仮面と彩りの狂騒曲   作:咲野 皐月

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 皆様、おはこんばんにちは。咲野 皐月です。

 新作を投稿した勢いがかなり良く働き、超特急スピードで二話目が完成致しましたので、一週明けた本日投稿致します。


 それでは、本編スタートです。

 最後までごゆっくりお楽しみ下さいませ。


EPISODE2

「ですから、私は颯樹の事を思って……」

「それを言うなら私もです。先輩には極力負担をかけず、それを前提に置いて身の振る舞い方等は、人一倍注意しないといけない……って、聞いてますか?」

「あ、あぁ……ごめん、考え事してた」

 

 

 初華の個人練習が終わり、少しカフェでお茶でもしようかとして暫くした頃……僕を間に挟んで千歌と初華は、各々の主張を討論し合っていた。別に話し合うのは僕としても構わないが、話題の種が僕関連で尚且つ、それに自分も関与するともなれば……歯止めが効かなくなるのも道理と言う物なのか。

 

 

 まあ、千歌に関しては小学生の時からの付き合いだと言う事もあるので……僕に関しての思いはそれなりに、ってのもまだ分からない訳じゃないが、初華に関して言うなら、一体何処まで見透かしてるのと思えてしまう程だった。

 

 彼女が今通っている花咲川には、つい最近までそこに通学していたと言うのもあり、まだ僕に関しての噂やその手の話が蔓延しているのは百歩譲って分かるのだが……。

 

 

「しっかりして下さいね、先輩。私たちの活動を通していく上で先輩の協力は必要不可欠なんですから」

「……忠告痛み入るよ」

「初華さん、何故私の颯樹を窘めて居るのですか? それは本来私の役目です」

「まだ言いますか。先輩の事を必要としてるのは、貴女だけじゃないんです。貴女の所有物ではないでしょうに」

 

 

 ……さっきからずっとこの調子である。

 

 

 二人とも僕の事を考えてくれているのは、冗談やお世辞を抜きにしてすごく有難いのだが……ここまで来てしまうと、少し煩わしさすら感じる始末だ。それに加え、先程注文をした珈琲や紅茶がもう冷めかけている(僕は二人が言い合ってる間に手早く飲み終えて、珈琲と一緒に頼んだ軽くチーズケーキを食べていた)ので、この熱がどれ程の物だったかは、もうお察しだろう。

 

 

 それに気の所為じゃなければ、数分前からカフェのカウンターで作業をしているであろう沙綾や、初華と同じ制服を着ている少女……後に初華とは同級生、且つクラスメイトと知る──椎名(しいな) 立希(たき)と目が合っている。

 

 前者は関わる機会もそれなりにあったので、まだ何となく事情を話せば分かってくれるかもだが、後者に至っては『一匹狼』と渾名を持つ事もあり、不審な眼で見られるのが関の山だ。

 

 

「あ、あのー、二人とも。そろそろこの辺で討論は」

「えーっと……少し、良いですか?」

「「「?」」」

 

 

 話を聞いていた僕の心中が限界に達し、二人を止めようとしたその時……沙綾から声が掛けられた。いつもの接客を、と言うのもあるだろうが、僕と同じ様に我慢の限界に来ていたのもあるかもしれない。

 

 

「どしたの、沙綾」

「あ、えっと……ついさっき来られたお客さんを案内しようと思ったんですけど、此方に相席する形を取ろうかと思っているんですが……大丈夫ですか?」

「なるほど、そう言う事ね。それなら……」

 

 

 沙綾が次に投げ掛ける言葉を代弁する様に、僕は千歌と初華に先程彼女から話された提案を持ち掛けた。二人の心の内はまだ穏やかでは無かったものの、誰かと相席をすると言う事に関しては特に問題は無い様で、沙綾にその旨の返答を返していた。

 

 そうすると少しして、僕たちの所へ沙綾と一緒に誰かが歩いて来た。服装から見ると……確かあの制服は、ましろ達と同じだったはずだ。と言う事は。

 

 

「此方のお席になります」

「ありがとうございます」

「では、お冷をお持ちしますので……ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」

 

 

 飲食店でよく聞くお決まりの言葉を告げた沙綾は、自分の仕事をするべく奥へと戻って行った。そして先程案内をされた人物は千歌の横に着席し、現在自分が肩から提げているバッグを降ろして楽な体制をしていた。

 

 

 その人は茶髪を腰まで降ろした長髪で、軽くウェーブがかけられていて……眼は水色を限り無く透明に近付けた様な色合いだった。……傍から見た第一印象を述べるなら品行方正で容姿端麗のお嬢様と言った所か。

 

 少しすると自分が観察されている事に気付いたのか、此方に視線を向けて笑顔で会釈をして来た。……あ、これ僕以外の人なら落ちてるヤツだ。

 

 

「ごめんなさい、お話中に割り込む形になってしまって」

「んや、全然構わないよ。口論でヒートアップしてる二人の頭を冷やすには良い薬だった」

「一体この始末になったのは誰のせいだと「実際そうだったでしょ、僕に気苦労をかけさせないでくれるかな」……出過ぎた真似をした事、どうかお許しください」

「ふふっ、私は気にしてませんからお気になさらず」

 

 

 千歌が僕に対して苦言を呈そうとしたので、僕は即座に黙らせる事にした。それを見た女性からは、苦笑と一緒に気にしてない旨の言葉を貰った為、その場が一気に居た堪れない空気感となってしまった。

 

 

「……っと、自己紹介がまだだったね。僕は「Pastel*Palettes(パステルパレット)のマネージャーの、盛谷(もりや) 颯樹(さつき)さん……ですよね。お話はよく聞いてますよ」」

 

 

 僕が気を取り直して自己紹介をしようとした所、女性の方から横槍を入れられた。話を聞いてみると、どうやら彼女の通っている学校(月ノ森)でも、話はそれなりに広まっていたらしい。

 

 ……まあ若手女優兼アイドルと常に行動を共にし、そのうえでただならぬ関係性が匂わされてるともなれば、知らぬ存ぜぬで通すのは無理があるのもわかるのだが。

 

 

「私、長崎(ながさき) そよと言います。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。えっと……呼び方の方は、そよで良いのかな?」

「はい。私は特にあだ名で呼ばれても気にしませんので」

 

 

 そんな旨の会話を返して、僕に続いて千歌と初華も自己紹介を終えた。そうしてそよの注文した紅茶も無事に届き、何か話の趣向を変えるべくネタを探していたのだが……。

 

 

「そう言えば、何故颯樹の事を知っていたのです? ただ単に話で聞いただけならば、そこまで詳細は知らないと思いますが」

「そう、ですね。確かに。普通であれば、颯樹さんの事は世間話程度にしか知りません……けど、私もバンドをやっている、と言ったらどうですか?」

 

 

 千歌が僕の事を何故知っていた、と言う件について言及を行なった所……そよの口から思わぬ発言が飛び出した。月ノ森の校風的にそう言うのはあまり敬遠されがちなのかと思ったが、昨年度から関わり始めたましろ達(Morfonica)がそれの最たる例と言えるので、僕的にはそこまで驚きは感じられなかった。

 

 ……あれ、でも京介から人伝に聞いた話だけど、確か今年から理事長先生が新しい人に変わったんじゃなかったっけ? あ、それ考えるとまた一波乱ありそうだな。

 

 

「ちなみに、何と言うバンドに所属を?」

CRYCHIC(クライシック)と言います。その意味は『上品に泣く』なんですけど」

「CRYCHIC……いや、初耳だ」

「私も、聞いた事がありません。ここ最近結成したバンドでしょうか?」

 

 

 そよが発したバンド名に、僕と千歌は揃って首を傾げる事になった。それもそのはず……僕が本格的にガールズバンドに関与し始めた頃にはその名前が無く、実際に出て来たのはましろ達と同じ様な時期だと言うのだ。

 

 でも、Morfonicaに関しては関わりもそれなりにあったから覚えていたとは言え、同じ時期に出て来たCRYCHICの事に関して何も知らないと言うのもおかしな話である。事実、バンドを組んでいるのならライブは最低一度は経験していてもおかしくないはずだ。

 

 

「ねぇ、そよ。もう少しそのバンドについて詳しく」

「CRYCHIC? 解散したけど」

「「えっ!?」」

「立希ちゃん……」

 

 

 僕がそよに詳細を聞こうとした時、途中で入って来た上で爆弾を投下する存在が居た。……確か、立希だったか。鋭い目付きが特徴だってのはわかってたけど。

 

 

「すみません、解散したとはどう言う……」

「言葉通りの意味。CRYCHICはもう無い」

「ちょっと立希ちゃん、失礼だよ。先輩だよ」

「……あぁ、そうだっけ」

 

 

 心底興味の無さそうな声色が若干僕はイラつくものの、立希から告られる言葉を聞く事にした。そよと親しそうに話していたので、同級生でバンドメンバーなのだろう……とはわかるが、流石に今の言い方は誤解を招きかねない物だ。

 

 ……詰まる所、話を纏めるとこんな感じである。

 

 

・CRYCHICは、発起人(リーダー)である豊川(とがわ) 祥子(さきこ)を中心として、メンバーに高松(たかまつ) (ともり)若葉(わかば) (むつみ)と、立希とそよの5人で活動していた

 

・バンド活動を行なっていた時は、バンド練習だけで無く、親睦を深める為にカラオケ等にもみんなで集まって行く程交友関係が良かった(この事を祥子は『運命共同体』と呼称)

 

・しかしファーストライブが終わって少しした頃、諸事情を抱えた祥子がずぶ濡れの状態でスタジオに到着し、メンバー全員に向けてCRYCHIC脱退の旨を伝えた

 

・その時睦はどうかと祥子が問いかけた際……『私、バンドを楽しいって思った事が一度も無い』の発言が聞こえ、解散に至る

 

 

「……これが、CRYCHIC」

「そうか、他のバンドと違って何で名前を聞かないのかと思っていたが、そんな事があったのか」

「土足で踏み入れててなんですけど、これは少し……」

 

 

 先程の立希の発言が、僕たちの心を否応無く傷付けた。

 

 それは事実なのかもしれないが……初めてその事情を聞く立場からすると、あまり聞いて良い物で無いのは確かだ。初華に関しては何処と無く物悲しげな顔になっていたが、自分も同じ様な心境だった為、声を掛けられずに居た。

 

 

「立希ちゃん、CRYCHICはまだ終わって」

「何? 祥子と睦が抜けて、私たちだけでやれる……そんな根拠が何処にあるの。もう終わったんだよ、私たちのバンドは」

「そんな事無い! さきちゃんやむつみちゃんも、心の何処かではバンドを続けたいって思ってたんじゃ」

「……もう良い。あっ、急にこんな事話してすみません。あとはごゆっくり」

 

 

 そう言って立希は、脇目も振らずに自分の持ち場に戻って行った。その光景を見たそよが言いたげな雰囲気だったが、僕が軽く制止して彼女の行動を抑える事にした。

 

 

 その後気まずい空気感になったので、僕は二人をそれぞれの自宅に送り届けた後、スーパーで夕飯の買い物をしながら、自宅への帰路へ着いていた。理由としては、そよのまだ諦めてない表情に反して……立希の見せていた、怒りとも後悔とも取れそうな物言いに顔。

 

 アレを考慮したうえで、彼女たちと関わって行くのは、常人なら殆ど匙を投げそうな物だ。実際僕もその域に来そうではあるが、策が無い訳では無い。

 

 

「……CRYCHICには、まだ何かありそうな気がする。正確には祥子と睦だけどね」

 

 

 普段よりも冷徹になった様な気がする自分の声が、日配品コーナーにボソリと聞こえた。……やめよう、今日だけでこんな呟きは飽きるほど聞いた。今晩は豚丼にして付け合わせに餃子を食べれば、幾分か気分も紛れるだろう。

 

 その為の豚肉も買ったし、少し値は張るけどそれなりに良い餃子も籠に入れた。今だけは気分転換をさせて欲しい……この時の僕は、そんな具合だった。

 

 

 ……そして、お会計を済ませて購入した商品を全て持参したエコバッグに入れて、車を自宅まで走らせた……数分後、家の中で見えた光景は。

 

 

「こんばんは、颯樹くんっ♡」

「……彩」

 

 

 先端が軽くウェーブがかかったピンク色の髪を、肩まで伸ばしたセミロングにした少女……本来ならここに居るはずの無い──丸山(まるやま) (あや)が、額に青筋を浮かべながら両手を腰に当て、まるで仁王立ちをする様に立っていた所だった。

 

 ……あ、すごく良い匂い。と思ったら眼の色変わった、これは久しぶりに詰んだかも。




 今回はここまでです。如何でしたか?

 次回は今回の続きとなりますので、お楽しみにお待ち下さいませ。


 それではまた次回の更新にてお会いしましょう。
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