達成値20で開示
研究セル〈フィールドヒュージ〉内、某所
あーあ、フラれちまったな。
途中までなんかこういい感じだったのに、なんでこうなっちまったかな。
……思えば、常夜ちゃんのことが苦手、なんて言っちまったのが悪かった気がする。
いや、実際あの言い方は我ながらないわ。
……多分、アレを聞かれたからだよな、常夜ちゃんが泣いてたの。
『女を泣かせる男は最低だ』なんて言うけど、今の俺のことじゃねーか!
クソッ、早えーとこ謝らねーとな。
常夜ちゃんはどこだ??
1階部分は全部安全確認を終わらせたはずだから、このフロアにいてくれるといいんだけど。
隠れて一人になれそうな所、ってので検討をつけて手当たり次第に当たってたら、3回のハズレの後で、事務所奥の備品倉庫の中から鼻をすするような音が聞こえた。
多分、ここに常夜ちゃんがいるよな……
……正直、どうやって謝ったらいいのか分かんねぇ。
でも、あんな泣き顔見せられて、見なかったことにできるほど俺は腐っちゃいねぇ。
やってやる、謝ってやらぁ!なんて変に気合入れて、俺は倉庫のドアを叩いた。
「あー、常夜ちゃん、いる?
ちょっと話したいんだけど、いいか?」
ドアの向こうで、息を殺すような気配がした。
……返事はない。ああもう、じれってぇな!俺はドアノブに手を伸ばした。
「常夜ちゃん、いるんだろ?入るぜ」
「――ッ!智春さん、私平気ですから!
もう少ししたら、戻りますから。
だから、私のことは気にしなくて大丈夫、です」
そんなこと、涙声で言われてもよぉ、はいそうですかって帰れるワケねーだろ!
ここで引いたら男じゃねぇ!
俺は何も言わずにドアを開けた。
中には「まさか入ってくるなんて」って感じで固まっちまってる常夜ちゃんがいた。
「智春さん、どうして……?」
びっくりしてる常夜ちゃんと目が合っちまったけど、なんかすげー痛々しかった。
あーあ、こんなに目と鼻を真っ赤にしちゃって。
泣きはらした常夜ちゃんの顔を見ちまって、じくり、って心が痛くなった。
俺、ホントに悪いことしたんだな。
とにかく、謝らなくちゃ。
俺は思いっきり低く頭を下げた。
「常夜ちゃん、すまん。
あんなこと言って悪かった。
常夜ちゃんのこと、ちゃんと見てなくてごめん。
なんつーか、常夜ちゃんのことちゃんと知ろうともせず、いい加減なイメージで傷つけるようなこと言って、本当にごめん。」
「と、智春さん、頭を上げてください。
智春さんは悪くないですから」
「いやいや、そんなワケねーだろ。
常夜ちゃんが泣いてんのは俺のせいだろ!?」
「いえ、ええと、なんていうか……
その、確かにああやって言われたのは悲しかったですけど、だから泣いてるんじゃなくて……
あの、そろそろ本当に顔を上げてください、ちゃんとお話ししたいから」
どういうことだ?俺のせいじゃないって、そんなことあるのか?
何かよくわかんねーまま顔を上げたら、常夜ちゃんも困った顔で俺を見てた。
……まいったな、気のすむまで殴ってもらって、でもひかりちゃんとは仲直りしてくれって頼むつもりでいたのに、予定が狂っちまった。
とりあえず、背ぇ高え俺が常夜ちゃんを見下ろしてんのも具合がわりーから、丈夫そうな箱に座った。常夜ちゃんも近くの脚立に腰かけた。
ゆっくり話をするフェイズに移ったみてーだけど、やべぇ、何話していいか分かんねぇ。
そもそも詫び入れてしばかれるつもりだったから、こうなるとどうしていいか分かんねぇ。
俺が話すことを探してもごもごしてたら、常夜ちゃんがくすくす笑い出した。
「智春さんて、本当に律儀な人ですよね。
わざわざ探して謝りに来るなんて、思ってませんでした」
「だってよ、俺が泣かしたと思ったからよ。
それに、ひでーこと言っちまったって自覚もあったし……」
「それは確かに、言われて悲しかったですよ。
でも、私が泣いたのは、私自身が情けなかったからです。
智春さんがひかりちゃんに告白するのを聞いちゃって、それが苦しかったんです。
だって、私の好きな人が、私じゃない人に好きって言ってるのを聞いちゃったんですよ?
正直、相当キツかったです。
その後で智春さんに、私が苦手って言われて、限界がきちゃって。
あ、やっぱり智春さんのせいですね」
「ぐっ、そのことは本当にすまなかった」
やっぱり俺のせいじゃねーか!俺は座ったまま慌てて頭を下げた。
それを見て常夜ちゃんはくすくす笑ってた。
「大丈夫です。もう気にしてませんから。
大好きな人だから、嫌いになれないし。
それに、わざわざ追いかけて謝りに来てくれんですもの。
もう許しましたよ。」
それを聞いて顔を上げると、常夜ちゃんは微笑んでた。
無理して笑ってるんじゃなくて、いつもみたく穏やかな感じだった。
よかった、常夜ちゃんは、もう大丈夫みてーだな。
俺がほっとしてため息をつくと、常夜ちゃんが急に真剣な目になった。
いくら鈍感な俺でも、さすがに分かった。
常夜ちゃんが腹を括って、何かしようとしてる。
じゃあ俺も、全力で受け止めなきゃあな。
俺は腹に力を入れて、常夜ちゃんの目を見つめ返した。
常夜ちゃんはちょっとたじろいだみたいだったけど、今までにない凛とした声で言った。
「智春さん。最後に聞いてください。
私、智春さんのことが好きです。
私をあなたの彼女にしてくれませんか?」
ああ、告白されちまった。
さっきひかりちゃんにはフラれちゃったしな。
ここでOKすれば俺にも彼女ができるんだよな。
でも――――。
「ごめん、それはできねぇ。
俺には好きな人がいるから、常夜ちゃんとは付き合えねぇ」
ごめんな、常夜ちゃん。
俺はやっぱり、ひかりちゃんが好きなんだ。
ただの意地かも知れねぇけど、俺はあの子のことを諦めたくねえ。
俺は常夜ちゃんを振ったのに、彼女は満足そうに笑ってた。
「智春さんならそう言うって信じてました。
ただのけじめのつもりだったけど、こういうのって案外大事ですね。
結構すっきりしました。
智春さん、聞いてくれてありがとう。私、ひかりちゃんの所に行ってきます。
ああ、でも――――」
やっぱり、振られるのは辛いですね。
そう呟いた常夜ちゃんの目から、涙が一筋流れたのが、儚げでとても奇麗だった。
「じゃあ私、先に行きますね」と言って出ていく常夜ちゃんを見送って、俺は座ったまま、告白された余韻に浸っていた。
常夜ちゃん、色々ごめんな。
もっと早く仲良くなれてたら、君の気持ちに応えられていたかな。
そんな考えが浮かんできたのを、俺は頭を振って追い払った。
かっこつけて意地張っちまったんだ、常夜ちゃんに未練を持つのはナシだ。
俺は絶対ひかりちゃんを惚れされてみせる!
両頬を叩いて気合を入れなおして、俺は倉庫を後にした。