仮面と彩りの狂騒曲   作:咲野 皐月

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 皆様、おはこんばんにちは。咲野 皐月です。

 今日も今日とて、仮面と彩りの方を更新していきたいと思います。そして次回の更新は本作では無く、また別の作品での更新を予定しておりますので、お知らせをお待ち下さいます様お願い申し上げます。


 それでは、本編スタートです。

 最後までごゆっくりお楽しみください。


EPISODE13

「……負けたんだよね、私たち」

 

 

 Ave Mujicaとの対バンライブを終えて、数日が経ったある日の事。私は自宅にある自分の部屋で机に向かい、痛烈なる敗北を喫したあの瞬間を思い出していた。先輩として格の違いを見せないと行けなかったし、何より彼をパスパレのメンバーとして存続させる為にも……絶対に負ける事など許されなかった

 

 

 でも……現実は、違った。

 

 ライブの行なわれた数十分後に電光掲示板にて発表された得票数は、私たちの予想を大きく覆す異様な光景だった。私たちが現在に至るまで積み上げて来た努力の数々が……真っ向から破壊された様な気分だ。

 

 

「……何が、ダメだったんだろう……。私たち、颯樹くんに頼り過ぎって思ってなかったのに……。寧ろ、颯樹くんは私たちパスパレの正式な6人目のメンバーだと思っていたのにな……」

 

 

 思えば思う程、あの時の情景が呼び起こされる。

 

 私たちの実力が……結成したばかりの後輩に、軽々と抜かされる様な微々たるモノだった事、私たちが負けた所為で……颯樹くんがパスパレを脱退する羽目になった事。そして極め付きは、祥子ちゃんからの……あの言葉。

 

 

「私たちの仲間になった時点で、貴女方の知る颯樹さんは死んでいるのですわ」

 

 

 声を上げて否定したかった。そんな事認めたくないと、私たちを嘲笑う者たちに突きつけたかった。……でも、現実はいつだって残酷で。私が今何を思おうとそれは所詮タラレバで、もう叶う事の無い絵空事でしか無いのだと。

 

 

「……私、なんでアイドルやってるんだろ……。あゆみさんみたいなアイドルになる為に、今まで一生懸命努力して……キツかったレッスンも熟して、お仕事だっていっぱいして……ただひたすら、頑張って来たのに……」

 

 

 そんな言葉が、私の口から漏れ出た。

 

 今は自室に居るのでこんな弱音を吐けるが……これを言った場所が事務所だった場合、とんでもない事態だ。でもそれくらい今の私は……何かの拍子で壊れてもおかしくないくらいだった。

 

 

「ナオちゃんからは、暫く安静にする様にって二週間のオフを貰ったけど……わたし、立ち直れるかな……」

 

 

 言い様の無い不安が私の心を塗り潰し、蒼く澄み切った晴れ間のある青空とは対照的に、私の心は更に黒く淀んでいった。もうこうなったら今日はふて寝してしまおうかと思った……その時だった。

 

 

\ピロンッ♪/

 

 

「うへぁぁっ!? な、なんだ〜。スマホの着信かぁ……。誰からだろう?」

 

 

 突如として鳴り響いた着信音に驚き、私は恐る恐るスマホのディスプレイを付けて確認した。するとそこに記されていたのは。

 

 

「……千聖ちゃんからだ」

 

 


 

 

「……遅いわね」

 

 

\カランコロン♪/

 

 

「いらっしゃいませー。何名様ですか?」

「えーっと……」

「あら、来たわね。すみません、私の連れです」

 

 

 カフェのテーブル席に座ってお茶をしてた私は、入って来た客の姿を見るなり、店員さんに届く声で私の同伴者である事を伝えた。それに気づいた入店して来た人物はと言うと、少し遠慮しがちな面こそあったけれど、何でも無い様な表情で私の対面に座った。

 

 

「お冷をお持ち致しますので、少々お待ちください」

「ありがとうございます。……ごめんね、千聖ちゃん。遅くなっちゃった」

「良いのよ、私も丁度話し相手が欲しかったの」

「それなら良かったぁ……。それで、急に私を呼び出してどうしたのっ?」

 

 

 私の心中を知ってか知らずか、彩ちゃんはいつもの表情を崩さずに本題を問うて来た。その瞳は常日頃から見る純粋な物で、心底貴女が羨ましいとすら思えてしまう。私は何かあると常に考え事をしてしまうから、他の誰よりも気を遣われやすい。

 

 でも、貴女は違う。その明るく親しみやすい性格と立ち振る舞いで……見てる人を勇気付けられる、そんな人。

 

 

 ただ……この場においては、その限りじゃない。

 

 

「お待たせしました。お冷になります。ご注文がお決まりでしたら改めてお申し付けくださいませ」

「あっ、ありがとうございます。……それで千聖ちゃん。もう一度聞くけど……何で私を?」

「ごめんなさい、せっかくのオフなのに。実はこの前の対バンライブ……その後の一件に関して、少し話がしたいと思ったの」

「……うん」

 

 

 やっぱり、私の予想通りね。

 

 そんな事を頭の中で考えながらも……私と彩ちゃんはお互いが心の中で考えている事を、本音も込みでぶつけ合った。その傍らに飲み物を頼んで一息つくのは忘れなかったけれど。

 

 

「やっぱり、千聖ちゃんもそう思うんだ」

「……ええ。あんな条件(もの)、お互いに公平な対価じゃないわ。そもそも対バンライブ自体は、賭け事なんて産まれる筈の無い機会……そんな中で颯樹の引き抜きを要求し、あろう事か大差で私たちを負かすなんて。つくづく良い度胸してるわ」

「今からでも間に合うなら、私から祥子ちゃんに」

「いいえ、その必要は無いわ」

 

 

 傍らに置いたポーチからスマホを取り出そうとした彩ちゃんを制止した私は、自分の考えている事を伝えた。これはある意味賭けではあるけれど……颯樹の事をロクに知りもしない者たちにとっては、これ以上無いくらいの良い薬。

 

 

 勝手に(かれ)中身(ほんしょう)をぶち撒け、そこから緩やかに自滅してくれるのならば、私たちとしては願ったり叶ったり。もしそうじゃなくても……自然と彼女たちの方から身を引いてくれると言うなら、私自身で手を降す必要なんて微塵も無い。

 

 ……私たちは人間で、物事を客観的……且つ合理的に考えられる頭脳と知性がある。犬や猫みたいな動物の様に本能で生きている訳では無い。行動の全てに理由があり、それは誰かの手に寄って打ち砕かれる物じゃない。

 

 

狡猾に行くのよ。

彼女たちの(のろい)らしく、人間(ひと)らしくね。

 

 

「……さて、ここに長居してしまうのは、他のお客さんにも良くないわ。行きましょうか」

「う、うんっ。あ、お会計……」

「良いのよ、私の愚痴に付き合ってくれたほんのお礼よ。いつもありがとう、彩ちゃん」

「え、えへへ……」

 

 

 ……本当に眩しくて、心底貴女が羨ましいわ。

 

 私に無い物を貴女はたくさん持ってる。努力も出来て、明るく出来て……そのうえ皆から愛されて。これ以上に貴女は何を望むの? できる事ならば……颯樹の事は、キッパリ諦めて欲しい。私からこれ以上横取りしないで。

 

 

 そんな事を心で思いながら、私たちは注文した商品のお会計を済ませた後にカフェを退出した。せっかくのオフと言う事もあったので、軽くお買い物などもしようかと思ったのだけれど……先ずは颯樹をAve Mujicaから取り返すのが先。

 

 

「ねぇ、彩ちゃん」

「なぁに?」

「電話で伝えてた通り……デッキは持って来たわね?」

「うんっ、ここにあるよ♪」

 

 

 本当によく出来た娘。待ち合わせの時間には遅れそうになるのが通例だけど、そう言う事に関してはドンピシャで合わせてくるのね……そんな彼女が颯樹と結ばれたらどれだけ幸せか、なんて考えちゃう私は、もう参っちゃってるのね。

 

 

 ……認識を改めなさい、白鷺千聖。

 

 私の横に居る存在は……いつか、必ず踏み越えなければならない存在でしか無いの。その為にできる事は全てやるのよ、そう……全てね。

 

 

** * **

 

 

「いらっしゃいませー」

「うわぁ〜、人がいっぱい……」

「出来るだけ滞在時間を短めにしたいから、要件は早めに済ませるわよ」

 

 

 そう言って私たちが次に訪れたのは、カードショップ。

 

 

 颯樹からのティーチングを受けて、それなりには出来る様になったけれど……まだまだ改善の余地があるのが現状。特に彩ちゃんに関して言うなら、少し細かいケアレスミスが手付かずになってしまってるのが痛い所。

 

 その克服の為にも、こう言った数少ないオフの機会を使って特訓しなくちゃ。

 

 

 ……そうと決まれば。

 

 

「すみません、少し良いですか?」

「はい、何かお探しでしょうか」

「このお店に……ヴァンガードの最新弾が箱単位で入荷していますか?」

「最新弾……はい、ございますよ。何箱ご希望ですか?」

「そうですね……じゃあ」

 

 

 そう言って私は店員さんとのやり取りを終え、目的の商品をカード一括払いで購入を済ませ……彩ちゃんを連れてお店を退出する事にした。万が一に備えて変装もしていたけど、店内に滞在していた時間が短かったのもあり、何とか最悪の事態は免れる事が出来たのだった。

 

 


 

 

「今は花音が外出しているけど……好きに寛いで貰って構わないわよ。どうぞ」

「お邪魔しま〜す」

 

 

 千聖ちゃんに呼び出された私は、カフェでのティータイムとカードショップでのお買い物を済ませて、千聖ちゃんと花音ちゃんがルームシェアをしているお部屋へとお邪魔する事になった。

 

 何でも今日と明日は花音ちゃんが居なくて、千聖ちゃんだけがここに居る事になるみたいなんだけど……なんでだろう。花音ちゃんが一人でお出かけって言う線は、学生時代に見たあの光景を元にするなら難しそうだけど。

 

 

「さて、デッキケースを出して貰えるかしら」

「うん」

 

 

 そう言われて千聖ちゃんに促されるまま……私は自分が家から持って来たデッキケースを、静かにテーブルに置いた。今現在作れているのはこの一つだけで、他はおちおち時間が無くて組み替えるとかは出来てないんだけど……何をする気なんだろう。

 

 

「じゃあ……買って来た物を見せるわね」

「うん。……あれ、それってもしかして?」

「あら、彩ちゃんも知っていたのかしら?」

 

 

 袋の中に入っていた箱を少し見た瞬間、私の中で何かが思い起こされる感覚があった。……それって確か、ココ最近CMとかでよく見てる……。

 

 

「……あぁっ! やっぱり【運命大戦】のBOXだ!」

「御明答。颯樹から教えて貰って居ながら、ここ最近は何も出来ていなかったでしょう? またいつあるか分からないけど……その関連のお仕事に向けて、それなりの状態に仕上げようと思ったの」

「そうなんだぁ!」

 

 

 その箱には新シリーズに移行したアニメの主人公と、そのキャラが使うエースのユニットが映っていて……パックの名前も服の色に合わせて青と赤の配色でデザインされていた。

 

 そしてそんな箱のシュリンクを、慣れた手付きで開けた千聖ちゃんは、これと同じ事をあと2箱分繰り返して……中から幾つかパックを取って私の方に置いて来た。そして綺麗に半分になる様に取り終えると、開封用の(はさみ)を手渡して来た。

 

 

「開封の時に開けにくかったら使って良いわよ」

「ありがとう、千聖ちゃん。遠慮無く使わせて貰うね」

 

 

 私は千聖ちゃんにお礼を言って鋏を受け取り、自分の取り分であるパックを一つずつ丁寧に開封して行く事にした。その傍らでは千聖ちゃんも同じ様にしていたので……私も無心で剥き続ける事に集中する事にした。

 

 

** * **

 

 

「ふぅ……。1人で24パックも剥くなんて経験した事が無いから、最後までドッキドキだったよぉ……」

「お疲れ様。こう見てると、かなり上々じゃないかしら」

「へぇ……」

 

 

 時間にして十数分しか経ってないけど、パックの開封を終えた私はかなり息があがっていた。それに対して千聖ちゃんは、何処吹く風と言った感じで涼しい顔をしていた。その様子は箱買いを何度も経験した事があるからなのか、はたまた颯樹くんへの想いの強さ故の物かは分からなかったけど。

 

 

 先程千聖ちゃんから指示を受けて、カードを色分けしていたけれど……この1つのパックだけで、その纏まりが6つも出来るだなんて私は予想もしてなかった。彼女曰くにはなるけれど……。

 

 

「今回の弾からは、このピンクのマークがある物も通常弾に加わったのよ。だから一箱買えばある程度は揃う様になってるわ」

 

 

 との事らしく。

 

 その指摘を貰った所を中心に見ていると、可愛い女の子ばかりが目に入って来て、どれを使おうか目移りしてしまう程だった。

 

 

「彩ちゃんにはその国家が良さそうね。イメージカラーにも合っているし、それを象徴する主力ユニットも出て来ているなら、組んでも良いと思うわよ」

「ほんとっ!? やったー! ありがとう、千聖ちゃん! 私大切にするねっ!」

「ええ、是非役立てて頂戴。後でスタートデッキの方も渡しておくわね」

 

 

 千聖ちゃんからそんな言葉を受けて、私はさっきまで目を通していたその纏まりをもう一度手に取った。……あれ? 最初は軽く見ていただけだったけど、こんなスキル……あったんだ?

 

 

「ねぇ千聖ちゃん」

「どうかしたのかしら?」

「このクリスレインってユニットなんだけど……【ディヴァインスキル】があるよ?」

「そうよ。この機会だし説明しようかしら」

 

 

 そう言われて私は千聖ちゃんから軽くティーチングを受ける事になった。そうしていると夕方になっていたので、お母さんにお泊まりする旨を伝えた後に……今晩は千聖ちゃんの所にお泊まりさせて貰った。その後は二人でお勉強したり、息抜きと称してファイトもしたり……久しぶりに濃厚な一晩を送る事が出来た。

 

 

「(祥子ちゃん、首を洗って待っててね……。いつか必ず颯樹くんを取り返してみせるからっ!)」




 今回はここまでです。如何でしたか?

 前書きでもお知らせした通り……次の更新は本作では無い別の作品の更新を予定しておりますので、更新通知をお待ち下さいます様お願い致します。


 それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。
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