天皇賞秋を控えたキタサンブラックは宝塚記念の敗戦、それに伴う国外遠征の中止、そして親友であるサトノダイヤモンドの凱旋門賞での敗戦

によって調子を落としていた。

それだけなく、ゴールドシップから指摘されたピークの終わりという可能性ほキタサンブラックの心にトゲのように刺さっで抜けずにいた。




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これはウマ娘第3期11話を自分なりに再構築したものになります。初投稿で読み難い所もあるかと思いますが、よろしくお願いします。



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最遅の復活〜キタサンブラック天皇賞秋〜

 

天皇賞秋まであと一週間に迫る中、キタサンブラックはトレセン学園のグラウンドを走っていた。

 

グラウンドの片隅に措いているラジオからは来週に迫った天皇賞秋、秋天についてのニュースが流れている。

 

『前走の宝塚記念では9着と惨敗を期したキタサンブラック。その敗因についてこころあたりはありますか?』

 

『そうですね。もしかしたら二度と更新されないと言われた天皇賞春のダメージ等の理由は考えられますが、詳しい理由についてはキタサンブラック陣営からもコメントはないです』

 

サトノクラウンに惨敗したキタサンブラックは予定していた海外遠征を取り止め、国内に専念することにした。

 

しかしながら、宝塚記念のレース後に感じたキタサンブラックの身体の違和感は未だに改善されておらず、それは日々のトレーニングにも尠から影響を与えていた。

 

病院に行っても原因は特定できず、キタサンブラックの頭の中には同じチームスピカの先輩であるゴールドシップの言葉が離れない。

 

(ゴルシさんが言っていた、私のピークが過ぎたという事が本当なら…私は…)

 

先日ゴールドシップから言われたキタサンブラックがピークアウトしたのではないかという考えをキタサンブラックは認めたくなかった。

 

ただ現実として、キタサンブラックは以前と同じように負荷をかけたトレーニングに耐えられなくなり、食事の量も目減りしていた。

 

そんな追い詰められた表情をしているキタサンブラックを、キタサンブラックのトレーナーである沖野も厳しい表情で見つめていた。

 

(このままではキタサンは秋天を絶対勝てない。原因不明の宝塚記念の敗戦は未だ尾を引いている。何か起爆剤が必要か?)

 

何かを思い付いた沖野トレーナーは、とある人物に電話を掛ける事にした。この電話によってキタサンに何か変化を与えることができると信じて

 

 

 

「え?このタイミングで実家に帰省ですか?」

 

「あーそうだ。夏も国外遠征に向けてあまり帰省できてなかっただろ。これからレースもまた忙しくなるし、その前に親御さんたちに顔ぐらい見せてやれよ」

 

秋天に向けてトレーニング負荷を上げたかったキタサンブラックは、まさかのトレーナーからの提案に驚きながらも、渋々帰省をすることにした。

 

何よりも普段は自由にさせてくれている家族からも帰省のお願いの電話もあったことも理由の一つだ。

 

ただいまー!と元気よくキタサンブラックが実家の大きな玄関を抜けるとそこにはキタサンブラックの父親の弟子たちが並んでいて、キタサンブラックを待ち構えていた。

 

そして、そこには意外な人物たちも

 

「え?皆もいるなんて何かあったの?」

 

驚くキタサンブラックを尻目に、居間に居たのはキタサン一家の他のウマ娘たちだった。

 

自由なキタサン家にはキタサンブラック以外にも沢山のウマ娘たちがいる。

 

しかし、サトノ家やメジロ家とは違い、キタサン家のウマ娘たちは走る事や大きなレースに拘らず、様々な場所で活躍する事を目指していた。

 

そしてキタサンの家の中で仲が良いとあるウマ娘が前に出てきた。

 

「実はね、キタサンブラックが最近元気がないと聞いて居ても立っても居られなくなって、皆に声を掛けたらこんなに集まっちゃって」

 

 

「…ミカヅキちゃん」

 

「だから今日だけは皆で集まって、お祭りみたいに皆で騒ごうよ!キタサンブラックのお歌も久々に聞きたいし!」

 

 

お祭りという単語にキタサンブラックは滅法弱いのはキタサン家の皆には勿論周知の事実。

 

そしてそれはキタサンブラックの心を暖かくさせた。

 

「皆ありがとう!よーし、それなら私もお父さんの曲メドレーを久しぶりに歌うよー!」

 

それを聞いて、うおおー!と盛り上がるキタサン家の皆。

 

キタサンブラックもレースの事を忘れて盛り上がる。

 

キタサン家では皆の楽しい声とキタサンブラックの歌声が響き渡った。

 

 

 

 

 

キタサン家の皆が盛り上がる中、キタサンブラックは一人縁側に座っていた。

 

明るかった陽射しも影が射すようになり、寒さを少し感じるようになった。

 

「キタサンブラック、いやブラックちゃん」

 

そんなとき、キタサンブラックと仲が良いウマ娘キタサンミカヅキがキタサンブラックの隣に座った。

 

「どうしたのミカヅキちゃん?皆まだ楽しそうにしてるけど」

 

「私実はね、ブラックちゃんにお礼が言いたくて」

 

え?と驚くキタサンブラックを見据えながらキタサンミカヅキは優しく笑う。

 

「ブラックちゃんも知ってるように私は中々中央で勝てなくてね。そろそろレース自体を辞めようと思ってたの」

 

「そんな!でもミカヅキちゃんは」

 

「そう。私はレースを辞めずに、中央から地方のトレセンに移籍してレースを続けることにしたの。何でそうしたのか、それはブラックちゃんの走りに励まされたからなの」

 

キタサンブラックの心に今まで感じたことのない気持ちが芽生える。

 

「去年のジャパンカップや、惜しくも負けちゃった有馬記念。そしてリベンジを果たした天皇賞春。走る貴方の姿は何故か勝ち負け関係なく私の心に響いたの。そして私はまだ走ろうと思えたんだよ」

 

これまで誰かを元気付けたくて走ってきたキタサンブラックだったが、それはあくまでもレースを応援してくれる人たちの事を思って事であり、同じレースを走るウマ娘からそんな事を言われたのは初めてだった。

 

だからね、とキタサンミカヅキはキタサンブラックの冷たい手を両手でぎゅっと握る。

 

「貴方の走りはきっと走るたびに沢山の人の心の中に響くと思うの。だからこれからも」

 

「皆のアイバでいてね」

 

 

キタサンブラックは霞む目を擦りながら、ありがとう、とキタサンミカヅキをぎゅっと抱き締める。

 

その心の中に、最近感じていた不安は消えていた。

 

「で、皆なんでここにいるの?」

 

えへへ、と照れながら出てくるキタサン家の弟子とウマ娘たち。

 

「皆もありがとうね。これでまた頑張れる」

 

「でも、まだ合わなきゃ行けない人がいるでしょ」

 

「え?」

 

「あの日約束した場所で待ってる、だって」

 

それを聞いたキタサンブラックは脇目も振らず家を飛び出した。

 

 

それを見送ったキタサンミカヅキは、

 

「もー、妬けちゃうんだから」

 

笑顔でキタサンブラックを見送った。

 

 

 

 

 

 

あの日約束した場所。キタサンブラックはそれだけで誰が何処で待っているのか一目でわかった。

 

今までいつも一緒にいて、鎬を削りあったライバルで友達。

 

 

「来てくれたんだね。キタちゃん」

 

「当たり前じゃん、ダイヤちゃん」

 

ここはキタサンブラックが幼馴染であるサトノダイヤモンドと、とある約束を小さい頃にした特別な場所。

 

『ずっと一緒に走ろうね』

 

二人はその約束は絶対叶うものだと思っていた。

 

しかし現実は残酷で、サトノダイヤモンドはキタサンブラックとデビューを一年ずらすこととなり、そして、

 

「フランスから帰ってきてたんだ」

 

「連絡が遅くなってごめんね。帰ってきてから体調を崩しちゃってサトノ家で療養してたの」 

 

キタサンブラックには、どうしてもサトノダイヤモンドに電話ではなく、直接伝えたいことがあった。

 

 

「…改めてごめんダイヤちゃん。一緒に凱旋門走れなくて」

 

キタサンブラックはサトノダイヤモンドに頭を下げた。

キタサンブラックもフランスの凱旋門賞に出走を予定していたものの、宝塚記念の敗戦が二人の挑戦を断ち切ってしまった。

 

 

「それはしょうがないよキタちゃん。キタちゃんにも事情があっての事だし」

 

「でも、それでも私は私の事を許せない。だってずっと一緒に走るって約束したのに」

 

「…どうしてかな」

 

え?とキタサンブラックが顔を上げると、そこには泣きそうな顔をしているサトノダイヤモンドがいた。

 

「ずっと一緒に走ろうって約束したのに、私のデビューが遅れちゃって。凱旋門賞でもキタちゃんの分で走ろうと思ったのに」 

 

 

サトノダイヤモンドは凱旋門賞に挑戦したものの、15着という結果に終わってしまった。

3コーナーまで手応えが十分で勝ち負けすると思われていたが、最後は失速してしまった。

それは日本とフランスのバ場の違いに適応できなかったせいだったのでは、とメディアでは連日報道されていた。

 

「不甲斐ない結果になっちゃってごめんね」 

 

 

キタサンブラックはこんな弱気なサトノダイヤモンドを今まで見たことなかった。

 

だって、サトノダイヤモンドはサトノ家悲願のG1制覇を果たし、そして何よりも、

 

「そんなことない!」

 

 

「だってダイヤちゃんは私の友達でライバルなんだから!ダイヤちゃんが謝る事なんて一つもない!だってそれなら私だって、」

 

と気付いたらキタサンブラックがぐいっと前に出たせいで、サトノダイヤモンドの鼻とキタサンブラックの鼻がくっついてしまうほどの距離になってしまった。

 

そして、それが何だか可笑しくて二人で笑ってしまった。同室でこれまでずっと一緒だったのに二人で笑ったのは何時ぶりだろうか。

 

二人で近くのベンチに腰掛けた。

 

「ダイヤちゃんこれからレースどうするの?」

 

「…今年一杯は休養しようと思うの。だから今年はキタちゃんとは走れない」

 

「そっか。なら、わかった!」

 

 

キタサンブラックは自分のポニーテールを結っていた紐を解き、サトノダイヤモンドの腕に巻いた。

 

「前にダイヤちゃんから貰ったブローチには叶わないかもしれないけど、今ダイヤちゃんに渡せるものこれしかないから」 

 

「でもこれはキタちゃんがテイオーさんに憧れて…」

 

「だからこそ、これはダイヤちゃんに持っていてほしいの。そしてダイヤちゃん見ていて欲しい」

 

 

「アナタのライバルがどれだけ強くて、サトノダイヤモンドが決して自分弱く無いってことを私が証明して見せる!」

 

「そのために私は秋古バ三冠を全部勝つつもりで頑張る」

 

「だから見ててサトノダイヤモンド。アナタと一緒に私は走る。この紐はそのためにダイヤちゃんにあげる。そして私はこのブローチを身に付けて走るよ」

 

「…うん!見てるよキタサンブラック」

 

 

太陽は地平線の向こうに姿をほとんど消している。それでもまだその光は消えていいない。

 

向かい合う二人の姿は、当時と比べると大きくなったが、気持ちはあの約束をしたときと変わらない。

 

 

一緒に走る。

 

その形は違えど、約束はもう違えない。

 

 

 

 

ハチミーハチミーハチミーヲナメールト

 

トウカイテイオーがチームスピカの部室に何時もより早い時間に行くと、そこにはもうキタサンブラックがいた。

 

キータちゃん!といつものように声を掛けようとして、踏みとどまるトウカイテイオー

 

キタサンブラックは憧れのトウカイテイオーが部室に来たのにも気付かないぐらい集中してビデオを見ていた。

 

トウカイテイオーがそのビデオを確認すると、『ゴールドシップ 皐月賞』と書かれていた。

そしてその傍らには先日行われたばかりの菊花賞のビデオも置いてあった。

 

どうやらキタサンブラックはこの二つのビデオを繰り返し再生していたようだ。

 

その二つのビデオの共通点等一つしかない。

 

(キタちゃんがこんなにボク以外のウマ娘のレースを見ているのも珍しい)

 

普段と異なるキタサンブラックの様子を見て、トウカイテイオーは微笑んだ。

 

(きっとキタサンブラックはまだ燃え尽きていないんだ)

 

宝塚記念の敗戦が現役最強とも言われるキタサンブラックに大きな影を落とした事は言うまでもない。

 

理由なき敗戦の理由。

 

メディアやそれに影響された世論では、キタサンブラックの強さに疑問を持つ声も増えた。

 

でもトウカイテイオーは信じている。

 

嘗てトウカイテイオーが引退まで考えたとき、励ましてくれたお祭りウマ娘を。

 

 

これまでのようにトレーニングできなくなったとしても、勝利を求めるその姿はまるで、

 

 

(もうとっくの昔に抜かれてしまったボクのG1勝利数、そして次勝てばゴルシと並ぶ)

 

そしてもし秋天を勝って、次はカイチョーとも並ぶ

 

 

「…ボクの昔の夢も託してもいいかな。まさかこんなに大きくなるなんて」

 

 

「うわぁ!テイオーさん!居るから声ぐらい掛けてくださいよ」

 

「ゴメンゴメン!キタちゃんの邪魔したくなくてね。キタちゃんがまだ悩んでるようなら励まそうかと思ってたけど、この様子なら秋天でどんなトラブルが起きても問題なさそうだね」

 

「はい。クラちゃんに宝塚記念のリベンジをして、」

 

そして、とキタサンブラックは瞳の中に決意を滾らせ

 

「ゴルシさんと並んでみせます!スペシャルウィークさんが勝利して、復活を示したあの舞台で!」

 

 

天皇賞秋が、来る

 

 

 

 

『府中は台風の影響で、いまだかつてない程の重バ場になっています。一番人気はこの天皇賞秋が復帰戦となるキタサンブラック。その後に宝塚記念を制したサトノクラウン、ドバイターフを制したリアルスティールが続きます』

 

天皇賞秋は台風の影響で雨も降り続いており、同条件で行われたレースも1000メートル64秒と時間が掛かるバ場になっていた。

 

キタサンブラックは既にゲートの近くに待機しており、ゲートの入場を待っていた。

 

キタサンブラックはいつも通り、むしろいつも以上に落ち着いて見える。

 

そんなキタサンブラックの様子をスタンドではチームスピカのメンメンが応援している。

 

「実際問題、キタさんはこの重バ場に対応できるのかしら?」

 

そう声を漏らしたのはチームスピカではすっかり古参となったサイレンススズカ。

 

それは走ってみないとわからん、と沖野トレーナーは答える。

 

「ただ、キタサンブラックはこれまでバ場が荒れやすい宝塚記念や有馬記念で勝つことはできなかった。むしろ宝塚記念を勝ったサトノクラウンの方が重バ場が得意と言うのが世間一般の考えだ」

 

「その言い方、トレーナーはキタさんが重バ場で苦労するとは重ってねぇーんだろ」

 

ゴールドシップがニヤリと笑いながら口を開いた。

 

「当たり前だ。重バ場が苦手なら、日本のバ場より時計がかかるフランス遠征のプランなんか考えるかよ。今回想定としては一人逃げウマ娘がいるから、キタサンブラックはそのウマ娘を見る形でレースをする可能性が高い」

 

「サトノクラウンの位置取りにもよるが、先日行われた菊花賞も似たような重バ場で逃げウマ娘が逃げ切った。つまり、こういうバ場こそキタサンブラックのような前につけるウマ娘が有利だ」

 

だからいつも通りキタサンブラックが力を出せば、と続けようとしたところ、もうゴールドシップは興味がないのか、ルービックキューブをいじっている。

 

その様子にサイレンススズカは苦笑いを浮かべている。

 

相変わらずのゴールドシップの様子に沖野トレーナーは慣れていて、その目は既にTERFへと向けられている。

 

 

今まで見たことない速さでルービックキューブを完成させたゴールドシップは、

 

「ルービックキューブは5面だけ完成は不可能だ。勝手に6面揃ってしまう不良品だ。だからキタさん」

 

勝ってみせろよ、と小さく呟いた。

 

他のスピカメンバーはターフへと謎の念を送っていた。

 

 

『…最後にシャケトラがゲートに入り、全てのウマ娘がゲートに入りました。まもなく天皇賞秋がスタートします』

 

キタサンブラックは4枠7番と、スタートさえ出れば前目に容易につける絶好の枠だ。

 

天皇賞秋は東京競馬場2000mという舞台で行われるが、コースの形状が特殊でスタート直後すぐに最初のカーブがくる。

 

なので、スタートで取る位置取りによっては、前につけようとしてもコーナーで不利を受けやすく、大外を走らされる可能性が高い。

 

(だから、いつも通りスタートを決めればポジションは取れる)

 

キタサンブラックがゲートの中でぎゅっと力を込めると、泥濘んだ足場に足を取られ、ゲートにぶつかりそうになる。

 

そして、

 

『格式ある出発のゲートを許された18頭、これがホースマンたちの力の証明。天皇賞秋、今スタート!』

 

最悪のタイミングでスタートしてしまった。キタサンブラックは出遅れてしまった。ゲートを出たタイミングは他のどのウマ娘より遅い。

 

後悔先に立たず。もう前では強烈な先行争いが繰り広げられており、キタサンブラックは中団後ろに控えるしかない。

 

出遅れたキタサンブラックを見て、チームスピカに悲鳴が上がった。

 

キタサンブラックが出遅れるなんて今まで無かったことだ。

 

メジロマックイーンは無理に先行争いに参加しないキタサンブラックの様子を見て、安心するような、でも焦るような不思議な気持ちになっていた。

 

心配するメンバーの中で比較的落ち着いていたのがトウカイテイオーだ。

 

トウカイテイオーはこんな不利によってキタサンブラックが負けるわけがないと信じている。

 

(焦るなキタちゃん。勝負はあそこしかない) 

 

 

レースを走るキタサンブラックも、最初こそは少し焦ったものの、最初のコーナーを抜ける頃にはもう冷静になっていた。

 

お陰で周りのウマ娘の様子がわかる。いつもとは違う景色だが、キタサンブラックは菊花賞を差しで勝ったウマ娘だ。

 

現状一番気を付けたいサトノクラウンは視界の中にいる。

 

そして周りのウマ娘は荒れに荒れた内ラチ沿いを避けて走っている。

 

(私のスタミナとパワーがあれば)

 

キタサンブラックは敢えて内ラチ沿いを走ることを選択した。

 

(出遅れた不利を覆すにはここを走るしかない。そして内ラチ沿いを走ること自体は元々のプラン通り)

 

向正面を各ウマ娘が走る頃にはキタサンブラックは10番手程につけていた。本来想定していたポジションよりも後ろだがキタサンブラックはまだ我慢している。

 

そして、大欅に近づこうかというタイミングで、サトノクラウンが仕掛けた。それに併せてキタサンブラックも仕掛ける。

 

『前半の1000メートルはやはり64秒かかっている。64秒かかっている。不良の芝です。さあ各馬コンディション、未知の領域、臨む18頭、難攻不落、秋の盾。キタサンブラック4番手まで、5番手までじわっと進出してきたぞ、ゼッケン7番』

 

 

キタサンブラックより外を走るサトノクラウンの内ラチ側を走る形でキタサンブラックも前進する。

 

サトノクラウンが3番手につけ、キタサンブラックが4番手につけた。

 

そして運命の最後の第4コーナーに差し掛かる。

 

これは!と驚く沖野トレーナー

 

 

「キタさんめ、まさかアタシの皐月賞の捲りを真似するつもりか」

 

何だか嬉しそうに笑ったのはゴールドシップ。

 

「行けー!キタさん!!」

 

第4コーナーを回ったとき、荒れた内ラチ側のバ場を避けるため、サトノクラウンを含め殆どのウマ娘が大きく外に膨れた。

 

キタサンブラックは敢えて内ラチ沿いを選んだ。

 

誰より早く先頭に立つために。

 

 

(上手く行った!後は先頭をキープできれば…ッ!) 

 

誰も前に見えない先頭の景色。雨音とともに聞こえる観客の声援。

 

キタサンブラック自身も荒れてないバ場を走るために少しでも外に持ち出す。

 

その分走る距離をロスしてしまうが、東京競馬場の長い直線を走り切るためにはそうする他ない。

 

そして後ろからとてつもない重圧がキタサンブラックに襲い掛かる。

 

 

「うおおおおー!!」

 

 

サトノクラウンだ。サトノクラウンがキタサンブラックよりも更に外側から、キタサンブラックを抜きにかかる。

 

 

道悪巧者の名に恥じぬ末脚だ。

 

 

サトノクラウンは宝塚記念を快勝した。ただ、それはサトノクラウンの努力より、現役最強馬であるキタサンブラックの敗戦にフォーカスされがちだった。

 

そしてその後凱旋門賞に挑戦した同じサトノ家のサトノダイヤモンドは惨敗してしまった。

 

秋天に挑むサトノクラウンの胸中に渦巻く悔しいという感情。

 

(サトノ家はGIを勝てないと揶揄されても、ダイヤはめげずにサトノ家初のGIを手にした)

 

サトノクラウンはたまたま宝塚記念に勝ったのか?

 

違う。

 

サトノダイヤモンドの凱旋門賞敗戦は仕方ないのか?

 

違う。

 

(ダイヤは何時も挑戦し続けてくれた!だから私だって証明したい!)

 

サトノ家のウマ娘は弱くなんかない。たった一度の敗戦で挫けたりしない。

 

だからキタサンブラックに勝って証明する!

 

 

サトノ家が強いということを! 

 

サトノクラウンの瞳に炎が灯り、キタサンブラックに三バ身二バ身と迫る。

 

(このままじゃクラちゃんに抜かれる、でも!)

 

確かにサトノクラウンはキタサンブラックより強いかもしれない。

 

でも、それは敗ける理由にはならない。

 

 

キタサンブラックは身体をより外側に持ち出した。

 

それはサトノクラウンの前だった。

 

キタサンブラックの末脚は衰えず、サトノクラウンも前にいるキタサンブラックを抜きにかかる事は難しい。

 

(だったら!)

 

サトノクラウンはキタサンブラックより内ラチ側に身体を持ち出した。

 

敢えてキタサンブラックと競り合う形を取るために。

 

 

『また進路を内に取ったサトノクラウン、ミルコ・デムーロ、キタサンか、キタサンか、さあその差が縮まる。クラウンも来る。キタサンだ、キタサンだ、クラウンが来る。さらにはレインボーラインは3番手』

 

最終直線。競り合う二人のウマ娘。どちらも水溜りが浮かぶ重いバ場の上を力強く踏みしめ、顔に飛んでくる雨粒や土塊なんて気にも留めていなかった。

 

目指すはただ一つ、秋の盾。

 

そして、もつれ込むようにゴールした二人は、

 

『キタサンだ、キタサンだ。仁川の悲鳴は、杞憂に終わった。キタサンブラック見事、心配無用、これが現役最強です。GⅠ6勝叶えて見せたキタサンブラック!』

 

 

僅かにキタサンブラックに軍配が上がった。

 

二着はサトノクラウン、3着はレインボーラインが飛び込んできた。

 

キタサンブラックは宝塚記念の無念を晴らし、現役最強であることを証明した。

 

「おめでとうキタさん」

 

キタサンブラックの元に歩いてきたサトノクラウン。

 

「ありがとうクラちゃん」

 

「まさか私が有利だと思ってた条件で負けるなんてね。流石キタさん」

 

ううん、とキタサンブラックはその言葉を否定する。

 

「私一人だったらきっとここまで踏ん張れなかった。私が踏ん張れたのは、ダイヤちゃんのお陰なの」

 

キタサンブラックは首から下げていたサトノダイヤモンドから以前モラッタブローチを取り出した。

 

同じサトノ家であるサトノクラウンも、そのブローチが誰のものか人目でわかった。

 

(なんだ、ダイヤの事を思って走ってたのは私だけじゃなかったんだ)

 

「だったらその事皆にも見せてあげないと」

 

サトノクラウンはキタサンブラックの手を取り、キタサンブラックの手を空に掲げた。

 

勝者を称えるサトノクラウンの行動に、うおおー!!とスタンドが盛り上がる。

 

そしてキタサンブラックとサトノクラウンにはサトノダイヤモンドのブロックが握られている。

 

その光景をスタンドの後ろから見ていたウマ娘がいた。

 

(ありがとう。キタちゃん、そしてクラちゃん)

 

サトノダイヤモンドは自分の手をぎゅっと強く握る。

 

早く走りたい。

 

サトノダイヤモンドの目は強く輝いていた。

 

 

 

「しかし、勝ちタイムは2分8秒3か」

 

その沖野トレーナーの呟きに反応したのはスペシャルウィーク

 

「トレーナーさん?その勝ちタイムがどうかしたんですか?流石にこの重バ場だと時計は掛かるものじゃないですか?」

 

「いいえ、スペちゃん。このタイムは歴代最遅。つまり、キタさんは天皇賞春を最速で、天皇賞秋を最遅で勝った事になるわ」

 

サイレンススズカの指摘にええー!と驚くスペシャルウィーク。

 

「あのなー、スペ。しかも天皇賞春秋連覇って事はスペの他に喜多さんを含め、五人しか達成してない記録。それぐらい記録に残るレースだったってことだ」

 

 

「さ、流石にそれは私だって知ってましたよ!」

 

 

本当にそこまで知っているか怪しいと思ったチームスピカの面子だが、あれ?とそこでダイワスカーレットが声を出す。

 

「そういえばゴールドシップさんの姿が見えないわね?どこに行ったのかしら?」

 

「あー、それならキタさんのレースが終わったあとすぐにどっかに行ってたぜ。トイレじゃねーか?」

 

デリカシーのないウオッカの一言に頭を下げ抱えるダイワスカーレットだった。

 

「6勝か、まさか本当にここまでくるとはね」 

 

 

小さく呟くトウカイテイオー。その表情は後輩がここまで育ったという安堵か、挑戦権を得た後輩を羨むような笑顔にも見える。

 

「でも、キタさんの最後の走りが斜行と認められて失格にならなくてよかったですわ」

 

と安堵するメジロマックイーンもいた。

 

 

 

 

キタサンブラックが控室に戻ると、そこにゴールドシップが待ち構えていた。

 

「まさかキタさんが本当にルービックキューブを揃えるとはな」

 

「ゴルシさんに託された夢を叶えたに過ぎません。それに天皇賞秋を勝てたのもゴルシさんのレースを繰り返し見たからそこです」

 

嬉しい事言ってくれんじゃねーか!とゴールドシップはキタサンブラックの頭をグリグリと力強く撫でる。

 

「でもキタさんGI6勝ってことは、わかってるよな」

 

「…はい。シンボリルドルフさんを始めとした歴代最強のウマ娘さんたちと並べる所まできたということですね」

 

「アタシはトゥインクルシリーズで、そこまで勝つことはできず、ドリームトロフィーリーグに移籍してしまったが、キタさんなら先達たちとも並ぶ力があると信じてるからな」

 

キタサンブラックはそこまでゴールドシップに認められていた事がとても嬉しいと同時に、とても誇らしかった。 

 

だからこそ、

 

「次のジャパンカップも勝ってみせます!なのでゴルシさんも私に並ばれた事だけじゃなく、抜かされたって現実を受け入れてくださいね」

 

「テメェー!アタシの最後の有マ記念から何も成長してねーじゎねぇーかよ!」

 

 

G17勝という歴代ウマ娘の最高G1勝利数に並ぶという重圧

 

それだけでなく、キタサンブラックの走りで様々な人を勇気づけるため

 

その壁にキタサンブラックは挑む。

 

そこに待ち受ける、強敵の存在をまだキタサンブラックは意識していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、個人的にはキタサンブラックのレースの中では最高のレースであると思っている2017年天皇賞秋を拙い文章では有りますが、書かせていただきました。

史実の天皇賞秋こそ、キタサンブラックだけでなく、ジョッキーである武豊氏のレース運びの凄さが際立っており、アニメでは描写の少なかったレースの駆け引きの部分が少しでも皆様の心に響けば嬉しく思います。

本当はもっと沢山の魅力的なキャラクターの方々を登場させたかったのですが、私の力量不足で登場させられず申し訳ありません。
(例えば、レース特徴を説明する二人や、ジャパンカップで立ちはだかるシュヴァルグラン、そしてキタサンブラックの前半のライバルであるドゥラメンテなど)

それでは失礼いたします。

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