今日も今日とて仮面と彩りの本編を、ゆっくり気ままに更新して行こうと思います。ただ次回の更新を終えた辺りで、少し過去の時系列に遡っての簡単な深掘りをしようかと考えている所ですので、更新をお待ち頂けると幸いです。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりとお楽しみ下さい。
「「うむむむむ…っ!」」
「あ、あはは……」
「か、勘弁してくれ……」
お仕事も学校も無い休日の日に、花音と街中をフラッと散歩していた中で……僕たちは彩とリサの二人に遭遇した。聞けば彼女たちも同じ様な理由でバッタリだったらしく、こんな所で会えたのは殆ど偶然と言った感じだ。
……けれど、僕の姿を見るなり彩の表情は一変。
僕の隣に居た花音を睨み付けていて、それに花音まで対抗してしまった物だからさあ大変。仕方無しと思いながらも、僕は三人を連れてとあるホテルのカフェへと訪れていた。
ここのカフェはどうやらつい最近出来たばかりで、見つけた張本人である僕は勿論の事……普段からカフェ巡りを趣味にしている花音ですら知らない所だったのだ。まあ、その事は今は問題では無い。何故なら、現在僕が置かれた状況とは何一つとして関係が無い事だからだ。
では、何故この二人がいがみ合ってるかと言うと……。
「ねぇ、なんで花音ちゃんが颯樹くんと一緒に居るの? まさか颯樹くんを無理矢理連れ出した、とかじゃないよね?」
「私は颯樹くんに昨日の夜に、キチンと今日のお出かけのお誘いの連絡を入れたよ? 彩ちゃんにそこまで言われる筋合いは無いんだけどな」
「花音ちゃんが良くても私がダメ。颯樹くんは私のモノなんだから、花音ちゃんは余計な事はしないでくれるかな?」
「彩ちゃんだけのモノじゃないでしょ? それに颯樹くんを道具扱いするなんて……彩ちゃんこそ余計な事はしないで欲しいな」
……終始僕の事について、である。
この二人は高校の頃からそうだったが、大学に進んで少し時間が経ったと言えど……その熱量は変わっていない。寧ろ、更に燃え上がってしまったと言うべきか。その横にリサや僕も居ると言うのに、二人だけで徹底口論を続けているのだからタチが悪い。
更に言うのなら、花音が最初に注文した紅茶は既に冷めきっていて、彩の頼んだジュースは氷が既に溶けてしまっている。偶にリサから注がれる痛い視線が少しむず痒い位だが、二人のこの一触即発の空気感にどう仲裁を入れようか……僕としても少し考え物となっていた。
「ねぇ颯樹、ちょっとこの二人どうにかならない?」
「僕が言った所で止まらないから悩んでるんだよ……もしそれで僕たちに飛び火したらどうするの?」
「そ、それはそうだけど……」
「何でまたこんな所で喧嘩をするのかなぁ……」
僕の対面に座るリサがそんな事を言って来たが、それが出来ていたらこんな始末にはなってないのが現実だ。無理矢理仲裁するのも一つの手ではあるが、それをした途端に更なる激化も予想される為、手をこまねいて見ているしか方法が無かったりする。
僕たちの来た頃に来店していた客だったり、接客を担当しているホールスタッフから見れば、この上無い迷惑な客が来たもんだとほとほと呆れている頃だろう。現に二人の言い争いは熾烈を極めていて、普段の彼女たちを知っている人達からすれば異様な光景であるのは間違い無い。
それに……貴重な休日を使って街中を散策していたと言うのに、こんな喧嘩で一日が丸々潰れてしまうのは僕としても御免蒙りたい程だ。
……ここはやむ無しではあるが、少し手荒になるが強硬策も考えて……あっ。
「お取り込み中の所大変申し訳無いのですが、もう少し静かにして頂けませんか? 他のお客様のご迷惑です……って、おや?」
「さ、祥子……っ」
「あら、颯樹さん。御機嫌よう。こんな所でお会い出来るなんて奇遇ですわね♪」
「「「!?」」」
……あっ、ヤバい。寄りにもよって、この状況を知人で尚且つ祥子に見られた。何処か可笑しそうに笑っているんだろうが、その腹の中では一体何を考えているんだか……全く以て予想が着かない。
「随分と盛り上がってた様ですけれど……よろしければ、私たちも混ぜては頂けませんか?」
「え? 私、たち……?」
「あっ、さっきーだ! やっほー!」
「ま、マジか……」
あっ、三人の眼が鋭くなった。
……仕方ない。話せる範囲で話そうか。
そして、数分後。
「なぁるほどねぇ……祥子、で良いんだっけ。祥子はそこのにゃむを勧誘していて、その最中に彩と花音の喧嘩を耳にしたと。そんな感じで合ってる?」
「ええ、間違いありませんわ。今井リサさん」
「いやー、それにしてもまさかさっきーが三人の女の子を侍らせているハーレム野郎だったとは……これは衝撃映像「お待ちなさい、祐天寺さん」ほぇ?」
「颯樹さんにとってこの状況は何としてでも避けたい所。まさか貴女はこれを好機とみて、動画を撮影するつもりですか?」
「じ、冗談だよ冗談ー。本気にしないでね……」
祥子とにゃむをその輪に加え、談笑をしている中で……リサは先程話された経緯を簡単に纏めていた。それに祥子が首肯を添えて認めたので、彩と花音も状況が理解出来ていた。
「それにしても。初華の気にかけている方は、相当な人望の持ち主だったみたいですわね……噂通りと言った所でしょうか」
「噂通りって、一体どう言う風に広まってるのさその悪名」
「世の中には知らなくて良い事もあるんですのよ」
「な、なるほどね」
その話を聞いた祥子が噂通りと言っていたので、僕はその真意を聞こうとしたのだが……それは敢え無く祥子自身の手で止められた。まあ、生きていたら知らぬが花って言う事なんてゴロゴロとあるんだろうしね。余計な詮索はしない方が身の為かな。
「でも、こんな美少女三人とここで顔合わせできるなんて凄い偶然だよー。これは個人的な撮影なんだけど、協力して貰っても良いかなっ!」
「あっ、それなら私が『お待ちなさい。貴女には私から話があります』ほぇ?」
「もしよろしければ、颯樹さんを同席させても構わないのですけれど……」
「……ううん、二人で話そう」
そう言って彩は祥子と一緒にその場を離れて行った。
その傍らでにゃむが動画撮影のネタ探しと言う名目で、リサや花音に対して聞き込むなど、色々情報収集をしていたのだが……それはまたの機会に、と言う所だ。
「……さて、ここまで来たら良いでしょう。誰にも聞かれる事無く密談が行えます」
「あ、あの……何で、ここで?」
「祐天寺さんの積極性を見ればわかる通り、あの場で話せば余計な事まで聞かれる可能性が高くなります……なので、誰の横槍も入らない所で話そうと言う事ですわ」
颯樹くん達の所から離れて、私と祥子ちゃんは二人で女子トイレに来ていた。窓際が私で入口側が祥子ちゃんと言う構図だ。
「では、時間も惜しいので単刀直入に申し上げます。私たちと対バンライブをする……と言う話は、もう颯樹さんからの伝言で耳に挟んでいるでしょう」
「は、はい……」
「そして私たちが勝った暁には、颯樹さんを私たちの仲間としたうえで……
……そんなの、聞いてない……。
確かに対バンライブをするとは聞いたし、その日までもう二週間も無い事は分かってる。でも、颯樹くんをパスパレから永久解雇なんて……あまりにも勝手すぎる。こんな条件で彼が二つ返事でOKするはずが無い。
何で、ここまで自分勝手な人の誘いを颯樹くんは引き受けたんだろう……彼は何の考えも無しにこんな事はしないし、多分何らかの意図があっての今回なんだろうけど、これはさすがに横暴過ぎる。巻き込まれた颯樹くんが不憫で仕方が無い。
「なんで、颯樹くんを
「せっかく周りの人に聞こえない様に、と思って場所を移しましたのに……これじゃあ誰かに盗み聞きされかねませんわ」
「じゃあ何で? 何で祥子ちゃん達は颯樹くんの事を欲しがってるの!」
「簡単ですわ。奪いたいからです」
「……奪う?」
……なに、それ……。
「デビューライブで口パクのライブをしかけた貴女方が、今日この時まで活動して来られたのは……全て颯樹さんのお陰ですわよね?」
「……」
「貴女方一人一人は確かに個性的で、一度纏まらないと空気中で自然消滅しかねない程脆い。でも、そんな貴女方は颯樹さんの助力を一心に受けて、ここまで一度も失速する事無く活動出来ている。それは大変素晴らしい事です。ですが」
私たちが、颯樹くんに頼ってばかりだ……って、言うつもりなの……。
「貴女方はこれから、もっともっと上の高みに登って行かねばならない。その時、彼が何かする事が貴女方の問題の解決策になっては行けないのです。いつまでも温室育ちのお嬢様と言う訳には、彼が良くても世間が許してくれませんわ」
「……だから、颯樹くんを奪う……って事?」
「そうですわね……それも間違いではありませんが、もっと具体的に言うのなら……完膚無きまでの敗北を痛感して欲しいのです。颯樹さんと言う心の支えを失い、心も身体も全てズタズタに引き裂かれるくらいの……屈辱的な、悲劇的で凄惨なる敗北を」
……少し二人っきりになって話してわかった事だけど、祥子ちゃんは……絶対なる悪だ。それも救いようが無いくらい。言い方は分かり易く簡潔だけど、その刃は鋭くて少し刃が触れただけでも切り傷ができそうなくらい。そこから血が流れでてもおかしくない程に。
「恐らく貴女は私の事をこう思っている筈です、『絶対なる悪だ。それも救いようが無いくらい』……と」
「そ、そんなこ「貴女は考えてる事が顔に出やすい。それも特に顕著に」…!」
「ですが、貴女も……正確には貴女たちも人の事を言えた立場では無いんじゃないですか? 貴女方は事あるごとに颯樹さんに縋りついて自分達は何もしない……独りよがりもいいとこですわ」
「!」
……見透かされてる。それも、悔しい位に。
確かに私はメンバーの中でも特に分かり易いし、事ある毎に日菜ちゃんから狙い撃ちされるくらいにはそこに関して弱い。だけど、私たちは決して颯樹くんに頼ってばかりじゃない。みんなで考えて前に進んで来た……颯樹くんだって、同じパスパレのメンバーだから。
みんなで一緒に活動して、時には喧嘩もしたけど、それでも下を向かずに前を見て……最後の最後まで諦めずに頑張って来た。
それなのに……独り善がり、なんて……。
私たちの苦しみなんて、何も知らない癖に。傍から見ていただけ……バンドを組んで、まだ一日も経っていない新参者が、私たちの苦労を笑うなんて。
「……絶対に許さない」
「ほう?」
「絶対に許さない! 私たちの事を何も知らない貴女たちに……私たちの事を悪く言われる筋合いは無いっ! 今度の対バンライブで私たちが勝ったら、颯樹くんの勧誘は諦めたうえで……今の発言を撤回して誠心誠意謝って貰うから!」
周りの大迷惑になる事も構わず、私は祥子ちゃんに向けてそう言い放った。きっと今の私の顔は人前に見せられる様な顔では無く、ぐしゃぐしゃになって今にも泣きそうになっている頃だと思う。
……でも、これで良い。
私たちの事などどうでも良いと言わんばかりの態度に、横からしゃしゃり出て来ていきなり
「……分かりました。私たちは元より、貴女方と今回の件について譲歩する気は更々ありませんでしたが……貴女のその発言を聞いて、これは揺るぎない確信となりました。必ずや、私たちが勝利を収め……貴女方の大切な物を一つ残らず全て奪ったうえで、心も身体も完膚無きまでに叩き潰してご覧に入れますわ」
「私たちに勝てると思うなら、やってみてよ……ひっ!」
私がそう発破を掛けると、祥子ちゃんはゆっくりと私の肩に手を置いた。するとその掌に力が加わり、まるで重力に引き寄せられるかの様に私の身体は下に落ち、尻餅を着いてしまった。臀部に伝わる痛みはあるものの……私は自らに起こった異変に気づく事すら出来なかったのだった。
「……話になりませんわね。貴女は弱い」
「……ッッッ!」
「今の私でここまで震えるとは……本番で私たちの本気を見た貴女は、一体どの様に怯えるのでしょうね。そしてリーダーがこんな無様な醜態を晒すのなら、他の方々もきっと大した事無いのでしょう」
そんな事、無い……!
私たちは……どんな時だって、諦めない……!
「自らの弱さを自覚しない者に、成長など有り得ません。潔く捨てたら良いのですわ、栄光も……名誉も、実績も」
なんで……?
何で私は、こんなバンドを組みたての女の子……しかも私より歳下で後輩に言い負けた上で、ここまで圧倒されないといけないの……っ!
「せいぜい噛み締めなさい、束の間の
そう言って祥子ちゃんは、私を一人取り残して女子トイレを後にした。腰が抜けてしまった私が立ち直った後には、心配で様子を見に来たリサちゃんが居て、彼女の助けを得ながら私はその場を離れる事となったのだった。
彼女から後に聞いたのは、颯樹くんは花音ちゃんを連れて先に私たちの分のお会計も済ませてから出たとの事で。
「(絶対に許さない……私たちを悪く言うとどうなるか、その身で思い知らせてあげないと)」
今回はここまでです。如何でしたか?
次の更新日は未定となっておりますが、成る可く遅くならない様に更新したいと思いますので、更新通知をお待ちくださいます様お願い申し上げます。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。