今回は前回更新分の「新日常はパステルカラーの病みと共に(Rev.)」の前書きにてお伝えしていた通り、仮面と彩りの更新を行いたいと思います。
此方に関してはちょっと多めに制作に使えるネタが溜まっていますので、程良く消化をして行こうかと思っておりますので、どうか長い目で見てくださいませ。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりとお楽しみください。
「……よし、荷物はこんな感じで良いか」
そう軽く口から零しながら、僕は先程纏めていた物の入った鞄を見ていた。冒頭の台詞だけを切り取れば、一体全体何があったのかと問う人が多いと思われる為……この場で軽く経緯も含めて説明させて頂こう。
実は先日、Ave MujicaとPastel*Palettesの対バンライブを執り行ったその日の夜に……花音から電話が掛かって来たのだ。その直前には祥子の電話に対応していたのもあり、少し彼女の着信に応答するのが遅くなってしまったのは申し訳無い所だ。
そんな状況に掛けて来た、花音からの唐突なる電話……その内容はと言うと、簡潔に纏めるとこう言う事らしい。
……との事らしく。
僕としては新しく所属バンドを移籍した旨を事務所に報告したり、それに関連した書類作成などの事務作業に時間を宛てたかったのだが……花音の声が猫撫で声になっていた事から、僕は半ば強制的に参加させられる事となった。
まあ、情報過多な頭をスッキリさせるには良い気分転換にもなるし、彼女との時間は成る可く多く確保しなければならないと言うのもあったので、結局どっちにしろな気はしたのだが。
「ん、誰だろ。はーい!」
突如として聞こえて来たインターホンの音を聴き、僕は荷物を置いたままに、部屋を出た後に階段を降りて来客の対応をする事にした。花音との約束の時間は、余裕を持って9時半と決めていたのだが……今は7時45分なので、出発にはまだ全然余裕がある頃合いだ。
……いや、まさかね。
そんな思いを心の片隅に置きつつも、僕は玄関の扉を開けて応答する。そこに居たのは……。
「あっ、颯樹くんおはよう♪」
「おはよう、花音。今日はかなり早いね」
「えへへっ…♪ 颯樹くんとのお出かけが楽しみだから、朝から張り切って来ちゃった♡」
……全く、嬉しい事を言ってくれるよこの
玄関の扉を開けた先に居たのは、何と花音だった。服装は夏の装いに合わせて、白を基調とした半袖シャツにスカートと言った感じの涼やかな物だったのだが……流石に何点かは突っ込ませて貰おう。
いつも通りの花音ならば、明らかに見る頻度が少ない物が今回は見られているのだ。
「え、えっと……花音?」
「どうしたのっ?」
「先ず一点目。スカート、短くない? 心做しか……高校の時よりも更に顕著な気が」
「好きな人とのデートなんだもん……。もっと可愛い私を見て欲しいなって…♡」
……えぇ、これ……僕じゃなかったら確実に良からぬ間違いが生まれても不思議じゃないですよ花音さん……?
「次に二つ目。えっ、髪留めどうしたの。いつもなら髪の左側をさ、こう……サイドテールにして無いっけ」
「あっ、それはね…?」
僕の零した疑問に答える流れで、花音は此方にくるっと背を向け……自分の後頭部を僕の方に見せて来た。そこには丁寧に編み込まれた髪を留める様に、蝶結びになったリボンが着いていた。
……恐らくこの芸当をやってのける事ができるのは、僕の知る限りでは
「えへへっ、これは……私が自分でやったんだよ♪ 最初にも言ったけど、好きな人とのお出かけなんだから……とびっきり可愛い私を見て欲しくて♪ ……ふぇっ?」
「……可愛すぎる」
「ふぇぇっ!?!?!?!?!?!?」
僕の言葉を聞いた花音は、熱があるのかと疑う様な湯気が沸き立ち、その場で目を回してしまった。その証拠に顔もみるみる真っ赤に染まっていて、余程さっきの言葉が彼女にとってクリーンヒットしたみたいだ。
……てか、待て待て待て!
これから貴女僕と一緒に出かけるんでしょ、どっか行きたい所があるんだよねっ!? こんな所で倒れてちゃ世話ないよっ(自業自得なのに何言ってんだこの阿呆は)!
「花音、とりあえず起きて! 出かける準備が出来てるなら行くよ! 時間は有限!」
「……ほぇ…? うん、そうだねぇ…♪」
「ああああああああ、もうっ! 車を出してあげるから、早く移動するよっ!」
「うん…っ♡」
あーーーーっ! こんな所で時間を潰してしまうのは、僕としても望まないし、このお出かけを計画した本人にも申し訳無さ過ぎて居た堪れないんだが!?
そんな思いを胸に仕舞いつつ、僕は先程まで支度をしていた荷物を自室へ取りに戻り、未だに放心状態の花音を抱きかかえて、駐車スペースに停めてある自分の車へと乗り込んだ(勿論車に傷が付かない様に、扉の開閉は慎重に行ないこそしたが)。
その所為で助手席に花音を座らせる時が、若干強引になってしまった感は否めないのだが……それはまた後に謝ろうと心の中で決める事になったのだった。
「うわぁ〜、綺麗だね〜♪」
「何とか辿り着いた……。夏休み時期には少し早いけど、こんな所があるなんてね」
自宅のある地域を出発して暫くした頃、目的地近くのコインパーキングに着いた僕たちは車を降りて風を浴びていた。梅雨明けが行なわれて間も無い事もあり、少し風が生温いのはちょっとだけ考え物だったのだが、この場所に来れたのはまたと無い好機だろう。
今回車で訪れたこの場所はと言うと……東京から南西方向に一時間と少し移動した所にある、厳しい夏場にはうってつけの地帯であった。と言うのも今回は宿泊も兼ねての外出だったので、近隣に宿泊施設もある場所が前提条件にあったのだが、花音の選んだ場所はまさにそこをドンピシャで選択していた。
……ほんと、何処まで予測されてるのか分からなくなって来たよ。ちーちゃんが二人居るみたいだ。
「それじゃあ、チェックインにはまだ時間があるから……浜辺の方に出て遊んで来る?」
「もちろん、颯樹くんも一緒に来てくれるよね?」
「……いや、良いよ。僕は少し今後の事を考えないといけないから……ってぇ!?」
僕が花音にそう言った瞬間、なんと彼女は人目も気にせずに抱き着いて来た。心做しか少しずつ眼が潤んで来ていて、今にも軽く泣き出してしまいそうだった……いやいや、待て待て待て! こんな所で泣かれると僕が困る! いや、本当に今後がどうなるかわかったもんじゃないって!
「わ、わかった……わかったからっ! 一緒に行く、一緒に行くから泣き止んでくれよ花音っ!?」
「ふふっ、やったぁ♪」
……こ、怖っ!
何でこんな事を平然と出来るんですかね貴女は! 僕が相手だったからまだ良かったものの……他のオトコがこんな事をされたら、確実に貴女襲われてますよ!?
「いやー、良い物が見れましたなー☆」
「い、今井さん……この状況で、それは……っ」
……ん?
「誰だ」
「おっ、気づいた♪ やっほー、颯樹☆ こんな所で会えるなんて奇遇だねー☆」
「ど、どうも……こんにちは……」
「リサちゃんに、燐子、ちゃん…?」
「ちなみに聞くけれど、いつから居たの?」
花音はマズイ物を見られたのか、額からこれでもかと汗が出ていて……対照的に僕の方はと言うと、本気で怒る寸前まで来ていた。まあ、これは仕方無しな所もあるから言いたい事も分かるんだけど……今回は、話だけなら聞こうかな。
そんな僕の思惑を他所に、リサと燐子は先程問われた事に対して答え始めた。
「ん〜、アタシは燐子と一緒にお出かけしてたんだけど、その時丁度颯樹が見えたから、ただその場に加わるのも面白く無いし、どうせなら様子を伺おうと思って♪」
「わ、わたしは……二人のお邪魔になるので、覗き見なんてやめよう、って言ったんですけれど……」
「そう言う事☆ 本当はここら辺を適当に歩いて帰るだけだったから、軽い荷物しか持ってなかったんだけど……こんな所で颯樹に会えるなんて、神様も粋な事するね〜。って、ちょっと!」
なるほどなるほど、これは慈悲は要らないって発言と見ていいのかな。花音や燐子には悪いけど、こればっかりは僕の我慢が限界に達してしまったからね……ここらで一回、身の程を弁えさせても良さそうだ。
「えっ、ちょっ……何すんの? こんな、真っ昼間から鬼怖い顔して何するつもり!?」
「ん? 何もしないけど……ただ、すこーしだけお説教しようと思って☆」
「あっ、そーだ颯樹! ここで会えたのも何かの縁だし、アタシたちもその輪に混ぜてくれないかなっ! そーしてくれたら、今日一日は余計な事は何もしないって誓うからッ!」
「あっ……」
彼女のその最後の言葉を聞いた後、僕はリサにお説教をする事となった。途中で放ったらかしになってしまった二人には、後で何かお詫びをするとして、今はリサへのお説教が先。いつもいつも人の事を弄んで……僕を怒らせたらどうなるか、その身で味わって貰わないとね。
そうしてお説教もひと段落着いて、暫くした頃。
「……うーん、何でいつもいつもこうなるの?」
海で遊ぶ為にと思って道具等のセッティングを済ませ、更衣まで整えた僕の視界には、此方をチラチラと伺っている女性陣の姿だった。たぶん僕がここに居るって事は、ちーちゃんがその隣に居るかもと思って、あんまり近づいては来ないんだろうけど……好奇の視線に晒される身にもなって欲しいよ全く。
ただでさえ不本意とは言え、世間に自分の名も知れ渡ってる頃だろうし……果てにはつい先日の事だけど、祥子から勧誘を受けてる程だ。それを鑑みてのこの始末なら、僕が今回フリーだと分かった時の反動が恐ろしいまである。
頼むから本当に三人とも早く戻って来てくれ……。僕が心の中でそう思っていた、その時だった。
「やっほー、お待たせ☆ ほら、燐子も早く♪」
「わ、わたしはゆっくり其方に行くので……少し、待って貰っても……」
「……ねぇ颯樹くん、あの
此方に勢い良く駆けて来たのは、今し方水着に着替え終えたばかりの三人だった。三人とも各々の個性がよく出ており、贔屓目に見なくても似合っているくらいだ。……と、ここまでで済めばどのくらい良かったのだろうか。
花音……なんかシレッと物騒な事口にしてないっ!?
貴女ってそんなキャラでしたっけ! 今までのイメージが余裕で上下ひっくり返る位にはビックリなんですけど!
「誰なのあの子たち……」
「もしかしてそれ、私たちの事?」
「……最近の子は、少し言葉遣いが乱暴になっているんじゃないのかしら……」
「あぁ、嫌だ嫌だ……」
花音のそんな言葉を聞いたのか、さっきまで入る機会を伺っていた人たちがヒソヒソと何やら話をし始めた。……うん、言いたい事とその気持ちはわかりますけど、それを本人の居る前で言うって相当な勇気ありますよね……。
僕がこの事態をそう結論付けて、対処に動こうとしたその時だった。
「あー、アタシにちょっとご注目〜ッ!」
『?』
「颯樹はアタシの彼氏なのでー、今から彼に手を出そうとしている人たちはぁ〜。諸々遠慮無く警察に通報させていただきまーす☆」
……え? 何言ってんだ、
自分から火に油を注ぐ真似をしてどうする気さね、その後の収集とかその他諸々どないすんねんって話なのよっ!!!!
「それは聞き捨てならないわね、彼が貴女の彼氏だって証拠はあるのかしら?!」
「証拠も何も……颯樹が貴女みたいな人の彼氏だ、と言う理由も無いんじゃないですか?」
「勝手に貴女の様な人の彼氏にされて、彼の気持ちは何とも思わないのですか!?」
「それはあり得ませんし〜、寧ろ颯樹ならOKしてくれますよねー颯樹☆」
うわぁ……何してんだよリサのヤツ……。
さっきの発言で更にイラつかせてるじゃんか……僕の為って思って動いたのは嬉しいけど、それよりもうどうにでもなれの気持ちになってるんですがっ!?
「あー言えばこー言う……だったら、ねっ颯樹」
「えっ、リサどうした……んっ!?」
「「あぁ〜〜〜〜っ!!!!」」
『あっ!!』
やりやがった……とうとうやったよこの女はッ!
こう言う公衆の面前でこんな真似するなんて夢にも思わなかったし、経験するなんて以ての外……ましてや、そんなシチュエーションってギャルゲー主人公のテンプレパターンでしょうが!
そんな事も何のそので、今現在リサから濃厚なキスをされてるけどさ……これ花音からちーちゃんに伝わったら流石に僕の今後が大変になるっ! だから何としてでも穏便に済ませて欲しい所なんですが!?
「(ちょっ、リサ!? いきなりこんな事するって正気!?)」
「(ほら……アタシに合わせて。
「(……これで失敗したら恨むからね)」
彼女からそう耳打ちで言われた僕は、大人しくリサからの口付けを受ける事にした。それは舌が絡んだ濃厚な物で、一度離される瞬間こそあれど……休みも無しに二度目が始まったので、たくさんの人が見てる前で公開処刑となってしまった。
そうしていると……僕とリサの絡みに毒気を完全に抜かれたのか、先程まで野次を飛ばしていた女性陣が何処かへと散り散りに捌けていった。まあ、この手の事に首を突っ込むとロクな事にならないからね……その判断は正解。
と、思ったんだけど……問題はその先で。
「っ、はぁ……」
「リサ……おまっ」
「アタシ、颯樹が好きだよ。どうしようも無い程に好き。颯樹の為なら何でもしてあげる……だから、颯樹の全部……ちょうだい……?」
そんな言葉を言われた僕は、リサに為す術無く陥落してしまうのか……と思われた、その時だった。
そう背後から聞こえて来たので、リサは多少イラつきながらも後ろを向いた……が、運の尽きだった。あーあ、これは合掌案件かな。
「ちょっ、助けて颯樹ッ!」
「ごめんねっ、颯樹くん。リサちゃんは私たちが少し借りて行くね?」
「今井さんには、わたしからも……個人的にお説教したいと思っていたので、好都合、ですっ」
「……とりあえず、リサの始末は二人に任せるけど……やるならここでやって。他のオトコから色目使われちゃ堪らないから」
……よし、釘も刺したし問題無いかな。
僕がそう言ったのを皮切りに、リサを真夏の砂浜に正座させての燐子と花音のペアからの有難いお説教が繰り広げられる事になった。それを見た周りの人たちは、何か怖い物を見た様にその場から離れていたのだが……それはまた別の話だ。
あー、怖っ。女って怒らせると本当に怖いよ。
大学生になったと言ってもまだまだ油断は出来ないし、警戒レベルを最大に保っておこうかな。
今回はここまでです。如何でしたか?
次回の更新日は未定となっている本作ですが、更新通知をお待ちくださいます様お願い申し上げます。内容の方を先出ししておきますと、今回のお話の続きとなっておりますので、お楽しみに。
それではまた次回の更新にてお会いしましょう。