今回より新規作品──「仮面と彩りの狂騒曲」を投稿したいと思います。投稿ペースとしては不定期になりますが(ここ暫くは定期的にできるかも)、更新をお待ち頂けると幸いです。
では、前書きもそこそこに。
最後までごゆっくりお楽しみ下さいませ。
「……」
暖かく穏やかな春の日差しが窓から射し込み、人々のやる気を呼び覚ましているこの頃……僕は睡魔に身を預けていた。時間帯としてはそろそろアラームが鳴る頃なので、いつでも起きられる様にはしているのだが。
「……ん」
枕元に置いてあるスマホから、起床時間を報せるアラームが鳴り響き、僕は多少寝惚け眼になりながらもその音を止めた。そして布団から出た後は、自分の部屋を出て洗面台に行って顔を洗い、朝食の準備をする事にした。
先ずは冷蔵庫から5枚入りの食パンの袋を取りだし、中から1枚取ってオーブンに入れて焼き始める。その後は昨夜のうちに作っておいた味噌汁のあるお鍋をガスコンロを使って温め、木製の器に移す。
そこから、1個玉子を割って甘さは少し控えめの玉子焼きを作り……オーブンから良い具合に焦げ目もついて、温まったパンを取り出したら朝食の完成だ。
二年も経てば一人で生活する事にも慣れ、自然とその行動がスムーズになると言う物。起きた後の行動の速さには、それを続けて来たが故の物があるだろう。
「……頂きます」
そう言って僕は、簡単に用意した朝食を食べ始めた。
……え? ここまで喋ってる人が誰だか分からない? それならば、今のうちに軽く自己紹介でもしようかな。丁度朝ご飯の真っ最中だしね。
初めましての方は初めまして。そうで無い方はまたまたのお出番ご勘弁下さい。
普段の行動には逐一気を付けてこそいるけれど、今度はそれが出来て当たり前、且つ、周りの同世代は勿論の事……それより上の人たちと同じ環境で関わらねばならない……そう考えるだけでも、今から不安が募ったりはするんだけどね。
「(はぁ……やっぱり朝はこれだね。朝ご飯は一日のエネルギーになるから、確り食べなきゃ)」
そう思って僕がカリッカリに焼かれたパンを、一口齧ろうとしたその時……玄関のインターホンが軽く鳴らされた。
「誰だろう……はーい」
僕は食べようとしていたパンをお皿の上に置き、ティッシュを一枚取って手を拭き、来客に応じる事にした。こんな時間から訪ねて来るのは幼馴染のちーちゃんか、彩か……はたまた日菜か。それくらいな物だろうが。
そう思って扉を開けてみると、そこには灰色の髪を腰まで伸ばし、白いTシャツを着た上から若草色のジャケットを羽織っていて、下には桜色のフレアスカートを履いている……如何にも春色コーデ、と言わんばかりの服装に身を包んだ僕の幼馴染の少女である──
彼女はまるで絵に書いた様な真面目な性格で、事ある毎に僕のお世話を焼いて来た存在だ。
「おはようございます、颯樹。気持ちの良い朝ですね」
「お、おはよう千歌」
「さて、颯樹。大学生活の一発目から、遅刻する訳には行きません……通学準備の方はできていますか?」
「ごめん、今朝ご飯食べてたんだけど」
そう言って僕は、千歌を家の中に招き入れた。流石に時間もまだ6時半と早い時間であるにも関わらず、何と気が早い事……と心の中で愚痴ってしまったのは、また別の話である。これが本人にうっかり聞かれでもしたら、確実に通学途中の道中でお説教確定コースだろうからね。
「何か言いましたか?」
「いえ何も?」
……相変わらず、僕の周囲に居る女性は目の前の千歌も含めてだけど、揃いも揃ってこう言う時に勘がすごく良いのは何でだろうね……。おかげで声が上擦りそうだったよ。
そんな一幕こそあれど、その後は朝食や通学準備を滞り無く終え、僕は千歌を連れて車に乗り込んだ。これは余談程度で話すのだが、これから向かう大学では自動車通学が諸条件付きだけれど許可されている。
まあ……学内での単位を落とすなとか、大学生としての自覚を持って行動するとか……早い話その類である。
過去には、課題として提出されたレポートが他の学生が取り組んでいた物の丸写しだった事が判明したり、サークル内での飲み会とかの活動内で起こる軽率な行動が原因で、大学上層部にとんでもない迷惑がかかっていたりと、右から左に流し聞きするには苦しすぎる問題が多いのもまた事実だ。
それを踏まえた上での先の条件なのだが、まあ……大学に入りたて、と言うより高校から順当に進学すれば、まだ未成年である事に変わりは無いので、その可能性は低いんじゃないかとは思っているが。
「颯樹の運転で大学に向かうなんて、良い機会に巡り会えましたね」
「なら良かった。ただ、免許を取得して間も無いから、そこまで自信を持ってる訳じゃないんだけどね……っと、行くよ。千歌」
「はい。……エスコート、よろしくお願いしますね」
千歌から飛び出たその発言に、思わず頬が紅潮してしまう場面こそあったが、僕たちは車に乗り込んで、自分たちの通う大学へと足を進める事にした(その道中で……千歌も車の免許が欲しいと言われた時は、あまりにも急過ぎて目を丸くしてしまったのだが)。
「大学生活初日……どうなるかと思いましたが、先ずは一安心ですね」
「そうだね。まあ、あの荒波は暫く懲り懲りだけど」
「そうですね……何故私にはサークルの勧誘だけで無く、色眼鏡まで寄せられるのか……理解できません」
自宅を出発してから数時間後……僕と千歌は、大学の中にあるカフェスペースで羽を伸ばしていた。大学に着いた時はまだ問題無かったのだが、入学式とその後のオリエンテーションと進んで行くと、まさかまさかの驚く事態に遭遇してしまった。
やれファンだから握手して欲しいとか、やれ放課後時間があったら話がしたいだとか……普通に考えて浮かれ過ぎだ。講師の先生(名を後に夜蛾と名乗っていた)が止めてくれなければ、軽く初日でグロッキー状態になりかけた所だ。
それに加えてサークル等への勧誘もあったので、本当に初日から一苦労だったのだ。カリキュラムの履修登録等は僕も千歌も同じ文学部なのでそこまで変わりは無かったのだが、それ以上に周りからのヤジ等が少し目障りに感じたのは正直痛い。
「……とりあえず、千歌は僕と同じ時間割で動くの?」
「はい。ここまで共に来たのですから、これからもお供させて下さい。それに……颯樹の今後も心配ですし」
「うっ、それは耳が痛いので言わないでくれると……」
「事実ではありませんか? まだ私はあの時の返事を返して貰っていないんですから、それが聞けるまではしつこく付き纏いますからね」
「か、勘弁してくれ……」
……ほんと、どうしてこうなったかなぁ……。
そんな風に天を仰ぎ見ていると、何処からか軽快な音楽が流れ始めた。出処を確認してみたところ……僕のポケットからだったので、そこに手を入れて見てみると、スマホから新着の通知が届いているとの知らせが来ていた。
「颯樹、用事ですか?」
「ん、あぁ……すまない、千歌。どうやらそうらしい」
「そうですか、残念です。今後の事について少しゆっくりとお茶をしながら話したかったのですが、またの機会にですね」
「そうだね。……場所は……RiNGか」
千歌からの誘いにそう答えた後、僕はスマホに届いたメッセージを確認した。そこにはこう書かれていた。
『お疲れ様です、先輩。ソロでのお仕事が先程終わりましたので、先にRiNGで練習しようと思います。もし良かったら来て頂けると嬉しいです』
そんな事務的な文面と共に、自らの居る場所を示す写真が添付されていた。この時間帯だと花咲川では入学式が終わって、各々下校している頃だと思うが……彼女の場合は、少し物足りなかったのだと伺える。
そのメッセージに軽く返答を返して、僕は現在座っている椅子を引いてその場から立ち上がった。
「行くんですか?」
「もちろん。RiNGまでは難無く行けても、その後が大変だったりするからね。特に初華の場合は」
「……sumimiとしても活動してるから、でしたね。分かりました。私も行きます。男女二人っきりと言うのは気まずいものがあるでしょうし」
「え、千歌。それはそれで良いけど、千歌の方は問題な『それで構いませんよね、颯樹?』……オネガイシマス」
……最近はこんなやり取りがしょっちゅうだ。
僕としてはそれなりにやってるつもりだけど、どうしても千歌から見ればあまり信用されていないらしい。彼女としては、僕の周囲に群がる自分以外の女性を快く思っていない、と言うのが本音だろうが、此方としては気にし過ぎじゃないかな……と思っていたりする。
ただ、それを迂闊に口に出せば先程みたいになりかねないので、僕は黙って受け入れるしか無いのが現状だ。なんかヒモみたいで少しモヤッとするんだけど……まあ、彼女が気にしてないなら良いのかな。
そんな事を思いながら、僕は千歌を連れて大学の校舎を出て駐車場に向かい、停めてあった車に乗り込んでRiNGへと車を走らせる事にしたのだった。
「……いつ見ても、ここがライブハウスだと言うのには心底驚かされます」
「あはは……まあ、言ってやらないでよ」
「……そうですね」
大学から車を走らせてから暫くした頃、僕たちは目的地であるRiNGへと辿り着いた。場所としてはキャンパス通りの突き当たりに位置していて、一目見ただけでその存在感を強く感じられる所だ。
その気になる中はと言うと、今までお世話になっていたCiRCLEと同じ様にライブハウスとしての側面を持ってたり、その傍らにカフェがあるのは勿論の事……スキマ時間を有効活用できる様にとの計らいなのか、雑貨店や映画館などのショッピングモールで見られそうな物が併設されていた。
最初ここに来た時は、本当にライブハウスなのかと一瞬自分の居る場所を誤認してしまう程だったのをよく覚えている。
「あっ、こんにちは。颯樹先輩、千歌先輩」
「お疲れ様、沙綾」
「山吹さん、こんにちは。今日は貴女がシフトに充てられている日でしたか」
「はい。この場には居ませんけど、今日は私の他に香澄も居ますよ」
僕と千歌を見掛けた、茶色の髪を後ろでポニーテールにした少女……Poppin'Partyのドラム担当で[発酵少女]の二つ名を持つ存在──
彼女の実家は『やまぶきベーカリー』と言うパン屋を経営しており、高校時代の時にはかなりの頻度でお世話になった経験がある。それも相俟って僕たちも顔を覚えられたし、もっと言うならバンドの事や学業の事などで相談を受ける事も散見されていた。
そんな沙綾なのだが、つい3ヶ月程前に進路の事で悩んでいた際、父親からの後押しとバンドメンバーとの今後を受け、大学進学を視野に入れているとの事らしい。やはり実家を継がなきゃと言う責任感はあったものの、本人の中では『ポピパのみんなと一緒に大学に行きたい』と言う考えが強かった様で。
「あ、そうだ。えーっと……」
「聞いてますよ。三角 初華さんですよね? 今なら6番スタジオで練習していますね」
「おっ、流石沙綾。話が分かる」
「お褒めに預かり光栄です。案内しましょうか?」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
沙綾の先導を受けて、僕と千歌は初華の居る6番スタジオの方へ向かった。そうして暫く進むと、少しずつそのスタジオが何番かを示す札が見えて来た。
「……着きました、ここです」
「ここがそうなんですね?」
「はい。それじゃあ、私は持ち場に戻ってますので何かあったらお声掛けください」
「ありがとう沙綾、恩に着る」
僕は沙綾にお礼を伝えて、千歌と一緒にスタジオの中へと入って行った。勿論練習している真っ最中であろう人物の、入室許可はキチンと取ってだが。中に入るとそこにあった光景は。
「あ、先輩。お疲れ様です」
「お疲れ様、初華。見た感じ……もう帰りみたいだけど」
「はい。先輩が来る前にある程度仕上がったので、続きは自宅に帰ってからにしようと思ってたんです」
そう言って、アンプとギターを繋ぐ為のコードを纏めているのが……ここには居ない
そんな彼女はと言うと、ごく自然な流れでコードを纏めて輪ゴムで結わえた後、此方の方へと近寄って来た。ギターケースにギターが入ってない事に関しては、ツッコませて貰ったが。
「……それと先輩、其方の女性は何方ですか? いつも来られる時は居なかったはずですけど」
「あ、ああ……紹介がまだだったね。こっちは」
「水澄 千歌です。颯樹の
……お、おいおいおい! こんな所で何を口走っているんですかね千歌さんんんんんっ!? まだあの時の答えを返してない事に不満があるとは言え、そんな事を迂闊に口に出すなんて正気の沙汰ですか!?
「……先輩の、彼女さん……ですか」
「はい。見た限りでは私の後輩……学内に居た時に見かけなかったので、恐らく外部生で今年入学したばかりでしょう。そんな人が私の颯樹と一緒に居るなんて、彼に一体何を吹き込んだんですか?」
「それはこっちの台詞です。先程の反応を見る限りでは、先輩ですらその事は知らないと言った様子ですが。それに……先輩と一緒に来たと言う事は、その関係者のはず。ですが私は貴女がここに来るなんて話は一言も聞いていません……もう一度聞きます、貴女は先輩とどう言う関係なんですか?」
千歌がポロッと言い放った爆弾発言を火種に、初華と千歌の間で言い争いが始まってしまった。何方も一歩も譲る気は無いらしく、売り言葉に買い言葉と言った具合だ。
初華の今日のスケジュールは、そこまで詰め込まれてる訳では無かったので、後は本人の自由となるのだが……こうなってしまっては、僕がどうにかするしか無い。
「あのさ、二人とも? 喧嘩をするなら他所でやろうか。初華はまだ片付けが残ってるし、千歌は僕に付いて来た身でしょ。どっちが弁えないと行けない立場なのかは、火を見るより明らかだと思うけど」
……この言葉は、恐らく火に油を注いでいるのかもしれないけど、何もしないよりはずっとマシだ。さて、後はこれがどう働くかに拠るのだが……。
「……そうですね、私とした事が」
「……後でお礼を言っていて下さいね、水澄先輩。颯樹先輩が慈悲深い人で助かりました」
「なん、ですって……?」
「ストーップ!!!! 言い争いはそこまでだ!」
初華の発言で更に火が付いたのか、千歌が食って掛かろうとしたが、そこは空かさず止めさせてもらった。初華も言い過ぎな部分はあったけど、今回は全体的に千歌が悪い。そこは確り
そうして彼女の片付けも終わり、三人揃って受付へと戻って来たのだが……未だに千歌と初華は睨み合ったままだ。……二人としては、余程さっきの発言が聞き捨てならなかったらしい。
「……そうだ、千歌。確か今後の事について話したいんじゃなかったの?」
「はい、そのつもりです。ですが、三角さんの事も」
「それも踏まえて話をすれば良い。僕たちは少しカフェでお茶をしてから帰るけど、初華はどうする?」
「……では、私も付き添います。颯樹先輩とお仕事を一緒にしている立場上、関係性や今後の動きについて透明化しておく必要がありますので」
……全くもう、この二人は何処までこの姿勢なのか。
シチュエーションこそ違うけれど、まるであの二人を相手にしている時みたいだ。諌めた回数が回数なだけに、ほぼ連日の様に止めている様な気がしてならないが。
そう思いながらも僕たち三人は、RiNGの中に併設されているカフェの方へと足を進める事になった。……だが、この行動がきっかけでまた新しい災難の数々へと身を投じる事になってしまうのは、また別の話だ。
今回はここまでです。如何でしたか?
次の更新ができるまで、今暫くお待ち下さい。また更新可能圏内まで執筆が完了致しましたら、X(旧Twitter)のポストにてお知らせしようと思いますので、お楽しみに頂けると幸いです。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。
結びに……本作は既に投稿が行なわれている、なかムーさんの執筆作品である「迷子になるか、仮面を着けるか」と設定を共有しております。その為、その作品にて主人公を務めている
獅音くんが主人公を務められている作品は、この下に作品リンクを掲載致しますので、お時間がある方は、是非一度閲覧頂きます様よろしくお願い申し上げます。
それともう一点。
投稿日である本日……1月13日は、TVアニメ「カードファイト!!ヴァンガード
なかムーさんの作品では、レイの誕生日をお祝いする話がこのお話と同時刻に投稿されておりますので、其方も併せてご覧下さい。
長くなりましたが……改めて、今回はここまで。
次回の更新をお楽しみに。
「迷子になるか、仮面を着けるか」
https://syosetu.org/novel/326730/