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イベリア出身のオペレーターを登場させていますが、イベリア陣営に限らず、全てのドクターの努力に想いを馳せながら書きました。
ーーオペレーターの各員に通達。本エリアの作戦は終了しました。輸送船の到着予定時刻まで、各自待機してください。繰り返します。本エリアの作戦は終了しましたーー
天候、曇り。気温11℃
イベリアの浜辺に人影があった。四人、いや五人。ロドスのオペレーター達だ。荷物を一か所にまとめて、時間を潰している様子。それぞれ砂浜に腰を下ろしていたり、所在なく立ち話をしていたりする。
彼ら/彼女らの故郷はこの地、イベリアにある。しかしイベリア出身の彼らが還る場所はこの地ではない。任務を終えたオペレーター達は、これからロドスに帰投する。このイベリアの地を離れて。
「恐ろしい敵でした。」
ウィスパーレインが海を眺めながら呟く。彼女の薄藤色の髪を潮風が揺らす。潮風は海の濃厚な香りをオペレーター達の元へ運び、海鳴りは未だ止まない。ごうごうと響く音が、広大で巨大な存在の在処を示し続けていた。
「海の怪物達。こちらの精神に干渉してくる攻撃の数々。あのような戦場にいて、生きて還って来れたこと。今でも実感が湧きません。」
彼女の傍らに立ち、静かに耳を傾けているのはウィーディ。
「でも、私達はこうして帰って来た。」
ウィーディがウィスパーレインに語る。
「戦術さえ正しければ、心配することなんて何もない。ロドスの工業技術も日々進歩してる。今までの私達の努力を信じれば、きっとこれからも、今回みたいな成果が上げられるよ。」
ウィーディはウィスパーレインを励まそうとしている。
「そうだね。ウィーディの言う通りだよ。」
ウィーディに同調するのは、浜辺に座ったエリジウムだ。
「ドクターの指揮と、僕達オペレーターが息を合わせれば。あんな海の怪物にも負けない、強力なパートナーシップを発揮出来るんだって。今回も証明されたね。」
「ウィスパーレインもありがとう。」
ウィーディがウィスパーレインの手を取る。
「貴方達が後方支援に徹してくれるから。身体の弱い私でも、前線に出る勇気を持てるの。」
ウィーディの真っ直ぐな視線。彼女の感謝が、ウィスパーレインに向けられる。
「…お役に立てたのなら。良かったです…。」
ウィスパーレインが微笑む。たとえ一時の儚い笑顔であっても、そこにはたしかな安堵の雰囲気が感じられた。
エリジウムの隣で、同じく浜辺に座っていたソーンズが目を向けていた事に気づき、ウィーディは眉間に皺を寄せる。
「ソーンズ、何か言いたい事でもあるの?あんたの事だから、【油断しない方が良い。海を甘く見るな。】とでも言いたいの?」
ソーンズは眉を上げて見せた後、こう言う。
「いや、そうじゃない。」
ソーンズの意外な返答に、えっ、とウィーディやエリジウムは驚いた様子を見せる。
「今回の作戦に従事した者で、海の脅威に直面しなかった者はいないだろう。皆、あの現場の有様を見た上で、海の脅威と向き合った。そして、少なからず戦果を上げることが出来た。それは評価すべきことだ。」
「珍しいね!ブラザーがそんな事を言うなんて。」
「…言うまでもないことだが、成功した作戦においても反省は必要だ。」
ソーンズは念のため、といった風に釘を刺す。
「だが、俺は何も成果そのものに目を瞑るべきとは思っていない。……正直に言おう。今俺は、浮かれている。」
表情を変えずに彼はこう言った。いや、口の端だけ笑みをつくっていた。
「浮かれてる!?君がだって?」
驚天動地の出来事でもあったかのように、エリジウムが彼の隣を立ち上がる。
「ロドスに帰ったら、俺特製の花火でも出してやる。深夜にでも決行するか。」
「花火!君がアンドレアナと一緒に銃の研究をしてた時に、作ったって言ってたやつか!大仕事の後だ、皆で景気よくパーっとやろう!そういうことだよね!ブラザー!」
「…私の前で、よくそんな悪巧みが言えるね?ソーンズ。」
歓びを露わにするエリジウムと、怒りで握りこぶしをわなわなと震わせながらそう言うウィーディ。彼女はソーンズの悪ふざけの犠牲者だった。過去に、ウィーディの管理する水道システムをソーンズに爆破されたこともある。
「でも、今回ばかりはしょうがないか。」
ウィーディが溜息をつく。
「ソーンズ、せめて深夜に隠れてやるなんてことしないで。ちゃんと火気使用の申請を出すように。それと、艦内システムに異常をきたすような破壊行為は厳禁。ルールはきちんと守って。」
「分かった。」
珍しく聞き分けの良いソーンズだった。
「ウィーディ。お前も来るか。」
よほど機嫌が良いのか、ソーンズはウィーディにも誘いをかけている。
「……行く。」
ふてくされたような表情で俯きながらウィーディが答える。
「どうせ、皆花火したがるでしょ。私だけ仲間外れなんて、嫌。」
「花火ですか。」
ここまでの話を横で聞いていたインディゴが微笑む。
「きっとロドスの甲板上が、煌びやかな光でいっぱいになるんでしょうね。ふふ、今から楽しみです。」
「そうだね。皆誘って、賑やかにやろうか!」
エリジウムが調子よく言う。
「ロドスは温かい所です。とても明るくて、温かい。」
そう言ってインディゴは海を見る。
「あの冷たい海で。私達が光を見失わずにいられたのは、ドクターがいてくださったから、ですね。」
インディゴの視線につられて、オペレーター達は海を見る。
「そうだね。」
エリジウムがうんうんと頷き、言葉を続ける。
「どんなに劣悪な環境であっても、劣勢下にあっても。きっとドクターは最善手を見つけてくれる。そう信じられるから、僕達は頑張れるのさ。」
「うん。ドクターは本当に凄い。ドクターがいてくれることに、私、いつも感謝してる。」
ウィーディも同調する。
「ドクターの光は、あの海に届くんです。あんなに深くまで届くんです。どうしてそこまで出来るんでしょう。どうしてあんなに深い所に、希望の光を見出せるんでしょうか。」
インディゴは曇天の空を見上げる。
「深く潜れば潜る程、光を守ることは難しくなります。圧倒的な暗闇の中で、希望の光を灯し続けることは、たとえドクターであっても簡単では無い筈です。」
「…でも。私、分かる気がする。ドクターがどうして頑張れるのか。」
ウィーディが静かに言葉を紡ぐ。
「ロドスの仲間と一緒に、どこまでも行けるんだって。ドクターも証明したいんじゃないかな。」
ウィーディは自分の胸に手を当てる。
「私もそう。私の力で、どこまでロドスの皆の役に立てるか知りたい。だから頑張ってる。きっとドクターも、自分の光でどこまで照らせるのか、知りたいんじゃないかな。」
「そうだね。ドクターみたいな人だって、自分の力を知りたいのかもしれない。でも、だからと言って、各部隊から人気者の僕に。困難な任務にばかりお呼びが掛かるのは、そろそろご遠慮願いたいな。」
やれやれと言った風に苦笑するエリジウム。両手を上げて大げさに首を振る。
「エリジウムも大変だね。高難度任務で、よく一緒してる気がする。」
ウィーディが笑う。
「ウィーディこそ、危機契約でいつも大活躍じゃないか。今回だってね。」
「…ありがとう。」
ウィンクして見せるエリジウムに、目を細めてお礼を言うウィーディ。
「あら、皆さん何の話をしていますの?」
砂浜で話を咲かせていたオペレーター達の輪の中に、アズリウスとグラウコスが浜辺の方から戻って来る。
「あ、アズリウスさん、それにグラウコスさん。どうでしたか?何か見つかりましたか。」
インディゴが声を掛ける。二人共、何かを両手で掬う様にして持っていた。グラウコスが答える。
「いいえ。打ち上げられたジャンクから使えそうな物を探してたんですが、めぼしい物は見つかりませんでした。その代わりに、アズリウスさんが貝殻集めをしようと言ったので。貝殻が、これだけ。」
そう言って手を開いて見せる。暗色の殻が多く、決して色鮮やかとは言えなかったが、種々の貝殻が二人の開いた手の中に収まっていた。
「なかなか綺麗な物はありませんでしたわね。でも楽しかったですわ。グラウとのデート。」
茶目っ気たっぷりにアズリウスがそう言う。
「えっ……。デート、だったんですか!」
グラウコスが遅れて驚いた反応を見せる。
「あれっ、でも………そうかも……」
「ところで。先ほどまで皆さん、顔を突き合わせて何かお話されてましたけど。何をお話されていたんですの?」
アズリウスが再び先程の質問をする。
「そうね。今回の任務のことだよ。」
ウィーディがアズリウスの質問に答える。
「ドクターは凄いね、って話をしてたんだよ。」
総括してしまえば、至極簡単な話だった。あの昏い海から、皆生還したのだ。ドクターの指揮の下で。
「…そうですわね。私も、そう思います。」
アズリウスが貝殻を握ったまま、両手を胸に当てる。
「心細い戦場でも、ドクターがいてくださるだけでどれほど心強いか。ドクターには、感謝してもしきれませんわ。」
アズリウスが細めていた目を開き、私の方をしっかりと見る。
「ドクター。そちらに立っているのではなく。こちらにいらっしゃいませんか?」
アズリウスが声を張り、少し離れたところにいる私を見据えて声を掛ける。
「あっ、ドクター!」
アズリウスの隣のグラウコスも気づき、他のオペレーター達もこちらを見る。
…参ったな。たまたま通りかかって、つい立ち聞きをしてしまっただけなんだが。アズリウスは狙撃オペレーターを務めているだけあって、遠目に私を見つけてしまったらしい。
あれ、ドクター!ドクターじゃないか!
オペレーター達が口々に私を呼ぶ。私はオペレーター達の呼ぶ声のままに、皆の輪の中へ入っていく。
私を見詰めるオペレーター達の視線。彼らと共に、私は戦ってきた。困難を乗り越えて今、皆でイベリアの浜辺に立っている。
そんな私に。オペレーター達はこう言ってくれるのだ。
ありがとう、ドクター。
お疲れ様でした。