今回も仮面と彩りの方を投稿して行きたいと思います。話の流れとしては、前回からの続きとなっていますので、まだ見てないよと言う人は前の話を読んで頂けるとわかりやすいかもしれません。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりお楽しみください。
「ほら、反省する」
「「ごめんなさい……」」
「こ、これは徹底的にやりましたね……」
愛音の唐突なる呼び出しから十数分後。僕とそよは完全に伸びきった立希と愛音を摘み上げながら、冷えた視線と一緒に二人の謝罪を聞いていた。それを見た獅音は完全に空いた口が塞がらなくなり……燈は燈で未だに摘まれている友人を心配したのか、彼女のフォローに回っていた。
「待ちくたびれた。バンドやろ」
「あのですね楽奈さん、5人中3人がそんな状況じゃないのに何言ってんですか……ってもう準備出来てるし」
「ほら楽奈ちゃん。練習するのは良いけど、愛音ちゃんと立希ちゃんが立ち直ってからだよ」
「わかった」
先程
ちなみに、この言い方を現在進行形でしている人が居るには居るのだが……。今現在、僕に摘み上げられていて気を失っている所だ。
「あ、颯樹さんは知らなかったよね。私たちMyGO!!!!!のギター担当で
「なるほどね……あれ? さっき入って来た時は、ギターが二つ見えたけどもう一人は?」
「あ、それは……」
「わ、私は……ボーカル一本だから……。ギターは、あのちゃんにお願いしてるんです」
……なるほどね、そう言う理由が。
そしてもう一人の少女──少し暗めの灰色の髪をショートヘアにして、羽丘学園の夏服を着ている……
通話越しでは愛音が真面目に練習しない事や、楽奈が練習開始時間より大幅に遅れて来た事等が聞かれていたが……果たして、その実力は如何に。そしてそれから数分後。
「……へぇ、それなりに出来るんだね」
「ど、どう……でしたか?」
「燈の歌は誰にも負けない。分かり切ってる事だから」
「椎名さん、相変わらずのすごい自信……」
「なるほどね。確かに元バンド経験者だったり、常日頃から楽器を触っているメンバーが集まっているだけあって、技術力は大したものだ」
僕の告げた言葉にホッと胸を撫で下ろす者が居たり、さも当然と言いたそうに鋭い目付きは変わらずな人物も居たが……まあ、一先ずは最低ラインはクリアかな。
「だけど。技術力が大した物でも、それに向き合う態度が伴わなければ話にならない。特にギター二人」
「うげっ」
「なに?」
「キミら二人は、心の何処かで投げやりになってしまう癖があるのかな。楽奈はまだしも、愛音……お前に至っては論外だ」
その言葉を聞いた途端、愛音の表情がかなり曇った様な姿を見せ……心当たりがあると思しき立希とそよは、至極当然の評価だと無言で頷いていた。このバンドを結成するに至った発端がこんな調子では、最初が良くても後から地獄の道を進む事になるやも分からなかったりする。
それくらい今のガールズバンド全体を取り巻く環境下は激しさを増していて、少しサボっただけで実力の差を痛感させられる事など日常茶飯事だ。
「各々の課題は自分たち自身で把握出来るだろう。でも、一番気をつけるべきなのは一度言われた事を直して改善に努めようともせず、今のままの自分に胡座をかいてしまう事に他ならない」
「さっきーしつもーん。じゃあそれを治す為にどうしたらいいんですか〜?」
「……愛音。キミはもう少し考えてから物を言う様に……まあ、早い話を言うと同じ程度の練習メニューで、それを実施する日数を増やして自らの土台を固める事が先決。これは何に対しても同じ事だ」
……よし、獅音はメモしてるね。続きだ。
「己の実力を過信する者に明日は無い。ガールズバンド戦国時代を生き抜きたいと本気で願うなら、怠けずサボらず練習に励む事。演奏技術はそれなりにあるんだ……出来ない事じゃないはずだ」
『……』
「そよは薄々気付いてるよね?」
「……そうですね」
「それと」
僕がそこまで言った後、何処かから欠伸をする様な声が聞こえて来た。近くに居た獅音がしたのなら、横から脇腹を軽く突くなどして対応出来たのだが……その本人は大丈夫だし、何だったら僕だったとしても我慢出来ない程じゃないので論外になる。
そう考えると、MyGO!!!!!のメンバー内から出た事になるけれど……。あっ。
「立希」
「……何」
「昨夜何してたの?」
「は? 何でそれをお前に「良いから言え」……作曲」
だいたい思考が読めて来た。立希はバンドの事になるとかなり熱が入り過ぎてしまう質らしいな……それに、一緒に参加している燈を常に気にかける程だ、自分の納得が行くまでとことん突き詰める性格だと見えるが。
それにその狂犬具合だと、どうやらこれは末期症状一歩手前まで来て居そうな物だが……本人にとっては何処吹く風と言った所か。
「遅くまで作業する事全体を咎める訳じゃないが、充分な休養を取る事も大事な事だ」
「それが何?」
「立希ちゃん、冷静になって。それに先輩」
「関係無い。突然私たちの前に現れて、そしてそこに
「りっきーさー、それは幾ら何でも」
「愛音は黙ってて」
……なるほど。これ以上の話し合いは無理とみた。
「わかった。じゃあもう僕は何も言わないし、誰かから呼ばれたとてここにも来ない。聞く気が無い人の言葉を聞くのは疲れる」
「あ、あの……私、は……」
「燈は「口出しすんな、部外者。黙ってろ」……」
……あー、もうこれは……言っても良さげ?
「!?」
『!?!?!?!?!?!?!?』
僕の口調が変化した事に、先程まで聞く側に回っていたそよや獅音は勿論……指導を受けていた愛音ですら、その身を震わせていた。それはあの楽奈も同じだった様で……いつもならここで雰囲気ぶち壊し発言をするみたいなのだが、それが出て来ていなかった。
「さっきから
「そ、それは……」
「それとも何か? メンバー全員ズタボロにするくらい、スパルタな練習メニュー組んだらやんのか? 大学生基準でメニュー作成をすると、お前らの体幹や基礎体力に演奏技術は格段に向上するだろうが……暫くは筋肉痛が平常運転で、寝る間も惜しんで自主練に励んで貰うけどそれでも良いってのか、あぁ!?」
先程立希にぶつけられた怒りを返す様に、僕が自分の気持ちを全部ぶちまけたのだが……全員が唖然としていて、燈に至ってはもう泣きかけるかどうかの寸前まで来ていた。
ここまでの発言を聞いても尚、改善の兆しが見えない様なら強硬策も……。そう考えていたその時だった。
「……すみません、でした」
「あ?」
「……生意気な口を聞いて、すみません、でした……」
僕の言い放った言葉が深々と突き刺さったのか……心底悔しそうな表情で、立希が僕に向かって頭を下げて来た。その発言もついさっきまでの威勢が無く……まるで玩具を取り上げられた子供が、泣いて許しを乞うかの様だった。
心の底では今言われた言葉を認めたくないのか、両手が握り拳になっていたが……本人の表情とは全く合わない物だ。
「……今日はここで各自散開。今回指摘した所を徹底的に改善して貰う。出来るまで何度でもだ。少しでもサボろうかなとか考えるな、自分に厳しくあれ。以上」
『あ、ありがとう……ございました……』
僕がそう言ってスタジオを後にしようとした時……後ろから誰か駆け寄って来た。
「颯樹さん」
「……そよか。どうした?」
「立希ちゃんの事は、本当にすみません。彼女……前のバンドでもああで。頑なに自分の意見を曲げようとしないし、そのくせ燈ちゃんにはいつも甘やかす所があって……」
そよから言われた言葉で、僕の胸の中でストンと腑に落ちる感覚があった。さっきの発言は彼女の素に拠る所が大きいのだろうが……それを考慮したとしても、少し異常なくらいだ。僕の中ではどうしても不自然だと思わざるを得なかったのが事実だ。
「颯樹さん、もし……其方さえ良ければ、たまに話を聞いて貰えませんか? 見ての通り私たちは、まだまだ駆け出しで足並みもぎこちないし……いつ何の拍子で大事になるか、分からないので」
「そよが良いなら、僕は請け負うよ。でも、立希が何と言うかにも拠るんじゃない?」
「立希ちゃんが止めようとしたら、私が無理矢理にでも押し通します。こうなった原因は、全部私たちにあるから」
……なるほどね。そこまで考えてあるなら、良いか。
「わかった。とりあえず……今日は家まで送るよ。一応獅音も一緒に乗せて行くけど……どうする?」
「大丈夫です。最近は何かと物騒だって聞くし、女の子二人で帰るよりは男の人が近くに居てくれると安心だから」
「……そっか。じゃあ帰り支度しよっか」
そう話して、僕とそよは獅音たちの待つスタジオに戻って行った。途中で愛音から囃し立てられたが、そこは何とか二人で口裏を合わせつつ乗り切る事が出来た。
RiNGのスタジオを出て数分後、僕は颯樹さんが運転する車に乗っていた。僕や今運転席にいる颯樹さんの他にも、後部座席には愛音さんとそよさんも同乗していた。
車内は先程の颯樹さんの事もあり気まずくなったのか、終始無言であった。
「そういえば獅音くんは何故了承してくれたの? 君が了承する理由なんて無いんだけど?」
……と、この沈黙を打ち破ったのが、意外にもそよさんであった。しかしそよさんは僕に対して警戒しているのか、声のトーンは低めになっているのがわかる。あと僕は助手席にいるから後部座席の様子を窺う事は後ろを振り向くかルームミラー越しで見ないかぎり出来ないけど、僕に睨みつけるように見ているのはわかる。
「……一応、愛音さんや燈さんとは同じクラスだよ。呼び出した張本人の愛音さんに後日色々と追い回される未来が見えたから行くしかなかったんだよ。行きたくなかったけど」
そうだ。それが僕の正直な気持ちだ。僕としては何故僕が誘われるのか理解できないし、付き合ってあげる義理もない。第一、僕と椎名さんは仲が悪いのは愛音さんだって理解してるじゃないか。一応僕は
「えー、私がそういう風に見える?」
「見えます」
どの口が言ってるんですか? 大体、貴女MyGO!!!!!になる前のデビューライブの後に祥子ちゃんのクラスに押しかけたじゃないですか。まあ僕は行かなかったけど(此処だけの話、その後祥子ちゃんに軽く追及されたのはまた別の話だけど)。
「……3人とも、少し五月蝿い」
その時颯樹さんが割り込む様に口を挟んできた。しかも先程の事や運転してる最中だからか、少し機嫌が悪いようにも見えてくる。
「そよ、気になるのは構わないが少しは本人の気持ちも理解してやれ。それと獅音、正直に話すのを咎める気はない。けど、多少オブラートに包め」
「……分かりました」
それに続いてそよさんと僕に色々と先程の事のダメな所を指摘してきた。颯樹さんの言っている事は至極
そしてその後は、愛音さん、そよさん……と自宅前まで降ろしていって、遂に僕の自宅付近まで到着した。
「それでは僕は此処で……颯樹さん、おやすみなさい」
「おやすみ、獅音」
僕はそう言って車から降りようとした……が。
「獅音、先程の様に愛音や立希が何か言ってきたら、僕を頼って良い。多少の相談は乗る」
しかし、車に降りる前に颯樹さんから激励……とまではいかなくても、彼なりのフォローが返ってきた。なるほど、この人は怒る時は怒る、優しく手を差し伸べる時はそうする……普段はそんな人だというのが改めて認識出来る。
「……分かりました。それでは」
僕はそう言って車から降りた。降りて暫くすると車は前に発進していった。その時、颯樹さんは運転席の窓を少し開けて手を出すと、軽く手を振った。それを見た僕も軽く手を振って颯樹さんの車が見えなくなるまで見送った。
そして颯樹さんの車が見えなくなるのを確認すると、僕は自宅の方向に踵を返して家に帰るのだった。
「……今日一日だけで、何て勢いで話が進むんだよ。少し頭が痛くなりそうだ」
獅音たちを自宅に送り届けた後、僕は自分の家へと帰宅して玄関の扉を閉めた後に……少し扉を背に
だが、その後に経験した出来事が、今も僕の中で悩みの種となっている。あの時は自分も少し怒り過ぎたとは言えど、彼女の歯に着せぬ発言に堪忍袋の緒が切れたのもまた事実だった。
そしてそよからの提案……。
大学生になってから数ヶ月しか経ってないと言うのに、これは一体どう言う風の吹き回しなのだろうかと疑いたくなってしまう程だ。そよに関してはまだ話し合いも可能なので、彼女とはバンド間を繋ぐ良い橋渡し役になり得るが……立希に関して言えば、ほぼ論外だ。
「……さて、どうしたものか……ん?」
そう考えあぐねてた所に、スマホの軽快な着信音が静寂を打ち破る様に鳴り響いた。ディスプレイには
「……はい」
『夜分遅くに申し訳ありません、颯樹さん。ほんの少しで構いませんが、お話したい事がありましたの。……お時間の方は宜しいですか?』
「祥子か。良いよ。今帰宅したばかりだから、少し電気点けよっか」
『いえ、構いませんわ。このまま聞いて下さいませ』
祥子からの言葉を受けて、僕は先程まで凭れていた扉に再び背を預け、彼女の要求を聞く事にした。
『先ずは……獅音から聞きましたわ。元
「構わない。あれは彼女の自業自得だ」
『……その通りですわね。次に。改めてにはなりますが、私たちの仲間として参加して頂ける事……心より感謝しています。これからどうぞ、末永くよろしくお願い致しますわ』
……やはり、よく出来た少女だ。
目上の人に対しての態度や、普段の立ち振る舞いや言葉遣いなど……何処を切り取っても非の打ち所が無い。この様な立派な少女を娘として育てた両親は、さぞ鼻が高い事だろう。
……僕のクソ親父は彼女の両親を見倣うべきだ。
まあ、それは今となっては叶わぬ願いだが。
「此方こそよろしく頼むよ、末永くね」
『はい♪ ……それと、最後に。貴方の事を見込んで……私から個人的にお願いがあるのですわ』
「……どしたの?」
祥子からそう言われ、僕は彼女が次に続ける言葉を待つ。
……そして、次の瞬間……祥子が言い放った言葉は。
「……え?」
『初華はとても優しく、誰かの事を思いやれる健気で明るい子です。彼女ならば、貴方の進み行く道のお手伝いをしてくれるはずですわ』
「……そうか。わかった、心に刻むよ」
『その言葉を信じていますわ。……では、貴方にこの言葉を送ります』
そう言われて、僕は祥子からの言葉を聞く事になった。
『……ようこそ、Ave Mujicaの世界へ。その手腕で、私たちを導いて下さいませ……ヴァニタス』
……リーダー直々のその言葉。
それに応えねば、ここまでしてくれた彼女に僕は顔向け出来ないだろう。
僕は一息落ち着けて、祥子に答えを告げた。
「仰せのままに、
『ふふっ、これは私と貴方だけ……二人で交わす、云わば盟約ですわ。どうか、貴方のこれからに……祝福あれ』
その言葉と共に、祥子は通話を終えて行った。そして僕の周囲は再び静寂に包まれた。……さて、やるべき事を少しずつ明確にしておかないとね。
そう考えた僕は少し遅めの夕食を済ませつつ、自らの今後についての確認をしながら一夜を明かして行った。その後に花音から電話をかけられる場面こそあったが、彼女には安心する様に言い聞かせる事となったのだった。
今回はここまでです。如何でしたか?
次会の更新日は未定ですが、更新の目処が立ち次第Xにてポストしようと思いますので、その旨の掲載をお待ちくださいます様お願い申し上げます。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。