今日も今日とて更新していきます。
それでは本編スタートです。
最後までごゆっくりとお楽しみください。
「……なるほど、対バンライブですか」
「ああ。それを聞かされた時は正気かと耳を疑ったよ」
祥子から対バンライブの申し入れを受けたその翌日。
僕はいつも通り大学の方に出席して、幼馴染の千歌と一緒に行動を共にしていた。今は午前中の講義を終えてお昼休みの為、たくさんの生徒が食堂や中庭等で、
かく言う僕たちも互いにお昼を食べており、世間話程度に何か話題を出そうと考えて……話したのが冒頭の話である。千歌は今回の件で言えば部外者に当たるので、そこまで詳細的に話す事は出来ないのだが、彼女の性格を鑑みれば、僕が制止したとしても事の真相を見つけ出すに違いない。
「しかし、他の方ならば兎も角颯樹を勧誘するとは……。そのお方に一度お会いしてみたい物です」
「止めておいた方が良いよ? なんせ向こうは新規バンドを創設する真っ最中だし、期間はまだひと月もある。僕だって知りたい気持ちに変わりは無いけど、相手側の話にも合わせないと行けないからね……深追いはNGってね」
「ですが……」
「大丈夫、千歌の気持ちは痛い程伝わってる」
僕はそう言って、千歌の頭に軽く手を置いた。お箸を先程まで持っていた手なので、彼女に触れても問題無い程には清潔を保っているはずだが……怒られた時は潔く謝ろう(ちなみに箸は話す前に置きました)。
千歌が驚いた様に此方を覗き見たので、僕は彼女を諭す様にこう言葉をかけた。
「今は心配になるかもしれないけど、大丈夫。僕自身で請け負った問題は自分で解決する。これ以上千歌の手を煩わせる訳には行かない」
「……ですが私は、もうこれ以上貴方に傷ついて欲しくないんです。私が止めても貴方はお構い無しに突き進んで行く……堂々とした姿勢で、一瞬たりとも足を止めずに。でも、その先に待つのが正しい選択かどうかはその時にならないと分からない……。そう考えると、不安で押し潰されそうになるんです。依怙贔屓をしてるのでは無く、本気でそう思っています」
……千歌……。
「私がどんなに引き止めても、どれだけ危険だと注意喚起をしても……貴方は前に進んで行くんですよね。後ろなんて振り返らずに、ただ自分の信じた道を」
「……心配かけて、ごめん。幼馴染にこんなに心配させてしまうとはね。不甲斐無いばかりだよ「ならば」」
千歌はそう言うと、僕の向かいに座っていた状態から少し移動して、空いている隣の椅子へと腰を下ろして僕を見上げて来た。呆気にとられている僕を他所に、空いた左手をとって両手で包み込む様にしながら、彼女はこう続けた。
「……私にも、背負わせて下さい。もう二度と……貴方の事は一人にさせません。貴方の事でこれ以上心を痛めて、その度にガミガミ叱り飛ばすなど……今後一切したくないんです!」
「ちょっ、千歌っ!? こ、声が大きいって……!」
「ならば……今この場で約束して下さい。何かあったら必ず私に相談すると。そうするのならば、もう大声で叫んだりなんてしませんから」
先程千歌が大きな声を挙げた事により、周囲から注がれる視線がかなり痛い物となっていた。これはどう答えたとしても、彼女の納得する物が少しでも聞こえなければ居た堪れない空気感の中でお説教を喰らうのは火を見るより明らかだ。
……ならば、もうここは正直に言うしかあるまい。
「……わかった。わかったから」
「何がわかった……なんですか?」
「千歌には心配かけさせない。迷ったら直ぐ相談するし、これからも頼りにしてる。……こんな僕で良いなら、千歌の事は一人にしないよ」
僕が意を決してそう伝えた途端、千歌は此方に身を寄せてから上目遣いで更に覗き込んで来た。彼女から漂って来る良い香りに悩まされこそするものの、何とかいつも通りを装って千歌からの返答を待った。
……くっ、ここまで来られると逃げられない…っ!
それにしても毎回毎回思うけど、なんでこうも女性から香る香りって例外無く良いのがするんだろうね……いや、変態とかそんなんじゃないけど、こう言うのは反則だってば……!
「分かりました。その言葉……絶ッ対に忘れませんので、もし忘れた場合は覚悟していてくださいね。地獄の果てでも追いかけ回して、私しか見られない様にしますから♪」
「お、お手柔らかに頼むよ……何卒」
「それは颯樹次第です。さて、お弁当を食べ終えたら少し休憩して次の講義へ向かいましょうか。食堂からはちょっと距離がありますので、早めに移動するのが良さそうです」
「……そうだね、そうしようか」
そんな事を話し終えて、僕と千歌は昼食を食べ終えた後に次の講義が行なわれる場所へと向かった。その時の様は妙に嬉しそうで、軽く鼻歌でも聞こえて来そうな程だったのはまた別の話だ。
そうして午後の講義も終えて、二人揃って大学の校舎を出ようとした……その時。
「おい、あの子めっちゃ可愛くね!?」
「彼氏でも居んのかな、居ねぇなら俺立候補しちゃおうかな?」
「……何でしょうか、あれは」
「とりあえず行ってみよう」
遠くから聞こえて来た騒ぎ声に導かれる様に、僕と千歌は駆け足で校門の方に向かった。そこで見かけたのは……。
「キミ何処の子? 可愛いねー、俺とこの後デートでも」
「抜け駆けすんな、俺が先だぞ」
「……あれ? 何処かで見た事が……」
……あ、あぁっ!?
「ち、ちーちゃんッッッッ!?」
「ごめんなさい、颯樹。気付いてくれたのは嬉しいけど、先ずはここから助けてくれるかしら♪」
お、仰せのままに!!!!!
「……ったく、心臓に悪い…っ!」
「大音量で叫んだ颯樹も大概でしたが、
「あら。何の用かなんて随分な物言いね、千歌ちゃん。私は
咄嗟の判断で何とか逃げ込んだ自車の中、乱れた息を整えている僕の傍らで……千歌とちーちゃん──僕が生まれた頃からの幼馴染で、尚且つ元天才子役兼若手女優、更にアイドルバンドのベーシストを務める少女……
先程の騒動の原因を引き起こしたのは、ほぼ間違い無くちーちゃんなので、責められこそしても責め返す事なんてできないはずなのだが、千歌の弱い所を的確に抉って行く。それを受けた千歌も千歌で……ちーちゃんの弱点を突き続け、膠着状態に持ち込んでいた。
……ほんと、なんで疲れきってる時にこんな喧嘩するんですかねこのお二人は……。大切に思ってくれるのは嬉しいんだけど、今はそれどころじゃないでしょ……!?
『おいコラさっさと開けやがれ!』
『こっちは開くか?』
『いやダメだ、キッチリ内側から鍵をかけられてやがる! おい、誰か工具を持って来い、こじ開ける!』
うそっ!?
こちとら買ったばかりの新車なんだけど! 流石に新品に傷が着くのは不味いよッ!
「二人とも、喧嘩は後! まずはここから出るよ!」
「わかったわ!」
「はい!」
僕は未だに喧嘩をしている二人を軽く諌め、車のエンジンスイッチを入れて出発する準備に入った。そして軽くハザードランプを点灯させて、外に居る野郎共に警告を出すのも忘れなかった。
そしてブレーキペダルを踏みながら、上がったままのサイドブレーキを下ろして、パーキングの表示からドライブに切り替えて発車する準備OKな所まで進めた。……外で暴れてるヤツらの顔は覚えたから、後日生活指導部に報告させて貰うからね!
『うわ、動き出したぞ!』
『絶対に逃がすな! そして降参するまでぶん殴れ!』
……何処まで行ってもクソ野郎だなほんとッ!
そう思いながらも僕たちは、追っ手たちから逃れる形で大学舎内を後にした。少し引き離すのには時間がかかったけれど、あの程度なら余裕かな。工具を持ってきた所で、その手が及ばない所まで行けば問題ないんだからね。
そうして少し走らせた後、その付近にあったスーパーの駐車場で車を停めて一息入れる事にした。
「……こ、殺す気かぁぁぁぁぁ!」
「生きた心地がしない、とはまさにこの事ね……」
「いえいえ、騒動を生み出した貴女の言えた義理では無いのですが。私のツッコミは間違っていますか?」
僕はハンドルを両手で掴みながら声を上げ、ちーちゃんはと言うと襟先をパタパタさせながら、空いた片手で団扇の様に仰いで風を起こしていた。……まあ、千歌の言う事は間違っていないので問題無いのだが、あそこまでの反響になるとは誰も思うまい。
「とりあえず、どうする? ここまで走って来たけど、何処か寄って行く?」
「そうですね……軽く何か口に含みたいです。時間的に晩御飯の前ですし、そこまでガッツリした物は食べられませんが」
「そうね……ねぇ、ちょっと良いかしら?」
ちーちゃんには何か考えがあるのか、僕と千歌を手招きして自分の会話が聞こえる様に仕向けた。一体何を考えてるんだちーちゃんは……。
「ここから少し行った所に、花音とルームシェアをしているアパートがあるの。もし貴方たちさえ良ければ、お夕飯のお買い物をしてから向かっても良いわよ? 私たちは一人二人増えた所で問題は無いし、花音も喜ぶわ♪」
うーん、めちゃくちゃそれは嬉しいお誘いなんだけど、千歌がどう言うかな……。まあ、僕個人的に見れば今夜の晩御飯をどうしようか考えてたところだったし、この提案は渡りに舟なんだよね。
「僕は賛成。久しぶりに賑やかな夕食もまた良いよね」
「……颯樹が行くのなら、私も行きます。貴女の事は信用してませんが、彼が良いと言うならば」
「ふふっ、決まりね♪ それじゃあ、車から降りてお買い物をしてから向かいましょうか。場所は事前に伝えてあるし、今更説明しなくても大丈夫かしら?」
「大丈夫。場所はキッチリ覚えてる」
僕たちはちーちゃんから齎された誘いに乗り、今立ち寄っているスーパーで夕食のお買い物を済ませてから、現在彼女と花音がルームシェアをしているその場所へと向かう事にした。
その場所に関しては僕の方で下見……と言うより、二人に連れられて見に行った事もあって、完全に覚えていたので、間違えやすい所をちーちゃんにナビゲートして貰う事で何とか話を纏めたのだった。
「あ、あはは……それは大変だったね……」
「本当だよ。誰かさんの所為で余計な苦労まで背負う羽目になったし……あ、この里芋美味しい」
「私の愛しいダーリンを千歌ちゃんに任せるなんて、本当は私も花音も嫌だったのよ? 私たちの進む大学が女子大だったからやむ無しとはなったけど」
「まだ言いますか、颯樹を守るのは私の役目です。不平不満等聞く道理はありません」
またこの二人は喧嘩する……。
買い物を終えた僕たちは、花音とちーちゃんのルームシェアをしている部屋に到着し、4人で仲良く晩御飯を食べていた。内容は筑前煮やご飯にお味噌汁と言った……ごく一般的な物だったのだが、食べてる最中も先の二人は来る前と変わらず緊張状態となってしまった。
僕の事を好いてくれるのは非常に嬉しいんだけど、どうしても行き過ぎてる感じがしないでも無いのよね……。まあ、この二人に関して言えば昔馴染みと言うのもあるから、それ故と言われればそこまでなんだけど。
そんなやり取りをしている中で、花音がふと気になった事を思い出したのか、話の中に割り込んで来た。
「え、えっと……割り込んでごめんねっ? そう言えば、パスパレって対バンするんだよね?」
「花音、貴女それを誰から……まさか、麻弥ちゃんか日菜ちゃんから聞いたのかしら?」
「う、うん……かなり切羽詰ってたし、日菜ちゃんに至っては紗夜ちゃんにこれでもかと愚痴をぶちまけた上で、その後怒られてたよ」
なぁるほどぉ……日菜は高校生の時と相も変わらずで、他人に迷惑をかけまくってるのか……。そしてそれだけで飽き足らず、今度は姉の紗夜にまで愚痴ってたんだね。
……よし、今度見かけたらトレーニングメニュー10倍の刑に処したるか。
「ええ、間違い無いわ。颯樹の今後を賭けて戦うの」
「……颯樹くんの、今後を……?」
「そうよ。何の気が触れたのかは定かじゃないけど、相手は颯樹をスカウトしたいと言ったらしいの。しかも私たちに直接それを伝えるんじゃなくて、颯樹を介して持ち掛けるなんて姑息な真似までして」
その言葉に花音の背筋が凍り付く感じがした。
事実、対バンライブの結果如何で一人の人間の運命を決めるだなんて前代未聞も良い所だし、加えてそれを対戦相手に直接伝えるならまだ考える余地もあっただろうが、その事案を僕を仲介して伝えたんだから尚更タチが悪い。
まあ、祥子たちのバンドはこれから動くみたいなので、パスパレに完全勝利をして黒き産声をあげるつもりなのだろう……絶望を運ぶ悪魔の、生まれ出てたる死の宣告を。
「そんな卑怯なやり方で彼を誘う人たちなんかに、負ける気なんて毛頭無いわ。それに、颯樹をパスパレに招き入れたのはこの私なんですもの……そっくりそのままキッチリお返しして、その人たちに身の程を弁えさせてやろうかしら」
そう言ってちーちゃんの眼が鋭い物となり、昨日のスタジオの中でも感じられた様な強い威圧感が伝わって来た。それを見た花音は今にも泣き出しそうな雰囲気だし、千歌は千歌で食事に集中していたりと反応は様々であった。
うーん、その気持ちに関しては嬉しいけど、そこまで言う事は無いんじゃ……いや、多分この感じで行くと今の機嫌は暫く続くだろうし、ちーちゃんだけじゃなくて彩や日菜とかも同じ心境だったと仮定したならば……うん、他の二人がどう思うかなんて容易に想像が出来てしまう。
だったら、みんなの思いを確認したうえで、どの様に成長を遂げるのかをライブの時に確り見せて貰おうかな。この状態だと少なくとも一票も入らずに完敗なんて事は、天地がひっくり返っても有り得ないんだろうからね。
「そ、それじゃあ、パスパレの対バンライブの日は、私がお弁当を作って差し入れに持っていくねっ! みんなの健闘と勝利を祈って!」
「ありがとう、花音♪ そう言ってくれると心強いわ♪」
「勿論……颯樹くんの分も含めて作るから、当日を楽しみにしててね♪」
「ありがとう花音。本当に花音って気が利くね」
僕とちーちゃんが花音に対してそう言うと、彼女はこれでもかと顔を真っ赤にしながらも、小さくこくりと頷いた。こうして細やかな気配りが出来たり、いざと言う時に一番良い行動ができるのは……身内に僕たちと
そんな事を話しながら、僕と千歌は花音とちーちゃんのルームシェア先で時間を暫く過ごし、日もすっかり沈んだ頃合でお暇する事にした。そして千歌は少し遅くなる事を伝えていたらしいので、自宅前の門の所で車から降ろして帰宅させたのだった。
「……さて、対バンライブまでのんびりしてる暇は無い。みんながこの短期間でどう成長を遂げるのか、とても楽しみだ」
今回はここまでです。如何でしたか?
次回の更新も早ければまた時間を空けずに投稿できるかと思いますので、更新をお待ち下さいませ(この後書きを書いてる時間が時間なので、次の更新は一日ほど空きそう)。
それでは次の更新にてお会いしましょう。