幼い頃交わした約束に導かれ、再び巡り合う事になった一柱の龍神と一人の人間の物語。

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押しかけドラゴッドのましろちゃん

 優大は昔、ドラゴンと会った。

 信じられないことかもしれないが、本当の事だ。

 彼がまだ小学一年生の頃、母の実家のある、田舎の村に暮らしていた頃。

 優大は、村の裏手の山奥にある寂れた神社で、彼女と出会った。

 真っ白ですべすべぷにぷにした肌に、つやつやした黒髪をボブカットに整え、前頭部から四本の角を天に伸ばしたセーラー服のお姉さん。

 常に気だるげで、暇そうで、おっとりとしていて、タレ目でジト目な彼女の事が、幼い頃の彼は大好きだった。

 なにぶん小さな村だ。同年代の子どもはほとんど居ない。優大は、遊び相手を求めてその神社に足繁く通った。

 ……角が生えていることに違和感はなかったのか?

 無論、あっただろう。だが、優大は少々お馬鹿な子だったのだ。「まぁそんなこともあるか」と特に気にすることも、恐れることもなかった。

 

 彼女は優大に、色々なことを教えてくれた。後に彼が歴史オタクになったのも、ドラゴン娘フェチになったのも、大半は彼女のせいだ。

 

 月に一度、彼女は竜の姿に戻った。

 周期性はほぼ無い。月初早々に竜にもどったかと思えば、次は月末までもどらなかったこともままあった。

 その事については流石の彼も気になって、一度聞いてみたことがある。

 

「なんでりゅうにもどっちゃうの?」

 

 この時優大少年小学二年。何か特別な理由が有るものだと目を輝かせていた。だが、

 

「んー……なんとなくかなぁ」

 

 身の丈五メートルはあろうかと言う白銀の巨竜は、神社の境内の一番日当たりの良いところで翼を広げ、大きなあくびをして、そう背中にまたがる彼に答えた。

 竜と言うのは、適当なのだ。

 だが、そんな彼女との日々も終わりを迎える。

 小学四年の春、母の再婚を機に町中に引っ越す運びになった。

 

「優くん、男の子だろぉ」

「でもっ……でもぉ……!」

 

 別れの時、泣きじゃくる優大を彼女は優しく抱き締め、慰めてくれた。

 

「町に行って、広い世界を知って、立派な男になってきなぁ」

「……そうしたらましろちゃん、ぼくとケッコンしてくれる……?」

 

 涙ながらに優大が放った一言に、流石の彼女も面食らう。

 

「……本気?」

「うん! 本気だよ! ほら、約束の指切りしよっ!」

 

 しばし沈黙した竜は、小さく頷き、少年と小指を絡めた。

 

「優くん。君が大人になったら私、きっと君のところに行くからね」

「うん! ぼく、待ってるから!!」

 

 夕日が西の空に沈んでゆく。優大は彼女に貰った勾玉のお守りを握り締め、神社の境内の後にした。

 ――それから、十五年後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優くん、来ちゃったぜぇ~」

「……は?」

 

 大篠優大(おおしのゆうだい)二十五歳。社会人七年目の彼の目の前に、彼女はチューハイ片手に現れた。

 

 

 *

 

 

「……は?」

 

 開いた口が塞がらない。優大は今まさに、その状況に立たされている。

 

「は? ってなんだよぉ~ヒック。約束、忘れちゃったんかぁ~?」

 

 栓の開いたチューハイを持ち、彼女は玄関先でそう訴える。驚くほどに酒臭い。

 

「まて……まて、待ってくれ。今状況確認させてくれ」

「あいあいさぁ~……ヒック」

 

 時折しゃっくりをしながら、彼女はなおもチューハイをあおる。優大は脳ミソがバグりそうだった。

 確かに今、目の前にいる彼女はかつて結婚の約束をした少女……もとい竜にそっくりだ。ボブカットに、タレ目でジト目、肌も真っ白でもちもち。

 そして極めつけは、その頭部にそびえる二対四本の銀の角。この特徴はどう考えても彼女、八幡白河之比売尊(やはたしらかわのひめのみこと)こと、()()()ちゃんそっくりだ。だが、だが……

 

「み、認めたくねぇなぁ」

「んぁぁ~?」

 

 彼女はあの神社に奉られていた竜神だ。かつて日照りに苦しんでいた村を、川の流れを変えることで救ったらしい。

 事実優大の知るましろも、のほほんとしていてつかみどころの無さそうな素振りではあったが、どこかどっしりと余裕があって、頼り甲斐と安心感があった。それに比べて……

 

「ヒック……お酒うまぁ~」

 

 この酔っ払いはどうだろう。もはや見た目と口調以外にかつての面影は見当たらない。あのミステリアスながら魅力的だった彼女の姿は、そこには欠片もありはしないのだ。

 

「あの……ホントにましろちゃん?」

「そうだぞぉ~。指切りしたろぉ? あとぉ~、お守りもぉ」

 

 なるほど、本物らしい。若干認めたくはないが。

 

「マジか……いや、マジか……」

「マジだぞぉ~、げぷっ」

「酒臭っ!」

 

 都会や社会の荒波に揉まれながら、それでも今まで彼が希望を持ってこられたのは、彼女との過去があるからだった。

 もっとも今、彼のその精神的支柱は、ものの見事に本人によって木っ端微塵に崩されたわけだが。

 

「……なぁ優くん」

 

 ふと、ましろがそう彼を呼ぶ。先ほどまでの間延びしたような声とは違う、えらく真面目なトーンだ。

 

「どっ、どしたの?」

 

 あまりの変わりように、優大は思わず身構えそう返す。

 ましろは静かに、こう言った。

 

「便所貸して……吐きそう……」

 

 

 かくして優大とましろの生活は、幕を上げたのであった。

 

 

「おろろろろろろろろぉ……!!」


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