今回は対バンライブの本番回を投稿しようと思います。ただ本番とは言えど、このお話は本番開始前の風景となりますので、その点をご了承くださいませ。その次の話でも前室での話を盛り込む予定では居ますが、その時は結果も合わせて載せようかと考えておりますので、お楽しみにお待ちください。
それでは、本編スタートです。
最後までごゆっくりとお楽しみください(このページ末尾の方に軽くアンケートを掲載したいと思いますので、ご自分の気持ちに従って投票頂けると嬉しいです)。
「……ここでやるんですね」
「本当に。こんな場所を押さえられるなんて、祥子の実力が底知れないよ」
彩たちに対バンライブの報せを届けてから約ひと月後、ついにその時が訪れた。僕も空いている時間を見つけ次第、祥子たちのバンドの方に入ったり……パスパレの方にも顔を出して、少し手解きを行ないこそした。
だが、その成果がどの様な形で現れるのかは、本人たちのみぞ知ると言う所ではあるけれど。
「それにしてもまさか……武道館をそのライブ会場に指定するとは。私も前夜に話を聞きましたが、今でも驚いています」
「まぁね……。聞けばファーストライブは大盛り上がりだった上で満員御礼との事だし、今度はパスパレと対バンをする……ともなれば、こう言う場所が一番相応しいのかな」
「ですが、結成してまだ一週間近くしか経っていないバンドが、武道館のステージを使って演奏するなど……前代未聞も良い所です」
……そう、今回の対バンライブに指定された場所は武道館だったのだ。僕たちの思い出に残っているのはと言うと、昨年に行なわれた「バンドリ!ガールズバンドチャレンジ」の決勝大会の会場になった、と言うのが割と直近で思い出される所だ。
あの場は現在活躍中のアーティストでも、本当にひと握りの存在しか立てないと言う話をよく聞くので、そんな場所で演奏を行なえた者たちが何処か尊敬出来てしまう程だ。
ただ、今回は結成からそこまで期間が経っていないバンドが使用するともあり、宣伝効果や目新しさでは群を抜いていた様で。傍らに会場に入り込む人の姿を見ていると、見知った顔は勿論見えていたのだが……何やら不気味な様相の者たちが散見されていた。
どうも後で調べてみれば、どうやらその感想を抱く事になった理由は……グッズとして販売されていたローブだったのだが、これはまた斬新な事をやったもんだと少々溜息モノではあったが。
「……とりあえず、行こう。祥子からは関係者として伝わってるから、僕は先に控え室に挨拶に行こうかと思うんだけど、千歌は客席に居る?」
「いえ、私も行きます。颯樹を勧誘したその祥子、と言う人にぜひお会いしてみたいです。どんな方なのか……個人的に気になりますので」
「……そっか。じゃあ、今のうちにその手筈で祥子に連絡を入れるね」
僕は千歌からの話を聞き、祥子のトークルームにその様な伝言を済ませた。そして会場の入口から中に入り、受付の人に軽く事情を説明して……関係者パスを首から確り提げて、その場所へと向かう事にした。
聞けば比較的分かりやすい位置に居る、と言う事前情報ではあったのだが……果たして何処にいるやら。
「想像しては居ましたが、少し薄暗いですね。私たちの今着ている格好でギリギリ分かりやすいくらいですか」
「そうだね。ただ、メンバーがメンバーだからな……」
「お待ちしてました、颯樹先輩。千歌先輩」
そう言って僕たちの目の前に現れたのは、顔の下半分に彼岸花をあしらった様な仮面を着けて……黒と赤を基調とした衣装に身を包んだ女性だった。先程の言動から察するに、僕たちの顔見知りか既知の仲な者だとは思うのだが……あっ、その特徴的な髪型は、もしかして。
「もしかして……
「!?」
「……はい。お察しの通り、私です」
その言葉と共に、僕たちと話をしていた女性──海鈴は慣れた手付きで仮面を取って素顔を晒した。聞けばメンバー全員が仮面を着けていて、活動中は身分を隠す代わりにバンド内で個々に決められた
確か海鈴のバンドネームであるティモリスは、日本語では無く何処か海外の言葉だったと覚えているが。……そうか、全員がラテン語だ。その中でもティモリスと言うのは、その言語に照らし合わせるなら恐怖だったか。
メンバー紹介の時に軽く聞いた事があるが、なるほど。全員が感情だったり形の無い物を使って、自らのバンドネームとしてる(身に付ける仮面もそれに合わせている)と言う事なのか。
「改めて。私は
「まさか、お出迎えが海鈴だったとはね。それならちょうど良かった、探す手間が省けたよ」
「オブリビオニスからの指示で、お二人をここで待っていたんです。曰く『必ずここを通るので、お出迎えして頂けますか?』との事でした」
「なるほどね」
「ち、ちょっと待ってください。颯樹は兎も角何故私の事も知っていたのですか?」
再度の自己紹介を済ませた海鈴に僕が返答した後、今まで静観していた千歌がご尤もな疑問を持ち掛けて来た。確かに過去に僕はメンバーの殆どと接触をしているので、知っていても違和感は無いのだが……千歌に至っては初めましての人物が多い。
だからこそ、目の前に居る海鈴が何故僕だけで無く千歌の事も知っていたのかは、本人の口から聞かねば分からない事だ。
「……それは控え室でお話しましょう。控え室まで案内するので、私に付いて来てください」
海鈴の先導を受けながら、僕と千歌はAve Mujicaのメンバーが待つ控え室に向かった。途中で千歌が何か言いたげな顔をしていたけれど、そこは僕が待ったをかける事で何とか凌いでいた。
……そして数分後。
規則正しい海鈴の靴音が止まり、ある方向を身体ごと向いて示した。……どうやらここがそうらしい。彼女は何の違和感も感じずに3回ドアをノックして、中に居る人物の返事を受けて中に入って行った。
海鈴から遅れて数秒、僕たちも中に入ったのだが……。
「御機嫌よう、颯樹さん。お会い出来てとても光栄ですわ」
「こんにちは、祥子……いいや、この場では
「いいえ、構いません。今はライブの前ですし、呼びやすい様に呼んで頂いて結構ですわ」
「そうか。そうさせて貰うよ」
「……おや、其方は新顔ですわね。
控え室に入った僕は早速、
「御機嫌よう、私は
「それはどうもご丁寧に。改めまして。私の名は
「此方こそ、よろしくお願いします」
「ええ、私の方こそ。今後ともどうぞよろしく」
……うわぁ、すっごい華のある空間だよあそこ。
二人の育ちが良いからなのかはわかんないけど、結構傍から見てても見た目と言動から感じる華やかさとは別に……何処かお互いに腹の中を探りあっている様な雰囲気を感じるよ。まあ僕としては、頼むからこれ以上の厄介事は勘弁して欲しいくらいだけれど……。
「それにしても、颯樹先輩は兎も角千歌先輩まで来るとは思いませんでした。てっきり私たちのライブには来ない物かと」
「それは心外ですね、初華さん。颯樹の行く所には私も付いて行きます……ですので、私が来ない理由にはなりませんよ」
「そうですか、颯樹先輩に随分ご執心なんですね」
「ええ、其方こそ」
てか、待て待て待て待て待て!
祥子との自己紹介を終えたと思ったら、今度は初華とバチバチやりだしたよ千歌さんっっっ!? お互いに気持ちはわかるんだけど、何でこう言う所でバチバチし出すんですかねぇ!?
「……颯樹さん、このやり取りはお馴染みなんですか?」
「頼む、頼むからこれ以上面倒を増やさないでくれ獅音。お前までそっちに行くと収拾が着かなくなる」
「……まあ、そこまで言うなら別にツッコミませんけど」
傍から見てた獅音にジト目で見られるし……全くもう、仲が良いのは結構だけれど、もっと時と場所を考えて欲しいな。
「ねえ祥、あの人誰?」
「……そう言えば、睦はまだでしたわね。颯樹さん、少しよろしいですか?」
「ん、どしたの?」
千歌と初華が言い争ってる現場から呼ばれた僕は、その場から少し離れて祥子の方に向かった。そこに居たのは祥子と薄い緑色の髪を伸ばした、何処か無気力そうな表情を伺わせる少女だった。
「颯樹さんは、睦とは初対面でしたわよね。私と初華の幼馴染の……
「そっか。よろしくね、睦」
「……ん、よろしくお願いします」
「そう言えば、パスパレの皆さんは今現在どうされているのですか? まさか対バン当日と言う日に限って、遅刻などは……」
「無い無い。寧ろそんな事したら後日罰則なんだから、皆キチッとするよ」
僕が祥子の問い掛けにそう答えた時……初華が何処かバツの悪そうな顔をして、僕から目をすすっと逸らしていた。まあ、彼女自身は何か至らない事をした訳では無いので、罰則の対象になる事は無かったが……常日頃から課している練習量を思い出した、と言った所だろうか。
……まあ、
それならば以前から指導に入ってる
「うわぁん、ごめんなさ〜い!!!!」
「全くもう……何だって彩ちゃんはこう言う時にシャキッとしないのかしら…っ!」
「ま、まあまあ千聖さん落ち着いて……」
「てか、さっくん達もう着いてるんじゃなーい? 彩ちゃんが原因で遅れたと知ったら……」
「い、急がなきゃあああああ!!!!!」
……アイツらァ……。
「……本当に、苦労してるのですね……」
「言うな。もう慣れた」
「颯樹さん、それは慣れちゃいけないヤツです」
本当になんでこうなるかな……。
数日後に対バンライブがあるから、当日は支障無く来られる様にしててねって釘を刺してただろうが…っ!
「颯樹先輩、本当にあの人たちの所で今後も活動するつもりなんですか……?」
「いいや、それはこの対バンライブの結果如何次第だよ。でもこの調子だと、其方にお世話になるかもね」
「
「……ありがとう、恩に着る」
こう言う、祥子や初華みたいに信頼して背中を任せられる存在が一人でも居てくれると幾分か気分がマシなんだけどね……。パスパレだと良くも悪くもすごく賑やかだったから、その分心が休まらなかったかも。
「……皆さん、少し此方を注目ですわ」
祥子はそう言って手を一度叩いて、メンバーの視線を一手に集めた。そうして全員が向いた頃合いを見て、話をし始めた。
「本日はガールズバンドの先輩である
「それに、この対バンライブには双方にとって負けられない理由がある……だよね、さきちゃん」
「ドロリス、このバンド活動の場では私の事はオブリビオニスと言う様に……まあ、良いでしょう。そうです。今回のライブは、お互いに
そこまで言った後に、少し目を閉じて心を落ち着け……そして目を開けた勢いのまま一言。
「
「えっ、それってつまり……」
「お察しの通りですわ、アモーリス。一瞬の油断が生と死を分ける、まさに戦争です。相手に一筋の希望すら残さず、私たちは勝利を収める。それをお忘れなき様に」
祥子の言い放った一言に、控え室全体の空気がピリピリと張り詰めていた。先程までは和気あいあいとした様子だったが、彼女の言葉を聞いてスイッチが入った様だ。その様は少し前まで言い争いをしていたり、誰かを茶化していた存在だと言われても疑問を覚えかねない物だった。
「……オブリビオニスさん、開演10分前です」
「おや、千歌さん。気が利きますわね。それでは、参りましょうか」
千歌の言葉を受けた祥子が、ドアの前に立ち……その後に初華たちを見据えた。その瞳には一切の躊躇や迷いが無く、それはバンドメンバーの初華たちにも同様の事が言えていた。
……いよいよ始まるんだ、大一番が。
僕の今後を賭けた、10人の少女たちに拠る大観衆の前での競演が。
「思う存分奏で合おうではありませんか、私の愛おしい人形たちよ。為すべき大義の為に」
今回はここまでです。如何でしたか?
次回はこのお話に関連した内容となりますので、更新通知の方をお待ちくださいます様お願い致します。
それでは、また次回の更新にてお会いしましょう。
前書きにてお知らせしましたアンケートは、投稿日である2月29日0:00より受付を開始しまして……締切を、再来週の日曜日である3月10日23:59とさせて頂きます。
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