この度はバレンタイン回を投稿できず、誠に申し訳ございませんでした!ヴァンガードの新弾である運命大戦に集中していたり、その傍らで初心者講習会と……ヴァンガード漬けなここ最近でしたので、執筆作業が疎かになっておりました……。
今回はそのお詫びになるか不明ですが、本編を更新して行きたいと思います。主人公の出番は後半に用意しておりますが、このお話はヒロインsideの話展開と言う形で楽しんで貰えると嬉しいです。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりとお楽しみ下さい。
「……また、今日も眠れなかったな……」
……ここ暫く、ゆっくり眠れてないなぁ……。
先日の夕方に事務所のスタジオで、マネージャーとして在籍していた(私の中ではまだまだ現役と思っている)颯樹くんから唐突に告げられた、対バンライブの報せ。それだけだったらまだ良いんだけど、それと同時に明かされた……彼の移籍。
私は勿論、千聖ちゃんや麻弥ちゃんだって……イヴちゃんに日菜ちゃんも納得していない。それもそのはず、颯樹くんが勧誘されたのは、私たちが知っているバンドでは無く……全く別の所からだったからだ。
しかもその理由の中には、直接伝えるんじゃなくて……伝書鳩として颯樹くんを使って伝えたから、と言うのもある。それが余計にこの対バンライブのやる意味への疑惑に拍車をかけていた。
「颯樹くん、一体どうしちゃったんだろう……。私たち、ずっと一緒にアイドル活動が出来るって、そう思ってたのに……」
私以外誰も居ない、自分の部屋の中で零れた独り言。
それは私の心の内を更に曇らせ、この提案を持ちかけて来た張本人へのやり場の無い怒りと、どうしようも無い程の不安が渦巻いていた。今この場でだったら、思いっきり声を出して泣き喚けるかもしれない。誰かが声をかけて来るのも、お構い無しに。
でも……そうは行かない。挑戦状を突き付けられて臆するなんて、私の大好きな彼ならそんな事はしない。寧ろ、毅然とした振る舞いで煽り返すはずだ。ちょっと言い方は野蛮かもしれないけれど、目の前に立ちはだかる障害は、自らの力で壊して進んで行くのだろう。
「……考えてたって仕方ないよねっ、気分転換にお散歩にでも行こうかな。勿論課題もやらなくちゃだけど、今日くらいは……大丈夫だよね」
そう自分に言い聞かせて、私は布団から出て顔を洗って朝ご飯を食べる事にした。今日は大学も休講になっていて、レッスンの方は完全静養日と言う事でおやすみなので……少しだけ天気は曇っているけれど、外へと出て散策をするのも良いのかな、と思えていた。
ただ、この光景を千聖ちゃんに見られたら、またいつもの様にお小言を長々と聞かされるのだろうなぁ……と頭の中でスッと横切りはしたのだが。
朝食を終えて更衣も済ませて外に繰り出すと、いつもと変わらない光景が広がっていた。ただし今回は目的が無いお散歩と言う事もあり、ウインドウショッピングも兼ねて洋服屋さん等を重点的に見て行く事にした。
「うわぁ〜、すっごく可愛い〜! これって値段は幾らするんだろう……げげっ、これは少し……うん、買うのはまたの機会にしようかな。でもああ言うシンプルな服も良いし、こっちのフリルが着いたワンピースも良いなぁ〜。どうしよう……何だか迷っちゃうよ〜」
行く先々のお店の店頭に展示されている服を見て、私はそんな事を声に出していた。元からオシャレには気を遣う方だったし、アイドルになる事を志してからもそれは怠っていないつもりだった。でも、その考えがさらに深まったのは颯樹くんのお陰だと素直に言える。
彼にあの時助けて貰わなければ、今の私は勿論存在していなかっただろうし……アイドルになると言う夢の第一歩に立つ事すら怪しかったのだから、颯樹くんには一生掛かっても恩返ししきれないくらいだ。
だからこそ、今その彼が移籍するかもしれない……と言う最悪の状態を回避する為に、少々ハードだけどレッスンを頑張っている所。
私の最悪な予想が考え過ぎならそれで良いけど……この対バンライブの結果如何に、颯樹くんの行く末を賭けたのかがどうしても気になる。今回のライブは私も話し合いに参加した訳では無いので、完全に知らぬ存ぜぬとは言えるんだけど……やっぱり、この提案を私たちに
……もし、彼が何か良くない事に巻き込まれそうになっているのなら、私が連れ戻さないと。対バンライブには全力を以て望む事は変わらないけれど、今のままだと何だかすごく嫌な予感がする。それこそ、パスパレの今後すら脅かしかねない程に。
「今度の対バンライブは、絶対に負けないよっ! はっ、ごめんなさいつい……」
道行く人たちに訝しげな視線を送られるも、私は軽く会釈をしてその場を後にした。いつもなら自慢の決めポーズや常套句で応えたりするけど、今回は完全に考え事をしたい雰囲気だったので泣く泣くパス。こんな事じゃあまた千聖ちゃん達に怒られかねない。
そうして暫く街中を歩いていると……。
「おっ、彩じゃん♪ やっほー☆」
「リサちゃんっ!」
「ったくー、この前は酷い目にあった〜。アタシはただ颯樹の事が心配でお説教したってのに、紗夜ってばあんなに言う事無いじゃんか……はむっ」
「そ、それは……災難だったね……」
「んぐっ。今度見かけたらこの溜まりに溜まった鬱憤を晴らしてやる」
先程リサちゃんと合流した私は、彼女からの話がしたいと言う提案を受けてカフェに来ていた。私としてもリサちゃんからの話は少し聞いてみたいな、と言う気持ちがあったので、それと無く話題を振ってはいたけど……彼女の口から出て来たのは、なんと颯樹くんの事だった。
と言うのも先日……CiRCLEの方に颯樹くんが来ていたみたいで、そこで今まで心配かけた分を清算させる為にお説教をしていたとの話みたいで。そしてそれを聞いた紗夜ちゃんの地雷を踏み抜いてしまい、十数分にも渡る苦言を貰ってしまったらしい。
私から見れば、リサちゃんが怒られる理由の方が分からないんだけど、何がそんなに嫌だったんだろう……まあ、見学に来てた人が居る前でお説教は、少し庇いようが無いけどね……。
「ん、そう言えばさ、彩〜」
「え?」
「パスパレって今度対バンするんだっけ」
「うん、そうだよっ! でも、今回のライブのお誘い……未だにやる意味がわからなくて……」
「アタシもその話を聞いててそう思うなー。颯樹が欲しいんだったら、回りくどい事なんてせずに直接事務所の方まで直談判しに来れば良いのにねー。そうしてくれた方がさ、彩や千聖たちも納得……あ、さっきの言葉は軽率だったゴメン」
リサちゃんから齎された言葉に、私はその通りだと伝えたのだが……その後に不穏な事を言ったので、私が少し睨みを効かせて笑った瞬間、彼女は思わぬ失言をしたと言わんばかりに短く謝罪をしたので、今さっきのやり取りを不問にする事にした。
全くもう、心臓に悪すぎるよぉ……。
リサちゃんの気遣いは非常に嬉しいし、いつもは軽い冗談も織り交ぜつつ私たちを和ませているけど……今回はとてもそんな気分じゃない。
「んー、その対バンライブってさ、いつにやるか決まってたりするの?」
「えっと、ひと月後って言われたから……今が丁度6月の中旬に差し掛かったくらい。そうなると……あぁ……私たちの学部では期末テストの時期だぁ……」
「うん、アタシの学部もそんな感じ……。やっぱり高校を卒業して大学に進んでいてもなお、テストってあんまり気は進まないよねぇ……」
颯樹くんから指定された日を確認してみたら、私とリサちゃんが通う大学の方では、学期末の期末テストが行われる日と被っていたのだ。
ライブを行う時間帯は夕方6時と言われたので、テストが終わって少しの時間を使ってリハーサルや本番までの通しを軽くやる形にすれば何とか間に合いこそするけど、一番最悪なのがもし交通渋滞に巻き込まれたうえで、時間に遅刻したと言う場合。
颯樹くんは結構時間に煩いし、それで居て相手は私たちのよく知らないバンド……そんな中で遅刻を誰か1人でもしよう物ならば、確実に今後の私たちにとって不利に働くに違いない。
彼の方はまだ何とか状況説明をして、誠心誠意謝罪して本番をフルパワーで臨んだのなら、情状酌量の余地があると見て見逃してくれそうではあるけど……問題は相手方の方。私たちの事をよく知らないなら、その時が初めての顔合わせになるのはもう分かり切った事だし、このバンドに何故男が居るのかとの疑問を持っているに違いない。
うぅっ、どうしよう……。対バンライブのその日まで、今から心配になって来ちゃった……。
「こーら!」
「んむぅ」
「悩んでても仕方が無い、今は目の前の事に集中!」
「り、リサちゃん……」
私がそんな事を考えていると……リサちゃんから唐突に頬っぺを両手で挟まれた。眼も真剣な物に変わっていて、彼女の中で何か区切りが着いた様な瞳だった。
「アタシだって、颯樹がパスパレ以外のバンドに行くなんて何様のつもりだー!ってなるけど、そんな事は彩たちがさせてくれないんでしょ?」
……うっ、そ、それは……。
「だったら、前を向く! 彩たちが一生懸命対バンライブをすれば、その相手はきっと考え直してくれる! もしかしたら本当に颯樹がパスパレに留まってくれるかもしんないよ!」
「……うん、そうだね。その通りだ! 弱気になるなんて私らしくないよっ!」
「よく言った! じゃ、先ずはお会計してお店を出てから今後の事について考えよ〜☆」
「うんっ♪」
そうして私たちは、注文をした商品のお会計をレジで済ませてから外に再び繰り出した。その足取りはさっきよりも幾分か軽くなっていて、誰かに相談した事が良い方向に働いたのかな、と心の中で思う事が出来ていた。
「と、言うよりも……せっかくの休みだよね? 何でまた僕と一緒に行きたいだなんて」
「颯樹くんと、ここ最近はあんまり二人っきりでお出かけ出来ていないから……ダメ、だったかなっ」
「いや、大丈夫だけど……」
「ふふっ、良かったぁ♡」
颯樹くんがお仕事も大学もお休みの日を狙って、私は彼を連れて街中を散歩していた。課題の方は先に千聖ちゃんと一緒にやって終わらせたから大丈夫だったんだけど、どうしても……颯樹くんの事が気になっちゃった。
自宅で休んでいた彼には少し申し訳無さもあったけど、こう言う時はお出かけをして、気分転換を図るのもまた良いかもしれない。
「大学の方は順調?」
「うん、次第に慣れて来たかな。高校から大学に進んで、時間割等を自分で組まないと行けないのは難点だけど、慣れてしまえばいつもと変わらないよ。ただやるべき事を確りやる、それだけだから」
颯樹くん、すごいなぁ……。私は場所を移動する時に、いつも紗夜ちゃんに助けて貰ってるから……颯樹くんの様に、胸を張って堂々と言えるのはすごいと本当に思う。
一つだけ、今に対して不満があるとするのなら……颯樹くんのその傍に居るのが、私じゃなくて幼馴染みの千歌ちゃんだと言う事。私や千聖ちゃんは女子大の方に進学したけど、千歌ちゃんは颯樹くんと同じ共学の大学に進んでいる。
彼女は道行く誰もが振り返るくらい、すごくキレイで性格も良くて……自他共に厳しくて、傍から見れば何処か高嶺の花の様に感じてしまう。そんな千歌ちゃんは、颯樹くんに対してだけはかなり心を許している様で、偶に彼の家に訪問しに行ったり、高校の時はお昼ご飯も一緒に食べていた。
……心底千歌ちゃんが羨ましい。
私だって、颯樹くんとは仲が良いと思ってるし、もっと言うのなら彼があそこまで素直な笑顔を見せる事が出来たのは、他の誰でも無い……私がきっかけだから。私が、彼と接した事がそもそもの始まりだったから。
「? どうしたの、花音」
颯樹くんと一緒の大学に通えて、尚且つ一緒の学部に所属して共に行動出来ている千歌ちゃんが……私はすごく羨ましい。もし一つだけわがままが許されるのなら、彼女から颯樹くんの隣を奪ってしまいたいくらいだ。それくらい、私は彼の事を
私の事を心配したのか、颯樹くんは様子を伺っている。
その今浮かべている表情や声すらも、私は心の底から欲しいとさえ思える。人前ではあまり大きな声で言えないけど、彼とはそう言う事だってしたし、脅迫紛いにはなるけれど……告白だってした。
「花音、大丈夫? おーい」
私は……彼が居なければ、すごく弱い女だと思う。
誰かに手を引かれていないと、往く先々ですぐ迷子になってしまうし、もしかしたら知らない人に鉢合わせしてしまうかも分からない。多分、そんな人から声をかけられたとしても、自分ならその場の勢いに流されてしまいかねない。
……だから、私は……彼の事がすごく欲しい。
颯樹くんを手に入れる為なら……友達も、仲間も、心を許した親友すらも切り捨てたい程だ。この気持ちは、絶対に誰にも邪魔はさせない……いや、私がそんな事はさせない。認めない、許さない……私に対して害を成しかねない芽は、全部摘まなきゃ。
「花音っ」
「ひゃあっ! な、何……?」
「心配したよ、幾ら声をかけても返事が無いんだから」
「ご、ごめんねっ? 私なら大丈夫だよ」
「そっか。今日は花音から誘ってくれたんだ、日暮れまでたっぷり付き合うよ」
そんな事を言われて、私は颯樹くんと再び歩き出した。
やっぱり……颯樹くんは私の大切な人。
この手を離しちゃいけない……ううん、この手が離れない様に確り握り締めておかないと。誰の介入も許さないし、そんな事は絶対にさせない。
そうして暫く街中を歩いていると……。
「あれ、花音ちゃん?」
「あ、彩……ちゃん?」
……私の苦労は、まだ終わらなそうです。
今回はここまでです。如何でしたか?
次回の更新は未定となっておりますが、楽しみにお待ち下さいませ。
それではまた次回の更新にてお会いしましょう。