常世総ての悪、悲劇の坩堝の主(時給980円)   作:sugar 9

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本当にお久しぶりです。難産中にポケカにドハマりして土日大体費やしてたら1年経ってました。久しぶりなのに顛末回です。


第12話 やりたいこと

 魔剣士学園襲撃事件は収束を見せつつあった。

 

 学内で魔力が使えなくなる異常事態に対して手をこまねくしかなかった騎士団が介入を始めたことで学内を占拠していたテロリストはそのほとんどが処罰・あるいは捕縛された。未だ学園には火の手が回っており、事の首謀者は確保されていないものの、これ以上被害が拡大することはほぼ考えられない。そんな状況である。

 

「……では、今回の一連の事件の首魁は、ルスラン・バーネット副学長だと?」

「……はい」

 

 そんな中、魔剣士学園の近くに作られた仮設テント。紅の騎士団の簡易拠点としてあてがわれた空間にて、3人の女性がいた。燃えるような赤髪の女性、アイリス・ミドガルと、薄い金色の髪の少女、テオ・アークノであった。テオの方は治療を受けた痕跡があり、身にまとう学園指定の制服も所々が破れ、すすけていた。

 

 最後の一人、銀髪の少女、アレクシア・ミドガルは気まずそうにしながら向かい合う二人に交互に視線を向けていた。片や国の象徴、片や国内有数の名家きっての天才ということで平時であれば険悪な雰囲気とは程遠い両者。そんな2人が険悪な雰囲気を出しながら向かい合っているテント内の雰囲気は最悪の一言であり、3名を除く騎士団の者は全員外に出払っていた。

 

 アイリスは、仮設テント内に設置されている簡素なテーブルに置かれた資料に目を向ける。

 

「現状見つかっている物的証拠の殆どは、今回の一件がシャドウガーデンによるものだと示しています。それでもなお、そう言うと?」

「副学長から直接問いただした当事者()が何故捏造の可能性もある物的証拠に従わなければならないのでしょうか? それに、生徒からシャドウガーデンを名乗る勢力がテロリストを撃破したという証言は出ているはずです」

「残念だけれど、その証言はごくわずか。以前から続いていたシャドウガーデンを名乗る何者かによる人斬り事件から鑑みても、今回の一件はそのシャドウガーデンなる組織の内部抗争という線で決着をつけるしかないの」

 

「「…………」」

 

 しばしの間、半分にらみ合うような形で黙り込む両者。アレクシアにとっては永遠にも等しい、ほんの数秒の時間が流れたのち、2人がほぼ同じタイミングでため息をついた。

 

「……承知しました。出過ぎた無礼をお許しください」

「……いえ、今回の一件がこの規模で収まったのは、あなたの尽力があってこそ。紅の騎士団の方でも、ルスラン・バーネット副学長周辺の調査は続行します。事後処理に関しては追って伝えますので、あなたは治療に専念するように」

 

 アイリスは安心したかのように1つため息をついた後に、指示を飛ばした。テオはいつも通り、とまではいかないまでも微笑みを浮かべ、最敬礼した後に仮設テントを後にした。

 

「……ままならないわね」

「姉様、テオは……」

「わかっているわ。テオがそんな意味もなく嘘をつくわけもない。副学長は十中八九黒なんでしょう」

 

 けれど、と、アイリスは僅かばかり表情を歪ませながら言葉を続ける。

 

「この問題、思ったより根深い所まで食い込んでいるかもしれないわ。ルスランが黒だという証言の中にはローズ王女の証言も含まれていた。にも拘らず、上はあれこれ屁理屈をつけて証言には耳を貸さずに証拠だより」

「それって……」

「ええ、間違いなく背後には国の重鎮が控えているわ」

 

 恐れと困惑が入り混じった表情を浮かべるアレクシアに対して、アイリスは机の上に広げられた見せかけの証拠の数々を睨む。

 

「しかも、今回の一件でグレンを失ってしまった。テオの活躍のおかげで体裁こそ保てていますが、私の信頼する者で構成するべく半ば無理矢理かき集めた紅の騎士団の事実上の初陣がこれでは、当分の間、規模の拡大は難しい」

 

 アイリスは歯噛みする。

 テオの活躍を喧伝する形で、今回の魔剣士学園襲撃における紅の騎士団としての体裁は保てた。しかし、王国騎士団の中でも信頼が厚かったグレンをみすみす失ってしまったことに対して、国の内部では紅の騎士団、ひいてはそれを率いるアイリス王女に対して疑念の声も少なくない数聞こえるのが現状だ。

 

 もしもこれでテオまで失っていたらと思うと、アイリスは身の毛がよだつ思いだった。

 

「……私は、こんなにも無力だったのね」

 

 間違いが間違いのまま罷り通る瞬間を、アイリスは少なくない数見てきた。それを正すために動き出したというのに、考えることと言えば体面や国内での立ち位置、風評等、アイリスがこれまで軽蔑してきた寄生虫のような貴族と大差ないものばかり。

 それに比べてテオはどうだろうか。国の歪みに対して、真正面から向き合う気概でいる。普段の天真爛漫をそのまま張り付けたような笑顔からは想像もできない意思が込められた眼で見据えられた時、アイリスはその瞳に映る己の姿を見ることを恐れた。

 

 そこには、どこまでも日和見主義な父親に似通った己の姿が映っている気がしたから。

 

「姉様……」

 

 項垂れるアイリスを見て、アレクシアもまた衝撃を受けていた。

 別に、姉が完全無欠だなどと思ったことは無い。けれど、挫折や葛藤とは縁遠い人物だと思っていた。例え困難に当たったとしても、真っ直ぐそれを乗り越えられる人物だと思っていた。

 

「……まだ、終わった訳じゃないじゃない」

「……アレクシア?」

 

 そのことが、嫌にアレクシアの癪に障った。

 

「姉様が自分の剣をどう思っているのか、私はわからない。わからないけれど、姉様の剣は、王国最強って呼ばれてきたのよ? それが、1回の失敗でなかったことになるなんて、それこそあり得ないわ」

 

 アイリスは目を丸くし、アレクシアの方を見た。要領を得ないその発言は、おそらくは励ましに分類されるのだろう。アレクシアも自分で何を言っているのかよくわかっていないのか徐々に顔が赤くなっていく。

 

「っ……テオの様子見てくるわ!」

 

 それだけ言い残して、アレクシアはテントから飛び出すように出て行ってしまった。

 

 1人残されたアイリスは毒気を抜かれたような表情でしばし硬直していた。

 

「……王国最強、か」

 

 やがて、ぽつりとそう呟いたアイリスは、自分の両頬を強く叩いた。小気味いい音がした後、アイリスは目を見開く。

 

「……まだ、折れるにも迷うにも早すぎるわね」

 

 その瞳に、迷いはなかった。

 

 

 

 

 

―・―・―・―

 

 

 夢を見ていた気がする。

 

 ろくな夢ではない。

 火の手が回る学園の中をひた走る夢。

 熱い空気が喉を焼くのも構わず、自身の親代わりの恩人を助けるべくひた走る。

 

 やがて、足を緩める。

 目の前にあるのは、幾度となく通った副学長室の扉。

 

 彼がいないことなどわかり切っているはずのその部屋に足が向かったのかはわからない。無意識のうちで誰かに助けを求めていたのかもしれない。

 

 扉を開ける。

 廊下を燃やしていた炎が嘘かのように静まり返った副学長室。

 

 人影は二つ。

 

 1人は、今まさに目の前で倒れ伏す、凄まじい形相で事切れている血に塗れた恩人。

 

 もう1人は、夜の闇に浮かび上がるような『白』、何故か親しい友の顔をしたそれがシェリーの方を向き、一歩一歩歩み寄る。

 逃げろとシェリーの本能が警鐘を鳴らすが、それに反してシェリーは金縛りにあったかのように身動き一つとれなくなってしまう。

 

 『白』はシルクの手袋に包まれた手をシェリーの方へ伸ばし――

 

「っ――――!!!!」

 

 乾き張り付いた喉で、声にならない悲鳴を上げながら、シェリーはベッドから跳ね起きた。

 

「はっ……はっ……」

 

 肩で息をしながら周囲を見渡すと、そこはどこかの病院であることがうかがえる一室だった。

 

「良かった、目が覚めた」

 

 ベッドの傍には、ほっとしたような笑みを浮かべるテオの姿があった。その姿を見て少し安心したのか、シェリーの呼吸が少しずつ落ち着いていく。

 

「わ、たし、は……」

 

 呼吸が落ち着いていくと同時に、意識を失う直前の光景がフラッシュバックする。

 

 炎に包まれた副学長室。

 

 目の前の少女の胸から突き出た血濡れの刃。

 

 己の知るそれとは似ても似つかない冷酷な表情で以てその刃をこちらへ向ける恩人の姿。

 

 そしてそれらすべてを無惨に蹂躙する『白』。

 

「―――っ!」

「シェリー、大丈夫、大丈夫だよ」

 

 喉の奥からこみ上げるものを寸での所で抑え込んだシェリーをテオが抱きしめて、あやすように背をさする。

 

「テオさん、ですよね……?」

「大丈夫、私は私だよ」

 

 なるべくシェリーを安心させるべくいつも通りの口調で言葉を投げかけるテオに対して、シェリーは徐々に落ち着きを取り戻していくが、

 

 

 次の瞬間、シェリーの脳裏に自身へ手を伸ばす「白」がフラッシュバックする。

 

「っ嫌!!」

 

 思わずといった勢いでシェリーがテオを突き飛ばす、いくら年相応の少女の力しかもっていないシェリーとはいえ、全く無警戒の所から突き飛ばされた結果、たたらを踏んだテオはその勢いのまま病室の壁に背中を打ち付けた。

 

「す、すみません!」

「ううん、平気平気……」

 

 顔を青ざめさせてベッドから起き上がり、テオの方へ駆け寄る。

 

「すみません、とんだご迷惑を……」

「今回の一番の功労者だもん。これくらいお安いもんだよ」

 

 そういいながら、テオは改めてベッドの傍の丸椅子に腰かけなおした。

 

「それで、あの後は……」

「……本当に大丈夫?」

「はい、聞かせてください」

 

 落ち着きを取り戻したシェリーが、テオに事の顛末を問いかける。テオは心配が入り混じった表情で問い返すが、シェリーの口調には少しの揺らぎもなかった。

 それに対して、テオは1つずつ事の顛末を喋り始めた。

 

 

 

「そう、ですか……」

 

 事の顛末を聞き終えたシェリーは、呆然ともとれるような表情を浮かべながら、ベッドに視線を落とした。

 

「……夢じゃ、ないんですよね」

 

 シェリーは、ぽつりと一言、そうつぶやいた。テオは、少しの逡巡の後に頷く。

 

「……ごめんね」

「……何でテオさんが謝るんですか」

 

 力なく笑うシェリーの口からぽつりぽつりと言葉が漏れでる。

 

「お母様の影響、なんです。私がアーティファクトに触れるようになったのは」

「……シェリー?」

「私って、何なんでしょうね。お母さんを殺した人間の手伝いをして、それで学園の皆さんを危険な目に合わせて……っ!!」

「ッ、シェリー、今は休んで――」

 

 堰を切ったように言葉と涙が溢れ出すシェリーの事を、テオは落ち着かせるためにただ抱きしめる事しかできない。

 

「なのに……なのに……っ!!」

 

 

 

 

「それでも、お父様は、お父様なんです……!」

 

 その言葉と共に、シェリーがテオの服の襟元を強く掴んだ。研究者肌の少女相応の力で、テオが力を込めるまでもなく振り払えてしまえるそれは、テオにはとても振り払えないものだった。

 

「何で、何でお父様を殺したんですか……?」

 

 血を吐くように放たれたその言葉を、テオはシェリーの目を真っ直ぐ見据え、何も言わず聞き入れていた。

 

「わかってます。沢山の人が、お父様によって殺されました。私は、お父様に殺されかけて、テオさんも、お父様に殺されかけました。わかってるんです。わかってるんです……っ!!」

 

 シェリーが、涙でテオの服が濡れるのも構わずテオの胸に顔を埋め、嗚咽を漏らす。

 

 シェリーとてわかっている。目の前のテオの秘密がどうあれ、自身の親代わりの男は到底許されないことをした。例えあの場で死ななかったとしても、極刑は免れようがない。それどころか、あの場で他の騎士団の者に殺されていたとしても、不思議でも理不尽でも何でもないことをしたのだ。

 

 しかし、それと納得できるかどうかは全く別の話だ。

 

「バカみたいですよね。もういないのに、どうやったって事実は変わらないのに、全部嘘なんじゃないかって。そう思う自分がいるのが、一番、一番嫌なんです……っ!」

 

 すべてを何かのせいにできれば、あと少しあの場所に着くのが遅れ、あの男の遺体と白い何者かがいる場面にだけ出くわすことが出来れば、どんなに楽だっただろうか。例えその後の人生が復讐の炎を燃やすだけのものになったとしても、今よりはずっと良かっただろう。

 そんなことすら思ってしまう自分に、シェリーは虫唾が走る思いがした。しかし、それでも親を失った喪失感も悲しみも、嘘偽りのないシェリーの思いであったのだ。

 

 

 

「……いいんじゃないかな、それで」

「……え?」

 

 シェリーは顔を上げて、テオの顔を見る。

 

 とても辛そうで、とても苦しそうな、それでも涙の1つも浮かべずにシェリーを安心させようと笑みを浮かべたテオの顔があった。

 

「悪い人が全部悪い事なんてあるわけない。許されない大罪人の副学長と、シェリーの親代わりの副学長。どっちも副学長でいいんじゃないかな」

 

 ――――だから、私を恨んで?

 

 そう告げるテオの姿があまりに痛々しくて、シェリーは言葉を失った。

 この短い間の付き合いで知ったテオの姿からは想像もできないその表情に至るまでに一体何があったというのだろうか。

 

 脳裏によぎるのは、目の前の少女と瓜二つでありながら、似ても似つかない『白』。魔人を名乗りながら、父を蹂躙した絶対的な恐怖。

 

 もし、彼女の内に、元からそれがいたとしたら。

 

「……駄目です」

 

 一体、どれほどの悲劇があっただろうか。一体、どれほどの血が流れたのだろうか。

 

 

 そして、少なくともシェリーから見た限りでは穏やかだったこの国において、魔人とはお伽噺の存在でしかなかった。

 

 それはつまり、目の前の少女が魔人を抑え込んでいることで、一体どれほどの血が流れず、悲劇が起きずに済んだのだろうか。

 

「……絶対、駄目です!」

 

 そんな責め苦を、こんな自分と友達になってくれた少女に背負わせて良い理由など、一体どこにあるというのだろうか。

 

 本来復讐に燃やされるはずだった心が、1人の少女を守るために、道を外れずに踏みとどまった。

 シェリーが、テオに強く抱き着いた。

 

「私も、一緒に背負います」

「シェリー……?」

 

 

「そして、私が作ってみせます。テオさんの中の魔人を封じ込む、そんなアーティファクトを!」

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 

 

 

―・―・―・―

 

 

「…………」 

 

 王都に複数店舗を構えるまぐろなるどの店内。人で賑わうテーブルの一角に、かすかに視線を集めるテオの姿があった。普段の天真爛漫さが見る影もなく、頬杖をつきながらぼんやりとガラス越しの街並みを眺め、漫然とフライドポテトを口に運んでいた。

 

「おつかれ、テオ」

「……シド?」

 

 振り返ったテオの視線の先には、いつも通りのフッと意識を外せば群衆に紛れてしまいそうなモブ然としたシドの姿があった。

 

「……何か用?」

「別に。隣いい?」

「……好きにすれば」

 

 隣の席に腰掛け、テオの前においてあるポテトを目にもとまらぬ速さでかすめ取りポリポリと食べるシド。何かを喋り始める様子もなく、2人の間には沈黙が横たわっている。

 

「……ほんとに何の用?」

「用がなきゃいちゃダメ?」

「え、ほんとに何? こわ……」

 

 若干顔をしかめるテオに対し、シドは気の抜けた口調で喋る。

 

「主人公がなんか思い悩んでるんだからさ。陰の実力者的にはとっとと立ち直ってほしいんだよ」

「……こないだも言ったけど、何それ」

「言葉通り、世界はテオを中心に回ってるって事」

 

 先ほどのそれとは違い、困惑の表情を浮かべるテオに対し、シドは気にすることなく唄うようにしゃべり続ける。

 

「テオの近くではいつだって何かが起こる。偶然も必然もひっくるめて、この王都で起こるあれやこれやの只中にはいつだってテオがいる。それは間違いなく、君が主人公である証だよ」

「……それはシドもでしょ」

「僕は陰の実力者だから」

「……便利だね、その回答」

 

 そういいながらテオは机に突っ伏して、消え入るような声で喋りだした。

 

「だとしたら、こわいよ」

「何が?」

「他人の命が、私の手の中にあるのが」

 

 そういいながら、テオは突っ伏していた顔を横に向け、自分の掌を見つめる。

 

「生きるも死ぬも、大願を成し遂げるか成し遂げないかも私次第。私が嫌だなって思ったら通らないし、私が良いんじゃないって思ったら通る。普通に嫌じゃない? それ」

「何が?」

「……ごめん、シドに聞いた私がバカだった」

 

 再度突っ伏したテオ。そんなテオに何か言葉をかけるわけでもなく、窓の外の光景を眺めながらポテトを口に運ぶシド。

 

「んー、考え過ぎじゃない?」

「……私もそう思う。けど、それと納得できるかは別っていうか……」

 

 ぽつぽつとつぶやくテオに対して、シドは溜息をつきながらしゃべり始める。

 

「いつだったかさ、テオに言ったことあるよね。テオには確固たる魔神ロールがないって」

「……いつの話だっけ」

「いつでもいいでしょ。昔からそうだったけど、テオって何かをしたいって強く思ったことがないんじゃない? 世間一般ではお転婆令嬢って印象だけど、テオって受け身なところあるし」

 

 その言葉に対して、少し心当たりがあったのか、テオは憮然とした様子で答える。

 

「……別にいいじゃん」

「いーや良くないね。受け身の主人公は良くない。人生をかけた大願、ゴール、そういうのがあって物語は動き出すんだよ」

 

 シドは気に食わないといった感情を隠さないまましゃべり続ける。

 

「大体、誰かと誰かのやりたいことがぶつかったらどっちかのやりたいことしか叶わないなんて当たり前じゃん。止まる理由にはならないよ」

「……それが、その人の人生をかけた大願だったとして、それをその時たまたま居合わせた私が嫌だなって思っただけだったとしても?」

「だったとしてもだね」

 

 シドは淀みなく言い切る。弱肉強食を真正面から肯定するその理屈は、おおよそテオの思想とは相いれない物であり、同時にシドにとってはどのような論理にも勝る心理であった。

 

 

「……もし、もしさ。本当に私が主人公だったとして」

「うん」

「私は、何をすればいいの?」

 

 シドは、何でもないことのように、至極当然の事のように言い放った。

 

「やりたいことを、一番すっごく、一番でっかく、やりたいだけやってみなよ」

 

 それは、ひどくめちゃくちゃな、しかし強者にのみ許された「我がまま」を通す答え。

 

「だから、それが何なのか私にはわからないって――」

 

 それに対して若干の苛立ちと共に言い返そうとしたテオに対して、シドは一瞬キョトンとした表情を浮かべた後、

 

 

 

 

「好きなんじゃないの? 人助け」

 

 

 

 テオは、目を見開いた。

 

「……そっか、それでいいんだ」

 

 頭の中で絡まっていた紐が解けていくかのように、テオの中で渦巻いていた疑念や葛藤が氷解していく。

 

「……一番すごくて一番でっかい人助け、か。うん、いいね」

 

 数度頷いた後には、さっきほどまで表情に浮かんでいた漠然とした不安は消えていた。

 

「よしっ!」

 

 テオは両頬を手で叩き、シドがさりげなく自分の方へと移動させていたフライドポテトの紙箱をかっさらい、中に手を入れる。

 

「……まぁまぁ食べたね」

「うだうだしてたテオが悪い」

「そんなことある?」

 

 テオはため息を1つついた後に席を立ち、街並みを眺めながらしゃべり始める。

 

「この世界って、まぁ私達的には居心地は悪くないけど、基本終わってるじゃん?」

「え、陰の実力者やり放題だし最高じゃない?」

「うん、もう黙ってて」

 

 テオは街ゆく人々を眺める。誰一人として、名前も知らなければ出自も知らない。

 けれど、どこかで大切な人が生きていると知っているこの街並みは、好きだった。

 

「……私さ、私が何かしても無駄なんだろうなって正直どっかで思ってた。それにいろんな人を巻き込むのも怖かった」

 

 けど――――

 

 テオがシドの方へ向き直る。その顔にはテオのよく知る笑顔が浮かんでいた。

 

「でも、まぁ、だからってやりたいことやらないのもアホらしいよね」

「……何で僕の方見るの?」

「何でも」

 

 ねぇ、シド――――

 

 その笑顔が、ひどく悪戯めいた、蠱惑的なものへと塗り替えられる。

 

「私が魔神になったら、シドを倒しちゃっても恨みっこなしでいいよね?」

 

 唐突に告げられた宣戦布告。相対するシドでなければ真意は分からないであろうその言葉を聞いたシドは。

 

 

 

「……へぇ」

 

 口の端を吊り上げ、ひどく嬉しそうに微笑んだ。

 

 




また少しずつ投稿しだすので暇な時にでも読んでいただけるとありがたいです。
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