情報収集項目:樹智春
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6/17 14:00
研究セル〈フィールドヒュージ〉内、某所


side: 樹智春

あーあ、フラれちまったな。

途中までなんかこういい感じだったのに、なんでこうなっちまったかな。

……思えば、常夜ちゃんのことが苦手、なんて言っちまったのが悪かった気がする。

いや、実際あの言い方は我ながらないわ。

……多分、アレを聞かれたからだよな、常夜ちゃんが泣いてたの。

『女を泣かせる男は最低だ』なんて言うけど、今の俺のことじゃねーか!

クソッ、早えーとこ謝らねーとな。

常夜ちゃんはどこだ??

1階部分は全部安全確認を終わらせたはずだから、このフロアにいてくれるといいんだけど。

 

隠れて一人になれそうな所、ってので検討をつけて手当たり次第に当たってたら、3回のハズレの後で、事務所奥の備品倉庫の中から鼻をすするような音が聞こえた。

多分、ここに常夜ちゃんがいるよな……

……正直、どうやって謝ったらいいのか分かんねぇ。

でも、あんな泣き顔見せられて、見なかったことにできるほど俺は腐っちゃいねぇ。

やってやる、謝ってやらぁ!なんて変に気合入れて、俺は倉庫のドアを叩いた。

 

「あー、常夜ちゃん、いる?

 ちょっと話したいんだけど、いいか?」

ドアの向こうで、息を殺すような気配がした。

……返事はない。ああもう、じれってぇな!俺はドアノブに手を伸ばした。

「常夜ちゃん、いるんだろ?入るぜ」

「――ッ!智春さん、私平気ですから!

 もう少ししたら、戻りますから。

 だから、私のことは気にしなくて大丈夫、です」

 

そんなこと、涙声で言われてもよぉ、はいそうですかって帰れるワケねーだろ!

ここで引いたら男じゃねぇ!

俺は何も言わずにドアを開けた。

中には「まさか入ってくるなんて」って感じで固まっちまってる常夜ちゃんがいた。

 

「智春さん、どうして……?」

びっくりしてる常夜ちゃんと目が合っちまったけど、なんかすげー痛々しかった。

あーあ、こんなに目と鼻を真っ赤にしちゃって。

泣きはらした常夜ちゃんの顔を見ちまって、じくり、って心が痛くなった。

俺、ホントに悪いことしたんだな。

とにかく、謝らなくちゃ。

俺は思いっきり低く頭を下げた。

 

「常夜ちゃん、すまん。

 あんなこと言って悪かった。

 常夜ちゃんのこと、ちゃんと見てなくてごめん。

 なんつーか、常夜ちゃんのことちゃんと知ろうともせず、いい加減なイメージで傷つけるようなこと言って、本当にごめん。」

「と、智春さん、頭を上げてください。

 智春さんは悪くないですから」

「いやいや、そんなワケねーだろ。

 常夜ちゃんが泣いてんのは俺のせいだろ!?」

「いえ、ええと、なんていうか……

 その、確かにああやって言われたのは悲しかったですけど、だから泣いてるんじゃなくて……

 あの、そろそろ本当に顔を上げてください、ちゃんとお話ししたいから」

 

どういうことだ?俺のせいじゃないって、そんなことあるのか?

何かよくわかんねーまま顔を上げたら、常夜ちゃんも困った顔で俺を見てた。

……まいったな、気のすむまで殴ってもらって、でもひかりちゃんとは仲直りしてくれって頼むつもりでいたのに、予定が狂っちまった。

とりあえず、背ぇ高え俺が常夜ちゃんを見下ろしてんのも具合がわりーから、丈夫そうな箱に座った。常夜ちゃんも近くの脚立に腰かけた。

 

ゆっくり話をするフェイズに移ったみてーだけど、やべぇ、何話していいか分かんねぇ。

そもそも詫び入れてしばかれるつもりだったから、こうなるとどうしていいか分かんねぇ。

俺が話すことを探してもごもごしてたら、常夜ちゃんがくすくす笑い出した。

 

「智春さんて、本当に律儀な人ですよね。

 わざわざ探して謝りに来るなんて、思ってませんでした」

「だってよ、俺が泣かしたと思ったからよ。

 それに、ひでーこと言っちまったって自覚もあったし……」

「それは確かに、言われて悲しかったですよ。

 でも、私が泣いたのは、私自身が情けなかったからです。

 智春さんがひかりちゃんに告白するのを聞いちゃって、それが苦しかったんです。

 だって、私の好きな人が、私じゃない人に好きって言ってるのを聞いちゃったんですよ?

 正直、相当キツかったです。

 その後で智春さんに、私が苦手って言われて、限界がきちゃって。

 あ、やっぱり智春さんのせいですね」

「ぐっ、そのことは本当にすまなかった」

やっぱり俺のせいじゃねーか!俺は座ったまま慌てて頭を下げた。

それを見て常夜ちゃんはくすくす笑ってた。

 

「大丈夫です。もう気にしてませんから。

 大好きな人だから、嫌いになれないし。

 それに、わざわざ追いかけて謝りに来てくれんですもの。

 もう許しましたよ。」

 

それを聞いて顔を上げると、常夜ちゃんは微笑んでた。

無理して笑ってるんじゃなくて、いつもみたく穏やかな感じだった。

よかった、常夜ちゃんは、もう大丈夫みてーだな。

 

俺がほっとしてため息をつくと、常夜ちゃんが急に真剣な目になった。

いくら鈍感な俺でも、さすがに分かった。

常夜ちゃんが腹を括って、何かしようとしてる。

じゃあ俺も、全力で受け止めなきゃあな。

俺は腹に力を入れて、常夜ちゃんの目を見つめ返した。

常夜ちゃんはちょっとたじろいだみたいだったけど、今までにない凛とした声で言った。

 

「智春さん。最後に聞いてください。

 私、智春さんのことが好きです。

 私をあなたの彼女にしてくれませんか?」

 

ああ、告白されちまった。

さっきひかりちゃんにはフラれちゃったしな。

ここでOKすれば俺にも彼女ができるんだよな。

でも――――。

 

「ごめん、それはできねぇ。

 俺には好きな人がいるから、常夜ちゃんとは付き合えねぇ」

 

ごめんな、常夜ちゃん。

俺はやっぱり、ひかりちゃんが好きなんだ。

ただの意地かも知れねぇけど、俺はあの子のことを諦めたくねえ。

 

俺は常夜ちゃんを振ったのに、彼女は満足そうに笑ってた。

「智春さんならそう言うって信じてました。

 ただのけじめのつもりだったけど、こういうのって案外大事ですね。

 結構すっきりしました。

 智春さん、聞いてくれてありがとう。私、ひかりちゃんの所に行ってきます。

 ああ、でも――――」

 

やっぱり、振られるのは辛いですね。

 

そう呟いた常夜ちゃんの目から、涙が一筋流れたのが、儚げでとても奇麗だった。

 

「じゃあ私、先に行きますね」と言って出ていく常夜ちゃんを見送って、俺は座ったまま、告白された余韻に浸っていた。

常夜ちゃん、色々ごめんな。

もっと早く仲良くなれてたら、君の気持ちに応えられていたかな。

そんな考えが浮かんできたのを、俺は頭を振って追い払った。

かっこつけて意地張っちまったんだ、常夜ちゃんに未練を持つのはナシだ。

俺は絶対ひかりちゃんを惚れされてみせる!

 

両頬を叩いて気合を入れなおして、俺は倉庫を後にした。

 

 

 

 


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