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【挿絵表示】
未明の時刻。俺は地球の島国、オーブの海岸沿いを車で走らせていた。
日が昇る前もあって、夜空には僅かな星しか瞬いていない。窓から見える景色も夜闇に包まれている。
そして、隣に座る彼女は。
「今の時間の地球での夜……プラントの夜よりもずっと暗い夜ですね」
助手席の窓を開けて、夜風で桃色の髪をなびかせながら外を眺める、ミーア・キャンベル。
あの戦いが終わった後、色々とあって彼女もオーブへと移り住んでいた。そして今は──俺の交際相手でもある。
「地球では夜明け前、日が昇る前が一番暗いらしい。俺も来たばかりの頃には驚いた。地球の環境を再現したプラントで暮らしていても、本物はもっと想像とは違ったと」
俺も、ミーアも宇宙で、プラントと呼ばれるスペースコロニーで生まれ育った。実際の地球に驚く気持ちはよく分かる。
「ふふ、地球にはもう慣れたと思ってましたけれど、まだまだ驚きで一杯です」
「俺もだ。ミーアよりは長く地球で過ごしはしたが、それでも驚かされる事もある。
ところで窓を開けたままで平気なのか? 地球の冬場は寒いし……その格好なら尚更じゃないか」
冷たい夜風が入る助手席に座るミーアはライブ衣装のままだった。薄い衣装で腕や太ももが露出した、少し刺激的な格好。見ているだけでも寒そうだ。
彼女は移住したオーブで、改めて歌姫として活動を始めたばかりだった。ラクス・クラインの影武者として利用された過去を振り切って、正真正銘ミーア・キャンベルとして。
だから一年の年越しの夜も特別ライブを行い、着替えないまま俺と合流した。最も俺もオーブ軍の仕事が夜中にあり将校服のまま。人のことは言えないな。
(一からのスタート。活動は始めたばかりでも人気は着々と出ているみたいだ。応援してくれるファンもいてくれて、俺も──)
議長の野望に巻き込まれて心も身体も傷ついていたミーア。そんな彼女に俺はまた歌姫としてやり直すように勧めて、陰ながら活動も支援して支えもした。
「確かにちょっとだけ寒いです。でも……これが地球って感じたくて、あたし」
そう言って子供のように純粋な笑顔を、ミーアは俺に投げかけた。
(おかげで今はこんなに笑えるようになってくれた。それが自分の事のように、俺は嬉しい)
「アスラン、どうしてそんなに笑っているの? 変な事を言っちゃったかしら?」
そう考えていたらつい顔に出ていたようだ。俺は少し赤面しながら首を横に振る。
「いいや、そうじゃないさ。
それよりミーア、地球での感触を味わうのは構わないが、風邪はひかないよう気をつけて欲しい。俺はそこも心配なんだ」
俺なりに気にかけて言った言葉。それに彼女はクスッとして、冗談めいた言葉でこう返した。
「心配ありがと、アスラン。
でも、もし風邪をひいちゃったら……そのときは看病してもらいたいです。アスランから看病して貰ったらきっと、すぐに元気になれそうですもの」
「全く……仕方ないな」
わがまままで言えるようになった事も、喜んでいいのか呆れればいいのか。ただ……悪い気はしなかった。
そんな会話をしながら、ミーアと一緒に車で向かう場所。……この辺りでいいか。
俺は道路脇の空き地に車を停車させ、隣にいる彼女に呼びかける。
「この辺りなら丁度良いと思う。時間も──そろそろ」
袖をめくり腕時計を確認する。時間もジャストだ、海の彼方に見える地平線もかすかに明るくなって来ている。
「せめて上着くらいは着た方がいいと思うが」
「ううん、大丈夫。それより早く見にいきましょう! もうすぐ日が昇って来る頃ですもの」
そう言うとミーアは薄着のライブ衣装のまま車のドアを開けて出た。
……あの格好、絶対寒いとは思うが。俺も彼女に続いて外へと向かう。
「アスランと二人で迎える、新年明けの朝。とっても清々しい気持ちです」
海辺に面した空き地。木の切り株と草原以外は何もないような場所で、俺とミーアは二人きりだ。
今日は一月一日。彼女の言う通り新年の初日で……正月とも呼ばれる日だ。
「そうだな。俺もとても良い気分だ」
ミーアの傍に立ち、二人並んでオーブの大海原を眺める。
これから現れる『ある光景』を見るために一緒にここまで来た。段々と明るくなって行く地平線の向こうを見つめて、彼女はドキドキとしているみたいだった。
「もうすぐですね。胸がドキドキで……ワクワクします」
「今から忘れられない光景が見られる。俺たち二人にとって、きっとな」
「ふふ、とっても楽しみ。
────あっ! 見て見て! アスランっ!!」
突然俺の腕を引いて、地平線を指差すミーア。
いきなり身体ごと引っ張られて前のめりに躓きそうになりながら、俺も同じ方向を見る。その先に見えたのは──。
「とっても、眩しい太陽。新しい一年の始まりに昇るお日さま……『初日の出』ですね」
大海原の彼方から昇る、辺りを照らすオレンジ色の太陽とその光。
「ああ。年始めの一日を迎える朝の日の出、オーブでも縁起の良いものとされている。
この初日の出を、俺は君と迎えたかった」
共に日の出を眺めながら、俺はミーアに告げる。
「ミーア、俺は君の事を大切に想っている。最初は傷ついた君を放っておけなかった事もあった。けれどこのオーブで一緒に過ごす内に、もっとミーアの傍にいたい、守りたいと思うようになったんだ。
だから好きだと言う告白を聞いた時……俺も精一杯、君を愛したいと決めた」
「……アスラン」
美しい日の出だった。けれど今俺たちは互いを見つめ合っていた。
昇りゆく太陽に照らされたミーアの顔の右半分と桃色髪。右瞳も陽の光を反射させて宝石のように輝いて見える。
初日の出も綺麗な光景だ。だがそれ以上に彼女は──。
「少しだけ、その切り株に座っていて欲しい」
いきなりな俺の頼みに、ミーアは驚きながらも言う通りにしてくれた。
切り株は椅子としても丁度良かった。問題なく座れた彼女に、俺は膝をついてその右手をとり衣装の手袋を外す。
「なおさら寒いかもしれないが、構わないだろうか?」
俺が聞くと、こくりと小さく頷くミーア。
「良かった。なら──」
手袋が外され、あらわになったしなやかな右手に顔を近づけ……そっと口づけをした。
「ん……っ」
唇を離して、改めてミーアと向き合って言葉を続ける。
「これが俺の想いだ。俺の歌姫として今年も、この先もずっと傍にいさせて欲しい」
正月と言うこの日に、俺から彼女への再告白。ミーアも嬉しそうに……そして幸せそうな微笑みを浮かべ応えてくれた。
「はいっ! どうか今年も……これからもよろしくお願いします、アスラン!」
新年を迎えて、俺たち二人は改めて互いへの想いと愛を通い合わすことが出来た。
──けれど。
「ふぁっ……くしゅんっ!」
突然、ミーアがくしゃみをした。
「ミーア、大丈夫か!?」
「やっぱり、この格好だと外は寒くて。……くしゅん!」
二度目のくしゃみ。俺は慌てて上着を脱いでミーアの身体に被せる。
「だから言っただろう? とにかくこれを被って早く車に戻ろう。暖房で暖かくして収まればいいが……」
ミーアと初日の出を迎えられて大事な思い出は作れた。
だがそのせいで、後日本当に風邪をこじらせて、治るまでの数日間俺が看病する事になってしまった。
まぁ、それもある意味思い出の一つだな。
本作をお読み頂き、ありがとうございました!
余談になるのですが、本作は過去に書いたアスミア二次の時系列では一番最初になります。もし興味があればそちらも宜しくです