虎杖は宿儺と交代した後、伏黒と共に伊知地の運転する車に高専の元へ運ばれた。高専に着いて、家入に伏黒を預けた。
そして処置を施し終わった家入は虎杖の前に姿を見せた。
「大丈夫、助かるよ。今は気を失ってるだけ」
「ほ、本当!?」
「うん、本当。ちょっと複雑で治るのには時間がかかるけど」
「よかったぁ〜」
(腕と脚、その他骨折しているが)生きていることを教えてもらい、安心して体の力が抜け、その場に座り込む。
「それより君は?」
「ん?」
「怪我。見たところ大したこと無さそうだけど」
家入にそう言われて、虎杖は自身の体に視線を落とす。
「それは大丈夫。宿儺が治してくれたから。多分、宿儺が手当てしてくれなかったら、伏黒も今頃……」
虎杖は伏黒が助からなかった時のことを考えて俯く。
「宿儺が?」
「うん。アイツ、呪いだとか何とか色々言われてるけど優しいとこあんだよな」
家入は宿儺が治してくれたというセリフに怪訝な表情を浮かべるが、まあ、自分の体でもあるしな、と納得した。しかし、伏黒は何故? と疑問を浮かべる。
「伏黒を治すために宿儺と縛り結んだ?」
「縛り?」
虎杖は『縛り』というのが何のことを指しているのか分からず、聞き返す。
「五条から聞いてないのか?」
「五条先生から? 聞いてないけど」
「はぁ、全く…。内に宿儺がいるんだから、しっかりと教えてやれよ」
「え、知らないとマズい?」
「マズいね。君は特に」
任務に行く前に──本格的に呪術師としてやっていく前に知っとくべき基礎的事項で、これを知って
その『縛り』の説明を五条が怠っていたため、家入は虎杖に説明することにした。
縛り──自分や他者と交わす誓約と制約。守らなければ罰を受けることになり、破った際の罰は計り知れない。
他者間との縛りは自らに科す縛りとはわけが違う。自身のみで完結する縛りは破ったところで得たもの、向上した能力などを失うのみに留まる。しかし他者間との縛りの罰は不確定。縛りを破ってしまうといつどんな災いが降りかかるかわからない不確定さがある。
故に他者と縛りを結ぶ際は慎重に見極めなければならない。
その説明を受けた虎杖には心当たりがあった。宿儺に特級呪霊を祓ってもらうため、『俺の出来る範囲なら』と応えてしまった。しかしそれを家入に言うことはできない。何故なら、宿儺に『他言無用だからね?』と釘を刺されてしまったからだ。
「……結んで、ない」
嘘は付いてない。家入が聞いたのは、伏黒を治すために縛りを結んだのか、だ。だから嘘を付いてない。そう自身に言い聞かせていた。
それに『良かった。生きてる』と魔虚羅との戦闘が終わった後、宿儺が伏黒を見て呟いたのを虎杖は聞いていた。
「でも、本当に伏黒の心配をしてたと思うよ」
「(でも…?)……それならいいけど」
そう言ってみたものの、家入には宿儺がそうするメリットがわからなかったし、虎杖が嘘をついているように思えた。
「(考えたところで私にはどうしようもないか。これは五条に任せよう)」
そしてこの時の虎杖は、特級呪霊に実力差を
「随分と宿儺を信用してるみたいだね」
「うん。挑発してくるけど、何だかんだ言って手伝ってくれるし。ツンデレみたいな」
「ツンデレ?」
宿儺がツンデレ…? あの呪いの王が……? 誰に需要があんの? 何の冗談だ、と思ったが、五条に『宿儺って女だったんだよ。ウケるよね〜』と聞かされていたのを思い出して、まあ、それならツンデレでも良いか、と納得した。
「でも、あまり深入りし過ぎるのもよくないよ」
「分かってる。でも宿儺が悪いことをしていた、なんてのは実際に見てないからさ。俺は自分の目で見て判断したい」
「……分かってるならいいけど」
虎杖は疲れが溜まっていたので自室で休もう、と立ちあがろうとした時に家入に「あ、悪いけど少し待って」と止められた。
「五条がもうすぐ来るから」
「五条先生が? 確か出張だって……」
「流石に生徒が重症…しかも特級相手と接敵したからね。今すぐ話しておきたいことでもあるんだろう」
虎杖はそう言われて、分かったと応えて近くの椅子に腰をかけた。
▽
暫く経ち、五条がやって来た。
この部屋には虎杖と家入に、五条、虎杖と伏黒の二名を運んだ伊知地の四人が集まっている。
「事情は伊知地から聞いた。特級相手。しかも生死不明の五人救助に一年派遣はありえない。どうせ悠仁の死刑に実質無期限の猶予を与えたのが面白くなかった上が始末しようとしたんでしょ。それが失敗しても僕に嫌がらせができる」
五条は白い髪を掻きむしりながら言う。この場にいる三人全員が五条が相当キレていることが分かった。空気は地獄と化し、伊知地の体の震えは目覚まし時計の振動のようだ。
「はぁ……ホント余計なことをしてくれる。いっそのこと、上の連中──」
「わぁ♡
緊張感張り詰めたこの室内に虎杖の頬から甘ったるい
「ひっ……!?」
「へぇ…」
「あ、宿儺!!」
伊知地はこの場にいるはずのない五人目の声が聴こえ、引き攣った声を漏らし、家入はこれが宿儺か……面白い体してるな、と虎杖を観察し、虎杖はこの空気を変えるために? と見当違いな解釈をしていた。
「イライラしてるおじさん、
「僕に負けたくせに」
「あー、またそれ言ってる! まあ、ワタシが力を完全に取り戻したら負けちゃうから、今の内に威張っといたほうが良いかもね♡」
いきなり、
そんな五条と宿儺を見た虎杖は、「え、ちょ、ご、五条先生!? 宿儺も!!」と焦る。当然、横にいる伊知地は気を失っていた。
「ははっ、それ本気で言ってる? 冗談はよせよ」
「僕、最強だから…って?
「…僕、今機嫌悪いんだよね〜」
「何が言いたいのぉ?」
「手加減できないよ、って話」
「憂さ晴らしにワタシを使うのぉ? 盛りのついた獣だね、近寄らないでよ♡」
「平安のおばあちゃんに盛る奴が何処にいるの?」
ギャーギャー騒ぐ二人を見て家入は似た者同士だな、と呆れて溜息を吐く。
「五条、落ち着け。私がいない所でやってくれ。迷惑だ。
それよりも彼に話があったんじゃないの?」
家入にそう言われて五条はそうだった、ごめんごめん。と軽く謝り、虎杖に告げる──
「悠仁には死んでもらう」
──死ね、と。
「うん、分かっ──えぇ!? なんで!! 俺死ぬの!?」
五条からの衝撃的な一言を聞き、虎杖は驚きの声を上げる。自分や伏黒、釘崎のことが心配で駆けつけてくれたと思ったのに、まさか先生に殺されるなんて、と声を上げたが、先程宿儺と言い合っていた際に、『手加減できないよ』という物騒なセリフが虎杖の耳に入ってきたため、本当に殺されるんだ……と絶望する。
「あー、違う違う。死んだことにしようってコト」
「え、なんで?」
「多分…いや絶対、この任務は宿儺の器である悠仁を始末しようと当ててきたに違いない。今回無事に生きて帰って来れたけど、また消しかけてこようとするかも知らないじゃん? だからいっそのこと、死んだことにして匿おうってワケ」
「ずっと?」
「ずっとなわけないじゃん。そんなの退屈でしょ。ある程度の目処がついたら。ま、交流戦までかな」
「コウリュウセン?」
「それは追々話すよ。……ってことで硝子よろしく」
五条は硝子に偽の報告よろしく、と厄介な仕事を押し付ける。
「了解」
そんな五条の要望に二つ返事で了承する。日頃から五条のこういうところに慣れているからだろう。
「で、伏黒はどうすんの?」
「交流戦までには間に合いそう?」
「毎日、反──」
「ワタシが治してあげよっか?」
家入が反転術式をかければ、と言い切る前に宿儺が遮った。
「あれぇ? もしかしてあの宿儺様とあろうお方が、高校生相手に恋でもしちゃったんですかー?」
五条がニヤニヤしながら宿儺に聞き、虎杖は変な声を上げて驚く。それに対して宿儺は、うっざと一蹴する。
「恵くんの術式に興味があるから。面白いじゃん、アレ」
「そうだね、僕の術式に匹敵するほどだからね」
「でも本人が
うーんと五条は唸り、宿儺に何でそこまでするのかを聞いた。大体の理由は察しているが。
「暇つぶしだよ。やっぱり強いのと
やっぱり、と五条は思った。五条自身も痛く理解している。自分に並び立つ人間が欲しい、一人は寂しい、と。
と、そんなことを考えている五条だが、当の宿儺は別にそんなこと思っていない。確かに強者がいてくれるのは嬉しい。でも別にいなくても構わないし、料理を作ってくれる裏梅がいるから孤独だなんて感じてはいない。
「分かった、いいよ。ただ悠仁が生きているってことは伝えたくないから、悠仁が復学してからね」
五条と宿儺は縛りの内容の擦り合わせを行い、宿儺は伏黒が目を覚さない内に高度な反転術式で全快にした。
▽
「えええ!? どこ!?」
虎杖は五条に準備があるから少し待っててと言われたので、少し仮眠でも取ろうと瞼を閉じた──その時不思議な感覚が全身を襲い、思わず瞼を開いた。そして目に映ったのは一面に広がる血の海、山のように積み上がっていた動物の頭蓋骨。
「何なんだよコレ……」
不気味な世界に思わず、そんな言葉が漏れる。
「なにその間抜けヅラ。バカみたい♡」
聴き覚えのある甘ったるい声がして顔を上げ、目線を高くすると、そこには四つの瞳、顔に刺青、髪は後ろで一つにまとめ、少し、ほんの少しだけ膨らんだ胸を持つ浴衣を着た──
「もしかして宿儺か…?」
「なに見上げてんのぉ? へんたい♡」
──