「状況の説明を、虎杖君」
七海は順平に絡みついていた呪霊を素早く祓うやいなや、即座に安全圏にまで順平を運びこむ。
「ナナミン!!……そこの真人ってやつに呼び出されたらなんか知らない呪霊に襲われた!」
「……成程……彼は、敵では無いという認識でいいですか?」
「……わかんない、ここに来て直ぐにそこのサムライみたいなやつに襲われたから……けど、助けてくれたのは確かだ」
そう言いながら虎杖は真人の居た方向へと目線を向けるが、既に真人は呪霊へと攻撃を仕掛けていた。
「殺す!!!」
脚を馬にして加速し、一瞬で呪霊へと距離を詰め、刀へと形を変えた腕で、音も無く呪霊の首を斬り落とした。
「……ッ祓った!!」
呪霊の首と胴体が、灰のようになって掻き消えて行く。本来ならばそれで戦いが終わっていたはず……なのだが
『やっぱり、手負いの呪霊じゃ無理があったかな』
言葉を発していたと思っていた呪霊が祓われたのにも関わらず、依然として声は聞こえてくるのだ。
「呪霊は祓った筈なのに……ッなんで声が!!」
「……安全圏から見てるってことか……ナメやがって」
何処からか聞こえている訳でも無く、脳内に直接響くような声が虎杖たちへと届く。
『これ以上特級を失うのも惜しいし、質ではなく数で行こうか』
そう言葉が響くと、空間から無数の呪霊が現れる。
「……ッあれは……!?」
七海建人には、その呪霊の現れ方に
「ナナミン!!どうすりゃいい!!」
「……ッ虎杖君は吉野君を安全な所へ!!ここは私で対処します!!」
「分かった!!」
七海の脳裏に青い記憶が過ぎる……が、直ぐに虎杖によって引き戻され、周囲を見回す。呪霊が出てきた方向では既に真人が戦っていた。
「どうせバレるからって、見境無くなってきたなあ!!」
『そりゃそうだろう、五条悟に正体がバレるか、キミの成長を取るかで言ったら勿論キミをとるさ、これでも私人の母だからね』
「てめえみてえな生ゴミが親じゃ、子が実に哀れだよ!!」
そう聞き、真人は即座に七海の近くへと距離を詰める。
「呪術師!動けるか?」
「味方、という認識でいいんですね?」
「当然、信用するかどうかはそっちに任せるけどね」
二人を取り囲むように呪霊が続々と現れ、一斉に襲いかかる。だがそれも束の間、弾けるようにして呪霊の群れが祓われた。
「……良くて三級、ほとんどが四級、陽動の為なのが透けてるな……本命は」
真人はそう言いながら呪霊の群れの中に潜む、強い呪力を纏った一匹に目をつけ、距離を詰めると共に首をかっ切ろうと腕を振り上げた。
「お前!!」
当たる瞬間、呪霊が体を逸らして避けられてしまうが、腕だけは切り落とし、次の攻撃に移ろうとしたその瞬間
『ここ数年、まともに戦闘してなかっただろう?術式の練度が落ちてるよ』
「……ッ何を」
先程の声が聞こえると共に、真人と七海を取り囲むように墓場のような領域が展開された。
「なっ……!?」
「手印を……腹に描いてやがったッ!!」
手印を直に描くことによる領域展開、呪霊は最初からそれを狙っていたのだ。
『墓』
そう聞こえると同時に、真人の体が棺桶の中に閉じ込められる。
「……ッ!!」
即座に上空から巨大な墓石が落下し、真人の入った棺桶が地中に埋まる。
『3』
呪霊は数字を唱え始め、それを聞いた七海は即座に領域の仕様を理解する……カウントダウンだ。
「…ッ不味い」
『2』
即座にナタを構え、墓石を破壊しようと叩きつけるが、棺桶を掘り起こすまでには至らない。
『1』
「ッ……ッガァッ!!!」
カウントダウンが終わる瞬間、墓石が宙に浮き、土から吹き出るかのようにして真人が飛び上がった。
「くたばれクソバ」
『墓』
再度真人は棺桶に閉じ込められ、即座に墓石によって地中に沈められる。
「クソッ!」
『3』
カウントダウンが始まった直後。七海が墓石を砕き、真人は棺桶を破壊して地中から飛び上がる。
「一旦退くぞ!仕様を探る!!」
「……了解です」
真人が自身の腕を切り落とし、見る見るうちにその腕が無数の鳥となって飛び立って行く。
「……一体限定なのか?」
飛び立った鳥のうち一体のみが棺桶によって落とされるのを見て、真人はそう呟いた。
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その頃、虎杖は順平を抱えながら里桜高校の校庭を走っていた。
「……っクソッ!!」
虎杖の目には巨大な黒い球体が見えており、 それを横目に呪霊から逃げ惑っていた。
「ナナミン助けに行きたいのに……!」
後ろには呪霊が何匹か追ってきており、そのどれもが本来ならぱ虎杖が簡単に祓える程度の呪霊だ。だが呪霊の目的は虎杖ではなく順平、少しでも順平を離してしまえばすぐにでも彼が殺されてしまうという状況だった。
「クッソ……何とか順平を安全なとこに……」
虎杖以外に術師が居ない今、帳の中に安全な場所は無い、虎杖にとってもそれは痛いほどによく分かっていた。
「……ッ回り込まれたか」
周りを完全に囲まれ、ギラギラとした目が順平へと向けられる。次の瞬間には一斉に襲いかかってきてもおかしくは無い状態だ。
「どうする……順平を置いて戦えないし……」
絶体絶命、一か八か順平を抱えたまま呪霊を祓おうとしていたその時
「虎杖くん!!吉野君をこっちへ!!」
「えっ……伊地知さん!?」
校門の側から、伊地知が大声で呼び掛けていた。
「なんでいるのかよく分かんないけど……頼んだ!!」
「……えっ…ええっ!?」
凡そ30メートルはある距離、虎杖は躊躇わずに順平を伊地知へと投げて渡した。
そして宙を舞う順平へと襲いかかろうとしていた呪霊を即座に祓い尽くす。
「伊地知さん!車で離れててくれ!俺ナナミンの方行ってくる!!」
「……ッ分かりました!七海さんを頼みます!」
領域が出現してから既に五分ほど経っている、虎杖は最悪の事態を想像し、全速力で疾走した。
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暗闇の中、墓石の落ちる音が、また聞こえてくる。
「……呪術師、お前領域対策は」
「簡易領域なら出来ませんよ、入門していないので」
「だよなぁ……俺も出来ないし……」
木の影に隠れた真人と七海は、真人の飛ばした数匹かの鳥を見つめていた。
「たぶん、呪力量の多い順にオートで殺していってる」
「ええ、一匹ずつ……同時発動は出来ないと見るべきでしょう」
また鳥が棺桶に入れられ、地中に埋まる。
『3……2……1……』
それと同時に上空から墓石が降ってきて棺桶が地中へと埋まり、スリーカウントが開始、それが終わると同時に鳥の断末魔が響き渡り、また次の鳥が棺桶へと閉じ込められる。
「スリーカウントで確殺……猶予は3、4……良くて5秒ぐらいか」
「……その間に領域を維持できなくなるまでのダメージを与える、と」
「多分攻撃当てた瞬間にオートから切り替えて直に攻撃してくる……」
クソゲーだな、と天を仰いで真人が愚痴る。
「分身ももう出せない……囮は俺がやるとして、いけるか?」
「無理ですね、最低でも二発は必要です」
「俺もおんなじ、一撃狙うにしては時間が足りなすぎる」
お互いに火力不足、殆ど詰みの状況、真人は頭を抱えてながらふと、七海の方を向き直る。
「……一つだけ、策がある……リスクは高いけど……やる?」
七海を真っ直ぐ見据えながら、真人はそう言った。