見つけてしまったらしい。

 あれ、ドクター!ドクターじゃないか!

 オペレーター達が口々に私を呼ぶ。私はオペレーター達の呼ぶ声のままに、皆の輪の中へ入っていく。

 私を見詰めるオペレーター達の視線。彼らと共に、私は戦ってきた。困難を乗り越えて今、皆でイベリアの浜辺に立っている。

 そんな私に。オペレーター達はこう言ってくれるのだ。

 

 ありがとう、ドクター。

 お疲れ様でした。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。