今日も今日とて狂騒曲……本編を更新していきます。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりとお楽しみください。
「……話はよく分かった。要はスカウト、その旨で間違い無いんだな?」
「はい、間違いありませんわ」
僕は自分の目の前に座る少女……確か獅音と初華の幼馴染で、以前話を聞いた存在──
……ほんと、一つ一つの流れがキレイで見惚れる位だ。
この分だと彼女は相当厳格な家庭で育ち、尚且つ幼少期から傍から見れば窮屈に感じる程の英才教育を受けて来たとわかるな。目的地に着くまでの間に聞いた話だと、CRYCHICではキーボードを担当していて、それはお稽古事でピアノを習っていたからだと言っていたが。
「僕自身、前任の所を完全に解雇された……とは言い難い状況でね。それに加えて、sumimiの事も受け持っている。それらを前提に置いて話をすれば、実力が未知数のバンドに参加すると言うのは大きな賭けと同義だ」
「貴方の前任……なるほど、
そこまで言った後、祥子は僕に合わせた視線を一度も逸らす事無く僕にこんな事を問いかけて来た。
「私たちのバンドならば、貴方の力を十二分に引き出す事が可能です。それに、初華から話は幾らか聞き及んでいます……私も事前に情報は得ていますので、信頼性や将来性も充分。どうでしょう、悪い話では無くってよ?」
祥子から投げかけられた言葉に、僕は少し言葉が詰まる感覚があった。事前に情報は得ていて、初華からも何か聞いて耳に挟んでいるのなら……恐らく書類上の事だけで無く、人間関係やその他諸々に至るまでの情報まで周知している可能性がある。
パスパレに入った原因と言うのはそもそも遡れば、
ただ、それを念頭に置いて今回の勧誘。幾分か急過ぎる気がしないでも無いのだが、僕の下から完全に巣立たせるには良い機会かもしれない(新任でプロデューサーも来たので)。
未だに僕が他の女性と関わりを持つ事を、これでもかと危険視しているあの三人にとっては、こんな判断を僕自身で降したとは夢にも思うまい。それでもこれから関わりを持つ以上、勧誘して来た側の実力等が知りたくなってしまうのは、同じガールズバンドに関わる者の性……と言うのだろうか。
「……確かに、悪い話では無さそうだね。祥子は自らがこうしたいと考えた上で僕を勧誘しに来ているし、それに初華も獅音も納得しているのなら、そう言えるだけの実力も有していると見て良いね」
「……っ、では」
「ただし」
僕は祥子が答えかけた所に待ったをかけて、自らの要求を述べ始める。パスパレやsumimiはある程度実力も持っている……それが実際に証明できているからこそ、僕も各々に合わせた練習メニューやサポート等を行なえているのだ。
だが、祥子たちの創設するバンドはまだそれが無い……それを見ずに二つ返事で了承するには、些か時期尚早だとも思えるのが現実だ。……なら、これで手を打とうかな。
「君たちのバンドの実力を、僕に見せて欲しい。練習風景は其方の任意で構わない……だが、本番でそれが振るわなければ無意味と同じ。そうしなければ、其方に就く理由が無いからね」
「……っ!」
「祥子ちゃん、どうす「構いませんわ。貴方が見たいと仰るのであれば、私たちは喜んでその提案を受け入れます」そう言うと思ったよ」
僕が条件を提示すると、祥子は獅音の問い掛けを最後まで聞かずに毅然とした態度で承諾した。これは自信の表れか……それとも、先輩バンドと対立する事への武者震いか。それは本人にしか知り得ないのだが、この時の彼女からは強い決意が感じられていた。
「では、こうしましょう。私たちとパスパレの皆さんで対バンライブをして、私たちが勝てば貴方は正式に私たちのメンバーとなり……パスパレが勝てば、この勧誘は白紙に戻して潔く諦めます。どうでしょうか」
「……OK。曲数は?」
「1曲。たった1曲と言えど、本番ではそれすら大事な一歩となります……ですので、一発勝負と言うのは構いませんか?」
「勿論。余計に長々とやるより、スパッと決められるならその方が都合が良い」
「……ふふっ。交渉成立、ですわね♪」
そんな祥子の一言に拠り、Pastel*Palettesと祥子たちの対バンライブがここに実現した。あとでパスパレの居る事務所には行く予定だったので、バンド名は伏せた上で話を通せば問題は無いだろう。
だが……ここに来る途中で獅音が取っていた行動から考察するに、祥子たちのバンドは本番になるまで全面的に正体やその他諸々を隠す主義だと伺える。それは相手をする側に取ってみれば、正体不明の相手を初見で見極めつつ対処するしか無いと言う大きなディスアドバンテージになりかねない。
しかし、パスパレが今現在挑んでいる関門は、自分たちの既に知っている所だけで無く……全国に存在する全てのアイドルの中で頂点を決める物の為、これくらい鼻で笑う様に乗り越えて貰わなければてんで話にならない。
「それでは、対戦日はどうしますか? お互いに全力を以てぶつかるのであれば、多少の準備期間が必要だと思われますが」
「そうだな……。じゃあ、今日から丁度ひと月後の夕刻、午後6時が良いか。場所は君たちの方から指定して構わない」
「承りました。獅音、そうなると勝敗方法は」
「それなら……会場の受付に投票箱を設置して、パスパレと僕たちの何方が良かったか、任意形式で票を集めるのはどうかな。会場のボルテージだけじゃ、何方が優勢かは不明瞭だからね」
そう話がトントンと進み、今回は対バンライブの打ち合わせを行なってお開きとなった。初華の方は僕が送り届ける手筈になっていたので、コインパーキングに停めてある車へ乗り込む事にした(祥子は今回の話し合いで決まった事を獅音と纏める為に、彼の自宅に残った)。
そして初華を送り届けている最中に。
「すみません、プロデューサー。遅くなりました」
『ああ、盛谷か。……漸くお前と話が出来た……。お前が居ないとわかった途端、何人かがかなり煩くてな……ほとほと困っていた所だ』
「……今からそっちに行きます。状況は」
『今は練習メニューを一通り熟して、軽く通し練習も行なっている。10分の休憩中だ』
……なるほど、じゃあ話をするには丁度良いね。
「大変申し訳無いのですが、少し休憩時間を伸ばして貰えませんか? 僕の方から折り入って話があるので」
『話……? わかった、到着を待っている』
「ありがとうございます、それでは」
そう言って僕はBluetoothで繋いだ通話を終えて、初華に自宅で下ろした後に事務所に向かうとの話をしたのだが……。
「先輩」
「ん?」
「私もその場に付き添っても、構いませんか?」
……へぇ?
僕が素っ頓狂な声を上げたのも気にせず、初華は同行したいと名乗り出て来た。……まあ、顔を見せるくらいだったらね……いや、いざと言う時が怖いので最低限にしないとね。
そう思った僕は車を事務所の方まで進路を進ませ、初華を連れて向かう事にした。そして到着後。
「……はい、これが入館許可証。無くさないでね」
「ありがとうございます」
「本当だったら、初華の存在だって秘匿しておかないと行けないのに……。祥子が聞いたら何と言うか」
「パスパレの皆さんには、あくまでもsumimiの
……大丈夫かなぁ、すごく心配だけど。
先程の車内で話し合った結果……勧誘を受けた人とそれを傍から聞いていた第三者の話があれば、幾分か話も通しやすいだろうと言う考えの下、パスパレのメンバー達の所属している事務所へと二人で訪れていた。
僕はついこの間まで在籍していた(今でも籍はパスパレにあるらしい)ので、顔パスで良かったが……初華に関しては完全に部外者の為、首から入館許可証を提げて通行する事になった。
「それにしても、私たちの所属してる事務所とほぼ変わらないくらいの賑やかさですね。先輩がこの間まで居た場所なのも納得です」
「あ、あはは……。とりあえず先ずはプロデューサーに挨拶しに行こっか。レッスンルームに居るのなら、全員に顔合わせもできるし……って、うぉっ!?」
「だ、大丈夫ですか先輩!」
僕がそう言って先に進もうとした途端、いきなり身体の自由が効かなくなる感覚に見舞われた。初華の心配を他所にその正体について確かめようとしたのだが……あっ、これはヤバイ。
「颯樹くん、待ってたよっ♡」
「うぅっ、ひっぐ……ぐすっ」
「彩ちゃんったら。突然颯樹に飛び付くなんて、あとからお説教なのは分かっていた事でしょう?」
「だって、だっでぇーーーーー!」
「……これが、先輩がこの間までマネージャーを務めていたバンド、ですか」
……言うな、言って直る様なら苦労はしてない。
「今のは流石に彩さんが悪いッスよ? 颯樹さんはびっくりしたんですし、怒られても仕方ありません。それに……」
「?」
「お客さんも居る立場でしたので、尚更そう言う事はやっちゃダメですよ」
「……ごめんね」
麻弥からの窘めが効いたのか……彩はぺこりと申し訳なさそうに頭を下げて来た。それを見た初華は多少たじろいでは居たものの、少し困った様な表情でやんわりと断っていた。
……少しここを離れてただけなのに、感覚が昨日の様に思い出せるよ。これは久しぶりだ。
「おっ、来たね。待っていたよ」
「ナオプロデューサー。この度は無理を言って本当にすみませんでした。突然客人を連れて来たいだなんて」
「構わない。寧ろ、元気な姿が見れて嬉しいよ」
「恐縮です」
ひと月ほど前に着任した、Pastel*Palettesプロデューサーを務める女性こそ……アイドルユニット【
僕がsumimiの方に異動となったのとほぼ同時期に来たのもあり、引き継ぎ作業の時はメッセージアプリを使用してのやり取りが多かったのだ。その縁もあり、苗字で僕の事を呼ぶのは一貫してこそ居るが、この様に多少難しい要求でも快く聞き入れてくれたりする。
そして僕は二度手を叩いて、休憩中だったメンバー達を一箇所に纏めて話をし始めた。
『え、え"え"え"え"え"え"え"!?』
「わ、私たちパスパレが……」
「対バンライブ、ですかぁ!?」
彩と麻弥が話の主題を声に出したのを聞いた後、僕はみんなに説明をし始めた。ところどころバレたら大変な所は、隣に居た初華が補足説明をする形で話し終え、全員の反応を待つのみとなった。
「しかし、颯樹の今後を賭けて対バンライブなんて……。未だに私は信じられないわ。それに、私の知らない所で新しいオンナを引っ掛けたみたいだし」
「そーだねー。でもま、あたしたちならそんなのよゆーじゃなーい? 相手がまだわかんないんなら、自分たちのいつも通りで演奏すればいいじゃん!」
「ひ、日菜さん、そんなに呑気な事を言ってる場合じゃないですよぉ……」
「氷川、大和の言う通りだよ」
ちーちゃんが物騒な事を言ったかと思えば、日菜はあっけらかんとした様相で自信満々の旨を伝えて来た。……さあ、ここからは皆の真価を問う瞬間。僕が居なくても真面目に練習出来るか否か、確り見極めさせて貰うからね。
「先程盛谷や三角からも話があったが、来たる一ヶ月後に対バンライブが行なわれる。お前たちにとっては、盛谷の下で積み重ねた技術や経験を披露する場と言って良いだろう。だが、相手方はその対価に盛谷のスカウトを要求して来てる」
ナオプロデューサーから放たれた言葉に、5人の間に亀裂でも入るんじゃないかと言うくらいの緊張感が走った。僕としては乗り越えなければいけない目標だと思っていた為、そこまで言われてもさも当然だろうなと言う感想だが、このメンツに関して言えばその限りでは無いらしい。
「披露する曲は1曲だけで、尚且つお客さん全員の投票の結果次第で勝敗を決する。少しでも気を抜けば、その先に待つのは敗北あるのみ」
「私たちが負けたら……颯樹くんがそのバンドに、行っちゃうんですか……?」
「恐らくは」
「そ、そんな……」
この話を聞いた彩が、真っ先に膝を床について項垂れてしまった。……まあ無理も無いな、彩はアイドルに漸くなれると言う所を襲われて、僕に助けられている。だからこそ、僕への想いは
ならば、彩の中にある想いの強さを確かめる、今回が最後のチャンスになるだろう。この対バンライブの勝敗如何は置いておくにしても、お客さんの票の入り方に
「……私、やります。颯樹くんはパスパレの大切な6人目で……私に、希望を与えてくれた存在だから!」
「「彩ちゃん……」」
「「彩(アヤ)さん……」」
……良し、その返事が聞けたなら先ずは良いかな。
「じゃあ、ひと月後の対バンライブ……楽しみにしてる。今回僕は何方の立場にも就かない。それだけは心に刻んでね。それじゃあプロデューサー、後……お願いします」
「わかった。盛谷や三角も、確りな」
「「はい」」
プロデューサーからの問い掛けに僕たちはそう答えて、事務所を後にした。ちなみに余談にはなるのだが、僕と初華が立ち去った後のスタジオからはナオプロデューサーからの檄が飛び交っていたのだとか……。
さて、皆のこれまでの成果、一ヶ月後……確りと見せてもらうから、そのつもりでね。
今回はここまでです。如何でしたか?
次回の更新日は未定としておりますが、また筆が乗りましたら日を開けずに投稿できるかと思いますので、更新をお待ち頂けると幸いです。
それではまた次回の更新にてお会いしましょう。