もちろん強制的には着させたりはしない、対価は西洋の珍しい『酒』である。
生成AI画像の挿絵を使ったライトな物語。
尚、表紙はイメージであり本作品とは関係ない模様。次回作で現代に転送された猫猫学生コスプレ編でも作ろうかなっといじっていた画像です。
・時代考証はあえて無視しております。
・R指定が必要のない内容にとどめています。
西方外交使節団。シルクロードを通って遠く西洋まで派遣され、往復で数年かかるケースもある。その一行が無事に中華に戻ってきた。
壬氏はその使節団の話を聞き、情報を精査するのも大事な仕事の内だった。その他に最新技術や武器なども輸入している。
それらの最高機密とは別に使節団は「土産物」も多数持ち帰っていた。
西洋の珍しい保存食、酒、そして後宮の女官向けの衣装や宝飾品などである。
壬氏は土産物をチェックしながら、使節団の説明を受けた。
「なんだこの衣装は?」
「はい、それは西洋の聖者の祭りの際にまとわれるものだとか」
「ふむ・・・下は?」
「それはワンピースという形で、下にズボンなどは身に着けないようです」
「・・・ふむ」
壬氏が両手で広げたのは赤いワンピースに白いファーのついた衣装であった。毛糸が編み込んであり、防寒具としては優秀そうではあるが、いかんせん露出する面積が大きい。
「服の丈がちと小さいように見えるが?」
「はい。あちらの人は大層大柄で、女性でもこちらの男性以上の背丈があります。ですから大人物はでかすぎると判断し・・・」
「子供用か」
「はい」
「だが、その間ぐらいのがあるだろう」
「丈が長くなりますと、胸が大きくなりますゆえ・・・」
「なるほど、わかった」
こうして1つ1つのお土産品の説明をうけ、記録に書き留めていく。
すべての点検を終え使節団の人を下がらせてから、壬氏は改めて服をみて考えた。このサイズが合うとなると里樹(リーシュ)妃ぐらいだろうか・・・
「ふむ・・・これは一度試着して使用感などを記録せねばなるまいな」
適任となれば、あの薬屋のことしか壬氏は思い浮かばなかった。
※ ※ ※
夜分、毒見役の仕事が終わったところで猫猫は壬氏に呼び出された。大きな執務室まで足を運ぶ。
「何か御用でございましょうか?」
両手を前で組んで猫猫が頭を深くさげた。内心では(嫌な予感しかしない・・・)と思っていた。
「ふむ薬屋ご苦労。実はお前に仕事を頼みたくてな」
「はい。ご命令とあれば」
「命令というわけではないのだ。なんというか、お前の意思に反してまでは依頼するつもりはない」
「断っても良いと?」(ますます、嫌な予感がするな・・・)
「そうだな。何しろ薬屋の仕事とはまったく関係ないからな」
「ではお断りします」
「話ぐらい聞け」
「どうせ、ろくな話しではないのでしょう?その口ぶりだと」
「・・・どうかな。お前にも悪い話ではないはずだが」
壬氏は箱から折りたたまれた赤いワンピースを出した。
「先日、西方外交使節団が帰還したのは知っているか?」
「はぁ、噂には」
「その土産物だ。西洋の衣装で『ワンピース』とかいうものらしい」
「これは女官向けのお土産でしょう?」
「その通り。しかしサイズが少し小さい。私の見立てではお前にぴったりかと」
「いりませんが」
「誰がお前にやると言った。私は仕事としてこの衣装の記録を残さねばならん。そこで試着して使用感を教えて欲しい」
「なるほど」
(ほら、嫌な予感は当たった。なんだこの破廉恥な衣装は。遊女が着るようなものではないか・・・)
猫猫は衣装を手に持って広げ大きくため息をついた。確かにサイズ的には自分に合いそうではある。
「これは上着で下もあるのでしょう?」
「ない」
「は!?」
「そういう衣装らしい」
「西洋の遊女が着るものですか?」
「なんでも聖人の祭典の際に着るものらしいぞ」
「まったく理解しかねますな」
「それは同感だが、で、どうする?」
「もちろん、お断りをします」
「ふむ」
「では、失礼します」
「まて、話はこれからだ」
(断るとわかっていて呼びたてた以上は、何か代価があるのだな。西洋の薬ともなれば断りにくいがそれは仕事の領分だし・・・さて)
「これだ」
どん!と、テーブルの上に酒瓶を置いた。
「西洋の酒だ」
「酒ぇ~~~~!!」
「確か薬屋は酒に目がなかったな」
「はい、酒は大好きですが」(これじゃ断れないじゃないか・・・)
「西洋では葡萄で酒を作るらしい。果実酒の一種だがこちらで作るものとはずいぶんと違うらしく、何年もねかせるそうだ」
「文献では呼んだことがありますが・・・」
「飲みたいか?」
「そりゃまぁ・・・」
「なら、仕事を受けるかどうか選べ」
「確認したいのですが、着るだけでよろしいのですね?」
「着て感想を述べるまでが仕事だ」
「ちと考える時間を」
「かまわんが、ちなみにこのぶどう酒一本で街の中心に豪邸が一軒建つぞ」
「貴重なことはわかっています」
(まぁ壬氏様は宦官だし襲われる心配はないしな・・・わたしみたいな女で衣装合わせをするなど酔狂なもんだが)
「どこか着替える場所を、まさか目の前で脱げとは申しませんでしょう?」
「ふむ、それなら二階のあの小部屋を使ってくれ、私の仮眠室としても使っている部屋だ」
「では、しばしお待ちを」
「ならわたしは酒の準備でもしておく」
「あとできれば人払いを・・・」
「心配するな、わたし意外には誰もおらん」
「はぁ・・・」(それはそれで心配なような、そうでもないような。いやいや、あいつは宦官か)
猫猫は小部屋に入って服を脱いだ。着物と袴を脱いでワンピースを着ようとしたが、自分で肌着がおかしいことに気が付いた。
肌着といっても着物である。このワンピースの形状からして似合わない。上からも下からも肌着がみえてしまうからだ。
(ふむ、参ったな・・・女官が着るとなれば皇帝の夜伽の前か。だとすると肌着はいらないのか・・・)
「まったく、これじゃ遊女と変らんな。まっ、元々なり損ねているし、壬氏様には借りも多いしな」
猫猫は思考と独り言をつぶやきながら、すべて脱いでから西洋の赤いワンピースを着た。外側こそ毛糸で編み込まれているが、内側は綿が使用されていて着心地はとても良かった。
(感想といわれてもな・・・着心地は良く、意外と暖かい。だが足と肩が出ているから寒い日の外出には向かないな。機能性よりも祭事の関係でこうなったのかもしれないが、まったく理解しがたい)
「しゃーない、酒のためだ」
猫猫が部屋の外に出た。
「壬氏様、着替えました」
「ほう、降りてこい」
「着替えの感想をいうのが仕事ではありませんでしたか?」
「感想は記録に残しながら聞いてやる。私としてもその衣装が適正かどうか判断せねばならない」
「みたいだけでは・・・」
「酒はいらんのか?」
「くっ・・・自分が憎い」
諦めて猫猫は階段を降りた。下に何も履いていないのでスースーして落ち着かない。自然ともじもじとして内股になってしまう。
「壬氏様、ちとあっちを向いていてください。階段を下から覗かれては困ります」
「ほう?」
「肌着を付けておりませんので」
「ぐはっ」
壬氏は顔を真っ赤にして後ろを向いた。猫猫はその間にそれこそ猫のようにこそこそと階段を降りた。
「もう顔をあげても大丈夫です」
猫猫が声をかけると壬氏が振り向いて顔をあげた。猫猫は気だるそうな表情で壁に寄りかかっていた。いっこくも早く元の服に着替えたい。
「ほう・・・これは・・・」
「いかがですか、満足ですか」
「そうつんけんするな。ふむ・・・」
「わたしとしては早く元に着替えたいのですが」
「そうせくな。質問もある。まずは酒だ、そこに座れ」
「まったく・・・」
壬氏が不慣れな手つきで葡萄酒からコルクを抜いた。独特の器具であり難しかった。
ぽんっ、と心地いい音とともに、葡萄酒の香りが広がった。
「よい器であろう?」
「ガラスですか」
「良く知ってるな」
「どうせ、これだけで豪邸が買えるとかいうのでしょう?」
「そうだな、落として割ったら首が飛ぶな」
「そんな恐ろしいもの使わせないでください!」
「とはいえ、葡萄酒を楽しむにはその『ワイングラス』とやらがいいらしいぞ」
「ならやむを得ませんな」
「ほう、肝が据わっているな」
「毒見も酒も命がけですので」
「何をバカなことを・・・」
壬氏は溜息を1つついて、グラスに葡萄酒を注いだ。猫猫のいう通り毒見役の仕事は文字通り命がけだ。ついつい毒や薬に詳しいので安心してしまったが、いつ死んでもおかしくないのも事実だった。
「では・・・」
「まて、薬屋」
「まだ何かあるのですか・・・」
「いや、この酒はな・・・こうグラスを振って空気を含ませることで香りがより際立つらしい」
「ほう」
2人して不器用にグラスを傾けて葡萄酒を回した。猫猫は濃いかった紫にやや赤味が加わったのを見てとった。葡萄酒が空気と反応しているようだと悟った。
「なるほど・・・密封されていたことで起きなかった変化があらわれるのか・・・確かに香りも良くなった気がします」
「不思議なものだな」
「ええ、では」
「ふむ。乾杯」
「何にですか」
「そういう礼儀だ。ほら、乾杯」
「乾杯」
2人で葡萄酒を口に含んだ。
「香りはいいが渋いな」
壬氏は顔をしかめた。やはり慣れないものはどんなに高価でも口にして美味いものではない。
「ほっほっほぅー」
「どうした薬屋!?」
「壬氏様にはわかりませんか、この芳醇な香りと複雑な味が。確かに葡萄を思わせる果実の香りと甘味、何よりも熟成させることでまろやかな酒の舌触り・・・ああ、至福ですなぁ」
「そうか?」
壬氏は改めて飲むが、やはりよくわからない。いろんなものを口にしている薬屋の方が詳しいのだろうと思った。
「飲むのがもったいないですが・・・」
「といいつつ、グラスをもう空にしているではないか」
「瓶にはまだ酒が残っております」
「おい、全部飲む気か。いかんいかん。これは本来は皇帝のための酒」
「ならなんで壬氏様が飲んでおられるのですか、まさか・・・横領?」
「ちがう。これも役目だ。とにかく、この酒はこれで終り」
壬氏はコルクを詰め直した。
「しかし壬氏様。一度開封してしまえば空気に触れてしまいます。中の酒はもう別物で飲まないのはもったいないですよ」
「・・・そうか」
「もう一杯だけ」
「ふむ、しかたないな・・・もう一杯だけだぞ?あと感想もだな」
「酒のですか?」
「服のだ」
「ああ、これですか忘れてました」
壬氏は猫猫を見た。猫猫は酒ですっかり忘れているが何しろ露出が多い服なのだ。しかもこの中国にはないもので、目のやり場に困る。
それにあんなにツルペタと思っていた猫猫の胸もそれなりにあった。おそらくは普段はさらしなどを巻いているのだろうと壬氏は推測する。
「それで、着心地は?」
「そうですね・・・中は綿なので肌ざわりは良いですよ。あと服のあるところは温かいです」
「露出しているところは聞くまでもないな」
「そうですね。ところで西洋人はどのような肌着を着ているのでしょうか?」
「ふむ・・・今、お前はその下は何も着ていないのだな?」
「ええ、そういう服のようですから。ただ西洋人はこれに合う肌着を着ている可能性は否めません」
「なるほど・・・」
目線をおろせば、ミニスカートから生足が出ている。もう少しめくれたらみえてしまいそうだ。
「これはなんというか・・・破廉恥だな」
「そんなの着てみなくてもわかるでしょう?」
「まぁそうだが、まさか肌着まで脱ぐとは思わなかった」
「実際には皇帝陛下の前で妃が着るのでしょう。ならちぐはぐな衣装合わせはしないはずです。これなら着たままも可能ですな」
「着たまま?」
「仮にですよ。仮に」
「・・・ふむ」
やれやれっと壬氏は溜息をついた。異文化というのは理解しがたいことがある。
「壬氏様。もう一杯・・・」
「だめだ」
「ケチ」
「ああ、ケチで構わん。こちらは仕事だからな、他の高級官僚にも振舞わねばならんのだ」
「別に報告しなければわからないのでは」
「ええい、酒癖の悪いやつだ」
「では壬氏様の飲みかけを・・・あまり口に合わないようですし」
「これは俺が飲む!」
壬氏は立ち上がって、グイッとグラスを傾けて酒を一気に飲み干した。
「ごほっ・・・まったく苦いだけだな」
「もったいない・・・」
「ふぅ・・・」
壬氏は椅子に座って猫猫を眺めた。化粧はしていないのでいつものソバカスが残っている。これでしっかりと化粧をし着飾ったら・・・
「そうだ薬屋。まだ酒が飲みたいか?」
「そりゃ飲みたいですが」
「ふむ・・・そうだな・・・」
壬氏も少し酔いが回っていた。
ふらふらと立ち上がって裏の部屋に入り、一本の瓶を持ってきた。さっきの葡萄酒の不透明な瓶と違って、こちらは透明でキレイだった。
「なんと綺麗な・・・」
「見事だろう?これはな・・・葡萄酒を蒸留することで作られた酒らしい」
「蒸留」
「知っているか?薬屋」
「はい。一度気化させて、その結露を集めたものです。薬を濃縮させるのに使えないかと考えましたが、技術的にはまだ難しいです。西洋では実現されていたのですか」
「らしいな。なんでも酒というのは水よりも気化しやすいらしい」
「・・・なるほど」
「それでずいぶんと濃い酒ができるらしいのだ」
「なんと!この美しい琥珀色の液体がすべて蒸留酒酒ですか」
「そうだ。ブランデーというらしい」
「聞いたことありませんが、素晴らしい技術・・・」
「そりゃそうだろう。初めて持ち帰った品だからな」
猫猫は瞳をキラキラと輝かせている。
「というわけで薬屋。飲みたいなら仕事をしないとな」
「はて・・・?」
「ほれ、今度はこれだ。少し複雑だからな、中に説明も書いてある」
壬氏は足元から衣装の入った籠を渡した。
「まさか・・・これもわたしに着ろと?」
「無理にとは言わん。これは命令でなく、仕事の依頼だからな」
「そんな高価な酒を見せられて断れるわけないでしょう!」
「では、着替えてくるんだな」
「くっ・・・」
猫猫は籠をもって階段を駆け上がっていった。
部屋に入ってから布団の上に衣装を並べる。見たことのない品に戸惑ったが、絵の描かれた説明文が入っていた。それでようやく理解する。
「それにしてもこの衣装・・・わたしにサイズがぴったりだな」
よもや西洋の子供サイズなどとは知らずに猫猫は赤いワンピースを脱いだ。白いファーが気持ちのいい服だった。
裸になって、まずは網タイツをはいた。それから説明書通りに着衣していく。
「なんだこれ・・・ウサギの擬人化だろうか?西洋人の考えることはよくわからん・・・とはいえ、今回の衣装は股間がスースーしない分マシか」
猫猫も慣れない酒で酔いが回っている。
部屋を出て階段を降りていく。壬氏の方が酒はずっと弱く下ではすでに酔いが強く回りはじめていた。
「壬氏様。これでいいのでしょうか?」
猫猫は机に座ってぼんやりと窓の外をみていた壬氏に声をかけた。壬氏は猫猫の方を見ると顔を真っ赤にして言葉がでなかった。
「なんだ・・・それは・・・」
「わたしに言われても困ります。壬氏様の趣味でしょう?」
「べ・・・別にわたしの趣味ではない。確か説明を受けたな・・・」
「これも何か由来があるのですか。それよりも酒を用意してください」
「ああ、すまん・・・そうだな」
壬氏が透明の瓶を開けると、中からはさきほどの葡萄酒とは比べ物にならないぐらい芳醇でいい香りが広がった。
「これは・・・まるで香水のようですね」
「そうだな・・・だが、匂いを嗅げば強い酒だとわかる」
「どれどれ・・・くんくん・・・ふむふむ、これは楽しみ」
猫猫が着替えている間、壬氏はグラスを樽の水で濯いで洗っていた。そこにブランデーをトポトポと注いでいく。
本来ならごく少量を飲む強い酒である。ワイングラスに注ぐような酒ではない。しかし壬氏はそのことを知らないし、酒の強い猫猫なので大丈夫だと思っていた。自分のところにもブランデーを注いでいく。
「その衣装はだな・・・たぶんウサギだ」
「やはりそうですか、何かウサギを模したものだとは思いましたが、服と網の靴下の意味がわかりませんね。これもやはり祭事用ですか」
「いや、それは『バニーガール』といって、賭場で働く若い女性用の衣装らしい。
「ああ、なるほど。ではこれは妓女の衣装ですか」
「そこまではわからんが」
「賭場にいる若い女で、これだけ露出が多いならそれ以外にないでしょう」
「うーん・・・」
「それよりも壬氏様。いただきましょう」
「そうだな」
「乾杯!」
「二度はせんでいいぞ」
「なら、遠慮なく」
猫猫はブランデーを一口含んだ。アルコールが強く口が灼けるように熱くなった。しかし香りの高さ、また痺れるような辛さの後の甘さなど、心地良さが口に広がっていった。
そのまま、ゴクリゴクリと飲み干す。
「お前・・・すごいな」
「ぷはっ~、これは利きますなっ、壬氏様も早く早く」
壬氏もグラスを持って一口飲んだ。口が灼けるように熱くなった。これは飲み方が違うかもしれないと思った。
「壬氏様・・・いらないならわたくしめが・・・」
そういった猫猫の眼が座っていた。アルコールは急激に血の中を巡り、酒に強い猫猫でもだいぶ酔いが回っていた。
「ええい、やはり酒は年齢で規制すべきか・・・」
「何をつまらないことふぉ・・・じゅんしさまぁ」
「飲む。ここで飲まねばお前に負けたきがする」
「さけふぁ かちまけじゃ ございましぇんよぉ・・・」
「はっはっはっ、薬屋。お前もだいぶ酔ったではないか」
「さぁ、さぁ、のまなぁ・・・」
「わかってる」
壬氏は立ち上がって、グラスの酒を一気にあおった。こんな強い酒はちまちまと飲めるものだと思わなかったからだ。
「ぐはっ・・・これは・・・毒か???」
「どくじゃないから、らいじょうぶれすよ~」
立ち上がった猫猫は足元がふらついて、壬氏様に抱き着いた。
「おい、薬屋・・・平気か」
「そりゃ、まぁ平気れすよ?もう一杯くだふぁい」
「ええい、離れろ。このものに酒は考え物だな」
「こんなにたくさんあるじゃないれすか」
「これは皇帝陛下への献上品だ。あまり盗み飲みするわけにはいかん」
「盗みなんですね~」
「ええい、離れ・・・あっ」
下着のないバニー服のボディコンである。壬氏の背の高さから見下ろせば、見えてはいけないものが見える。硬い皮の素材を使った胸元の布と、猫猫の胸には隙間ができていたのだ。
「さけを~」
「・・・」
「じゅんしさま・・・?」
「・・・」
魅入る。こぶりながらも形の良い乳房と、その先にある微かな蕾。火の灯りが揺らめくだけでははっきりとは見えないが。
「くすりや・・・まだ・・・さけがのみたいか?」
「そりゃ、もちろんれすよ。こんなうまいものは他にしりません・・・」
「ふむ・・・なら、もう一つ仕事をやろう・・・」
かくいう壬氏も酔いが回り始めていた。ブランデーを一気飲みしたのである。慣れてないものなら、その場にぶっ倒れても不思議ではない。
壬氏は理性を総動員させて猫猫から離れてイスに座らせた。このまま唇を奪って抱いてしまいたい衝動があったが、それは信頼関係を決定的に損なうなので自重した。
ふらふらとした足取りで、裏から箱を持ってきた。漆と金箔でほどこされた高価な箱だった。
「くすりや・・・これがさいごのしごとだ・・・これはな・・・」
「きがえてきます~」
「いや、さいごまで話をきけ・・・これは、西洋の肌着のようなものらしい」
「はぁ?それで・・・」
猫猫は箱をあけた。中には薄衣の衣装が入っていた。肌ざわりはなめらかでシルクのようだ。淡い桃色に染められていた。
「それは・・・寝所で着るものだ」
「寝巻のようなものれすかね・・・?ヒック」
「なので、それを着たら・・・もう降りてこなくていい」
「はぁ、それは楽ですねぇ」
猫猫は箱を閉じて抱えた。それからフラフラとした足取りで二階へと上がっていった。
壬氏はその場に残って、猫猫が階段を無事に上がりきるのを見届けてから、あたりを片付けた。ブランデーもグラスも高価なもので、割ってしまっては大変だからだ。
「いかん・・・だいぶ酔っているな・・・」
壬氏は猫猫がいる間は気を張っていたが、上にあがったことでほっとしてしまった。イスに腰をかけて大きな溜息をついた。
猫猫がすぐそばにいる・・・
一方で、2階に上がった猫猫は、バニーガールの服を脱いだ。耳のヘアバンドをとり、ボディコンを脱ぎ、網タイツを脱いだ。
それから、自分にだいぶ酔いが回っていることを自覚した。自分らしくないなっと思いつつ、箱を開けた。
それはネグリジェと呼ばれる、女性用の寝巻である。しかし高価なこの品はシルク製であるにもかかわらず、西洋らしい洒落たデザインだった。
猫猫はそれらを見につけて、初めて西洋の肌着がなんなのかを理解した。ブラとショーツも入っていたからだ。これの上にワンピースやバニー服なら確かに問題がない。
「やれやれ、文化の違いとはおそろしい・・・」
下着の上にネグリジェを羽織ると肌ざわりがとてもよく上質なのがわかった。そしてこの衣装が男性をくすぐるような煽情的なデザインなのもわかった。
(壬氏様は降りてこなくていいといったな、ここで待てと・・・)
「うーん」
猫猫は首をひねった。壬氏が立派な若い男性であるなら理解もできる。まぁ自分などに欲情するとは思えなかったが、男性とはけだものである。しかし壬氏が宦官である以上はその可能性はない。
(待てというのは聞き間違えたか・・・?いや、確かにこれは寝所で使うものといっていた・・・ここに狭いとはいえ仮眠用に眠れるところもある・・・)
猫猫は酩酊を感じながらも思考したが、さっぱり壬氏のことがわからなくなっていた。それでも『ここで待つ』というのは悪い気分ではなかった。
「うまい酒も飲めたし、しょうがないのかもしれないな・・・」
自分を高く売る気もなかった。まだ早い気もするし、遅すぎる気もする。
(いやいや、まてまてわたし。ここは後宮だぞ?仮に他の男と寝たら首を刎ねられるのが必定。であるなら壬氏様もただではすまないはず)
(いやいや、そうじゃないだろう。なんでわたしが壬氏様と寝なきゃならんのだ。変態宦官なのか!?)
「添い寝で酒が飲めるなら悪い取引でないな」
猫猫はときどき独り言をつぶやきながら、壬氏を待ったがいっこうに上ってくる気配がしなかった。なんだかんだで一刻ほど待ちぼうけをくらっている気がする。
せっかくの酔いが覚めてしまう。扉を開けてあたりを伺ったが物音もしない。
「お~い、壬氏さま~」
ふらふらとした足取りを感じたので、壁を伝わりながら歩いた。階段を降りると、壬氏が机に伏して椅子に座ったまま眠っていた。
「この・・・散々待たせて寝てやがる・・・」
近寄ったが、気持ち良さそうに眠っていた。
(せめて寝所で寝てくれ・・・ここじゃ運びようもないな)
しょうがないので、猫猫は2階に戻って寝所から掛け布団を持ち出した。それを壬氏の肩にかけてやる。
(用も済んだし、そろそろ帰るか)
「ふぁあ~ぁ」
猫猫は大きなアクビを1つした。
それから部屋に戻って自分の衣装に着替えた。
猫猫は酒に強いので、解毒が早い。さっきまでかなり酩酊していたがすでに酔いが少し浅くなっていた。
階段を降りて執務室から外に出ると、高順(ガオシュン)が座ってぼんやりと月を眺めていた。
「あっ、高順様」
「やぁ小猫(シャオマオ)」
「こんなところでなにを・・・あっ、警護?」
「それが私の役目なんでね。壬氏様は?」
「それならちょうどよかった。そこの机に眠ってしまっておいでです」
「・・・ふむ。ということは・・・」
「別に何もありません」
「はぁ・・・」
やれやれといった風に首をふって高順は立ち上がった。
「それは申し訳ないことをした」
「いえいえ、良い酒が飲めました。心残りといえば、もう一種類酒があったようですが」
「それは今度聞いておこう」
「まぁ約束は果たせてませんので」
「壬氏様は約束を守るかただから、ゆるゆるとまつがいい」
「期待せずにまっておきますよ。では失礼」
「ふむ。気を付けて帰れよ」
「はい」
猫猫は階段をトントントンと跳ねるように降りた。大丈夫、もう足はふらついていなかった。
心地よい夜風にあたりながら、翡翠宮へと戻っていった。
(了)
よろしければ評価、感想等いただければ幸いです。
コスプレのリクエストあれば作ります。
ではでは