「あははははは!!! イイよ!! かわいいよ!! 次は回ってみようか! せっかくアイドルっぽい等身で動けるタイプの容れ物に変えてあげたんだからさ!! もっと勢いよくスカートひらひらさせてさ!!」
ジャイアン。裏梅。俺……お前たちのことがこれほど恋しく感じたことはないよ。
人間としての肉体を奪われ、現在進行形で変態に監禁されている恐怖。
こんなもの知りたくなかった。
たすけて……今なら素直にそう言える。
二人でいる時にこんなこと言ったらとんでもないことになるのに。
ましてや裏梅もいたら絶対やばいことになるってわかってるのに。
『助けてほしい? ほう……それがオレにモノを頼む態度か? 随分と頭が高いようだが……まずはそこに穴を掘れ』
『そうですよ。宿儺様の料理人を勤めていられること自体が光栄だと言うのに、その上に頼みごととは……お前でなければ即刻打首にしていたところです。私がその穴に水を溜めましょう。穴の中でお前が息を止めていられた秒数の"十分の一"だけ言葉を発することを許す。これで如何でしょう、宿儺様』
『流石だな、裏梅。お前はいつも面白いことを思いつく……本当に痒いところに手が届くな。だが甘い。"二十分の一"だ。さあリョウジ。早く穴を掘れ。もちろん素手でな。オレが見守ってやるのだ。やる気も出るだろう? ほら、がんばれがんばれ』
『ガボガボガボ……おかしい!! 頭を……押さえつけるなんて、言ってなかった……はず!! ガボガボガボ……!』
『ケヒッ。リョウジ、計算もできんのか? 今の余計な文句のせいで二分は追加だな。ほらほら、大人しく息を止めていないと本題にも入れんぞ? 確か……助けてほしい、だったか? こんなもの一秒もあれば言えるというのに。なぁ裏梅?』
『全くです。宿儺様、リョウジの阿呆がまだまだ時間をかけそうなので私が今夜の夕餉の食材を用意して参ります。仕上げには……まあ間に合うでしょう。あ、宿儺様。リョウジが動きません。流石に窒息してしまったかと』
『さあ、どうかな? リョウジもこの頃は随分と小賢しくなったしな……死んだフリかもしれんぞ? もう少し沈めておこう』
『……クソが!! バレた!! あっ……ガボボボボボボボ……』
『ケヒヒッ!! やはりな。そら、まだまだ終わらんぞ。まあ本当に死んだら蘇生してやるから安心しろ。裏梅、飯は任せたぞ』
『仰せのままに』
※実話
やっぱり助けてくれなくていいや。
こんな思い出、存在してて欲しくなかったなぁ……涙が出るぜ。
人形だから出ないけど。
でも確かにこの人形の造形かわいいなぁ……スタイルもかなり良さげで高身長だし。
俺が中に入ってなければっていう注釈は付くけども。
つーか縫い目マン、遊んでて良いのか?
多分ジャイアンがお前を見つけるのそんなに時間かからないぞ。
アイツ、マジであらゆる方面で最強だからな。
舐めてると本当に死ぬよ? 流石に目の前で死なれると寝覚めが悪いんだわ。
俺じゃ絶対止められないし止める気も無いから期待すんなよ?
「あはは……ふぅ。そんなの私が一番わかってるさ。君こそ知ってる? "呪いの王"がどれだけ平安の世で恐れられていたのか。オマケに千年以上経っても呪術師にとって"恐怖の象徴"として君臨し続けてるんだ。この意味がわかるかな? わかってないよねー」
うーむ……確かに俺や裏梅と遊んでる時は、確かに性格こそ極悪だけど"呪いの王"なんて言われるほどのことしてたか? って感じはするな。
まあ人間誰しも隠し事や見せてない面くらいあるだろ。
それこそ俺と宿儺と裏梅なんてそれぞれ持ってる能力とか利害が噛み合ったからたまたまつるんでただけだしな。
特に俺なんて料理ができるだけで基本的に酒飲みのダメキャラだし。
"縛り"とやらでなんか酔えなくなった上に、常に酩酊してるみたいに頭はクラクラするっつー嫌なデバフ持ちだけど、これって特技じゃないしなぁ。
宿儺は万能で結構なグルメさんで、裏梅は料理も冷蔵庫係もできたな……あれ? なんか俺ってもしかして平安三馬鹿の役立たずポジションだった? しかもキャラ弱くない? かなしい。
ま、まあいいや。あとまあまあ関係あったのは万だっけ?
あれはまあ……災害みたいなものだったな。
アイツからは三人皆でよく逃げ出したもんだ。懐かしいなぁ。
「……はぁ。ま、君がそう思ってるならそれで良いよ。そして質問に答えてあげよう。今はむしろ君で遊ぶくらいしか私にできることないんだよね」
お? やっぱりお前もジャイアンや裏梅が怖いか。そうだよな。
裏梅なんて滅茶苦茶ブチ切れながら探してるんじゃない?
アイツ、普段冷静なのにジャイアンのことになると暴走しがちだからな。
「確かに裏梅は目を血走らせながら私を探してるね。でもそれだけじゃない。五条悟だ。アレがここまで全力で私や君を探すとは正直思っていなかった。クソ強いだけで『一人でなんでもできると勘違いしてる坊や』だと思ってたんだけどね……家の力や表の権力者まで、使えるものは全部使ってきてる。これがもー厄介」
ああ、表の権力者に顔が利くのか。
それなら街中の監視カメラとかも使えそうだし、お前の縫い目めっちゃ目立つしかなり動きにくそうだな。
よっしゃ! 俺の解放の時も近いな!!
しかし五条悟……? だれ……?
クソ強いってことはもしかしてジャイアン2号なの?
助けてもらった後でもあまり仲良くしたくはないな……ジャイアンは一人でいい。
あとなんか名前だけでイケメン感あるのもいけ好かないね。
でも俺を探してくれてるのは本当にありがたい。
がんばれ!! 俺たちはここにいるぞ!!!
「人間世界も呪術世界も、表も裏もどこもかしこも『額に縫い目のある人間』を探している。やりにくいったらありゃしないよ。というわけでさ。今回は辞めた」
おお? なんか変態の手から黒いモヤみたいなのが……キッショ!
「やめて! 乱暴する気でしょう!! ……あれ? 喋れる」
「そ。呪体の制限を解いた。もう君は歩けるし喋れるし料理もできるよ。私に関する情報は記憶できないし喋れないようにしてるけど……君、料理できるなら満足でしょ」
やった!! 料理できる!!! ばんざい!!!
「ほらね。でもなぁ……あーあ、残念。結構いい感じのタイミングだと思ったんだけどなぁ。五条悟が死ぬまでお預けか。ま、百年もしたら死ぬでしょ」
そら人間なら死ぬだろ。呪術師でも無理。実例ジャイアン。
んで、なんで死んでないん? この縫い目マン。
見た目は変わってるけど……あ、わかった。脳みそ乗っ取りマンなんだな!? 額の縫い目ってそうなんだろ!!
「宿儺はどうせ呪物化の方法覚えちゃってるだろうけど……私だって"檻の作り方"は学んだしね。それに、宿儺も君や裏梅と遊んでる内に私のことなんて忘れるだろう。それが何百年後になるかはわからないけど。待つのは慣れたもんだからね。そして、もう六眼と星漿体の因果は破壊されてるし、天元も呪霊みたいなものだ。術式も獄門疆も私の手にある。あとはもう一つ術式が欲しいけれど……それもアテはある。そして邪魔者がいなくなった時、私はゆっくりと呪力の可能性の探究をさせてもらおうかな」
はい無視ね。しかし話なっげーな……全然わかんね。
あと残念残念って言ってるけど、実際そんなに残念そうじゃないな?
俺はよく知ってるんだ、こういう強くて性格の悪い厄介なやつ。
怪しいなぁ……俺のこの体に変な爆弾とか仕掛けてないよね?
五年後に突然爆発する仕掛けとかも無いよね?
「そんなことしないしない。君を無事に返したら宿儺は大人しくなるでしょ。そんで日本を出て行ってくれたらいいよ。世界を巡るグルメツアー、いいじゃないか。三人で仲良く行ってきなよ。五条悟と虎杖悠仁は……まあ適当にあしらっておくさ」
話が色々難しくてわかんねー。ま、解放してくれるならいいや。
それじゃ送ってくれ……なんて都合が良いことは言わないからさ。
ジャイアンのところまで行けるタクシー代ちょうだい。
万札はアイツのコレクション入りしちゃったからもう持ってないんだよね。
あと今の俺、超かわいいから電車に乗ったら騒ぎになっちゃいそうだし。バズっちゃいそう。それはそれで悪くないけども。
タクシー乗るの久しぶりだなー。現代文明楽しみだなー。
「……君、やっぱりあの宿儺の仲間だね。そういう妙に図々しいところとかさ」
おまえ……それ最大級の侮辱だぞ?
あのジャイアンの図々しさと比べられるとかその時点で名誉毀損だわ。
「ははは、んじゃ、これ使いなよ。ICカードに限度額いっぱい入れてるからさ。どうせ使い方わかるんだろう? じゃあね。もう会うこともないだろう」
はいはい。でも、こういう奴って意外とすぐ会うことになるんだよな。
まあ俺みたいな雑魚が気にしててもしょうがないか。
んじ、お金さんくす。じゃあねー。
「……さて。高専上層部をコントロールして、夜蛾に新しい呪骸でも作らせて宿儺を受肉させ直すか。教えるのは指十本分くらいに耐えられる作り方で良いかな? あんまり弱いと宿儺が長く日本に留まって指探しとかしそうで邪魔だし。それで我が息子の扱いは……ああ、空っぽになったあの子に忌庫の特級呪物を全部食べさせるとか……イイかも。宿儺を他所の器に移すそれっぽい理由になるし、第二の宿儺が作れたら面白いし……よしよし、百年は隠居だけど実際のところ退屈はしなさそうだ。私にはまだまだやることがいっぱいあるね」
額に縫い目のある男、羂索はこれからも暗躍し続ける。
この世界線においてそれが陽の目を見るタイミングは思わぬ横槍により延長されることになった。
しかし羂索は諦めることはない。虎視眈々と"来るべき瞬間"を狙ってこれからも生きていくだろう。
五条悟 Side
東京近郊のファミレスに『リョウジ』らしき人物有り。
情報の出処は怪しかったが、総力をあげているのに中々成果が出ず苛立っていた五条悟は、その報せを受けた瞬間に文字通りワープ並みの速度で現着した。
そして彼が見つけたのは、タッパが高くてスタイルの良いアイドルみたいに可愛らしい格好をした受肉体だった。
その受肉体に刻まれた術式がどのようなものか、当然六眼は捉えている。それを見た五条悟の額に青筋が浮かんだ。
「これ、僕喧嘩売られてる? 絶対売られてるよね? なに? 『五条悟に見つけてもらえたら嬉しいな⭐︎』術式って。それ以外何も効果無いし。額に縫い目の奴って絶対性格悪いよね」
「もぐもぐ……あ、イケメンだ。もしかして貴方が五条悟さんですか? 良かったー。目的地が思ったより遠くて限度額いっぱい使い切りそうだったから、とりあえずタクシー降りて腹拵えしてたんですよね。お迎え、ありがとうございます」
「……はぁ。そうだね。僕が五条悟で多分君の迎えだよ。それらしき人物がいるって聞いてきて飛んできたんだけどさ……一応確かめるけど君が『リョウジ』で合ってる?」
「そうですよ。えーっと……あれ? 誰だっけ? まあいいや。誰かが貴方に保護してもらえってどこかから送り出してくれたんですよね」
「……記憶を消す縛りね。まあ当たり前か。そのくらい用心深い奴じゃないと僕が全然見つけられない理由に納得がいかないし。じゃあ食べてるとこ悪いけどすぐに出るよ。宿儺が君をお待ちだ」
「あー……ジャイアンかぁ……なんか感慨深いけど、そもそも今の俺のこの格好でわかるかなぁ?」
「プッ。ジャイアンって。ウケる。イイねその呼び方。そして確かに今の君、平安時代の術師だなんて誰も思わないだろうね。ちょーっと可愛らしすぎるかな? 僕は良いと思うけどね」
「遅かったなリョウジ。さて、用も済んだことだ。早々にここを出るぞ」
「……」
「どうした? 千年の封印の間にただでさえ抜けていた頭が益々呆けたか? 情けない男だ。いや、今は女か? ケヒッ。存外に可愛らしい姿になっているじゃないか。虐め甲斐がありそうで俺は嬉しいぞ」
「……虐めるのはやめろ。まずは裏梅迎えに行かないとな」
「そうだな。今頃俺の名を呼んで泣いているかもしれん」
「いや、それは無いだろ……」
言えねーよ。
一発で俺だってわかってもらって結構嬉しかったなんてな。
映画版ジャイアン効果ってやつか? ま、これからも楽しめそうじゃん。
三人でグルメツアー、楽しみだよ。
これは本当に本当の俺の気持ち。
本編 完
その後の一幕
リョウジ「おかしいなぁ……こんなスタイル抜群の美人が全世界グルメツアーしてるのに一度もバズらないなんて……ジャイアンも裏梅もムカつくけど見た目は整ってるのになぁ」
※リョウジには無意識の縛り『永遠にバズらない』があるのでマジで一生バズれません。逆にグルメツアー自体はやりやすくなっているので嬉しい誤算かも……?